総務省トップ > 政策 > 白書 > 29年版 > データ流通・促進に係る課題
第1部 特集 データ主導経済と社会変革
第2節 データ流通・利活用における課題

(4)データ流通・促進に係る課題

現在、主に国内で議論されている課題と関連の論点について、前述した関連省庁の文書をもとに、以下に説明する。

ア 課題の顕在化

データ利活用に係るビジネスは、機械管理やスマートドライブ、農業、ヘルスケア、医療、金融、スマート工場、スマートハウス、放送・通信などの分野で、官主導の下、あるいは、一部の先端的なプレーヤーがリスクを取って試行錯誤的な取組として、様々なデータ利活用に関するプロジェクトや先行的な実証実験が行われている。また、関連して各省庁においても様々な観点で検討が行われている。こうした取組や検討の中で、データの利活用が具現化されつつあるとともに、様々な課題が挙げられている。(図表2-2-1-5)。

図表2-2-1-5 主なデータ利活用例のイメージと想定される課題の例
(出典)知的財産戦略本部「新たな情報財検討委員会報告書」より作成
イ 高信頼性とセキュリティの確保

データ流通・利活用の進展に向けては、社会システムとしての信頼性とセキュリティを確保することが重要になる。例えば、IoTシステムが進展して、重要な機器の制御等が含まれるような交通システムやインフラ管理システム、契約管理システムなど、社会全体にとって重要なインフラとなってくる場合、システム停止に係る社会的コストが非常に高まることとなる。このため、こうしたシステム停止やデータ消失を防止するような「冗長性」が強く求められ、機能やデータが分散され、システム全体が停止しないことが重要になると考えられる。サイバーセキュリティの観点からも、扱われるデータが暗号技術等により適切に保護され、データの信頼性が確保されることが重要となってくる。また、データの保護のみならずデータ流通の観点からも、データ管理者の意向を反映して適切に管理されることが重要になってくる。

ウ プライバシー保護に関する懸念とデータ利活用のバランス

IoTの進展に伴い、様々な履歴情報などの個人を巡るデータが増大し、これらのデータが結合することで個人の人格をも表す性格を帯びてくれば、個人のプライバシーが把握されることへの懸念がより一層広がることとなる。

一方、個人の詳細なデータの利活用により、例えば個別化医療や金融サービスなど、カスタマイズされた様々なサービスがユーザーに新たな便益をもたらす可能性がある。

前述のとおり、我が国においては、2017年、改正個人情報保護法の全面施行により、匿名加工情報制度が創設され、統計的なビッグデータの分析に対応できるようになった。しかし、個人の詳細な履歴情報を中長期的に集約・名寄せして「ディープデータ」を作成し、これにより個人に最適にカスタマイズされたサービスを展開しようとしても、前述の懸念の高まりから対応が困難な状況にある。

プライバシー保護に関する懸念を解消し、個人に最適化されたカスタマイズドサービスの展開等に向けたデータ利活用を達成するためには、個人からデータの利活用の状況やメリットが「見えない」という状況を解決しつつ、前述のセキュリティの観点からデータ管理構造に係る各種リスク(データ移転に伴う漏洩リスク、データが一箇所に集中することによる外部から攻撃されるリスク等)を低減していくことが必要となってくる。

エ データ寡占化によるロックイン(囲い込み)への懸念

近年、高速回線やスマートフォンの普及、拡張性の実現の必要性などを背景としてクラウド上のサービスが進展するにつれ、クラウド上にデータが集約されやすい構造となり、かつ、AIの登場によって質の高いデータセットの確保が競争優位性を左右する状況が生じつつある。さらに、リアル空間とサイバー空間が融合する中で、リアルの世界でもデータを集約する能力を持つ事業者がサービス面でも優位になる構造が形成されつつある。

例えば、現状では一部のB to Cサービスについては、位置情報を初めとして既に相当程度のデータが特定の既存事業者に蓄積されており、それらデータの利活用により利用者に対して利便性が高いサービスを提供できる反面、これらの高いサービス品質によるロックイン効果(顧客が特定の製品やサービスに固定化され囲い込まれること)が生じることから、今後、データを利活用した多様な競争が確保されない可能性がある。

こういったデータの寡占によりロックイン効果が生じる結果、適切な競争が行われず、ユーザーにとって質の高いIoTサービスが中長期的に提供されない可能性があり、その場合、本節の冒頭に整理したデータ流通・利活用による経済貢献につながらない。また、更なるデータ集中・データの支配的状況によりデータ寡占が進展すれば、サイバーだけでなくリアルの世界においても、あらゆる財・サービスの競争環境に影響が及ぶことになる。

これらのデータ寡占は競争法の世界の問題だけではなく、個人から見た場合にも前述したプライバシーの問題が生じる可能性がある。個人が有効な選択肢を持たず、特定サービスにロックインされれば、当該個人に係るあらゆるデータが当該サービスの提供者に集約されることとなり、前述のようにプライバシー保護に関する懸念からディープデータの利活用が進まなくなる可能性がある。B to Bにおいても同様に、何らかのデータを保持する事業者側から見て、当該データを提供することによって競争優位の全てを把握されてしまうのではないかとの懸念から、データを必要以上に自社に囲い込んでしまい、複数事業者の連携による有益なIoTサービスが進展しなくなる懸念も出てきている。

こうしたプライバシー保護や利活用に係る消費者及び企業側の問題意識や課題などについては、次項以降で深くみていくものとする。

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