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第2部 基本データと政策動向
第7節 ICT国際戦略の推進

3 海外の政策動向

(1)米国のICT政策の動向

米国では、2016年11月の大統領選挙において、ドナルド・トランプ氏が大統領に選出され、二期8年続いた民主党政権に代わり、2017年1月にトランプ大統領が率いる共和党政権が発足した。

2016年から2017年にかけて、情報通信分野に関して主にオバマ政権の下で進められた政策として、主に次のようなものが挙げられる。まず、近年の人工知能(AI)技術の発展を踏まえて、大統領府でAIの社会的活用に向けた検討が活発に行われた。また、FCCでは、オバマ前大統領も強く支持していたネット中立性規則が裁判所の判決でも支持されたことを受け、同規則に沿って、ブロードバンド・プライバシー規則案の採択、ゼロ・レーティングにかかる規制検討が進められた。

サイバーセキュリティ政策については、オバマ政権では、その発足当初から重要インフラ保護対策も含めてサイバー攻撃への対策強化を図ってきたが、引き続き海外からも含めた激しい攻撃に晒されており、新たに様々な対策が打ち出された。

また、無線通信に対する需要が増加する中、周波数の割当や第五世代移動体通信(5G)の整備推進を後押しした。具体的には、2016年3月からインセンティブ・オークションが実施され、放送用周波数の移動体通信用途への転換が進んだ。また、FCCは、2016年7月に、高周波数帯を5G向け等に開放する枠組みを採択した。

トランプ政権の発足以降、他の分野と同様、情報通信分野においても政策転換が進められている。特に、FCCに関連する政策については、トム・ウィーラー前委員長(民主党)の下で推進された各種施策を、アジト・パイ新委員長(共和党)が次から次へと見直し・廃止する措置が取られている。同委員長は、トランプ政権がインフラ投資の拡充を打ち出す中、ブロードバンド網整備推進に意欲を見せている。

ア ロボット・人工知能(AI)の利用拡大と制度的対応の検討

米国では、フェイスブック、グーグル、マイクロソフト、アップル、IBM、アマゾン、ウーバーといった情報通信系企業に加え、自動車メーカー等がAIの研究開発、自社サービスの展開及び機器への組み込みに積極的であり、自律移動が可能なロボット開発や、自動チャット機能の実装が進展している。また、いくつかの州では自動運転の公道実験も認められ、実用化に向けて進展を見せている。

このような状況を踏まえ、2016年10月には、国家科学技術会議(NSTC)が中核となって取りまとめた、連邦政府機関向けの提言を含む報告書「人工知能の未来に備えて」が公表された。同報告書では、規制制度、研究開発、経済・雇用、公正性・安全性、安全保障等のAIに関連する領域について、連邦政府機関等に対しての23の勧告15が示されたほか、AIを注意深く活用することで、人間の知性の拡張とより良い将来に向かうことができるとした。NSTCは、あわせて「米国人工知能研究開発戦略」を公表。連邦政府の資金によるAIの研究開発に関し、7つの戦略的優先事項と2つの勧告を示した。大統領府は、さらに同年12月、「人工知能・自動化と経済」を公表し、AI駆動型の自動化が経済に与えうる影響についての検討結果を示した。同報告書では、AIの便益拡大と費用低減を図るための戦略として、AI開発への投資、将来の職業に対応可能とするための米国民の教育、移行過程での労働者支援に取り組むべきだとした。

イ ネット中立性を巡る動向

オバマ前大統領は、ネット中立性と呼ばれる上位レイヤー・サービスの非差別的な伝送を確保するための規則整備を後押ししており、FCCでは、2009年から「オープン・インターネット規則」の策定によるネット中立性の規則整備を進めてきた。同規則に対しては、ブロードバンドへの規制強化に反対する共和党系のFCC委員や通信事業者からの反対が根強く、通信事業者が控訴裁判所に提訴、2014年の判決ではFCCが敗訴した。

これを受け、FCCでは、2015年2月に新たなオープン・インターネット規則を含む一連の決定を採択した。同決定では、ブロードバンド・アクセス・サービスを通信法第二編の規制が適用される電気通信サービスに分類することでFCCの規制権限下に置き、特定のアプリケーションやサービスの伝送をブロックするブロッキング、伝送速度に制限を加えるスロットリング、有料で特定の伝送を優先化する有料優先措置の三つを禁止する等の規則を制定した。同決定に対しても、ブロードバンド事業者等から連邦控訴裁判所に提訴がなされたが、2016年6月、同裁判所は、FCCのネット中立性規則が合法であるとの判決を下した。

