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第1部 ICTの進化を振り返る
第1節 通信自由化30年―制度、サービス、市場の変遷

(3)ICT政策の動向

2000年代後半以降、ICTによる成長戦略を構築するに当たっては、政策の視点が国内のみならず海外、固定のみならず移動、ICTそのもののみならずその利活用の促進にも拡大していった。

こうした観点から、政府は、IT政策パッケージ-2005以降も、随時、戦略等を策定してきた(図表1-1-3-5)。

図表1-1-3-5 2006年以降のIT国家戦略年表

総務省においても、これらを踏まえ、累次のICTの基本政策を打ち出してきた。まず、国民生活にとって必要不可欠な通信と放送について、ブロードバンド化、デジタル化など急速な技術の進歩を反映して通信・放送サービスがより便利に、より使いやすくなるため、2006年、「通信・放送の在り方に関する懇談会」を開催した。その結果も踏まえ、同年、政府・与党において、「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」が取りまとめられ、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」において、「通信・放送の在り方に関する政府与党合意に基づき、世界の状況を踏まえ、通信・放送分野の改革を推進する」と決定された。

総務省では、これに基づき、通信・放送分野の改革を着実に推進するため、2006年に、2010年までの5年間に取り組むべき具体的施策を掲げた「通信・放送分野の改革に関する工程プログラム」を決定した。同プログラムの内容は、①NHK関連、②放送関連、③融合関連、④通信関連にわたるものであり52、随時進捗状況を踏まえ見直すこととされた。

次に、我が国がバランスの取れた経済成長を持続させ、国際的な存在感を高めていくためには、我が国の得意分野である高付加価値な産業を活性化させ、その果実を社会全体で共有していくことが必要であるとの認識の下、2011年の完全デジタル元年以降の社会も念頭に置き、デジタル技術を活用して「個」がどのように才能を開花させ、安心・安全かつ便利で豊かな社会を実現し、日本の競争力向上や国際貢献に結実させるべきか、その方策を幅広い見地から戦略的に検討することを目的に、2008年に「ICT成長力懇談会」が開催された。同懇談会は、報告書として「xICTビジョン〜あらゆる産業・地域とICTとの深化した融合に向けて〜」を取りまとめ、①ICT国際競争力の強化(ガラパゴス体質からの脱却)、②ICTのつながり力による産業変革(ICT活用の戦略分野の設定)、③新たなデジタル市場の創出(ICT産業の融合基盤の強化)、④デジタル適応力の向上(ICTの徹底活用)に係る「ICT成長力強化プラン」を策定した。

さらに、完全デジタル時代を迎える2011年以降を想定し、今後のICT市場の構造変化、ICT技術のトレンド、利用者ニーズの動向等について、2015年頃を展望した総合的なICT政策の方向性(ビジョン)を描くことを目的として、2008年より「ICTビジョン懇談会」が開催された。同懇談会は、2008年秋の金融危機に端を発する世界同時不況による我が国経済の急速な悪化を受け、政府が進める新たな成長戦略の策定に貢献するためにも、ICT産業を新たな成長戦略の柱に位置付けるべきとして、2009年に、総務大臣に対し緊急提言(「ICTニューディール」)を行った。総務省は、この緊急提言を踏まえ、当面3年間(2009年〜2011年)に集中的に実施すべき重点施策として、「デジタル日本創生プロジェクト(ICT鳩山プラン)-骨子-」を取りまとめ、関係府省と連携しつつ施策の具体化に取り組んだ。

同懇談会は、2009年に報告書「スマート・ユビキタスネット社会実現戦略」を取りまとめた。同報告書では、全ての国民がICTを安心して利用でき、その恩恵を享受することができるよう、遍在する(ユビキタス)ICTが普遍的(ユニバーサル)に利用者に受け入れられる「より進化したユビキタスネット社会」、すなわち「スマート・ユビキタスネット社会」の実現を提言した。「スマート・ユビキタスネット社会」においては、直観的かつ操作性の優れたインターフェースでICTが利活用できる利用者本位な環境や、大量の情報が溢れている中にあって、一人ひとりに対して、適切な情報が適切なタイミングで自動的に配信される環境などが実現するとされた。

2009年には、地域主権型社会への転換を目指す「『緑の分権改革』推進プラン」と、ICTの利活用による持続的経済成長の実現を目指す「ICT維新ビジョン」の二つが発表された。このうち「ICT維新ビジョン」においては、たとえば、ICTの徹底利活用により、すべての世帯でブロードバンドサービスを利用すること等を目指し、フューチャースクールによる協働型教育改革、電子行政による行政刷新等を推進することとした。2010年には、ICT維新ビジョンを具体化した「ICT維新ビジョン2.0」が発表された。

また、少子高齢化の急速な進展による経済成長への影響等が懸念される中、グローバルな視点から、競争政策を環境変化に対応したものに見直すとともに、ICTの利活用により、我が国及び諸外国が直面する経済的・社会的課題等の解決に貢献するため、2009年、「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」が発足し、新たなICT政策について検討された。

さらに、2009年から、民主主義の基礎となるインフラであるICT分野において、「言論の自由を守る砦」をはじめとする国民の権利保障等の在り方について幅広い観点から検討することを目的として、「今後のICT分野における国民の権利保障等の在り方を考えるフォーラム」が開催され、2010年に報告書が取りまとめられた。

2011年には、総務大臣は本格的な「知識情報社会」の実現に向けて、2020年頃までを視野に入れて、今後の市場構造の変化、国民利用者の社会生活に及ぼす影響等を踏まえつつ、ICT政策の今後の方向性としての「総合戦略」を描くことを目的として、情報通信審議会に「知識情報社会の実現に向けた情報通信政策の在り方」について諮問した。情報通信審議会では2011年の東日本大震災を踏まえて、その復旧・復興から必要となるICT政策が緊急的に検討され、同年、中間答申が取りまとめられた。中間答申においては、東日本復興と日本再生に向けたICTの各施策が提言され、2020年頃の目指すべき社会の具体化や、世界最先端の情報流通連携基盤を通じた円滑な情報の流通・連携による知識情報社会の実現に向けて、引き続きの検討を深めていく必要性が提示された。

