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第2部 ICTが拓く未来社会
第4節 オリンピック・パラリンピックとICT

みんなで考える情報通信白書

ICTは私たちの暮らしや仕事をどのように変えたか

読者参加企画「みんなで考える情報通信白書」も今年で4回目。今年は通信自由化30周年ということで、自由化以降激変した情報通信の来し方行く末をテーマにご意見を募集した。例年どおり、Facebook8、Twitter、LINE等の代表的SNSに加え、シニア向けコミュニティサイト「メロウ倶楽部」9でもご意見募集の投げかけを行い、多くの貴重なコメントをいただいた。また、並行して各投げかけテーマに関連した簡易アンケートも行った。このコラムでは、お寄せいただいたコメントやアンケート回答を基に、この30年で情報通信がどう変化し私たちの暮らしや仕事をどう変えたかを利用者の視点で考えてみたい。


1 通信自由化前はどんなだった?

1985年に電話をはじめとする情報通信事業への競争の導入と電電公社の民営化が行われた。そこから情報通信の大激変が始まったわけだが、ではそれ以前はどんな状況だったのだろうか?ICTのシニアユーザーからいただいたコメントをいくつか紹介する。

●昔から電話が欲しかったが、独立して、初めて自分の家兼職場に電話の通じたときは嬉しかった。世界と繋がった実感が持てました。1964年、39才の時です。

●離れている場所同士の唯一のコミュニケーション手段が電話でした。様々な制約の中でかける電話の有り難さは現代の若い人には経験しようのない素晴らしい思い出が詰まっています。

電話は、1960〜1970年代にかけて一般の家庭に普及した。当時、電話がいかにインパクトのある通信メディアだったかがこれらのコメントからうかがえる。「世界とつながった実感」は、もしかすると当時の方が鮮烈だったかも知れない。

一方、当時のオフィスでの通信事情については次のようなコメントをいただいた。

●テレックスルームに送信原稿を持って行くと、オペレーターさんが紙テープにパンチして送信してくれました。返信は、同じように、テレックスルームで受け取ります。うまい具合に、欧米とは時差がありますから、夕方、まとめて送信を依頼し、翌朝に返信をまとめて受け取るという状況でした。

●私の勤務先(米軍)にコンピュータが入ったのは日本の一般の会社よりかなり早かったようです。みんなのデスクに一台ずつコンピュータの端末(ターミナル)が置かれました。配線はすべてコンピュータ室につながっていて、そこでコントロールするシステムです。パソコンは外部との通信などに使われ、内部の通信にはターミナルを使うよう指示されていましたし、上からの指示もターミナルでなされたように記憶しています。

通信自由化前、商社などでは海外とのやりとりにテレックスというメディアが広く利用されていた。同じ頃、米軍のオフィスでは早くもネットワーク化されたコンピュータがコミュニケーションに利用されていたというのが興味深い。もしかすると、これは今日のインターネットに発展する通信ネットワークの初期の姿だったのかも知れない。

もうひとつ、通信自由化前の状況で触れておきたいのは、当時の通信料金についてだ。長距離電話は高額なもの、という感覚を憶えている方も多いだろう。それが業務での国際通信ともなると・・・次のような涙ぐましい努力もあったという。

●海外に支社や出張所などを持つ会社では「どうやって国際電話料金を節約するか」が大きな課題でした。当時、ある会社の方から、海外の支社へ電話する内容を予めテープレコーダーに録音しておき、早回しにして電話をかけているという話を聞きました。早回しにしますと「キャッキャッ」と聞こえてそのままでは内容がわからないのですが、受けた側でもそれをテープレコーダーに録音し、通常の早さに戻して内容を聞いた、と得意そうに言っておられたのを覚えています。当時のハイテクですよね。


2 ニューメディアがやって来た!

1985年、いよいよ通信自由化が実施された。様々な新しいタイプの通信機器やサービスが提供できるようになり、到来したのが「ニューメディアブーム」である。代表的なものにポケットベルやパソコン・ワープロ通信、コードレス電話などがある。簡易アンケートで、過去30年間で特に印象や思い出に残っている情報通信機器を尋ねたところ、当時のニューメディアを挙げる人がかなり多かった(図表1)。

図表1 特に印象や思い出に残っている情報通信機器は?(単一回答)

これらに関連したコメントをいくつか紹介しよう。

●私が印象に残っているのは「キャプテンシステム」です。インターネットを利用するようになった1996年ごろまで利用していました。各地方の情報を得ることができたので、旅行に行くときなどに便利でした。画像で情報を得ることができ、まさにインターネットの先駆けでした。

●NTTのポケベルで、当時の彼女との連絡ツールに使っていました。

●ポケベルですね。学生でもあまり金額的な負担にならずに個人で持ち歩ける初めてのコミュニケーションツールでした。公衆電話に並んだり、数字の暗号の解読をしたり、携帯よりも沢山思い出が詰まっています。

