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第1部 特集 データ主導経済と社会変革
第1節 第4次産業革命がもたらす世界的な潮流

1 第4次産業革命を巡る世界的な動き

2016年1月にスイス・ダボスで開催された第46回世界経済フォーラム(World Economic Forum:以降WEF)の年次総会(通称「ダボス会議」)の主要テーマとして「第4次産業革命の理解(Mastering the Fourth Industrial Revolution)」が取り上げられ、その定義をはじめ議論が行われた。そして翌年2017年1月のダボス会議においても、第4次産業革命の議論が行われ、人工知能(AI)やロボット技術などを軸とする「第4次産業革命」をどう進めるか等が議論になった。その中で、情報技術などの発達がもたらす恩恵だけでなく、雇用への影響にも焦点があたるなど、経営者たちからは情報格差を解消するための若年層向け教育などの人材の観点、先端技術の透明性を高める取組など環境面に対する指摘が相次いだ。その他、インフラに係る議論として、第4次産業革命の根幹を担うのはインターネットという世界的なインフラであることに加え、インターネットを運用するための膨大な電力の消費も注目され、サステナビリティと産業革命を両立させるための様々な再生可能エネルギーにも議論が及んだ。このように、IoT、AI等がけん引する第4次産業革命とは、世界共通のインフラであるインターネットをそのエンジンとしながら、あらゆる社会インフラの在り方を変えていくものとして議論されている。

WEFでは、これまでの産業革命と第4次産業革命を次のように定義している。まず、第1次産業革命では、家畜に頼っていた労力を蒸気機関など機械で実現した。第2次産業革命では、内燃機関や電力で大量生産が可能となった。第3次産業革命では、コンピューターの登場でデジタルな世界が開き、IT・コンピューター・産業用ロボットによる生産の自動化・効率化が進展した。第4次産業革命は、現在進行中で様々な側面を持ち、その一つがデジタルな世界と物理的な世界と人間が融合する環境と解釈している2。具体的には、すなわちあらゆるモノがインターネットにつながり、そこで蓄積される様々なデータを人工知能などを使って解析し、新たな製品・サービスの開発につなげる等としている。

図表3-1-1-2 各産業革命の特徴
(出典)総務省「第4次産業革命における産業構造分析とIoT・AI等の進展に係る現状及び課題に関する調査研究」(平成29年)

こうした産業革命の歴史をたどると、それぞれの革命を経て、経済の構造や企業活動が大きく変化したといえる。さらに、各産業革命において覇権をとった国や企業が異なることも注目される。すなわち第1次産業革命はイギリス、第2次はアメリカ、第3次の前半は日本であった。では第4次産業革命は、誰が先導するのか。他方、産業革命を通じてその国が享受するインパクトも注目される。例えば、第3次産業革命の後半、1990年代から2000年代にかけてのいわゆる「ICT革命」では、米国の労働生産性はそれまでのペースを上回る大きな伸びを見せたが、我が国の生産性は伸び悩んだ。新たなICTによる第4次産業革命が、本当に新たな産業変革をもたらすのか、もたらすとすればどのような形でもたらすのかが、世界経済の注目の的となっている。我が国としても、こうした議論や潮流と整合性を保ちながら、官民での連携を進めながら、社会的な実装について積極的に議論していくことが求められる。

では、諸外国の対応はどのような状況か。「第4次産業革命」では、産業のみならず、労働や生活などあらゆる物事を根底から変える歴史的な変革をもたらすとみられていることから、欧米をはじめとする各国がその対応のための戦略を推進している。「第4次産業革命」という言葉が一般的に認識し始められた由来は、ドイツで2010年に開催されたハノーバー・メッセ2011で初めて公に提唱された「インダストリー4.0」であると言われており、国家レベルの構想をいち早く打ち出たことが、現在の第4次産業革命の潮流の起点となった。以降、欧米諸国を中心に、そして近年はアジア諸国においても、第4次産業革命を意識した国家戦略や関連の取組が進められてきた(図表3-1-1-3)。

図表3-1-1-3 第4次産業革命に係る主要国の取組等
(出典)総務省「第4次産業革命における産業構造分析とIoT・AI等の進展に係る現状及び課題に関する調査研究」(平成29年)
ア 米国

米国で2013年に始まったSmart America Challenge等を皮切りに、CPS3の社会実装に向けた取組が進められてきた。2014年3月に、AT&T、Cisco、GE、IBM、Intelが米国国立標準技術研究所(NIST)の協力を得て、IoTの高度化を目指すコンソーシアムIndustrial Internet Consortium(IIC)を立ち上げるなど、業界挙げた取組を加速させている。