2012年に出された最終答申「知識情報社会の実現に向けた情報通信政策の在り方〜Active Japan ICT戦略〜」では、2020年に目指すべきターゲットとして、5つの重点領域(①アクティブで快適な暮らし、②ビッグデータ利活用による社会・経済成長、③リッチコンテンツの享受、④堅牢・柔軟なICTインフラの構築、⑤世界最高水準のセキュリティの実現)と、その実現のための5つの戦略(①アクティブライフ戦略、②アクティブデータ戦略、③リッチコンテンツ戦略、④アクティブコミュニケーション戦略、⑤安心・安全/高信頼ICT戦略)を推進すべきであるとされた。

総務省では、ICTは新たな富の創出や生産活動の効率化に大きく貢献し、経済成長のための重要な鍵であるとの認識の下、グローバル展開を視野に入れつつ、ICTを日本経済の成長と国際社会への貢献の切り札として活用する方策等を様々な角度から検討するため、2013年に、「ICT成長戦略会議」を設置した。

同会議では、①社会実装戦略(くらしを変える)として、鉱物・水など資源問題への対策、新たな街づくりの推進、超高齢社会への対応等、ICTが社会的課題の解決に寄与するための方策等について、②新産業創出戦略(新しいモノをつくる)として、放送コンテンツの海外展開、放送サービスの高度化、ICTを活用した「コト」づくり、サイバーセキュリティの強化等、ICTによる新産業の創出に向けた方策等について、③研究開発戦略(世界に貢献する)として、イノベーション創出実現に向けた情報通信技術政策の在り方等について、それぞれテーマごとに検討会議等を開催し検討を進め、同年に「ICT成長戦略」を策定した(図表1-1-3-6)。

図表1-1-3-6 「ICT成長戦略」の概要

その後、総務省では、同戦略を着実に推進するため、2014年に「ICT成長戦略推進会議」を立ち上げ、ICT街づくり推進会議等の会議における検討状況や各団体による取組状況などの「ICT成長戦略」の全体的な進捗状況の管理及び評価等を行うことにより、「ICT成長戦略」の着実な推進を図るとともに、新たな課題等に関する検討を行った。同年、「ICT成長戦略推進会議」における検討を踏まえ、「ICT成長戦略」の第2弾である「ICT成長戦略II」を策定し、後述する「ICT国際競争力強化・国際展開に関する懇談会」の提言を踏まえて策定した国際戦略である「ICT国際競争力強化・国際展開イニシアティブ」とともに、国内戦略、国際戦略が一体となった「スマート・ジャパンICT戦略」を策定した(図表1-1-3-7)。

図表1-1-3-7 「スマート・ジャパンICT戦略」の概要

この「スマート・ジャパンICT戦略」では、ICTによるイノベーションで経済成長と国際貢献を実現するため、「世界で最もアクティブな国になる」ことをミッションとして掲げ、①2020年までに「知識情報立国」の実現、②地球的課題、我が国の課題、相手国の課題のICTによる「三位一体」解決、③グローバルな視点で、「スピード」と「実践」の3つをビジョンとして、国内戦略である「ICT成長戦略II」と国際戦略である「ICT国際競争力強化・国際展開イニシアティブ」を連携させて着実に推進することとした。

また、総務省では、ICTが質量ともに劇的に変化・進化している中、地理空間情報と通信技術を融合させ、暮らしに新たな変革をもたらすため、2013年より「G空間×ICT推進会議」を開催し、同年、報告書を取りまとめた。G空間×ICTの社会の実現のためのロードマップや今後の取り組みについて提言された。

ア 通信・放送の融合

通信・放送の在り方に関する政府与党合意において、「通信と放送に関する総合的な法体系について、基幹放送の概念の維持を前提に早急に検討に着手し、2010年までに結論を得る」とされたことを受けて、総務省では、通信・放送の融合・連携に対応した法体系の検討の方向性を具体化することを目的として、2006年から「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」が開催され、2007年に報告書が取りまとめられた。

これを踏まえて、総務省は、通信・放送の融合・連携に対応した具体的な制度の在り方の検討を進めるため、2008年、「通信・放送の総合的な法体系の在り方」について情報通信審議会に諮問し、2009年に答申を受けた。これを踏まえて、総務省では、各種の放送形態に対する制度を統合し、無線局の免許及び放送業務の認定の制度を弾力化する等、通信・放送の法体系の見直しを60年ぶりに行い、2010年に「放送法等の一部を改正する法律」が成立した(図表1-1-3-8)。

図表1-1-3-8 通信・放送法体系の見直し
イ ICT産業の国際競争力強化

2006年に総務省において、「ICT国際競争力懇談会」が設置された。我が国は、「e-Japan戦略」等の推進により、世界で最も安くて速いブロードバンド環境を実現し、また、携帯電話の高度化・多様化も大きく進展し、さらに、放送のデジタル化や次世代ネットワークへの取組も進んでいるが、一方では、ネットワーク関連機器等についてのグローバル市場における我が国のシェアは必ずしも高いとはいえず、また、情報通信分野での海外での事業展開、標準化・知的財産権の獲得、人材育成等も今後の大きな課題になっていた。ICT国際競争力懇談会は、上記の問題意識の下、1年間の議論を経て、2007年に最終報告書を取りまとめ、「ICT 国際競争力強化年間(2011年まで)」、「グローバルな視点での強い産業に」、「情報通信GDP 倍増計画」という3つの基本戦略を示した。またそれを実行するためには、「必要な政策を全体パッケージとして総合的・戦略的・有機的に推進することが不可欠」とし、「基本プログラム」と「個別プログラム」からなる「ICT 国際競争力強化プログラム」を定め、着実な実行の必要性を指摘した53

