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第1部 特集 データ主導経済と社会変革
第1節 第4次産業革命がもたらす世界的な潮流

(4)分野別にみるインパクト

前述まで概観したように、第4次産業革命は多様な産業へインパクトをもたらすと考えられている。ここでは、特にそのインパクトを享受すると想定される業種・産業を取り上げ、それぞれ具体的な将来像をみてみる。

ア 製造業・流通業分野

製造業や流通業においては、特にB to C向け分野では、消費者の嗜好等のデータを共有することで、サプライチェーンを最適化する形で業界構造が変革することが想定される。これにより、従来の大量生産(マス・プロダクション)から、新興国製造業との差別化等の観点から開発や生産のスピードを重視した「マス・ラピッド生産」や、顧客1人1人からオーダーメイドの製品を既製品と同等程度のコストで注文生産する「マス・カスタマイズ生産」が進展する。これにより、製造から流通までのサプライチェーンが最適化されるとともに、産業価値が拡大することが期待される(図表3-1-2-5)。

図表3-1-2-5 製造・流通分野における変化
(出典)総務省「第4次産業革命における産業構造分析とIoT・AI等の進展に係る現状及び課題に関する調査研究」(平成29年)

さらに、消費者の嗜好等を取り入れるために、AIを活用した新たな消費者向けサービス(AIコンシェルジェサービスなど)が需要を創造する役割を担うと考えられる。このように、開発・生産過程の効率化に留まらず、需要側とのつながりによってその過程が進化する方向性が第4次産業革命の新たな姿といえる。

イ 金融分野

金融業は、AIなど最先端技術の活用にいち早く対応しようとしている分野の一つである。金融サービスは、取引がオンラインで完結するなど、金融とICTの融合は早くから取り組まれてきており、現在はいわゆるFinTech(金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語)の潮流により、企業金融のみならず、個人投資家、中小企業(EC店舗等)、新規事業を立ち上げるベンチャー企業等にも最適なサービスの提供が進んでいる。具体的には、投資・資産運用への取組支援、経費精算・決済などお金に関する業務の効率化、資金需要に応える新たなサービスの創出といった、資金供給・決済のボトルネックの解消と需要創出の両方向が目指されている。既に、メガバンク、ネット専業銀行や地方銀行、生命保険会社などで取組が進んでいる(図表3-1-2-6)。

図表3-1-2-6 金融業界における取組(AIの活用を中心に)
(出典)総務省「第4次産業革命における産業構造分析とIoT・AI等の進展に係る現状及び課題に関する調査研究」(平成29年)

我が国をはじめとする先進国の金融業界では、オープンイノベーション(連携・協働による革新)をめざし、FinTech企業等が銀行のシステムをプラットフォームとして活用し、その上で多様なサービスを開発・提供できるよう、銀行等がAPI(Application Programming Interface)を公開する取組(オープンAPI)が進んでいる。オープンAPIによって、銀行が有する情報等をFinTech企業等が安心・安全に利用することが可能となり、口座管理や電子送金等の新たな決済サービスが拡大していくことが見込まれる。我が国においては、2017年5月に、利用者保護を確保しつつ、金融機関とFinTech企業とのオープン・イノベーションの推進を図るための銀行法改正案が成立し、この動きが加速することが予想される。

また、今後は、例えば近年注目を浴びるブロックチェーンなどの新たな技術を活用することで、取引履歴等を一元管理・保護して信頼性を担保する仕組みから、全ての履歴等を関係者間で共有することで信頼性を担保する仕組みへと大きなパラダイムシフトが起こっていく可能性がある。

ウ 医療・ヘルスケア分野

医療・ヘルスケア分野は、AIの基盤整備やデータの利活用等の観点から、「未来投資戦略2017」においても重要な分野として言及されている。具体的には、レセプトや医療診断のデータに加えて、ウェアラブル端末等のIoTによるデータ収集を活用した健康・医療サービスの実現や、ビッグデータとAI、ロボット等の新技術の活用、また膨大な臨床データと個々の患者の状態を踏まえた創薬、医療機器開発、個別化サービス等の実現が挙げられる。

特に、近年は分析機器の進歩によりゲノム・オミックス情報や生体センシングによるデータなど各個人ごとの情報が増大し、従来の多人数の医療情報・疫学情報に基づく統計処理の世界から変わりつつある。これにより、例数を多く集め集合的法則を見出す「Population Medicine」型から、層別情報・個別情報に基づいて医療を行う「Precision Medicine」型へとパラダイムシフトが進み、すなわち個人の遺伝素因・環境要因等に合わせた医療が可能となりつつある。こうした新たな「医療ビッグデータ」にAIが加わることで、個別化・層別化医療や創薬への応用が進み、ヒトにおける有効性や安全性の予測精度が向上し、医療や新薬の適格性の向上に資すると予想され、既に海外の大手ICT企業やベンチャー企業を中心に盛んに開発が進められている(図表3-1-2-7)。

図表3-1-2-7 医療・ヘルスケア業界における取組(AIの活用を中心に)
(出典)総務省「第4次産業革命における産業構造分析とIoT・AI等の進展に係る現状及び課題に関する調査研究」(平成29年)
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