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第2部 ICT が拓く未来社会
第3節 地域の課題とICT

(1)情報連携による効率的・効果的な地域医療の提供

ア 北海道道南地域「道南MedIka」

我が国は2025年には団塊の世代が全て75歳以上となり、更なる高齢社会を迎える。2025年に向けて社会保障制度の持続可能性確保が一層重要な課題となっており、そのため、ICT利活用による医療等の効率化への期待が高まっている。ICTを活用して迅速かつ適切な患者・利用者情報の共有を行い、地域の医療機関や介護施設の連携による患者の状態にあった質の高い医療や介護を実現することが重要と考えられている。

その先駆的事例の一つである「道南MedIka」は、函館市を中心とする北海道南部(道南地域)等で地域医療連携システムを運用している。特定非営利活動法人道南地域医療連携協議会に加入した医療、介護、福祉施設等では、医療連携システムMedIkaを用いて、検査、処方、画像等の診療情報を共有し、これまでの診療情報提供書では伝えきれなかった情報の共有が可能となっている。

MedIkaは、主に情報提供及び閲覧を行う施設と、情報閲覧のみを行う施設の2種類の施設がある。情報提供を行う施設は、急性期病院、回復期病院、在宅医療関係施設等の10機関で、公開する情報の範囲は各施設の判断に任せており、画像、処方、注射、検査結果、読影レポート、診療記事等を提供している。MedIkaを導入している全施設数は2008年には39施設であったが、2015年には79施設へと増加している(図表3-3-2-1)。道南地域の医療関連機関の約半数に当たる150機関との利用を目指している。

図表3-3-2-1 道南MedIka概要図
(出典)株式会社エスイーシー提供資料より作成

情報提供機関のひとつである市立函館病院では2006年頃、22億円程度の負債を抱えていた。これは患者が回復期になっても転院先を探せず、患者一人当たりの平均入院日数が30日と長期化していることが原因の一つであった。MedIka導入以前は、転院先を探すために病院間で書面でのやり取りをしていたため、書類不備等が発生するたびに手戻りの時間を要していたが、MedIkaを利用するとほぼリアルタイムに電子データで共有され、情報共有と受け入れ可否の判断が迅速に進むようになった。函館病院では、MedIka導入後に転院先探しの時間が短縮され、入院患者の転院に要する日数は平均12日まで削減され、平均入院日数も14日と短縮された。このような影響もあり2010年以降、病院経営は黒字に転じ、地域医療の継続的提供が可能となった。函館病院では、月間1,000名が退院し、うち100名が他の医療機関に転院するが、約8割がMedIkaを利用し転院している。

MedIkaの利用実績は、運用を開始した2007年には年間の患者登録者数801名、利用者数241名だったが、2013年度には、患者登録者数3,803名、利用者数3,162名へと増加している。

MedIkaでは患者動向に合わせて広域連携を進めており、札幌や大間(青森県)といった道南地域外の病院とも連携が進んでいる。同協議会では、このシステムを活用することで、離島での遠隔医療や専門家が出向いて判断する必要があった脳死の移植手術等の分野における、遠方の病院間の連携が進む可能性もあると見ている。

イ エストニア共和国「e-Health」

国を挙げて医療情報の電子化に取り組み、効率的・効果的な医療の提供に成功している例として、エストニア共和国の取組がある。エストニア政府は、医療情報サービス「e-Health」を2008年に導入した。これにより、国内全ての病院での診断・検診結果が電子的に記録されるようになり、患者は自身の診断・検診結果をインターネット上のポータルサイト(Patient Portal)で閲覧できるようになった。「e-Health」の導入により、医師は、自分が担当する患者の既往歴や過去の診断・検診結果、アレルギー、薬の服用履歴などの多種多様な医療情報を集約したデジタルファイルにアクセスできるようになり、迅速かつ適切な処置が可能になった。

2010年には処方箋が電子化された。医師が出した処方箋がオンラインで薬局の情報システムに伝達される結果、患者はIDカードを提示するだけで薬局から薬を受け取ることができるようになった。処方箋の電子化によって、医師と薬剤師は処方箋の発行や受取に要する時間やコストを節約でき、患者が処方箋どおりに薬を購入したかどうかが薬局から医師にフィードバックされるようになった。

なお、セキュリティ確保やプライバシー管理のため、これらのデータに患者本人以外がアクセスする際には細かいレベルで制限がかかっており、そのアクセス状況も管理されている(図表3-3-2-2)。

図表3-3-2-2 エストニアのeHealthの全体イメージ
(出典)欧州委員会サービスイノベーションセンター(ESIC)政策ワークショップ
「Towards the implementation of the Luxembourg Large-Scale Demonstrator Strategy」
(2014年2月14日)エストニアeヘルス財団提出資料l「Estonian Health Information System」より作成

ICT活用を国策とするエストニアでは、「効率」と「透明性」をキーワードに様々な電子政府サービス「e-Estonia」を国民に対して提供している。「e-Estonia」の基軸になっているのが、行政サービスに関連する情報をインターネット上で交換するための情報交換基盤「X-Road」である(図表3-3-2-3)。また、エストニアでは15歳以上の国民に電子IDカード(Electronic ID Card)が配布され、これが「X-Road」と連携することで、「e-Health」を含め、納税、警察、教育、選挙、会社の登記、駐車場料金の支払いなどの行政サービスを、IDカードを用いてペーパーレスで利用することができる。

図表3-3-2-3 エストニアの電子政府アーキテクチャ
(出典)エストニア国家情報システム庁ホームページより作成

2007年には、携帯端末を利用したモバイルID(Mobile-ID)が導入され、国民の利便性がより一層向上した。2014年12月には、外国人向けのID制度(e-Residency)も開始され、エストニア国民に発行していた電子IDカードを、居住権を持たない非在留外国人にも発行できるようになり、エストニア国外に居住する外国人がエストニアで会社の登記を行うこと等が可能になった。これは、エストニアでの外国人による起業の促進などを目的としたもので、開始から5か月で、73か国から1,500人以上がIDを取得している9



9 過半数はエストニアの隣国であり、多いのが、フィンランド(34%)、ロシア(15%)、ウクライナ(6%)、ラトビア(6%)である。この他、米国、英国、ドイツ、イタリア、リトアニアからも取得者があった。エストニア公共放送ホームページ「Estonia launches e-Residency application portal」 http://news.err.ee/v/economy/14053ac8-069a-4567-b3e3-61995434aefb別ウィンドウで開きます

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