この議論は、「ICT国際競争力会議」に引き継がれ、ユビキタス特区の創設54、ジャパン・イニシアティブ・プロジェクトの推進55やICT国際競争力プログラムの進捗状況の把握とそれに合わせた毎年の改訂版の作成が実施され、またICT国際競争力指標を作成し、定量的な評価が試みられた。

また、総務省は、デジタル放送、次世代IPネットワーク及びモバイルの3分野について我が国ICT企業の海外展開に係る各種活動を支援・実施する体制を整備するため、2007年、総務大臣を本部長とする「ICT国際展開対策本部」を設置し、これをICT国際競争力会議の下に位置づけ、上記3分野について、

①ICT企業が海外展開する際の総合的な支援・総合窓口

②海外での各種普及・啓発活動の実施

③有用な各国情報の収集・整理及び当該情報の産学官での共有

等の活動を行った。

3分野の中で、地上デジタルテレビジョン放送(以下この節で「地デジ」という)については、我が国がISDB-T方式を開発したほか、欧州、米国がそれぞれ独自の方式を開発し、いずれもITUにおいて国際標準として勧告化され、各方式の普及拡大の競争が展開された。我が国は欧州に比較して開発・標準化が遅れたこともあり、2000年代半ばには欧州方式(DVB-T)が世界で圧倒的なシェアを有していた。しかし、2006年、ブラジルにおいて日本以外の国・地域として初めてISDB-Tをベースとした放送方式が採用されたのを契機として、ICT国際展開対策本部の活動や「ICT先進事業国際展開プロジェクト」56、さらには総理大臣をはじめとするトップセールスなどにより、中南米、アジアを中心とした地デジ日本方式の海外展開が活発に図られた。その結果、2015年5月現在、世界17か国が日本方式を採用し、6.3億人の市場規模に達した。

こうした地デジの国際展開をはじめとしたICT分野における我が国企業の国際競争力強化については、2010年代においてさらに強力に推進された。まず、「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース 国際競争力強化検討部会」において、「重点推進プロジェクト」、「連携推進体制」及び「技術戦略」の3項目が掲げられ、今後重点を置いて推進すべき方策の基本的方向性が示された。これを踏まえ、グローバル展開のための案件形成から相手国における市場獲得に至るまでのプロセスについて、今後取り組むべき具体的方策の検討を目的に、グローバル展開に当たっての基本理念及び今後取り組むべき具体的方策が取りまとめられ、官民一体となった推進を図る観点から、国の果たすべき役割についても提言が行われた。

2013年にはICT成長戦略会議で国際競争力について議論され、2014年にはICT国際競争力強化・国際展開イニシアティブに引き継がれた。これに基づき、地デジの国際展開で培った相手国との良好な関係をICT分野全体に拡大し、パッケージ展開する中長期的な事業を支援するため、2015年には株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構法が成立し、アジアを中心とする海外の通信・放送・郵便事業の需要を取り込むことが期待されている。

ウ 携帯電話市場の競争促進等

2000年代に入り、携帯電話は契約者数が8,000万を超え、伸び率も当時漸減しつつあるなど、市場が成熟化しつつあり、モバイル市場を活性化する政策が求められた。そこで具体的に議論されたのが、番号ポータビリティであり、SIMロック解除、MVNOの参入促進の各政策などである。以下、各政策について説明する。

総務省は、2006年に携帯電話の利用者が、加入事業者を変更する際にこれまでと同じ番号を引き続き使用できるようにする「番号ポータビリティ」を可能とするための省令改正を行い、携帯電話事業者において、同年から携帯電話の番号ポータビリティが開始された。

2006年には、「新競争促進プログラム2010」(後述)において、移動通信市場における競争促進が盛り込まれ、総務省は、これに基づき、2007年、「MVNO事業化ガイドライン」57の改正を行い、同ガイドラインの対象とするMVNOなどの事業範囲、卸電気通信役務又は事業者間接続による事業展開の方法等について明確化を図る等の措置を行った。

また、総務省は、新たなモバイルビジネスの成長を通じた経済活性化や利用者利益の向上を図ることを目的として、2007年に「モバイルビジネス研究会」最終報告書を取りまとめて、

①モバイルビジネスにおける販売モデルの見直し

②MVNOの新規参入の促進

③モバイルビジネスの活性化に向けた市場環境整備の推進

について2011年を目標年限として実施する施策を「モバイルビジネス活性化プラン」として公表した。同プランは「新競争促進プログラム2010」の一部を構成するものとして位置付けられ、同プログラムの2007年改定により、これを着実に実施することとされた。

これに加えて、利用者の要望を前提に事業者が自主的にSIMロック解除を実施するという方針について一定のコンセンサスを得られたことを受け、2010年、利用者の要望に応えるという観点から、事業者において主体的に取り組むことが期待される事項について取りまとめた「SIMロック解除に関するガイドライン」を策定した。SIMロック解除については、「ICTサービス安心・安全研究会」(後述)及び「情報通信審議会2020-ICT基盤政策特別部会」(後述)の議論において、「利用者の求めに応じて迅速、容易かつ利用者の負担なく解除に応じることが適当」とされ、また、2014年の「モバイル創生プラン」58においても、モバイルサービスの料金低廉化・サービス多様化に向けて早期に実行するべく、SIMロック解除を推進することとしたことを踏まえ、総務省は、同年、「SIMロック解除に関するガイドライン」を改正した。

