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第2部 ICT が拓く未来社会
第1節 地域の企業とICT

2 地域企業におけるICT利活用の実態と先進事例

(1)企業タイプ別のICT利活用状況

本章の問題関心である地域経済活性化あるいは「地方創生」との関わりから考えた場合、地域経済を中長期的に支えていくのは、地域の住民を対象としてサービスを提供する企業群(医療・福祉業、小売業、サービス業、運輸業等)や、地域資源を活用して事業を展開する企業群(農林水産業、観光業等)である。こうした企業群(以下、「地域系企業」と呼ぶ)はその性格上、活動の拠点を海外等の他地域に移転することは想定しがたく、今後も中長期的に地域での雇用の担い手となっていくと考えられる。地方からの人口流出を食い止め「地方創生」を実現するためには、東京に集中する企業拠点の地方への分散を促進したり、海外へと移転した生産拠点を地方へと呼び戻したりすることも確かに重要であるが、同時に、こうした地域系企業における「雇用の質」を着実に高めていくことが必要である。そのために、ICTを活用していくことが期待される。

地域系企業とそれ以外の企業との線引きは必ずしも容易でないが、本節では、商圏の地域性と地域資源への依存性の二つの観点から線引きを行った。具体的には、アンケート調査6での14業種分類のうち、商圏7が同一都道府県以内である企業の占める比率が平均を超える10業種(医療・福祉業、不動産業・物品賃貸業、小売業、鉱業、電気・ガス・熱供給・水道業、建設業、金融・保険業、運輸業、サービス業、農林水産業)と、地域資源への依存性が高いと想定される2業種(農林水産業、宿泊業)を地域系企業に分類した(図表3-1-2-1)。以下では、地域系企業とそれ以外の企業(製造業、卸売業、情報通信業)におけるICT利活用の状況を比較してみよう。

図表3-1-2-1 業種別の商圏の状況
(出典)総務省「地方創生と企業におけるICT利活用に関する調査研究」
(平成27年)
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ア 企業タイプ別の経営課題

まず、地域系企業とそれ以外とで企業を取り巻く現状の認識にどのような違いがあるかをみてみた。

地域系企業では、「人手不足」「地域の人口減少」といった、地域の人口減少に関連する事項に対する懸念が地域系企業以外よりも強い。これに対し地域系企業以外では、「価格競争、値下げ要請」「原材料価格の高騰」といった価格やコストに関連する事項に対する懸念が強くなっている(図表3-1-2-2)。

図表3-1-2-2 経営環境への影響が懸念される環境変化(複数回答)
(出典)総務省「地方創生と企業におけるICT利活用に関する調査研究」
(平成27年)
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イ 企業タイプ別のICT端末・サービスの利活用状況

次にパソコン等のICT端末の企業での導入状況をみてみた。パソコンの導入率はいずれも9割を超え、企業タイプによる差はみられなかった。スマートフォン、タブレットの導入率は地域系企業以外の方がやや高く、特にスマートフォンでは地域系企業と地域系企業以外との間に8ポイント弱の差があった(図表3-1-2-3)。

次に、情報発信や取引におけるICT利活用の状況をみてみた。地域系企業以外の方が全般的に取組が進んでいる。地域系企業のホームページの開設率は地域系企業以外よりも低く、その差は8ポイント程度ある。インターネット取引(販売、受注、予約受付)の実施率についても、地域系企業以外の方が高い。ソーシャルメディアの活用状況に企業タイプ別の差はみられなかった(図表3-1-2-4)。

図表3-1-2-3 ICT端末の導入状況
(出典)総務省「地方創生と企業におけるICT利活用に関する調査研究」(平成27年)
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図表3-1-2-4 ホームページ、インターネット取引、ソーシャルメディアの活用状況
(出典)総務省「地方創生と企業におけるICT利活用に関する調査研究」(平成27年)
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続いて、クラウドコンピューティングの活用やデータ分析の実施状況をみてみた。クラウドコンピューティングの活用は地域系企業以外の方が地域系企業よりも進んでおり、実施率に8ポイント程度の差がある。他方、顧客情報や利用履歴の分析については企業タイプによる差はほとんど見られず、いずれも15%弱の企業が行っている。また、自動取得したセンサーデータの分析を実施している企業はいずれの企業タイプでも数%程度にとどまっており、活用は緒に就いたばかりであることがうかがえる(図表3-1-2-5)。

