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第2部 基本データと政策動向
第7節 ICT国際戦略の推進

第7節 ICT国際戦略の推進

1 国際政策における重点推進課題

(1)ICT海外展開の推進

総務省では、我が国のICT産業の国際競争力強化を目的に、ICT企業の海外展開への支援として、海外での各種普及・啓発活動の実施、諸外国の情報通信事情の収集・発信等の活動を行っている。

ア 総務省ICT海外展開戦略

日本再興戦略等の政府全体の方針を踏まえ、総務省は、ICT分野の海外展開推進を重要な政策課題とし、日本方式の地上デジタル放送(地デジ)採用や同方式の普及活動、地デジで培った協力関係をICT分野全体への協力へ拡大していくための働きかけ、放送コンテンツ、防災ICT、郵便システム、衛星、セキュリティ、光海底ケーブル、無線システムなど日本企業による海外展開に対する支援等に精力的に取り組んできている。支援に際しては、株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)1や関係機関と有機的・機動的に連携し、我が国ICTの特徴・強みを生かしたICTインフラシステムとのパッケージでの売込みや、川上から川下、人材育成・メンテナンス・ファイナンス等を含めたトータルな売込みを推進している。なお、2016年度(平成28年度)におけるJICTの支援決定数は2件(いずれも通信分野)である。

更に、政府全体として、2015年(平成27年)5月の「質の高いインフラパートナーシップ」、2016年(平成28年)5月の「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」を受けて、日本の強みである「質の高いインフラ投資」の国際的スタンダード化を推進しており、ICT分野においても、2017年(平成29年)3月に我が国で「質の高いICTインフラ整備に関する国際シンポジウム〜デジタル連結世界実現に向けて〜」を開催し、G7メンバー国およびICTインフラ需要が多く見込まれる新興国・途上国と協力して、「質の高いICTインフラ整備」によるデジタル・ディバイド解消を推進する政策や取り組みにつき意見交換を行った。引き続き、関係府省と連携し、「質の高いICTインフラ投資」の概念・調達手法の普及、人材育成、投資・競争を促進させるような公正で透明性のある政策・法的枠組の働きかけ等を通じ、我が国の質の高いICTインフラ及びIoT・AI等我が国高度ICTを活用したインフラの受注機会増大を目指していく。

イ 日本方式の地上デジタルテレビ放送の海外展開

地デジ放送分野においては、官民連携で日本方式(ISDB−T)の普及に取り組んでおり、2006年(平成18年)に日本方式を採用したブラジルと協力しながら、日本方式採用を各国に働きかけてきた。日本方式には、①国民の命を守る緊急警報放送、②携帯端末でのテレビ受信(ワンセグ)、③データ放送による多様なサービスといった、他方式にはない強みがある。日本方式の地デジ放送の海外展開では、この強みを相手国に示してきたことで、2017年(平成29年)1月に日本方式を採用したエルサルバドルを含め、合計19か国(2017年(平成29年)5月現在)にまで採用国が拡大するに至っている(図表7-7-1-1)。

図表7-7-1-1 世界各国の地上デジタルテレビ放送の動向

モルディブでは、2016年(平成28年)10月に地デジ放送システムの整備目的の無償資金協力に関するモルディブ政府と日本政府の間の書簡の交換が行われた。また、フィリピンでは、昨年に引き続き2016年(平成28年)にデータ放送を活用した道路交通情報配信システムに関する導入調査を実施し、同国における地デジを活用したアプリケーションの開発を促した。さらに、2016年(平成28年)1月には、ペルーで、地デジを活用した緊急警報放送(EWBS)の機能を備えた広域防災システムが実用化され、今後、地震・津波等の自然災害の多いチリやエクアドル等近隣諸国にも導入が検討されている。

ウ 防災ICTの海外展開

我が国は、ICTを活用した災害情報の収集・分析・配信による効率的・効果的な災害対策を可能とする防災ICTシステムについて、世界で最も進んだ技術・ノウハウを有する国のひとつである。総務省では、国土交通省・気象庁などの防災に関係する各府省と連携しながら、防災ICTシステムの海外展開を推進しており、各国政府へのトップセールスを契機に、相手国と協力方針・プロジェクトを協議する政策対話、防災ICTソリューションの現地での適用可能性を確認する調査や実証実験等を実施し、アジア、中南米諸国等で我が国の防災ICTシステムが採用されるなどの成果を上げている。

エ 各国ICTプロジェクトの展開
(ア)アジア地域

アジア地域は、堅調で安定した経済成長が続いており、経済成長に伴い中間層も拡大している。更に、域内の貿易自由化や市場統合などを通じ成長加速を目指す「ASEAN経済共同体(AEC)」が2015年(平成27年)末に設立され、我が国企業にとって成長市場としての魅力が更に増している。経済成長と生活の質の向上は、膨大なインフラ需要を生み出しており、ICTインフラもその例外ではない。また、都市交通や環境、防災などの分野において多くの社会課題が生じており、ICTを活用した解決に期待が寄せられている。

A インドネシア

インドネシアについては、2015年(平成27年)9月にインドネシア通信情報大臣が来日し、総務大臣との間で、ICT分野における日本・インドネシア両国の協力を一層強化する目的で、「情報通信分野における協力に係る覚書」等を結んだ。

本覚書等に基づき、ルーラル地域の無電化村等におけるデジタル・ディバイドや放送波が届かない地域の解消に向けた通信・放送インフラの整備技術の協力、防災情報収集・伝達システムの導入等をはじめとした我が国ICTの海外展開に係る取組を実施している。