2010年には、事業法が改正され、第二種指定電気通信設備を設置する通信事業者に係る接続会計制度が創設された。これに伴い、総務省は、同年、第二種指定電気通信設備を設置する通信事業者の接続料の算定方法等に係る考え方を明確化することにより、通信市場における公正競争を促進し、もって通信サービスの利用者利便の増進を図ることを目的として「第二種指定電気通信設備制度の運用に関するガイドライン」を策定した。総務省では、2012年より、モバイル接続料(携帯電話事業者の接続料)算定の更なる適正性向上に向け、算定方法及びその検証の在り方を検討するため「モバイル接続料算定に係る研究会」を開催し、2013年に報告書を取りまとめた。総務省は、この検討結果を参考として、モバイル接続料の適正性、検証可能性及び公平性を確保する観点から、同ガイドラインを2014年に改正した。

総務省は、情報通信審議会答申「2020年代に向けた情報通信政策の在り方−世界最高レベルの情報通信基盤の更なる普及・発展に向けて−」等を踏まえ、2020年代に向けて、我が国の世界最高水準のICT基盤を更に普及・発展させ、経済活性化・国民生活の向上を実現するため、2015年、電気通信事業法等の一部を改正する法律案を国会に提出し、同年成立した。これにより、MVNOの迅速な事業展開を可能とし、移動通信市場の競争促進を図るため、第二種指定電気通信設備制度について、①総務省令で定める機能ごとに接続料を設定する制度、②接続料の算定制度等の規定を整備することとした。

エ その他の公正競争ルールの整備

2006年、総務省では、2010年代初頭を念頭に置いてそれに対応した競争ルールの在り方について整理した「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」報告書を取りまとめた。

この報告書を受けて、総務省は、2006年、ブロードバンド化の進展、公衆交換電話網(PSTN:Public Switched Telephone Network)からIP網への移行、ビジネスモデルの多様化等、IP化の進展による市場環境の変化を踏まえ、通信市場において一層の競争の促進を図り、利用者利益の保護を図るため、2010年代初頭までに公正競争ルールの整備等の観点から実施する施策について取りまとめた「新競争促進プログラム2010」を策定した(2007年、2009年改定)59

また、総務省では、2015年頃を目途にすべての世帯におけるブロードバンドサービス利用の実現を目標と掲げ、2010年には、「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」の「光の道ワーキンググループ」における取りまとめ等を踏まえ、その実現に必要な施策及びその取組スケジュールを取りまとめた基本方針及び工程表を策定・公表した。基本方針では、東・西NTTの機能分離の実施、子会社等との一体経営への対応、業務範囲の弾力化について法案を国会に提出すること等とされたことから、2011年には、事業法及びNTT法の改正が行われた。事業法の改正においては、第一種指定電気通信設備を設置する通信事業者に対し、子会社等に通信業務等を委託する場合に、当該子会社等が反競争的行為(接続情報の目的外利用等)を行わないよう適切に監督すること及び自社内の設備部門とその他の部門との間のファイアーウォールを強化することにより接続の業務に関して知り得た情報を適切に管理し、他の通信事業者を不利に取り扱わないことを確保するための体制の整備等の措置を講ずることを義務付けることとされた。NTT法の改正においては、市場の変化や消費者のニーズに対応し、東・西NTTも新サービスを適時に提供できることが望ましいこと等にかんがみ、東・西NTTが地域通信事業の経営を達成するために必要な業務(目的達成業務)及び同社が保有する設備、技術又は職員を活用して行う業務(活用業務)等を営む際において、総務大臣による認可制を改め、事前の届出により同社が当該業務を営めるようにすることとされた。

さらに、ブロードバンドの普及促進を図るためには、基盤整備を加速化させるインセンティブとして公的な支援措置を講じるほか、事業者間競争の活性化に必要な取組(線路施設基盤の開放による設備競争の促進等)を総合的に推進するとともに、電話網からIP網への円滑な移行60を実現することが重要となる。そこで、2011年、上記基本方針も踏まえ、ブロードバンド普及促進のための環境整備の在り方について情報通信審議会に諮問し答申を受けた。この答申を踏まえ、関係法令・ガイドラインの改正等、所要の措置を講じた。また、同答申を踏まえ、2012年より、東・西NTTのメタル回線の接続料算定の在り方について、更なる適正化や予見可能性の向上に向け、コストの検証等を行うため「メタル回線のコストの在り方に関する検討会」を開催し、2013年に報告書を取りまとめた61。このほか、総務省では、FTTH市場における競争を一層促進し、ブロードバンドサービスの普及促進を図るため、光ファイバーのアクセス網のオープン化についても、2012年度一芯単位接続料に係る乖離額補正認可を行うなど競争の促進に取り組んできた。

2020年代に向けて、我が国の世界最高水準のICT基盤を更に普及・発展させるためには、事業者間の活発な競争を促すことにより、国民生活や経済活動の基盤である光回線や携帯電話網等の利活用を促進し、新サービス・新事業を創出することが重要であるため、2015年には、事業者間の公正な競争を促進するため、電気通信事業法等の一部を改正する法律案を国会に提出し、同年成立した。その内容は、①第一種指定電気通信設備等を用いる卸電気通信役務に関する制度整備、②移動通信市場の禁止行為規制の緩和、③登録の更新制の導入等(合併・株式取得等の審査)などである62

オ 電気通信事故の防止に関する施策

今日の通信ネットワークは、携帯電話を中心とする多様なサービスの提供により設備の構成が複雑化し、また、スマートフォンの普及等により、通信量が急増している。このため、通信サービスの重大事故(2時間以上かつ3万人以上の事故)は、2008年度以降毎年15件以上発生し、2003年度に比べて倍以上の件数で推移するとともに、規模が拡大している。このような状況を踏まえ、総務省では、2013年に事故防止の在り方を検討する「多様化・複雑化する電気通信事故の防止の在り方に関する検討会」を開催し、同年報告書が取りまとめられたところ、これに基づき2014年に事業法の改正が行われ、①管理規程の実効性確保、②経営レベルの「電気通信設備統括管理者」の導入、③「電気通信主任技術者」による監督の実効性確保、④回線非設置事業者への対応に関する規定が整備された。

