総務省トップ > 政策 > 白書 > 27年版 > 構造変化に対応した我が国ICT企業の適応戦略
第1部 ICTの進化を振り返る
第3節 ICT産業の構造変化

(2)構造変化に対応した我が国ICT企業の適応戦略

我が国においては、通信自由化後、1990年代以降のインターネットの急速な普及や、IP化への対応10等を背景に、通信機器の市場は多様な主体へと広がった。製品についても、従前の電話交換機から、ルーター、サーバーなどへ多様化し、各企業ともそれぞれ産業構造の変化に対応して事業展開を進めてきた。

我が国通信機器事業者は、本節第1項でみたように産業構造の垂直分離と水平統合が進展する中で、通信機器のみならず、半導体や端末事業も含む多角化戦略を図ってきている。しかしながら、近年では下位レイヤーにおけるグローバル競争やコモディティ化を背景に、ソリューションやICTサービスに注力するなど、新たな価値創造に向けた取り組みが進められている。ここでは、主要通信機器事業者に着目し、事業のポートフォリオや組織の発展経緯について概観する。

ア NEC

NECは岩垂邦彦と米国ウェスタン・エレクトリックが54%を出資する日本最初の合弁企業で1899年に創業した企業である。1977年に「コンピュータと通信技術の融合」を謳った「C&C」(Computer & Communicationの略)のスローガンを提唱、これを新たな企業理念として、情報・通信系の総合電機メーカーへと変貌を遂げる土台を形成した。同社は、両分野の強みを活かしながら、80年代後半から90年代中頃にかけて世界的に競争優位を有していたが、1990年代後半に国内外のパソコン事業の不振、半導体市場での米国や韓国勢との競争激化といった要因により業績が低迷したことから、2000年以降は、第1項でみたようにインターネットの普及の流れを受け、基本方針として「インターネットへの事業集中(インターネット・フォーカス)」を掲げ、DRAM、半導体、パソコン、携帯電話端末など、同社が従来強みとしてきた事業を分社化しながら、ITソリューション事業およびネットワークソリューション事業に経営資源の集中を進めてきた。2013年には、ICTによる社会インフラの高度化及び社会課題の解決を成長機会ととらえ、新たなビジネスモデルの確立を目指した「社会ソリューション事業」を掲げ、事業セグメントを、国内外の政府・官公庁・公共機関・金融機関向けの「パブリック事業」、製造業や流通・サービス業を中心とする民需向けの「エンタープライズ事業」、通信キャリア向けの「テレコムキャリア事業」、各種製品をベースとしたソリューション・サービスの「システムプラットフォーム事業」へと再編している。このように、NECはネットワークとITを軸とする多角化経営を進めながら、ソリューション・インフラ事業へと軸足をシフトしてきている(図表1-3-3-2)。

図表1-3-3-2 NECの事業別売上高及び全体の営業利益率の推移
(出典)総務省「グローバルICT産業の構造変化及び将来展望等に関する調査研究」(平成27年)
イ 富士通

富士通は、古河電気工業とドイツの電機メーカーSiemensが発電機と電動機を日本で国産化するため合弁会社として設立された富士電機製造株式会社(現・富士電機株式会社)から電話部所管業務を分離して、1935年に設立された企業である(当時は富士通信機製造株式会社)。

同社は、1970年代後半から1990年にかけて、IBM互換汎用コンピューターFACOM Mシリーズが成功し、パーソナルコンピュータ事業への展開や、スーパーコンピュータや高性能サーバーの開発、製品化を手掛けながら成長を図った。インターネットの本格的普及を見据え、1999年には、ブロードバンドインターネットを中核とする新たな事業戦略「Everything on the Internet」を発表し、「サービス(コンサルティング、システムインテグレーション、アウトソーシングサービス、ネットワークサービスなどのソリューションの提供)」「プラットフォーム(移動通信ネットワーク、光ネットワーク、サーバー/クライアント等を中心としたインターネット対応製品の提供)」「テクノロジ(システムLSI、メモリ等の電子デバイスを柱とする最先端技術による高付加価値化)」の3つの事業に経営資源を集中し、総合的なソリューション提供に注力する方向へと舵を切った。2005年にはさらに、提供顧客に応じた製品区分への見直しとして、高性能・高品質のプロダクトとソフトウェア・サービスのトータルソリューションを提供する「テクノロジーソリューション」、個人ニーズに対応した「ユビキタスプロダクト・ソリューション」、LSI事業を主軸とする「デバイスソリューション」へと再編した。近年は、ICTの活用によって実現する豊かな社会を「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」と呼び、このような社会の構築を中期的なビジョンとして、ビッグデータ技術やクラウドコンピューティング技術などの先進技術を基盤として事業展開を行ってきている(図表1-3-3-3)。

図表1-3-3-3 富士通の事業別売上高及び全体の営業利益率の推移
(出典)総務省「グローバルICT産業の構造変化及び将来展望等に関する調査研究」(平成27年)
ウ 日立製作所

日立製作所は、1910年に創業し、産業や社会インフラからコンシューマプロダクトや電子デバイスまで含め幅広い分野へと多角化を図ってきた総合電機メーカーである。

同社は、1980年代以降、半導体・コンピューターをはじめとするエレクトロニクス分野に重点投資を継続し、当該分野の適用範囲を創業以来日立の基盤を支えてきた重電機器や産業機械部門へ広げることで事業構造転換を行ってきた。しかしながら、半導体・コンピューター事業については、技術革新のスピードが速いうえに、本節第1項でみたような製品価格のコモディティ化や急速に進展した国際分業の流れに追いつかず、他日系メーカーと同様に国際競争力を失い、事業再編を迫られた。情報通信システムについては同社の中核事業として拡大しながらも、2000年後半からは、電力・産業システムが全体の売上高を牽引してきた傾向がみられる。また、このように事業分野をシフトしていくため、あるいは海外展開を進める上で、各事業部や工場等の垣根にとらわれない組織改変や、複数の事業分野にまたがった横断的な組織作り等を進めてきている。たとえば、同社は、構造改革の加速と個々の事業の競争力強化を図るため、2009年10月1日にカンパニー制を導入し、各事業の独立採算性を追求している。

こうしたなかで現在及び今後の事業の柱に据えているのは、社会イノベーション事業である。これは、同社グループが有する情報・通信システム、産業・交通・都市開発システム、電力システム、これらの融合分野及び材料・キーデバイスの分野の強みを活かし、同社が有する制御技術やITなどの情報通信システム技術で高度化された社会インフラを提供するものである(図表1-3-3-4)。

図表1-3-3-4 日立製作所の事業別売上高及び全体の営業利益率の推移
(出典)総務省「グローバルICT産業の構造変化及び将来展望等に関する調査研究」(平成27年)


10 我が国では、2002年4月にNTTが加入電話網への投資の原則停止及びIP化推進の計画(2002年度〜2004年度3か年計画)を発表

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