同規則のもと、FCCは、大手通信事業者のAT&Tやベライゾンが提供していた特定のアプリケーションやサービスの伝送にかかる通信料を無料にするゼロ・レーティングについて調査を開始し、2017年1月には、両社の上述のサービスはネットワークを保有する事業者による競争阻害的な行為であるとの懸念があるとする報告書を公表した。しかし、トランプ政権の誕生に伴って同月に就任したパイ新FCC委員長は、翌2月にゼロ・レーティングにかかる調査の終了を公表した。

また、FCCは、ブロードバンド・アクセス・サービスの分類変更に伴い、同サービスにかかるプライバシー保護も管轄となったことから、規則制定を進め、2016年10月にブロードバンド・プライバシー規則を採択した。同規則は、ウェブ閲覧やアプリ利用履歴など機密を要するとされるユーザー情報を、ブロードバンド・インターネット・サービス事業者(ISP)が第三者と共有する場合はユーザー本人の承諾を得ることを義務付けた。また、情報流出時の通知期限を定め、どのようなデータが収集され、どのように利用されているか等について開示することも義務付けた。ISPが加入者に対し、データ共有の許可を促すため、料金割引などのインセンティブを提供する、いわゆる「ペイ・フォー・プライバシー」は認められるが、FCCはケース・バイ・ケースで調査を行うとした。しかしながら同規則は、政権交代後、共和党が多数派を占める上下両院の議決及びトランプ大統領の署名を経て2017年4月3日に廃止された。

ウィーラー前委員長は、ビジネス・データ・サービス(BDS)にかかる規則についても全体として規制の内容を拡大する改正を推進していたが、トランプ候補の当選後、改正は進まず、逆に、パイ新委員長のもと、2017年4月20日に全体として規制を大幅に緩和する報告及び命令が採択された。

さらに、5月18日、FCCは、パイ新委員長が提案した2015年2月に採択されたオープン・インターネット規則を含む一連の決定を見直す提案公示を採択。ネット中立性を巡るFCCの政策が大きく転換されつつある。

ウ サイバーセキュリティ政策

米国では、実被害が発生するサイバー攻撃が増加するなか、サイバーセキュリティ対策の強化を進めている。2014年11月には、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント(SPE)の従業員の個人情報がハッキングされた事件について、翌12月に、連邦捜査局(FBI)は同ハッキングに北朝鮮政府の関与があるとの調査結果を発表した。こうした事態を踏まえ、オバマ大統領は、2015年4月、一定のサイバー攻撃を行った者に対する制裁措置を可能とする大統領令13694号に署名した。

こうしたなか、2015年7月には、連邦人事管理局(OPM)から約2,100万人分に当たる個人情報がハッキングにより流出したことが発覚したほか、中国からのサイバー攻撃等による米国企業の知的財産権の侵害が深刻化することへの危機感が高まった。これを受け、同年9月に行われた米中首脳会談において、サイバー攻撃による知的財産の侵害に関与しないことを発表するとともに、同年12月には、米国と中国では初となるサイバーセキュリティに関する閣僚会合が開催された。

さらに、2015年12月にサイバー攻撃に関する情報共有を促進するための法律が成立し、2016年3月から国土安全保障省においてその運用が開始されたほか、2016年2月には、大統領府がサイバーセキュリティ対策予算を190億ドル超に増額する「サイバーセキュリティ国家実行計画(CNAP)」を発表するなど、様々な対策が講じられた。

しかしその後も、2016年7月には民主党全国委員会(DNC)へのハッキングによる情報流出が発生。12月、オバマ前大統領はロシア政府がサイバー活動によって米国の大統領選挙に影響を与えたとして、大統領令13694号を改正し、9の団体・個人に対する制裁措置を発表した(同発表は情報部員35人を米国から追放する措置と併せて発表された)。

トランプ政権下では、2017年5月11日、連邦政府ネットワーク対策、重要インフラ対策、国際戦略を柱とする「連邦政府ネットワーク及び重要インフラのサイバーセキュリティの強化」と題する大統領令が発出された。



15 政府の役割として、対話の促進、安全性と公平性を監視、イノベーション促進、基礎研究と公共的な利益のためのAIの応用の支援、熟練した多様な労働力の開発を支援、政府におけるAIの活用、AIによる変化に対応する能力の構築、国際連携、AIの統治可能性やサイバーセキュリティに対する影響への検討が挙げられている。

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