カ 利用者保護に関する施策

高度化・多様化した通信サービスが国民各層に広く普及・浸透し、国民生活に大きな利便性をもたらす一方で、通信サービスをめぐるトラブルも急増し、その内容も年々複雑になってきている。こうした状況の中、総務省では、消費者が安心して通信サービスを利用できるための取組を積極的に推進してきている。

(ア)インターネット上の違法・有害情報への対応

総務省では、2005年から「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する研究会」を開催し、インターネット上の違法・有害情報へのプロバイダ等による自主的対応及びこれを効果的に支援する制度・方策について検討を行い、2006年に最終報告書を取りまとめた。最終報告書においては、

①プロバイダや電子掲示板の管理者等が他人の掲載する違法な情報を放置した場合の刑事責任

②インターネット上の違法な情報に対するプロバイダや電子掲示板の管理者等による自主的対応及びこれを支援する方策

③インターネット上の有害情報に対するプロバイダや電子掲示板の管理者等による自主的対応及びこれを支援する方策

④プロバイダ責任制限法における発信者情報開示の運用

等の論点について、提言が行われた。

総務省は、この提言を踏まえ、社団法人電気通信事業者協会、社団法人テレコムサービス協会、社団法人日本インターネットプロバイダー協会及び社団法人日本ケーブルテレビ連盟とともに、インターネット上の違法な情報及び公序良俗に反する情報に対するプロバイダ等による適切かつ迅速な対応を促進するための方策について検討を行った。その結果、上記4団体は、2006年にインターネット上に掲載された情報の違法性の判断基準及び送信防止措置等の手続を定めた「インターネット上の違法情報への対応に関するガイドライン」並びにプロバイダ等が違法・有害情報に対して契約約款に基づく自主的な対応を行うための「違法・有害情報への対応等に関する契約約款モデル条項」を策定した。また、2008年には、プロバイダ等の事業者からの違法・有害情報に関する相談・問い合わせ等を受け付ける「違法・有害情報事業者相談センター」(現在の「違法・有害情報相談センター」)がテレコムサービス協会内に設置された。

また、インターネット上の電子掲示板等で自殺の決行をほのめかす書き込みや集団自殺を呼びかける書き込み(自殺予告事案)におけるプロバイダ等の対応について、総務省では、通信事業者団体及び警察庁と共に検討を進め、2005年に通信事業者団体4団体により、自殺予告事案に関してプロバイダ等が警察から発信者情報の開示を求められた際の情報開示の判断基準や手続等に関する行動指針となる「インターネット上の自殺予告事案への対応に関するガイドライン」が策定され、運用されている。

さらに、インターネット上の有害情報への有効な対策であるフィルタリングについて、総務省では、2004年から携帯電話事業者と連携して携帯電話向けのフィルタリングの研究開発を行い、携帯電話事業者は、この研究成果を活かして2005年からフィルタリングサービスの提供を開始した。あわせて総務省は、フィルタリング導入促進のため、携帯電話事業者等に対し、2006年にはフィルタリングサービスの普及促進に向けた自主的取組を強化するよう要請したほか、2007年には青少年が利用する携帯電話等に関し、フィルタリングサービスの利用を原則とした形で親権者の意思確認を行う等のフィルタリングサービス導入促進活動の強化をするよう要請し、2008年には、「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」63中間取りまとめを踏まえ、フィルタリングの改善等に取り組むよう要請した。

2009年には、総務省、内閣府、内閣官房、警察庁、文部科学省及び経済産業省が連名でパーソナルコンピューターの製造事業者、携帯電話・PHS事業者、フィルタリングメーカー、家電販売店等と連携して、フィルタリング普及のためのキャンペーンを実施した。

一方、2010年代以降普及したスマートフォンにおいては、携帯電話回線におけるネットワーク型のフィルタリングだけでは不十分な状況にあり、また、従来の携帯電話事業者の管理下にあったアプリケーションとは異なり、スマートフォンでは世界規模で多様なアプリケーションが流通しており、青少年に有害なアプリケーションの利用を制限する必要があるという課題が生じている。

この点については、携帯電話事業者においては、従来のネットワーク型から端末にフィルタリングソフトを具備することにより、無線LANの利用時やアプリケーションの利用時においてもフィルタリングが機能する仕組を整えつつある。

2008年には、議員立法により、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」(「青少年インターネット環境整備法」)が成立した。

同法は、インターネット上の違法・有害情報対策のうち、青少年(18歳未満)を有害情報から保護することに目的を絞り、インターネットの利用環境整備の在り方について、今後の取組の方向性を明確化したものである。基本理念として、①青少年自身がインターネットを適切に活用する能力を習得すること、②青少年による有害情報の閲覧の機会を少なくすること、③民間による自主的・主体的取組を尊重すること(国・地方公共団体は支援)を掲げており、民間事業者の自主的な取組やリテラシー教育の重要性を強調している。また、具体的な有害情報対策として、フィルタリングの普及とその性能向上に取り組むことを求めている。

総務省は、同法及び2008年の「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律の一部を改正する法律」を受け、今後のインターネット上の違法・有害情報対策の包括的政策パッケージとして、「安心ネットづくり」促進プログラムを策定し、①安心を実現する基本的枠組の整備、②民間における自主的取組の促進、③利用者を育てる取組の推進の3つを柱とした総合的な政策パッケージを推進した。

2009年には、インターネット上の違法・有害情報への適切な対応について国際連携を推進するとともに、世界における安心・安全なインターネット環境整備を促進するため、総務省とITUの共催で、「安心・安全なインターネット環境整備に関する戦略対話」が東京で開催され、安心を実現する基本的枠組の整備等についての議論が行われ、議長報告及び「東京声明」が取りまとめられた。

