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第2部 ICTが拓く未来社会
第3節 ICTによる新たなワークスタイル―テレワークの可能性

(2)田中留依さん

ア 「オンラインアシスタント」という新しい職業

秋田県の北東部に位置する鹿角市に両親とともに暮らす田中留依さんは、株式会社キャスターが提供するオンラインアシスタントサービス「CasterBiz(キャスタービズ)」のスタッフとして在宅で働いている(図表4-3-5-4)。

図表4-3-5-4 自宅でパソコンに向かう田中さん

「オンラインアシスタント」とは、法人や個人の顧客に対し、秘書業務やデータ入力などの様々なサービスを、顧客の元に出向くのではなく、インターネットを使って遠隔地から提供する職業のことだ。欧米では1990年代には「バーチャルアシスタント」と呼ばれる同様のサービスが生まれているが、日本ではまだ新しい職業だと言えるだろう。「CasterBiz」も、2014年11月にテストサービスを開始し、正式にスタートしたのは同年12月であるが、既に多くの引き合いがあるという。

イ 在宅勤務でも、チームで仕事

「CasterBiz」のオンラインアシスタントサービスの提供時間は、平日の朝9時から18時まで。その時間が過ぎると、報告や残務整理を行い、だいたい18時半には業務終了、というのがオンラインアシスタントとしての田中さんの毎日だ。

顧客から依頼される業務は多岐にわたる。社員の勤怠表や業務管理表を集約して入力する、見込み客に送ったメールに対する返信の内容をチェックしてサマリーを報告するといった、毎日発生するルーチン業務もあれば、「◯◯について調べて欲しい」とか、「会食のための店を予約して欲しい」、「出張のためのチケットを予約して欲しい」といった非定型的な依頼への対応もある。

働く場所はそれぞれの自宅だが、アシスタント達はチームで仕事を進めている。田中さんは顧客のフロント対応という役割で、2名のサブアシスタントと一緒に十数社の顧客を受け持つ。契約時に業務内容のヒアリングをして業務マニュアルを作るところから始まり、日々の顧客からの依頼内容を的確にサブアシスタントに振り分け、進捗を確認し、それぞれの仕事が終われば顧客に報告するのが彼女の役割だ。

また、チームを超えたノウハウの共有も行われており、依頼された仕事の内容によって、他のチームにそれが得意な人がいれば相談したり、手伝ってもらったりすることもあるという。

このようなバックアップ体制や、学び合いとサポートの体制があるのは、アシスタントだけでなく、顧客にとっても、安定的にサービスを受けられ、一人の人ではまかないきれない多様なスキルを活用できるという点で、メリットと言えるだろう。

ウ 厳しい就職活動のさなかに見つけたオンラインワークの可能性

在宅で仕事をするようになる前は、隣の鹿角郡小坂町にある銘柄豚の生産農場で5年ほど働いていた田中さん。社内の「何でも屋」として様々な業務を経験した。中でもオンラインショップの店長を経験したことは、インターネットの多様なツールを使いこなせるようになるなど、今の仕事に活きているという。

事情があってその会社を辞めた後、最初は一般的な会社に再就職するつもりで就職活動をしたが、地元の安定した職業は、公務員や教職、医療従事者くらいで非常に厳しい状況だった。

クラウドソーシングという仕組みを利用して在宅で働くことができると知ったのは、その頃だった。就職活動の時間を確保するため、アルバイトを始める気にはならなかったが、これなら時間の融通もきくということで、「シュフティ」というサイトでオンラインショップの商品登録や、データ入力などの仕事を始めたのだ。慣れてくると4、5社の仕事をかけもちし、それなりに収入を得られることも分かった。

その後、福岡の市内の会社のオンラインアシスタントの職を見つけ、半年ほどお世話になった。会社側は、産休に入った社員の代替要員を地元で雇用するのが難しかったためにオンラインアシスタントとの契約に踏み切ったそうだが、コミュニケーションを密に取り、秋田と福岡という距離を感じずに仕事をすることができたという。

この経験を通じ、地方にいながら都市部の仕事ができるという点に魅力を感じた田中さんは、地元企業への就職活動をストップし、オンラインで仕事をしていこうと決めた。そして「CasterBiz」の立ち上げ期から参加。今では同社のオンラインアシスタントの中核的存在になっている(図表4-3-5-5)。

図表4-3-5-5 「CasterBiz」のトップページ
エ 地方における在宅オンラインワークの魅力

地方在住者にとって、オンラインアシスタントという仕事は、いくつもの利点がある。

ひとつは、在宅でできること。田中さんの暮らす鹿角市は過疎が進み、安定した職業が都市部と比べて少ない。同級生で働いている人はほとんど県外に出て行ったが、田中さんは「都会で暮らすのが向かない」と思い、通勤には車で一時間弱もかかる近隣市町村の会社に就職したのだった。豪雪地帯なので、冬の通勤はさらに大変だ。場所を選ばず、通勤も必要ないオンラインの仕事があれば、地方に残りたい人にとってはぐっと選択肢が広がるのだ。

また、田中さんにとっては仕事の内容も魅力的だという。顧客は都市部の企業であることが多いので、地方の企業ではなかなか経験できないような仕事に関わり、経験の幅と視野を広げることができる。

田中さんによれば、オンラインアシスタントというサービスはスタートしたばかりなので、まだまだ学ぶべきことが多い段階だ。いろいろな業務の経験を積むことで、今はまだオンラインで仕事を頼もうとは考えていない企業に対しても、便利に使ってもらえるような提案ができるようになりたいという。

また、働き方としても、在宅のオンラインワークというスタイルがまだ認知されていないと感じている。以前は働いていたけれど今は専業主婦をしている女性など、オンラインの仕事でその経験を活かせる人はたくさんいるはずだ。ぜひたくさんの人に飛び込んできて欲しい。この働き方がもっと普及する世の中になってほしい、と田中さんは考えている。

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