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第2部 ICT が拓く未来社会
第2節 地域の雇用とICT

1 ICT化の進展が雇用に及ぼす影響

(1)ICTが雇用に影響を与えるメカニズムの整理

最初に、ICTが雇用に影響を与えるメカニズムを整理する。整理に際して、ICTによる雇用の代替効果と創出効果に分けて検討を行う。加えて、ICTが「相応の賃金」、「安定した雇用形態」、「やりがいのある仕事」といった雇用の質に与える効果についても検討を行う。

図表3-2-1-1に、ICTが雇用を代替又は創出し、雇用の質に影響を与える経路を示した。前節でみたように、企業がICTを効果的に利活用することで、企業の生産性は向上する。その際、生産性向上の仕方は二通りある。ICTが企業のコスト削減に貢献した場合と、ICTが企業の付加価値向上に貢献した場合である。

図表3-2-1-1 ICTが雇用に与える影響
(出典)総務省「ICTによる地域雇用創出に向けた課題と解決方策に関する調査研究」(平成27年)

前者では、企業がコスト削減を目的に労働力をICTによって代替するため、雇用は減少する。一方、後者では、企業が成長し規模を拡大する結果、雇用が増加する。加えて、ICTが進展することで、企業は新たな事業を生み出しやすくなる。企業で新たな事業が生み出されれば、そこに雇用が創出される。

以下のア、イでICTが雇用の代替・創出を通じて雇用の質に影響を与えるメカニズムを検討する。続いて、ウでは、ICT産業の成長に伴う雇用の増加について検討する。

ア ICTによる雇用の代替効果を通じた雇用の質への影響

企業がICTを効果的に利活用すれば、その企業の労働生産性は向上し、同等の労働力でより多くの生産物・付加価値を生み出すことができる。過去の先行研究をみると、ICTが労働生産性を向上させ、経済成長に貢献していることを確認することができる2。これを雇用の観点から言い換えると、ICTは、同等の生産物・付加価値を生み出すために必要とされる労働力を減少させるといえる。すなわち、ICTが雇用を代替している。

たとえば、これまで人が制御して稼働させていた工作機械を廃棄して、コンピューターで制御できる工作機械を導入した場合には、工作機械を作動させていた労働力は今後必要なくなる。あるいは、通信インフラが整備されインターネットが普及したことにより、ネット上で商品の購買が可能となれば、リアルの店舗で販売に従事していた店員は減少するだろう。

企業は、生産活動のために投入する資本と労働が代替的であれば、資本と労働のコストを比較して、より安いコストの投入要素を使用する。そのため、企業がICTをより廉価に利用できるほど、ICTと労働力との代替効果は大きくなる。また、ICTの進展により、代替できる職種が幅広くなるほど、ICTと労働力との代替効果は大きくなる。

ICTによる雇用の代替が進むことは、ICTが人々の雇用機会を奪うという意味でネガティブに論じられることが多い。しかしながら、ICTによる雇用の代替は、企業の労働生産性を向上させ、より少ない生産要素で同等あるいは多くの生産物・付加価値を生み出すことができるという意味でポジティブに捉えることも可能である。少子高齢化により労働力人口の急激な減少が見込まれる我が国の場合、特にそうした側面が強いといえるだろう。

雇用の質の観点からは、ICTによって代替される業務は、定型的業務が多いと考えられ、一般論としては、比較的低スキル・低賃金の業務が代替される傾向にある。一方で、ICTによって代替され難い業務は、非定型的業務であり、一般論としては、高度な専門知識を必要とする業務や人とのコミュニケーションが重要な業務など、比較的高スキル・高賃金の業務が多いと考えられる3。ICTの進展により、比較的低スキル・低賃金の業務が代替され、比較的高スキル・高賃金の業務が残ることで、全体として雇用の質が高まると考えられる。

イ ICTによる雇用の創出効果を通じた雇用の質への影響

一方で、ICTは雇用を創出する効果も持つ。企業がICTを利活用することで付加価値を増加させ成長すれば、その企業は雇用を増加させる。

たとえば、eコマースを活用することで、企業は大規模な流通チャネルを持たなくても全国に向けた商品販売ができるようになっている。eコマースを上手く活用した企業は売上・利益を増加させ、企業規模の拡大に伴い雇用を増加させるだろう。

加えて、ICTの進展により企業に新規事業が生み出されることで、そこに雇用が創出される。ICTが進展する速度は速く、ブロードバンドサービスやクラウドサービス、スマートフォン等の新たな技術・サービスが登場している。これらの技術・サービスを活用して、たとえば、スマートフォンのアプリケーションを使って新たなビジネスを展開するといったように企業が新たな事業を開始すれば、そこに新たな雇用が創出される。

雇用の質の観点からは、企業が成長することで生み出される雇用は比較的安定的と考えられるし、新規事業の創出に伴う雇用はやりがいのある仕事が多いと考えられる。企業の成長や新規事業の創出等ICTが企業を活性化させることで、質の高い雇用を生み出すことが期待できる。

ウ ICTを供給する産業の拡大に伴う雇用の創出

上記のア、イでは、ICTを利用する企業の雇用代替・創出効果について述べたが、そのほかに、ICTの普及に伴いICTを供給する側の産業が拡大することで雇用が創出される経路がある。企業は、コスト削減や付加価値向上に効果のあるICT関連の財・サービスの利用を増加させる。また消費者は、自らの効用を高めるために、スマートフォンやデジタルコンテンツ等のICT関連の財・サービスの利用を増加させる。これらICT関連の財やサービスの需要の高まりに応じて、ICT産業は、ICT関連の財・サービスの供給量を増加させるだろう。これらは、ICT産業の成長をもたらし、ICT産業における雇用を増加させる。



2 日本におけるICTと労働生産性との関係を分析した代表的な研究に、篠ア彰彦(2003)「情報技術革新の経済効果―日米経済の明暗と逆転」(日本評論社)がある。また、平成24年版情報通信白書においては、1987年から2010年にかけて一貫して資本設備の情報化が日本の労働生産性変化率にプラスに寄与していることが示されている。

3 ただし、ICTによって代替され難い業務には、身体的な作業を伴う業務も含まれ、このような業務は低賃金の場合もある。

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