(イ)迷惑メールへの対応

2002年の「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」の制定後、総務省は、2005年に「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律の一部を改正する法律案」を国会に提出した。本改正は、①自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として送信者情報を偽って電子メールの送信をする行為の禁止及びその違反者に対する刑事罰、②架空電子メールアドレスあての電子メール送信を禁止する範囲の拡大及び罰則の見直し、③特定電子メールの範囲の拡大並びに電気通信事業者による通信役務の提供拒否事由の拡大等を内容としたもので、同年に成立し、公布された。

また、同年、総務省及び経済産業省は、アジア太平洋地域の11機関との間で、「スパム対策の協力に関する多国間MOU(覚書)」を作成し、2006年には仏国、英国、カナダと共同声明を発出するなど、迷惑メール対策に関する諸外国との国際的な協力も推進した。

2007年、総務省は、「迷惑メールへの対応の在り方に関する研究会」中間とりまとめに基づき「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律の一部を改正する法律案」を国会に提出した。本改正は、①原則としてあらかじめ同意をした者に対してのみ送信を認めるオプトイン方式の導入、②法人に対する罰金額の引き上げや報告徴収の範囲の拡大等による法の実効性の強化、③迷惑メール対策を行う外国執行当局に対し必要な情報の提供を可能とすること等の国際連携の強化を内容としたもので、2008年に成立し、公布された。

また、同年、「迷惑メールへの対応の在り方に関する研究会」の最終とりまとめが公表された。これを踏まえ、総務省は、「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」及び関係省令の解釈、特定電子メールの送信にあたり推奨される事項等をとりまとめた「特定電子メールの送信等に関するガイドライン」を作成し、公表した。その後、2009年の消費者庁設置以降、総務省が所管する「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」は消費者庁が一部共管することとなった。

2014年には、諸外国の迷惑メール対策機関が情報交換等を行う国際的な枠組みである「ロンドンアクションプラン」の第10回定期会合が東京で開催され、迷惑メール対策の取組強化等を内容とする「東京宣言」が採択された。

(ウ)個人情報保護

総務省は、2003年に制定された個人情報保護法を2005年から全面施行するに当たり、通信事業における個人情報保護について、サービスの利便性の向上を図るとともに、利用者の権利利益を保護することを目的として、1991年に策定した「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」(当時郵政省。1998年改正)を2004年に全面的に改正し、以後累次の改正を経て運用している。

(エ)最近の動向

総務省は、2008年から「電気通信サービス利用者懇談会」を開催し、2009年に報告書を取りまとめた。同報告書においては、苦情処理・相談体制の在り方として、業界団体において、責任分担モデルに基づいた対応の在り方を検討するよう提言された。あわせて通信サービスの契約締結時における説明事項として、契約変更、解約時の連絡先、連絡方法を追加することや、利用者の特性に配慮した勧誘を行うという適合性の原則の推奨等を「電気通信事業法の消費者保護ルールに関するガイドライン」(2004年策定)に盛り込むこと等も提言された。これらの提言を受け、2009年に事業法施行規則の一部及び同ガイドラインを改正したほか、電気通信サービス向上推進協議会など通信分野の関連5団体では、提言に基づく適切な対応を図るため、主要な広告事案に関する定期的な検証の実施、広告表示の自主基準・ガイドラインの一部改訂等を実施した。

2010年には、これらの取組状況や効果を検証するとともに、通信サービスが更に高度化、多様化している状況を踏まえ、「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の下に「電気通信サービス利用者WG」が設置され、今後対応すべき新たな問題等を確認し、更なる利用者の権利保障のための取組の在り方について検討されている。

また、ICT関連の新たなサービスの登場や新技術を活用した情報の流通等により、知的財産権をはじめとする諸権利との関係を整理する必要が生じてきたことから、総務省では、2009年から「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」を開催し、同年に第一次提言を、翌年に第二次提言を取りまとめて公表した。同研究会では、①インターネット地図情報サービス、②違法音楽配信、③ライフログ活用サービス、④個人情報保護ガイドラインの見直しの4つの課題を設定し、①、②及び④について検討結果を第一次提言として報告し、また、③の検討結果と第一次提言策定後に設定された課題である⑤CGM(消費者生成メディア:Customer Generated Media。SNS、プロフサイト等を指す。)及び⑥モバイルPC等による情報持ち出し時の安全管理措置について、その検討結果を第二次提言として公表した。

同研究会においては、2010年より、「青少年インターネットWG」、「プロバイダ責任制限法検証WG」、「電気通信サービス利用者WG」、「迷惑メールへの対応の在り方に関する検討WG」の4WGを新たに開催し、①青少年インターネット利用環境の整備、②プロバイダ責任制限法の検証、③更なる利用者の権利確保のための取組の在り方、④迷惑メール対策のそれぞれの第二次提言策定後の課題に対する検討を行い、2011年度中に各課題に対する提言を取りまとめ、公表した。このうち、②については、「プロバイダ責任制限法検証に関する提言」を踏まえ、開示の対象となる発信者情報に携帯電話端末等の個体識別番号を新たに追加するため、2011年に「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」を改正した。