図表3-1-2-5 クラウドコンピューティング、顧客情報や利用履歴の分析、センサーデータの分析の活用状況
(出典)総務省「地方創生と企業におけるICT利活用に関する調査研究」(平成27年)
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ウ 企業タイプ別の情報システム導入状況

次に、企業での情報システムの導入状況を業務領域別にみてみた。地域系企業以外の方が全般的に導入率が高い。特に「生産・製造」、「仕入、発注、調達」、「商品管理、在庫管理」においてその差が大きくなっている(図表3-1-2-6)。

図表3-1-2-6 情報システムの導入状況
(出典)総務省「地方創生と企業におけるICT利活用に関する調査研究」(平成27年)
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エ 企業タイプ別の経営課題解決におけるICT利活用状況

企業がICTによる効果を得るためには、ICTを漫然と導入するのではなく、具体的な経営課題を念頭に置いて目的意識を持ってICTを活用することが重要である。そこで、経営課題の解決におけるICT利活用の状況についてみてみた。経営課題別のICT利活用の傾向はおおむね同じであるが、利活用を行っている比率は全般に地域系企業以外の方が高い。特に、「管理の高度化」、「業務の標準化」、「社内の情報活用や情報共有の活発化」においてその差が大きい(図表3-1-2-7)。

図表3-1-2-7 経営課題解決にICTを利活用している企業の比率
(出典)総務省「地方創生と企業におけるICT利活用に関する調査研究」(平成27年)
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続いて、経営課題の解決のためにICTを利活用した企業のうち、ICTの利活用によって効果を得られた企業の比率をみてみた。地域系企業と地域系企業以外との間に大きな差はない。ICTを利活用した企業だけを取り上げてみれば、地域系企業も地域系企業以外と遜色なく効果を得ていることがわかる(図表3-1-2-8)。

図表3-1-2-8 経営課題解決にICTを利活用した企業のうち、効果が得られた企業の比率
(出典)総務省「地方創生と企業におけるICT利活用に関する調査研究」(平成27年)
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経営におけるICT利活用の必要性の認識を高め、ICT利活用への取組を促すことによって、企業タイプに関係なくICT利活用の効果を享受することができると考えられる。

オ 企業タイプ別のICT利活用総合評価

以上のようなICTの利活用の状況について総合的な評価を行うため、合計32点となるスコア化(ICT導入スコア)を行い、どのような違いがあるかをみてみた(図表3-1-2-9)。

図表3-1-2-9 ICT導入スコア
(出典)総務省「地方創生と企業におけるICT利活用に関する調査研究」
(平成27年)

ICT導入スコアの平均値は、地域系企業が9.3点、地域系企業以外が11.3点であり、約2点の差があった。また、ICT導入スコアの最頻値は、地域系企業が6点、地域系企業以外が9点であり、3点の差があった。

ICT導入スコアの分布形状をみると、地域系企業以外では最頻値を頂点として低いスコアから高いスコアまでおおむね対称に分布しているのに対し、地域系企業は低いスコアの側に偏った分布となっており、ICTへの取組が相対的に遅れている企業が多いことがわかる。一方、地域系企業であっても、高いスコアを示している企業も少なからず存在していることにも注意が必要である(図表3-1-2-10)。

図表3-1-2-10 ICT導入スコア(上:地域系企業(n=1,586)、下:地域系企業以外(n=1,824))
(出典)総務省「地方創生と企業におけるICT利活用に関する調査研究」(平成27年)
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地域系企業の場合、ICTの導入に積極的な企業とそうでない企業との差が激しく、ICTの導入が遅れている企業の比率が高いことから、ベストプラクティスの共有等を通じた底上げの余地が大きいものと考えられる。

カ 企業タイプ別のICT利活用状況と企業業績

ICT利活用の状況と企業の業績(売上高、経常利益)との相関をみるため、ICT導入スコアが業種平均よりも高い企業(ICT利活用上位企業)とそれ以外の企業との業績の違いを比較した。具体的には、直近3年間と今後3年間のそれぞれについて、売上高と経常利益が「増加傾向」と回答した企業の割合から「減少傾向」と回答した企業の割合を引いた増減に関するDI(Diffusion-Index)を作成し、これを基に比較を行った。

