以上を踏まえつつ、更に具体的に2030年に向けたICT進化の方向性を探るため、今回、ICTを専門とする有識者10に対するインタビュー調査を実施した。以下ではその要旨を紹介する(図表6-1-3-1、図表6-1-3-2)。
次に、有識者へのインタビューの結果も踏まえた、2030年までのICTの進化に関する年表を掲載する。なお、この年表は、一般ユーザーから見て特徴的と考えられる各ICT分野の進化を例示として記載したものであり、網羅的なものではない(図表6-1-3-3)。
インテリジェント化が加速するICTの未来像に関する研究会
情報通信ネットワークや人工知能(AI)の進展などICT分野における技術革新が急速に進む中、2045年頃には(一台の)人工知能の能力が全人類の能力を超え、人類が予測できない未来が作られる可能性があるとも考えられている。このような予測も視野に入れつつ、大きく変貌するICTの未来像を展望し、将来に向けて、現在、我々が取り組むべき課題を整理するため、総務省情報通信政策研究所は、平成27年2月から「インテリジェント化が加速するICTの未来像に関する研究会」(座長:村井 純 慶應義塾大学環境情報学部長・教授)を開催した。同研究会では、情報通信、IoT、人工知能、認知心理学、経済学等幅広い分野の産学の関係者が一堂に会し、①今後、ICT技術は社会をどのように変えていくか、人間とコンピュータ・機械の関係はどのように変化していくか、②これら技術の開発・導入に係る諸外国との競争において我が国はどのような課題を有しているか等について、分野の壁を越えて議論し、同年6月に報告書をとりまとめ公表した。
報告書では、情報通信ネットワークや人工知能といったICT分野の急速な進展により、従来、人間だけが行ってきた頭脳労働(認知、判断、創造)について、人間が機械の支援を受けたり、機械がその一部又は全部を代替する結果、人間社会が大きく変化すると予想し、このような未来社会をもたらす技術革新を「ICTインテリジェント化」、それを支える技術やシステムの総体を「インテリジェントICT」と定義して、①人間の生活・仕事・価値観を変えうるインテリジェントICTを「使いこなす」ための取り組みを現在から始める必要があること、②諸外国がインテリジェントICTの開発・展開に係る多様なプロジェクトに着手し先行している中、我が国も、その開発・展開などを促進すべきことを提言することなどをまとめた。
報告書での主な課題と提言
インテリジェントICTを「使いこなす」ための取り組み
○研究開発の基本原則の策定 (人工的な知性の行動を最後は人間が制御可能とすること 等)
○社会実装に向けた倫理、法律上の問題 (人間の生命に関係する領域での判断権限委譲 等)
○プライバシー保護 (パーソナルデータ利用が大幅に進む社会でのプライバシー保護 等)
○共存を前提とした社会設計 (人間の行動や思考形態が大幅に変化する中での教育や労働 等)
○インテリジェントICTの社会に及ぼす影響等の評価(インパクトスタディとリスクスタディの実施)
インテリジェントICTの開発・展開の促進
○企業間連携の促進等によるイノベーションの活性化(企業間が技術を持ち寄るオープンイノベーション、国際アライアンス、大学・ベンチャー発のイノベーション 等)
○イノベーションを活かす制度的対応 (新ビジネス導入に制度変更が必要な場合に早く対応する仕組みの検討 等)
○データへのアクセス確保 (企業間のデータ共有や活用 等)
○優秀な人材の育成と確保 (優秀な人材への国内活躍の場の提供、データサイエンティスト確保 等)
○戦略的研究開発の推進 (産官学を貫き、分野横断的なインテリジェントICT研究開発戦略策定 等)
インテリジェントICTを前提とした社会・経済への移行促進
○様々な産業分野でインテリジェントICTがこれまでにない付加価値を提供するという今後の世界の潮流の実現に、我が国が先取りに努めること
○民主体のインテリジェントICTの導入・活用促進を、早急に国家戦略レベルで推進すること
10 インタビューにご協力いただいた有識者の方々の一覧を、付注8に掲載した。