2012年には、「スマートフォン時代における安心・安全な利用環境の在り方に関するWG」を新たに開催し、2013年に「スマートフォン安心安全強化戦略」を取りまとめた。同戦略の「CS適正化イニシアティブ」においては、①通信速度の広告表示等について、実測値を表示・併記する等、利用者への分かりやすい情報提供について検討を進めること、②期間拘束・自動更新付契約について、更新時期の契約者等へのメール等による通知の導入及び普及を検討すること、③業界団体の自主的な取組による効果が十分に上げられていない場合、事業法における消費者保護ルールを見直す等の制度的な対応の検討に着手すべき等が指摘されている。これらの指摘を踏まえ、①の通信速度については、利用者が適切な情報に基づき契約を行うことが可能な環境を整備するため、総務省は2013年から「インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会」を開催し、2014年に第一次報告書を取りまとめた。本報告書では、通信事業者共通の統一的な計測項目・条件、事業者中立性が確保される実施プロセス、実証実験で検証すべき事項に加え、計測結果の公表及び広告等の利用者への情報提供手法の方向性について提言を行っている。②の更新時期の契約者等への通知については、通信事業者においてプッシュ型通知を行う取組が促進されている。③の事業法における消費者保護ルールの見直しについては、業界団体による自主基準の遵守不徹底や業界団体未加入事業者の存在等により、自主的な取組による効果が十分に挙げられていないと認められる事項について、法的な枠組等による必要な制度・規律の在り方などを検討するため、新たに「ICTサービス安心・安全研究会」を2014年から開催し、専門的な検討を開始している。

さらに、「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の下で新たに開催された「スマートフォンを経由した利用者情報の取扱いに関するWG」においては、アプリケーション提供者等の関係事業者等が自主的に取り組むべき指針である「スマートフォン利用者情報取扱指針」等を含む提言「スマートフォン プライバシー イニシアティブ」(SPI)が取りまとめられ、2012年に公表された。SPIでは、利用者が安心・安全にサービスを活用できるよう、スマートフォン・プライバシーに関する包括的な対策が提案されており、6つの項目からなる基本原則が示されるとともに、アプリ提供者、情報収集モジュール提供者、広告事業者や関係事業者に望まれる取組が示された。特に、スマートフォンにおける利用者情報を取得しようとするアプリケーション提供者、情報収集モジュール提供者は、個別のアプリケーションや情報収集モジュール等について、8項目の事項を明記するプライバシーポリシー等をあらかじめ作成し、利用者が容易に参照できる場所に掲示等を行うこととされた。

また、SPIの公表後は、「スマートフォン時代の安心安全な利用環境の在り方に関するWG」の下で、利用者情報の適正な取扱いに関し、アプリケーションの利用者の安心感向上とともに、適正なアプリケーションへの信頼向上・利用拡大にもつながる「アプリケーションの第三者検証の在り方」等について議論し、2013年に取りまとめられた「スマートフォン安心安全強化戦略」の中で「スマートフォン プライバシー イニシアティブ」(SPI II)として公表した。SPI IIでは、プライバシーポリシーの作成・掲載を引き続き推進すること、また、個々のアプリケーション等について、利用者情報の適切な取扱いが行われているかどうか等を、運用面・技術面から第三者が検証する仕組みが民間主導により整えられることが望ましい旨が提言された。SPI IIを踏まえ、同年には、アプリケーションのプライバシーポリシーの普及とアプリケーションの第三者検証を推進するに当たっての諸課題について検討し、プライバシーポリシーの普及並びに民間における検証サービスの提供と利用者による当該サービスの活用を促進することを目的として、「スマートフォン アプリケーション プライバシーポリシー普及・検証推進タスクフォース」が総務省に設置された。平成26年度からは、第三者検証の実施に係る実証実験を開始している。

2020年代の世界最高水準のICT社会の実現のためには、世界最高レベルの通信インフラの整備が必要であり、そのためには料金低廉化・サービス多様化のための競争環境の整備のみならず、それと車の両輪をなす安心・安全な利用環境の観点からも、直面する課題への対応とともに、2020年代を見据えた検討が必要である。このような観点から、消費者保護ルールの充実等直面する課題への対応を中心に、中長期的な制度的対応も要すると見込まれる課題への対応について検討することを目的として、総務省は、2014年から「ICTサービス安心・安全研究会」を開催し、①消費者保護ルールの見直し・充実、②ICTによる2020年代創造のための青少年保護・育成の在り方、③ICTサービスの進展に応じた課題への対応(サービスの料金その他の提供条件の在り方等)等について検討を行っている。検討の結果として、②については、同年7月に「青少年インターネットセッション 議長レポート」が示されるとともに、①及び③については、同年12月に、事業法等の関連法令の改正や通信事業者によるSIMロック解除の推進等の提言を内容とする報告書を取りまとめたところであり、引き続き、ICTサービスの安心・安全な利用環境に向けた検討を行っているところである。

「ICTサービス安心・安全研究会報告書」等を踏まえ、通信サービスが多様化・複雑化し、加えて熾烈な事業者間競争の中で不適切な勧誘活動等が見られ、現行の利用者保護に関する規律によってもなお、近年、苦情・相談が増加していることから、2015年の電気通信事業法等の一部を改正する法律において、通信サービスにおける利用者保護規律の見直し・充実を行い、一層の利用者保護を図ることとして、①書面の交付・初期契約解除制度の導入、②不実告知・勧誘継続行為の禁止等、③代理店に対する指導等の規定を整備することとされた。