売上高のDIをみると、ICT利活用上位企業の方がそれ以外の企業よりも良好なDIを示しており、これは地域系企業であっても地域系企業以外であっても変わらない。

直近3年間のDIと今後3年間のDIとを比較すると、地域系企業以外については目立った差はみられない。これに対し、地域系企業については、今後3年間のDIが直近3年間のDIよりも総じて悪化しており、地域の人口減少等を背景に、今後の売上高について厳しい見方をしていることがわかる。しかし、地域系企業であっても、ICT利活用上位企業の場合、DIの悪化は限定的であり、ICTの積極的な利活用を通じて今後の売上高低下を緩和できると考えていることがうかがえる(図表3-1-2-11)。

図表3-1-2-11 売上高増減に関するDI
(出典)総務省「地方創生と企業におけるICT利活用に関する調査研究」
(平成27年)
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経常利益のDIについてもICT利活用上位企業の方がそれ以外の企業よりも良好なDIを示しており、これは地域系企業であっても地域系企業以外であっても変わらない。

直近3年間のDIと今後3年間のDIとを比較すると、地域系企業以外については、ICT利活用上位企業のDIが改善しており、企業がICTの積極的な活用を通じて経常利益を増やせると考えていることがうかがえる。これに対し、地域系企業については、ICT利活用上位企業のDIが若干改善する一方、ICT利活用上位企業以外の企業のDIが大きく悪化している。地域の人口減少等を背景に、地域系企業の間で経常利益についても悲観的な見方が広がっているが、そうした中にあってもICTの利活用に積極的な企業は比較的明るい展望を持っていることがうかがえる(図表3-1-2-12)。

図表3-1-2-12 経常利益増減に関するDI
(出典)総務省「地方創生と企業におけるICT利活用に関する調査研究」
(平成27年)
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キ 企業タイプ別のICT利活用における課題

最後に、ICTを利活用する上での課題を比較した。地域系企業では「社員のICT活用能力が不足」が高いのに対し、地域系企業以外では「ICT導入の費用対効果の算定が難しい」が高いのが特徴的である。それ以外については大きな傾向の違いはみられなかった。「ICT関連のコスト負担」と「情報セキュリティ等のリスクへの対応」は企業タイプによらず共通の課題となっている(図表3-1-2-13)。

図表3-1-2-13 ICTを利活用する上での課題(複数回答)
(出典)総務省「地方創生と企業におけるICT利活用に関する調査研究」(平成27年)
「図表3-1-2-13 ICTを利活用する上での課題(複数回答)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

地域系企業においても、ICT利活用を経営上の重要な要素として位置づけるとともに、社員のICT活用能力向上を図ることによって、地域系企業以外に劣らずICTの利活用を進めていくことができるものと考えられる。

ク 小括

以上、企業を商圏の地域性と地域資源への依存性の二つの観点から地域系企業とそれ以外とに分類し、それぞれにおけるICT利活用の状況を比較してきた。その結果、いくつかの知見が得られた。

まず、地域系企業は地域系企業以外と比べて、全般的にICT利活用が遅れていることがわかった。特に、スマートフォンの導入やホームページの開設、クラウドソーシングの活用や業務領域別の情報システムの導入等のいくつかの点で、利活用の遅れが目立った。

また、地域系企業の場合、それ以外の企業と比べて、ICT利活用に積極的に取り組む企業とそうでない企業の差が激しく、また、ICTの導入が遅れている企業の占める割合が高いことがわかった。

その一方で、地域系企業でも、地域系企業以外と同様に、ICT利活用が経営課題の解決に寄与していることが確認できた。また、人口減少等を背景に地域系企業の間で将来の業績見通しについて悲観的な見方が広まる中、ICT利活用に積極的な地域系企業は、前向きな業績見通しを持っていることがわかった。さらに、社員のICT活用能力不足の点を除けば、地域系企業だからといって当然にICT利活用が難しいと考える理由もないことが明らかとなった。

以上を総合すれば、地域系企業の場合、ICT利活用に積極的に取り組む企業の経験をベストプラクティスとして広く共有することで、全体のICT利活用水準を底上げする余地が大きいことになる。このような地域系企業のICT利活用水準の底上げは、地域雇用の中長期的な担い手である地域系企業の業績を向上させ、地域における「雇用の質」の改善にもつながるだろう。



6 全国の企業22,000社を対象に郵送により調査を実施(有効回答数3,546)。詳細については巻末付注2を参照。

7 B to B商品・サービスの場合は取引先の大半が所在する場所、B to C商品・サービスの場合は最終消費者の大多数が住んでいる場所を基準とした。

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