キャプテンシステムとは何か分からない人も多いと思うが、民営化前の電電公社が1984年に開始したオンライン情報サービスで、上記コメントにもあるとおり、後のインターネットを先取りしたような内容の情報サービスだった。また、ページャー(ポケットベルなど)は携帯電話普及前の1990年代前半に、若者を中心に爆発的なブームとなった。連絡相手のポケットベルに公衆電話からメッセージを送るという使い方で学生等に一気に広まり、事業者側の予想を超えた普及を見せた点でも印象的なメディアだった。


3 ICTは仕事をどう変えた?

簡易アンケートでは、「あなたの仕事の仕方や職場の様子を大きく変えた情報通信サービスや関連機器」についても尋ねた。回答は「電子メール」、「インターネット」、「LAN、無線LAN」、「携帯電話サービス」が上位に並び、90年代半ばから普及したインターネットや携帯電話の影響が極めて大きかったことがうかがえる(図表2)。

図表2 仕事の仕方や職場の様子を大きく変えたと思う情報通信機器・サービスは?(複数回答)

では、これらのICTの登場で仕事にはどんな影響があったのだろうか?SNSやアンケートで様々なご意見をいただいたが、代表的なものを紹介しよう。

まず、ICTの普及が仕事を効率化、スムーズ化したというご意見。

●仕事を始めた頃、客先とのやり取りは電話のメモが多くかなり手間がかかったが、FAXの普及で劇的に効率化が図られた。

●文書ファイルをメール添付で送れるようになった時は、仕事の仕方が変わりました。

●ホームページでの情報発信やメールアドレスを持っていることが当然になることによって、情報共有・情報提供がスムーズになり、ちょっとした連絡や調べごとにかかる手間やストレスがなくなりました。

仕事を始めた当初からインターネットやファックスが利用できた人には分かりにくいかも知れないが、ファックスや電子メールが登場したことによって、多くの仕事の効率が劇的に改善したのだ。

一方で、次のようなご意見もいただいた。

●パソコンの通信速度が上がると送受信するデータ量も増えて、送受信にかかる時間が増えることはあっても減ることがなかった印象がある。

●便利であるが、仕事量が劇的に増えるきっかけとなった端末がポケットベルです。

●携帯電話の通話エリア拡大のせいでサボれなくなった。

便利になればなっただけ仕事の要求レベルが上がっていくという、働く側にはあまりありがたくない影響もあったわけだ。便利な情報通信を使う時には、相手への思いやりが大事というご指摘もいただいた。

●20年前にポケットベルを会社から支給された。送られてくる電話番号や決めた暗号から、いろいろと類推していた頃が懐かしい。送る側も相手を思いやりながら入力していたように思う。

なるほど。ポケットベルを「懐かしい」と思う人が多いのは、こんなところにも理由があるのかも知れない。


4 今、大切にしているコミュニケーション手段は?

通信自由化から30年が経過して、現在の私たちには多種多様な情報通信機器とサービスが提供されている。こうした環境で、一番大切にされているコミュニケーション手段は何だろうか?

簡易アンケートでこれについて尋ねたところ、「対面でのコミュニケーション」との回答が全体の半数を占め、ダントツの1位となった(図表3)。

●対面でのコミュニケーションは、文字情報的な会話以外の部分の情報が重要であるため。服装、仕草、ジェスチャー、相手の表情など、交渉を行う際においては些細な情報でも相手の意思を確認するために利用できる。交渉時には、文字情報だけでは信用できない。

●TwitterやFacebookなどのSNSは最近急速に拡大しつつありますが、だからこそ対面でのコミュニケーションが再び重要視されるべきだと思います。対面でのコミュニケーションは顔や仕草から発言内容以上のことが簡単に読み取れます。私の場合、まず会って話をしてからメールやお手紙、SNSなどの他のコミュニケーションツールを使うようにしています。

●相手の反応を見ながらこちらの意思を正確に伝えることができる。相手が納得しない場合でも、その理由を聞き出すなどお互い考えの違いなどを双方で確認しながら意思疎通を図ることができる。

いや、ごもっとも。その通りだとは思いつつも、情報通信白書としてはちょっと複雑・・・

図表3 今、プライベートで最も大事だと思うコミュニケーション手段は?(単一回答)

では、今日のICT環境で、「このICTがあってよかった!」と思うのはどんな時なのだろうか?

