総務省トップ > 政策 > 白書 > 27年版 > (1) ユビキタスからIoTへ
第2部 ICTが拓く未来社会
第4節 ICT化の進展がもたらす経済構造の変化

(1)ユビキタスからIoTへ

「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」ネットワークにつながる「ユビキタスネットワーク社会」は2000年代前半から構想されてきたが1、後述するような要素技術の進展等を背景として、近年、急速に現実化が進んでいる。パソコンやスマートフォン、タブレットといった従来型のICT端末だけでなく、様々な「モノ」がセンサーと無線通信を介してインターネットの一部を構成するという意味で、現在進みつつあるユビキタスネットワークの構築は「モノのインターネット」(IoT: Internet of Things)というキーワードで表現されるようになっている。

IoTのコンセプトは、自動車、家電、ロボット、施設などあらゆるモノがインターネットにつながり、情報のやり取りをすることで、モノのデータ化やそれに基づく自動化等が進展し、新たな付加価値を生み出すというものである。これにより、製品の販売に留まらず、製品を使ってサービスを提供するいわゆるモノのサービス化の進展にも寄与するものである。

IoT時代の到来を表す一義的な指標としては、こうしたインターネットにつながるモノの数の爆発的な増加が挙げられる。IHS社の推定によれば、2013年時点でインターネットにつながるモノ(IoTデバイス)の数は約158億個であり、2020年までに約530億個まで増大するとされている(図表5-4-1-1)。成長率の観点からは、自動車や産業の分野でのIoTが注目される(図表5-4-1-2)。一方で、Cisco社によれば現在、現実世界に存在する1.5兆個のモノのうち、99.4%はインターネットに接続されていないと言及している2。これらが今後接続されることを想定すると、IoTのコンセプトが持つ潜在的な価値の大きさがうかがえる。

図表5-4-1-1 インターネットにつながるモノ(IoTデバイス)の数
(出典)IHS Technology
図表5-4-1-2 分野・用途別のIoTデバイス数及び成長性
(出典)IHS Technology

IoTで想定している接続されるモノは、接続機器の従来の代表格であるパソコンやスマートフォンだけではなく、車や家電、産業用設備など、従来通信機能を備えていなかった機器が挙げられる。米国調査会社Gartnerでは、ネットワーク接続機器を「一般消費者向け製品」「産業分野」「自動車分野」の3つの分野に分類し、2020年までにそれぞれ6〜20倍程度増大すると予想している(図表5-4-1-3)。このように、あらゆる産業や社会経済の分野においてネットワーク接続機器が浸透していくことで、インターネットにつながるモノの数が飛躍的に拡大することが期待されている。

図表5-4-1-3 ネットワーク接続機器数の分野別予測
(出典)Gartner「Gartner Says 4.9 Billion Connected "Things" Will Be in Use in 2015」3より作成

IoTで実現する機器と機器の通信は、M2M(Machine to Machine)と称して2000年頃よりテレメトリング(通信技術を用いた計量器などの読み取り)やセンサーネットワークなど一部アプリケーションにおいて注目されてきたが、爆発的な普及には至らなかった。何故、今、IoT/M2Mが再び注目されているのか。その理由としては、社会的な要請等のニーズの側面と、デバイスの低廉化等のシーズの側面が挙げられる。ニーズの観点では、例えば我が国の場合、自然災害対策、インフラの老朽化に伴う安全・安心の確保、生産性向上といった社会的課題に対して、ICT(とりわけIoTのコンセプト)による解決への期待が高まっているという点が挙げられる。他方、シーズの側面では、各種センサーや通信モジュール等のデバイスの低廉化と高機能化(処理能力等)の進展、ワイヤレス技術の高度化と利用環境の進化、プラットフォーム型やクラウド型サービスの普及による導入コストの低減、アプリケーションの多様化等のいくつかの要因が考えられる。このように、社会的なニーズの顕在化に加え、技術とビジネスの両面の進化が、IoTの姿を具現化し、普及を後押ししていくものと期待される。

なぜ今IoTが注目されているのか(シーズの観点)

IoTを導入し、実装するためには、一定のコストがかかる。具体的には、通信機器やセンサー等のハードウェアに係るコスト、通信回線の利用コスト、センサー等から収集されたデータの蓄積と分析にかかるコスト、システムやアプリケーションの開発コスト、システムの運用・保守のコストなどが挙げられる。従来は、これら初期導入や運用にかかるコストが大きく、一部の機器だけがインターネットにつながる状態であった。

今、IoTが注目されている大きな背景は、こうしたコストの低減化につながる技術革新が進展しているからである。たとえば、データを収集するための通信機器やセンサーはコモディティ化が進んでおり、十分な機能を持つ小さなデバイスを安価に実現できるようになってきている(図表5-4-1-4)。また、これらのデバイスとネットワークを接続するためのインタフェース等の通信規格の標準化や、センサーネットワークに適した接続の安定化や低消費電力化等の技術改善も、調達や運用コストの低減につながる重要な要素である。たとえば、エネルギー分野における規格としては、2012年にはスマートメーター実現のため策定されたWi-SUN4等が挙げられる。IoTの導入が想定されている産業や分野で、こうした新しい規格の採用も進んでおり、急速に利用が普及することが想定される。

図表5-4-1-4 センサー単価の推移
(出典)Business Intelligence「THE INTERNET OF EVERYTHING: 2015」(2014年12月)

さらに、高度に発達したワイヤレスネットワークやクラウド型サービスの普及もコスト低減やIoTのコンセプトの実現を加速させている。センサー等から分散したデータを収集し、分析・アクションまでの機能、すなわちビッグデータ解析につなげるための統合・管理においてクラウド等のプラットフォームが重要な役割を果たすためである。また、IPv4からIPv6への移行によるアドレス空間やインターネット資源の拡張もIoTを実現する重要な基盤となると考えられている。

こうした利用環境面に加えて、IoT市場そのもののエコシステムの形成やそれに伴う事業者参入も、供給側・需要側双方のコスト低減につながる。2014年に米Googleがインターネットに接続できるサーモスタット(室温調節器)や煙感知器を開発するベンチャー企業Nestを32億ドル買収したことで、IoTの注目度を高めた。Nest社は、自社のスマートハウス製品とサードパーティ製サービスを連携できる開発者向けプログラム「Nest Developer Program」をリリースしている。これにより、開発をスピードアップさせるとともに、より多様なアプリケーション・サービスの提供を促進することができる。既に、スマホ・PC・タブレット向けを中心としたインターネットのアプリケーションは多量に存在するが、たとえば風速、湿度、温度、照度などの多種多様なセンサーや機能を加えることでアプリケーション・サービスの幅が一気に広がると予想される。このように、IoTの実現を通じて、モノが収集、蓄積した膨大なデータを活用することによる新たなビジネスの広がりをもたらし、投資対象としてますます注目を浴びることになるであろう。さらに、製品サービスの開発を小規模な組織でも行えるようになったいわゆる「メイカームーブメント」もこうした流れの追い風になっているといえる。



2 Cisco, “Embracing the Internet of Everything To Capture Your Share of $14.4 Trillion”, 2013年2月

3 Gartnerプレスリリース, “Gartner Says 4.9 Billion Connected "Things" Will Be in Use in 2015”, 2014年11月(http://www.gartner.com/newsroom/id/2905717別ウィンドウで開きます

4 Wireless Smart Utility Network の略で、次世代電力量計「スマートメーター」向けの無線通信規格の一つ。



1 我が国では、総務省が2004年5月に公表した「u-Japan政策」を契機として、この言葉が広まった。

テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る