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第1部 特集 データ主導経済と社会変革
第1節 広がるデータ流通・利活用

(1)新たなデータ利活用・流通モデルの進展

平成28年(2016年)版情報通信白書でみたように、ICT産業をビジネスエコシステム5としてみると、インターネット普及後はオープン・イノベーションの時代となり、エコシステムやそれを変化させるイノベーションの中核となる事業者が、レイヤー1「ネットワーク要素事業者」やレイヤー2「ネットワーク事業者」から、レイヤー3「プラットフォーム・コンテンツ・アプリケーション・事業者」へシフトしている点を指摘した。

IoT・AI等による第4次産業革命の到来に向けては、上記のシフトに加え、エコシステムに新たな要素が加わる。具体的には、ICT利用産業の事業者とICTの各レイヤーの事業者との関係の重要性が増し、異業種連携等によるICTを活用した新たなサービスやビジネスモデルの創出が進展する。これにより、従来のICT産業では主としてICT産業の事業者と消費者との関係性で成り立っていたが、これからはICT利用産業の事業者と消費者との新たな関係性が生まれ、提供されるサービスや流通するデータは多様なステークホルダーが介在する。例えば、B to CやB to B to Cサービスを通じたパーソナルなデータの流通が想定される。さらにICT利用産業に属する様々な「モノ」(例えば、自動車産業における自動車、エレクトロニクス産業における家電等)がネットワークを経由して、消費者とICT産業の事業者に介在し、M2Mなどパーソナル以外のデータの流通が想定される。こうした変化に伴い、図表2-1-1-2で着目した「個人」と「企業」の間のデータ流通の在り方は大きく変わろうとしている。

図表2-1-3-1 IoTの進展を踏まえた新しいエコシステム
(出典)総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(平成29年)

データ流通を、データの「提供」、「流通」、「利用」の3段階に分けると、現在は一般にデータの提供側が直接企業等の利用側にデータを提供する、あるいはデータを集約するデータアグリゲータ等を通じて利用側へ提供されるものである。しかしながら後者の場合、データの提供側からは最終的にどのようなデータ利用者へ提供されたかを知ることができない。

そこで、近年では、新たな流通モデルが提案されつつある(図表2-1-3-2)。具体的には、「個人情報を含むパーソナルデータ」について、「パーソナルデータストア(PDS)6」や「情報銀行7」など、個人の関与を高め本人の「納得感」を得ながらデータの利活用を目指す新たなアプローチが提唱されている8。これらのモデルでは、個人からデータを取得して企業等が一箇所に集約するのではなく、データは個人の「手元」に置き、その意思により管理可能とした上でデータを必要に応じて提供するモデルである。個人の「手元」とは、例えばスマートフォンなどのローカルで管理することも含むが、個人が管理可能なクラウドに分散して保存することも想定される。この時、「情報銀行」の考え方は、個人をサポートしてデータを本人に代わり集約・管理し、本人のニーズに沿って第三者に提供するエージェントとしての役割を担う「受託型」のパーソナルデータストアとなる。

図表2-1-3-2 データ流通・利活用のモデル
(出典)総務省「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」(平成29年)

その他、データの提供者と利用者がデータの交換や売買を行う場を提供したり、データ提供者によって公開された情報を仲介事業者が集約、加工し、統合的に利用者へ公開、提供したりする「データマーケットプレイス9」も登場している。

こうした新たなデータ流通・利活用モデルのメリットとしては、各産業分野や企業等にバラバラに存在する同種データを統合することのみならず、時系列的にデータを収集し、異種データの横断的な組み合わせを実現することで、データの価値向上が期待できることが挙げられる。



5 分業と協業によって共生するビジネスのネットワークを生態系のアナロジーで分析した概念

6 他者保有データの集約を含め、個人が自らの意思で自らのデータを蓄積・管理するための仕組み(システム)であって、第三者への提供に係る制御機能(移管を含む)を有するもの。

7 個人とのデータ活用に関する契約等に基づき、PDS等のシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示又は予め指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第三者(他の事業者)に提供する事業。

8 2016年5月、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部の下に、「データ流通環境整備検討会」を開催することが決定された。さらに、その内部の「AI、IoT時代におけるデータ活用ワーキンググループ」では、2017年2月に中間取りまとめを公表している。その中で、「個人情報を含むデータ」については、企業や業界を超えた流通及び活用が十分に進んでいないとした上で、次のような提言を行っている。
・分野横断的なデータ流通を阻害する課題を解決するためには、個人の関与の下でデータの流通・活用を進める仕組であるPDS(パーソナルデータストア)、情報銀行、データ取引市場が有効。
・PDS、情報銀行、データ取引市場の事業を営む者等が取り組むことが望ましい事項(セキュリティ、透明性の確保、苦情・紛争処理手段等)を推奨指針として取りまとめ。
・今後、官民が連携した実証実験の結果等を見ながら、実態に合わせて、分野横断的なデータ流通・活用を促進するための法制度整備を検討していくことが必要。

9 データマーケットプレイス(データ取引市場)とは、データ保有者と当該データの活用を希望する者を仲介し、売買等による取引を可能とする仕組み(市場)。

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