●GPS機能付き携帯電話は素晴らしい。緊急通報時の位置情報の通知がGPS機能で楽にでき、とても良い。交通事故など混乱しているときには、土地勘がないことも多く、位置情報の通知が役立つ。

●携帯電話。やはり、どこからでも移動しながらでも連絡出来ること。

●スマートフォンを持つようになって、生活が変わりました。いつでも情報を収集できるだけでなく、情報発信できる。こんな機器はこれまでありませんでした。特に有効だと感じているのは、SNSへの書き込みが写真もつけて、何かを思ったとき・感じたときに、いつでもできることです。これにより、人との交流が深まっています。

●PHS。音質が良いので、脳出血の後遺症で発音が不明瞭な父とも電話出来る。東日本大震災の時にもすぐに繋がった。

●最近は対面コミュニケーションに至るまでがとても時間がかかる(日時、場所のセッティング等)と感じる中、LINEの登場により気軽に相手との連絡が取れるようになったことは、対面コミュニケーションに至るまでの時間を短くしたと思う。

よかった、少しほっとした。ICTの利便性やつながることの安心は享受しつつ、最も基本のコミュニケーションとしてフェイス・トゥ・フェイスを重視する、ということだ。様々なコメントを総合すると、そういうバランスのとれた賢いICT利用者の姿が浮かび上がってくる。


5 30年後までに実現してほしいICTは?

ここまで、通信自由化からの30年を振り返ってのコメントを紹介してきた。今日、私たちが当然のように利用しているICT機器・サービスも、その多くは30年前には存在せず、空想の世界のものだった。それでは今から30年後、2045年のICTはどうなっているだろうか?「みんなで考える情報通信白書」では専門的な将来予測ではなく、30年後に「実現していてほしいICT」についてアンケートと意見募集を行った。本コラムの最後に、その結果を紹介したい。

もし実現したら使いたいICT機器について候補を挙げて尋ねたところ、「生活支援通信ロボット」、「全自動カー」、「人工知能通信端末」がトップ3になった(図表4)。日本人はロボット好きだとよく言われるが、やはりロボットへの期待は大きいようだ。

図表4 30年後までに実現したら使いたいと思う情報通信機器は?(複数回答)

また、実現してほしいICTのイメージを自由に書いてもらったところ、多くの熱いコメントが寄せられた。

●メガネ型端末。スマホは、ながら歩きとか問題になっています。メガネ型になって、自分の視野の中の一部がバーチャルなディスプレイになれば、下を向いて歩くこともないし、結構安全で便利なんじゃないかと思います。

●体内埋め込み型通信機器。理由はスマホを歩きながら見ると言った事が無くなるから。スマホのホーム画面があるのなら視界の邪魔にならないように半透明にしてほしい。カメラの機能が出来るのなら 頭に埋め込む分、人にはカメラで撮影しているという事が分からないので カメラで撮るとき 撮影許可、不許可設定などを作って欲しい。

●自動介護ベッド。介護関連機器は高齢化対策と労働生産性向上(家族を介護する時間の短縮)のために早期に実現してほしい。通信だけではなく、実際介護できる機械の開発も必要なので、5年程度で製品が揃い始め、その後5年程度で成熟していくと思う。

●今後の人口減少などを考えると、生活支援ロボットの役割は大きいと認識しています。

●立体表示タブレット端末。ネットショッピングをしているとどうしても大きさや形の想像がしづらいので、立体的に原寸表示できる機能があると、大変便利だと思います。

●全自動カー。移動時にもプライベート空間を確保できる上、作業時間にも充てられる。

●ネット経由の投票と、それに伴う低価格で確実な本人認証の仕組み。

●個人の遺伝子情報バンクが確立していて、病歴やアレルギー歴・薬歴のデータ蓄積と精子・卵子情報の保存が行われていて、事故や病気になった時の適切な治療が、遺伝子情報による培養で、生体移植や再生医療により負傷箇所の修復が行われるサービスが行われる世界。

●暮らしの中で日常的に、脳波のセンシングと人工知能の組み合わせにより、ハード&ソフトを自由自在かつ最適にコントロールできる。

●宇宙や深海など、人間が行けない空間のリアルな疑似体験サービス。

●疑似タイムマシンサービス。メガネ型の端末をつけて街に出て、ダイヤルを回すと目の前の風景が時間をさかのぼって過去の風景になっていく。すごく久しぶりの街に行っても、これがあれば迷わずに済む。

いかがだろうか。必要性の分析や細かいこだわりも感じられて、なかなか楽しい未来像ではないだろうか。果たして、ここに挙げられたICTは、30年後にどこまで実現しているだろう。その検証は、2045年版情報通信白書への宿題としたい。

最後に、読者参加企画にお寄せいただいたコメントは、本コラム未掲載の内容を含めてまとめサイトにすべて掲載を行っている。ページの都合上掲載出来なかった中にも興味深いコメントを多くいただいており、こちらも合わせて参照いただきたい。

ご意見まとめサイト:http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/minna/別ウィンドウで開きます


8 https://www.facebook.com/MINNAdeICThakusho別ウィンドウで開きます

9 http://www.mellow-club.org/別ウィンドウで開きます

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