このように、米国では第4次産業革命の先端を走ると言われており、ICTやハイテク企業の積極的な活動はみられるが、労働生産性などマクロ経済における顕著な向上は指標上みられていない。その背景として、破壊的イノベーションが既存産業へ与える影響と新たな産業の付加価値創出が互いに相殺している、あるいは労働代替効果に伴い付加価値自体が縮小しているなどの指摘もあり、第4次産業革命の顕在化が産業構造や社会経済へ与えている効果や影響等が今後注目される。

イ ドイツ

ドイツの官民連携プロジェクト「インダストリー4.0戦略」では、製造業のIoT化を通じて、産業機械・設備や生産プロセス自体をネットワーク化し、注文から出荷までをリアルタイムで管理することでバリューチェーンを結ぶ「第4次産業革命」の社会実装を目指している。ドイツ国内の機械業界主要3団体に加え、ボッシュ、シーメンス、ドイツテレコム、フォルクスワーゲン等多くの企業が参加している。ソフトウェア企業の買収やユースケースの創出、国を挙げた取組、産学連携、標準化等が進んでいる。

日本と同じようにドイツは非常に製造業が強く、輸出の8割を製造業で占めている。「インダストリー4.0戦略」は、その製造業の競争力の維持強化を目指す生産革命的な位置づけとして始めた国のイニシアチブである。初めは業界団体で始まり、政府が中小企業の底上げに活用しようと、国策として新たに開始した経緯がある。インダストリー4.0で解決すべきものとしては「生産のためのエネルギーや資源の効率性」「製品の市場導入時間の短縮」「フレキシビリティー」の3つが挙げられている。

ウ イギリス

イギリスでは、IoTに関する取組の中で、スマートシティやスマートグリッドなど、生活関連・エネルギー関連を中心とした、コンシューマー向けの産業分野に注力している。製造業に関しては、同産業の復権に向け、国家イノベーション政策として「ハイ・バリュー・マニュファクチャリング(HVM、高価値製造)」が推進されている。製造業の製造工程に焦点を当てるドイツのインダストリー4.0戦略と異なり、次世代製造業の基盤となる技術群を広く包含したイノベーションを軸とした戦略となっている。2011年より、特定の技術分野において世界をリードする技術・イノベーションの拠点として、Catapult Center(カタパルト・センター)が各地で設置されており、地域クラスターの中核としてHVM戦略の具体的な実行を担っている。同センターは、HVMに限らず、他の先端分野についても産学官連携の橋渡し機関としての役割を有しており、2030年までに30分野に増やす計画を掲げている。また、各地のカタパルト・センターは、LEPs(地域企業パートナーシップ)と協力して、地域の中堅・中小企業のイノベーションの取組をサポートしており、一定の成果を挙げている。

エ 中国

中国政府は2015年5月に、国務院通達の形で「中国製造2025(Made in China 2025)」を公布した。本戦略は、2049年の中華人民共和国建国100周年までに「世界の製造大国」としての地位を築くことを目標に掲げた取組であり、いわば中国版インダストリー4.0である。「中国製造2025」では、特に工業化と情報化の結合、IT技術と製造業の融合促進をはじめ、工業基礎能力の強化、品質とブランドの強化、環境に配慮したものづくりの推進、製造業の構造調整、サービス型製造業と生産性サービス業の発展、製造業の国際化水準の向上などが強調されており、「イノベーションによる駆動」、「品質優先」、「グリーン発展」、「構造の最適化」、「人材が中心」といった5つの方針が掲げられ、中国製造業の主要な問題点を強く意識し、その改善を喚起している。とりわけ、「インターネット+」(インターネットと製造業の融合)アクションやビッグデータの利用、スマートグリッド建設と産業集積の成長推進やスマート製造案件実施企業の指定などが行われている。

また、「中国製造2025」では2015年から2025年までの「大規模発展」「品質・効率」「構造最適化」「持続発展能力」などの観点から中国製造業発展に関連する指標が設定されている。それによると第1位は米国で、日本がこれに続き、ドイツは3位、中国は4位となっている。中国はこの製造業総合指数を向上し、世界をリードする製造強国になることを目指している。



2 ここで述べられる第4次産業革命は、後述するドイツのインダストリー4.0で使われる用語より幅広い意味を持つ。

3 Cyber-Physical Systemの略。実世界のデータをセンサーにより収集・観測し、クラウド等のサイバー空間にてデータの処理・分析を行い、その結果得られた価値を実世界に還元すること。IoTとほぼ同義で使われており、Smart America ChallengeのHPでもCyber-Physical Systems(the Internet of Things)と記述されている。(http://smartamerica.org/別ウィンドウで開きます

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