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第2部 ICTが拓く未来社会
第4節 ICT化の進展がもたらす経済構造の変化

(2)デジタルファブリケーション・3Dプリンター

近年『メイカームーブメント』と呼ばれる社会現象が世界的に注目を浴びている。個人が3Dプリンターに代表されるデジタル工作(デジタルファブリケーション)機械を使って、自分がほしいものを自分自身でつくったり、自分のアイディアを形にしたりすることである。これらの人々は『メイカー』と呼ばれ、21世紀のものづくりを変える存在として注目されている。ここでは、デジタルファブリケーションやそのツールである3Dプリンターがもたらすインパクトについて概観する。

ア デジタルファブリケーションのメリット

デジタルファブリケーションにおいては複数のツール(デジタルファブリケータ)が存在する(図表5-4-2-3)。その中でも近年注目を浴びているのが3Dプリンターである。3Dプリンターとは「積層造形技術」または「付加製造技術」を使ったデジタル工作機械の総称である。当該技術は、これまで主流だった四角い材料を回転する刃物で削り出す「切削加工」(減産法)に比べて、加工・造形の自由度が高いだけでなく、短時間かつ低コストで造形できるものである。McKinsey社が2013年に発表したレポートによると、2025年における3Dプリンターの市場規模は、最大60兆円、最低限でも20兆円と試算している9

図表5-4-2-3 デジタルファブリケータの種類
(出典)総務省情報通政策研究所「「ファブ社会」の展望に関する検討会報告書」(平成26年)

こうした技術が実現するデジタルファブリケーションのメリットは、第一に「これまでの製造技術で実現できないものをつくれる」点が挙げられる。たとえば、人工骨や人工皮膚、人工臓器の作製が挙げられる。また、超巨大3Dプリンターで実物大の住宅をつくる計画なども進められているように、より規模の大きなモノづくりにも適用可能である。第二のメリットとして、3Dプリンターの縮小化・高性能化・低価格化が進展することで、「オンデマンド」かつ、時や場所を選ばず「オンサイト」でモノづくりが可能になる。オンサイトのモノづくりが普及することで、様々な改良やイノベーションが生まれると考えられる。このような製造環境や情報が、国境をこえて浸透すれば、だれでも、どこでも、高品質かつ低価格な製品を入手することができる。すなわち、こうした新たなモノづくりの潮流は、新興国や開発途上国など、生産基盤が未発達なところでも先進国同様のモノづくりを実現することを示唆している。第三のメリットとして、試作にかかる時間とコストが大幅に効率化される点が挙げられる。たとえば、新しい製品を開発する際や資金調達時の説明の際に、これまでイラスト、設計図面、CG画像などの2次元画像に頼っていたところ、今後は3Dプリンターを活用することで、デザインや機能など3次元の創造性や独自性を表現するために、より精巧で完成度の高い試作品を提示し、出資者自身に印刷してもらうことも可能になる。

<デジタルファブリケーション事例:Quirky>

Quirkyは、登録会員からなるコミュニティによってアイディアを製品化するクラウドソーシングとマーケットプレイスが一体となったサービスである。Quirkyのサービスでは、発明家によって申請されたアイディアをQuirkyが製品化の判断、デザイン、価格設定を行い、最終的に製造して販売までに至ると、その売上の一部が発案者と支援者に支払われる仕組みとなっている(図表5-4-2-4)。Quirkyでは、クラウドソーシングを活用している他、3Dプリンターなどのデジタルファブリケーションツールを積極的に利用することで、プロトタイプ(試作品)の作成と支援者によるフィードバックを繰り返しながら、短期間で製品化を成し遂げている点が特徴的である。これまでの製品事例として、キッチン用品、携帯アクセサリ、簡易的な電子機器等などを手掛けている。

図表5-4-2-4 Quirkyの仕組み
(出典)総務省「グローバルICT産業の構造変化及び将来展望等に関する調査研究」(平成27年)
イ 起業へもたらすインパクト

上述したデジタルファブリケーションのメリットにより、『メイカー』は自由にカスタマイズした製品をつくることができる。供給側の視点に立てば、大量生産の採算性を損なうことなく、ある程度のカスタムメードした製品を提供するいわゆる『マス・カスタマイゼーション』を実現し、さらには大企業では実質的には実現が難しい『パーソナライゼーション』(特定個人に向けた製品を提供すること)が容易になる。究極的には、その人固有の趣味や嗜好、体型や体質などを十分考慮した製品を作ることができる。

従来の大量生産システムでは、一定量以下の少量生産では、仮に製品が完売しても、生産にかかる固定費用が高いことから、採算性を高めることができず、少量生産は困難であった。しかしながら、製造コストが一定であれば、少量生産やパーソナライゼーションが実現する。これまで小売業において注目されてきたロングテールビジネス(多様で小規模な需要をネットワークを活用して集積する)があらゆる分野やバリューチェーンにおいて期待される(図表5-4-2-5)。

図表5-4-2-5 従来の生産方式との違い
(出典)総務省「グローバルICT産業の構造変化及び将来展望等に関する調査研究」(平成27年)

近年、『メイカームーブメント』と相まって、いわゆる『ハードウェア起業』が増えており、新しい領域に挑戦する起業家やスタートアップ起業にとって、3Dプリンターは不可欠なツールになると考えられる。デジタルファブリケーションの普及により、生産やコスト競争力といった従来の視点から、独自性や先進性を追求していくことが求められ、よりクリエイティブな人材の質と数が起業にとって重要な経営資源になると考えられる。さらにはそれらの人的リソースがもたらすイノベーションを高めるような企業組織・プロセスの再設計が求められると考えられる。

我が国においては、「モノづくり」に係る強い競争力を活かしながら、こうした新たな手法を積極的に取り入れ、また取り入れやすい環境を導入・支援することが起業やイノベーションを高めることにつながると考えられる。近年ICT産業のみならず多くの産業において注力されている「コトづくり」を推進すべく、IoTや各種ウェブサービス・アプリケーションとの組合せ等により、付加価値の高いプロダクト・サービスの供給を目指していくことが肝要となると考えられる。



9 McKinsey Global Institute, “Disruptive technologies: Advances that will transform life, business,and the global economy”, 2013年5月

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