第2部 ICTが拓く未来社会
第2節 ICT産業のグローバルトレンド

9 まとめ

本節では、ICT産業を構成する各レイヤーについて、グローバル市場の動向及び我が国ICT企業の展開状況や可能性を俯瞰した。通信レイヤー及び下位レイヤーにおいては、特に注目されるのが、巨大な市場規模を有する中国等アジア太平洋地域成長力と、中国ICT企業の台頭である。ICTサービスレイヤー及び上位レイヤーも市場の成長が今後も期待されるが、シェアの上位やM&A活動等の中心は依然として米国ICT企業が占めている。このように、我が国ICT企業は、海外のグローバルプレイヤーに水をあけられているのが現状であるが、固定系通信機器(WDMなど)やスマートフォン向け部品・部材供給等にみられるように、一部地域あるいはサービス・製品市場においては強い競争力や成長力を有している。我が国ICT産業としては、こうした強みを活かしながら育てていくとともに、ICTを組み込んだインフラ輸出に向けた官民連携など、更なるグローバル展開を進めていくことが期待される。

株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構

我が国の経済成長のためには、ASEANなど海外で拡大する通信・放送・郵便サービスの需要を他国に先駆けて積極的に取り込んでいくことが必要である。そのためには、相手国内のインフラ整備に加え、その運営及び維持管理を併せて行うことにより、ICTサービスや放送コンテンツの提供等を「パッケージ」で海外展開することが有効である。また、これまで総務省が政府と一体となって取り組んできた地上デジタルテレビ放送(地デジ)日本方式の海外展開で培った人脈等を、我が国のICT分野全体の市場拡大につなげることが可能となっており、これらの人脈等を活かした積極的な海外展開が期待されている。

一方で、海外における通信・放送・郵便事業は規制分野であるが故の政治リスクやそれに伴う需要リスクの影響が大きく、民間事業者だけでは参入が進みづらい状況にあることから、その事業に関わる事業者に対し、長期リスクマネーの供給による支援が有効であると考えられる。

こうした背景を踏まえ、海外において電気通信事業、放送事業もしくは郵便事業またはこれらの関連事業を行う者に対して資金の供給、専門家の派遣その他の支援を行うため、平成27年度予算として産業投資200億円、政府保証70億円を計上し、その活動主体となる「株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構」の設立、業務の範囲等について定める「株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構法案」を平成27年3月に第189回国会に提出、5月に成立した(図表)。

図表 株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構の概要

地デジを核としたICTインフラシステムの海外展開

総務省では、我が国政府全体のインフラシステムの海外展開の取組にあわせて、ICT分野の国際展開を重要施策と位置づけ、官民一体でトップセールス等の取組を積極的に実施している。

政府のインフラシステム輸出戦略において、総務省は、政府間対話等を通じた案件形成段階からの関与により、地デジ日本方式や防災ICT等の先進的なICTシステム、日本の優れた郵便システム等を相手国の社会インフラシステムに積極的に組み込むとしている。

地デジ日本方式の海外展開では、採用国の増加に伴い、日本企業による海外でのデジタル放送送信機の受注が増加するなど、一定の成果が現れつつある。

2016年に地デジ日本方式が海外で採用されて10周年を迎えるという機を捉え、地デジを核として光ファイバ等日本で培われたICT技術・サービスの国際的な普及に向けた啓発・協力等の活動を民間企業等と連携して重点的に実施する。

加えて、我が国のICT技術・サービスの強みを国際市場において十分に発揮するには、インターネット上の情報の自由な流通の確保が大前提となり、総務省では、欧米先進国と連携し、引き続きこれを確保するべく取り組んでいく(図表)。

図表 地デジを核としてICT分野全体へ
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