52 その内容は、次のとおりである。
 ①NHK関連
 ア 経営委員会の抜本的改革
 経営委員会の抜本的改革について検討を行い、所要の法案を次期通常国会に提出する。法案成立後、2008年から実施する。
 イ 保有チャンネル数の削減
 チャンネルの有効活用について検討会を設置し、その報告を踏まえ、電波監理審議会への諮問・答申を経て、必要な制度整備等を行い、2011年までにチャンネルを再編成する。
 ウ NHK本体の見直し
 子会社全体の整理・統合、音楽・芸能・スポーツ等制作部門の一部分離、伝送部門の会計峻別等について、NHKとの間で協議を開始し、その結果を踏まえ、2007年以降早期に実施する。
 番組アーカイブに係る対応について、所要の法案を次期通常国会に提出する。法案成立後、必要な制度整備等を実施し、2008年から開始する。
 エ 国際放送の強化
 新たな国際放送の在り方等について情報通信審議会で所要の検討を開始し、その結果を踏まえ、所要の法案を次期通常国会に提出する。法案成立後、2009年度から新たな組織による放送の開始を目指す。なお、それまでの間は、NHKの国際放送の充実を図る。
 2007年度予算要求においてNHKの国際放送充実のための措置を講ずる。
 オ 受信料支払いの義務化等
 受信料支払いの義務化等については、所要の法案を次期通常国会に向けて検討を行い、来春に結論を得る。
 ②放送関連
 ア マスメディア集中排除原則の緩和
 放送持株会社等について検討し、所要の法案を次期通常国会に提出する。法案成立後、2007年度中に実施する。その際、併せてマスメディア集中排除原則の緩和に必要な関係省令等を整備する。
 イ コンテンツの外部調達
 コンテンツの外部調達の在り方について、情報通信審議会において所要の検討を行い、その結果を踏まえ、2007年度に所要の措置を講ずる。
 ③融合関連
 通信と放送に関する総合的な法体系について検討するため、「通信・放送法制企画室」を設置するとともに、通信・放送の融合・連携に対応した法体系の検討の方向性を具体化するため、新たに研究会を設置する。研究会の報告、情報通信審議会の諮問・答申を経て、2010年の通常国会への法案提出を目指す。
 ④通信関連
 公正競争ルールの整備等について、「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」報告書を踏まえ、以下の点について検討し、結論が得られたものから順次実施する。
 ・固定電話に係る接続料の算定ルールの見直し
 ・東・西NTTの次世代ネットワークに係る接続ルールの整備
 ・指定電気通信設備制度等の見直し
 ・その他公正競争確保のための競争ルールの整備
 NTTの組織問題について、市場の競争状況の評価等に係るレビューを毎年実施するとともに、2010年の時点で検討を行い、その後速やかに結論を得る。

53 「基本プログラム」は、ICT 国際競争力強化のための基本サイクルを動かすためのトリガーとなる施策を中心とするもので、①ICT国際競争力会議の設置、②「ユビキタス特区」の創設、③「ジャパン・イニシアティブ・プロジェクト」の推進、④プラットフォームの開発・整備、⑤重点分野における基本戦略の推進、⑥「技術外交」の戦略展開、⑦通信・放送分野の改革の推進という7項目からなっていた。「個別プログラム」は、研究開発強化、標準化強化、知的財産強化、人材育成、ソフトパワー強化等の個別テーマにおける具体的取組を示すものとして、①ICT研究開発強化プログラム、②ICT標準化強化プログラム、③ICT知的財産強化プログラム、④ICT人財育成プログラム、⑤ソフトパワー強化プログラム、⑥ICTブランド向上プログラム、⑦国際展開支援プログラム、⑧税制・財政金融等支援の8項目からなっていた。

54 「ユビキタス特区」は、我が国が国際的に優位にあるユビキタスネットワーク技術等を活用し、世界の需要にこたえうるICTサービスの開発・実証プロジェクトを「ユビキタス特区」地域を中心に集中的に実施することにより、我が国ICT産業の国際競争力を強化することを目的としたもの。

55 日本が強い領域を生かし、ICT産業の国際競争力を強化するために、世界を先導すべき以下の研究開発を、「ジャパン・イニシアティブ・プロジェクト」として、2008年度以降、重点的に推進することとしたもの。

56 ICT重点3分野の国際展開活動を加速化するとともに、我が国の高度なICTインフラを活用した新規分野における国際展開を戦略的に進めるために、2009年度から実施したプロジェクト。同プロジェクトは以下の3つの事業から構成されていた。
 ①ICT重点3分野途上国向けモデル事業(ユビキタス・アライアンス・プロジェクト)、②ICT先進実証実験事業、③ICT利活用ルール整備促進事業(サイバー特区)。

57 「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」

58 モバイルによる我が国創生と国民負担の軽減を目指し、もっと自由に、もっと身近で、もっと速く、もっと便利に、モバイルを利用できる環境を実現するため、2014年に総務省が取りまとめたもの。モバイルの利用環境整備として、①自由に選べるモバイルの推進、②安くて安心して使えるモバイルの推進、③モバイルの更なる高速化、④新たなモバイルサービスの創出について、必要な取組事項を実施時期とともに記載している。

59 同プログラムは、「通信・放送分野の改革に関する工程プログラム」の通信事業分野における具体的実施計画として位置づけられたものであり、その主な内容は、以下のとおりであった。①設備競争の促進、②指定電気通信設備制度(ドミナント規制)の見直し、③東・西NTTの接続料の算定方法の見直し、④移動通信市場における競争促進、⑤料金政策の見直し、⑥ユニバーサルサービス制度の見直し、⑦ネットワークの中立性の在り方に関する検討、⑧紛争処理機能の強化、⑨市場退出ルールの見直しなど。

60 東・西NTTは、電話網からIP網への計画的な移行を2020年頃から開始し、2025年頃に完了する考え方などを公表した。

61 また、同答申を踏まえ、2012年より、モバイル接続料算定の更なる適正性向上に向け、算定方法及びその検証の在り方を検討するため「モバイル接続料算定に係る研究会」を開催し、2013年に報告書が取りまとめられた。

62 同改正における第二種指定電気通信設備制度の充実については、前述のとおり。

63 2006年に最終報告書が取りまとめられたインターネット上の違法・有害情報への対応に関する研究会の後も、主に携帯電話からの出会い系サイトの利用を通じて青少年が犯罪に巻き込まれる事件や、いわゆる「学校裏サイト」におけるネットいじめ等の問題が発生し、効果的なインターネット上の違法・有害情報対策の立遅れや法規制の導入も含めた対応策の強化の必要性を指摘する声が高まった。
 こうした声を受け、総務省では、2007年から、「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」を開催し、青少年に向けたフィルタリングの更なる導入促進、プロバイダ等による削除等の措置の支援、インターネットリテラシーの普及啓発等の違法・有害情報に対する総合的な対応について検討を行い、2009年に最終取りまとめを公表した。

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