B フィリピン

フィリピンについては、これまで地上デジタル放送への円滑な移行に関する協力、ブロードバンド網の整備に関する協力、防災ICTシステムの活用等をはじめとしたICTの海外展開に係る取組を実施するなど、協力関係の強化を進めている。

2016年6月にフィリピン情報通信技術省が設立され、2017年(平成29年)3月に初めて情報通信技術大臣が来日し、総務大臣との間で、ICT分野における日本・フィリピン両国の協力を一層強化する目的で、「情報通信技術分野の協力に関する覚書」を結んだ。

C ミャンマー

ミャンマーでは、急速に通信市場が拡大している中で、現在、MPT(国営電気通信事業体)とKDDI・住友商事の共同事業に加え、外資系通信事業者2社がモバイル通信事業を行っているが、2017年(平成29年)1月に、更にもう1社にライセンスが付与された。こうした状況の中、日本政府は、急速に拡大する通信需要に応えるため、円借款「通信網改善事業」(供与限度額105億円)により、通信インフラの整備を支援している。

これらの日ミャンマー協力が進む中、2016年(平成28年)10月に、2016年3月に誕生した新政権のミャンマー運輸・通信大臣が初めて来日し、総務大臣との会談を実施して、情報通信分野における両国間の更なる協力関係の強化を確認した。

D ベトナム

ベトナムについては、2016年(平成28年)9月に、「情報通信分野における協力覚書」等の更新にあわせて日越ICT政策対話を開催し、4G及び5Gなどの電波政策、サイバーセキュリティ、IoTについて意見交換を実施するなど、協力関係の強化を進めている。

2017年(平成29年)3月には、ベトナム情報通信大臣が来日し、総務大臣との会談を実施して、情報通信分野における両国間の更なる協力関係の強化を確認するとともに、「日本国総務省とベトナム社会主義共和国情報通信省との間の協力を促進するための合同作業部会の設置に関する共同議事録」に署名した。

(イ) 中南米地域

中南米地域は、ブラジル、メキシコといった巨大な人口と大きな潜在成長力を誇る国々や、ペルー、コロンビアといった近年安定した成長を見せる国々を擁しており、成長性のある市場である。

現在、中南米諸国においてデジタル網整備が活性化しており、総務省では、日本が有するFTTH技術に関する技術講習会をチリ、コロンビア、エクアドル、ペルーで実施するとともに、ペルー、コロンビアでは、日本製FTTH技術の高さを実証するため、フィールドトライアルを行った。また、各国でデジタル網の整備が進むのにあわせ、これを活用した遠隔教育、遠隔医療、防災、防犯、スマートシティなどの各分野でのアプリケーションにかかる政策ノウハウ、維持管理技術、人材育成などを組み合わせた展開と、同地域での共通課題、解決方策にかかる連携を各国と強化している。

2016年(平成28年)は、日本方式の地デジが海外で採用されて10周年を迎えたことから、ブラジルで記念式典を開催し、日本方式の地デジ採用を契機としたICT分野全体の国際展開の強化に取り組んでいる。

A ブラジル

ブラジルでは、2006年(平成18年)6月に、海外で初めて日本方式の地上デジタルテレビ放送が採用され、2016年(平成28年)には地デジの協力関係が10年目になることを記念し、ブラジル科学技術通信省との共催により、地デジ協力10周年記念式典を開催した。日本からは総務副大臣、エクアドルをはじめとする、日本方式の地デジを採用している中南米諸国からも閣僚級が参加し、日本と中南米地域との協力関係を地デジ分野のみならずICT分野全体に拡大することで一致した。また、2016年(平成28年)10月のテメル大統領訪日時に署名された日本国及びブラジル連邦共和国との間のインフラ分野における投資及び経済協力の促進のための協力覚書においても情報通信技術分野が協力範囲として含まれており、総務省とブラジル科学技術通信省は、引き続き協力を進めていく。

B ペルー

ペルーでは2009年(平成21年)4月に地デジ日本方式が採用された。それ以降、JICA専門家派遣等の支援により総務省とペルー運輸通信省との間では放送分野における継続的な協力関係が構築されている。2016年(平成28年)11月に安倍首相がペルーを訪問した際に出された共同声明では、光ファイバーなどインフラ整備、物流や医療などの分野でのICT協力の一層の進展への期待が表明された。また、首脳会談直後に両首脳立ち会いの下、総務省と運輸通信省との間で共同プロジェクトを進める覚書を締結した。本件覚書の共同プロジェクトを具現化するため、2017年(平成29年)2月には外務省と連携し、ビスカラ第一副大統領兼運輸通信大臣、バルデス通信副大臣一行を日本へ招へいし、日本のICT関連政策・経験の共有を通じた政府間協力関係強化及び日本国内のICTの活用事例の紹介を行い、今後の取り組みを加速化することを確認した。



1 株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構法に基づき、平成27年11月25日に設立された株式会社。我が国の事業者に蓄積された知識、技術及び経験を活用して海外において通信・放送・郵便事業を行う者等に対し資金供給その他の支援を行うことにより、我が国及び海外における通信・放送・郵便事業に共通する需要の拡大を通じ、当該需要に応ずる我が国の事業者の収益性の向上等を図り、もって我が国経済の持続的な成長に寄与することを目的としている。

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