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第2部 ICTが拓く未来社会
第2節 ICT産業のグローバルトレンド

(1)ICT産業のエコシステムの変化

第1章では、ICT産業の発展について技術・市場のトレンドなどの視点から俯瞰した。ここでは、ICT産業を「エコシステム」の観点からレイヤーに分けて整理する。ICT産業をビジネスエコシステムとして分析したモデルとして、フランズマンが提唱した「新しいICTエコシステム」1が挙げられる。ビジネスエコシステムとは、分業と協業によって共生するビジネスのネットワークを生態系のアナロジーで分析した概念である。フランズマンが提唱したモデルは、ビジネスの取引主体で区分し、レイヤー1「ネットワークエレメント事業者」、レイヤー2「ネットワーク事業者」、レイヤー3「コンテンツ・アプリケーション・プラットフォーム事業者」、そして「最終消費者」の4つの区分で構成されている(図表5-2-1-12

図表5-2-1-1 フランズマンの新しいICTエコシステム
(出典)総務省「グローバルICT産業の構造変化及び将来展望等に関する調査研究」(平成27年)

本節第2項以降にて第1章第3節で定義したレイヤー区分に基づいて「上位レイヤー(コンテンツ・アプリケーションレイヤー+プラットフォームレイヤー)」「ICTサービスレイヤー」「通信レイヤー」「通信機器レイヤー」「端末レイヤー」の5つのレイヤーに分類して整理をするため、フランズマンの提唱したモデルとの対応関係について定義づける。フランズマンのモデルでいうレイヤー1は、通信事業者へ提供する基地局やIPルーター・スイッチ等の通信機器を製造している通信機器ベンダーや、携帯電話、パソコン、テレビ、デジタルカメラ等の情報通信機器を製造している端末メーカーなどのICT製造業が含まれ、「通信機器レイヤー」及び「端末レイヤー」に相当する。続いて、レイヤー2は、移動通信や固定通信等を中心とした通信サービス業を表し、「通信レイヤー」に相当する。最後に、レイヤー3は、コンテンツ・アプリケーション事業者及びプラットフォーム事業者によって行われているスマートフォンアプリ、検索、SNS、広告事業等が含まれ、「上位レイヤー」に相当する。

なお、平成25、26年版情報通信白書より定義してきた「ICTサービスレイヤー」及びIoTのコンセプトについては、これらレイヤー1〜3の事業者が、各レイヤーの要素を組み合わせながらソリューションとして主としてB2Bビジネス(防災、製造、金融、農業、小売等のICT利活用分野への提供を含む)を展開しているモデルと定義することができる。

各レイヤーの特徴として、レイヤー2(通信レイヤー)は自然独占の傾向を有していることから、一般に政府による事前規制の枠組みが存在し、当該規制によって競争等の構造が影響を受ける。他方、レイヤー1(通信機器レイヤー+端末レイヤー)とレイヤー3(上位レイヤー)においては、インターネットの普及によりグローバルな取引がドライバとなっており、レイヤー3では併せてグローバルの標準化の流れも大きく寄与している。

フランズマンが示すICTエコシステムによれば、エコシステムを成立させていた共生の関係がインターネットの普及前後で異なる(図表5-2-1-2)。フランズマンは、インターネット普及前の時代をクローズド・イノベーションと捉え、「レイヤー2」と「レイヤー1」、「レイヤー1」と「消費者」、「レイヤー2」と「消費者」の関係(それぞれ図中の①・④・⑥)が重要であったと言及している。たとえば、ガラパゴスとも称される我が国の高度に発展したフィーチャーフォン用サービス・端末は、①(「レイヤー2」と「レイヤー1」)と⑥(「レイヤー2」と「消費者」)の関係性を重視したエコシステムで成立していたといえる。一方、インターネット普及後はオープン・イノベーションの時代となり、「レイヤー3」と「レイヤー2」、「レイヤー3」と「消費者」、「レイヤー3」と「レイヤー1」の関係(それぞれ図中の②・③・⑤)の重要性が増したと言及している。すなわち、エコシステムやそれを変化させるイノベーションの中核となる事業者が、レイヤー1やレイヤー2から、レイヤー3へシフトしている点を指摘し、これを「新しいICTエコシステム」と称している。たとえば、ウェブサービスで使われる新たな技術・ビジネスモデルの総称として「Web2.0」と表される潮流は、③の「レイヤー3」と「消費者」の関係性に基づくエコシステムがビジネスとして拡大したものといえる。

図表5-2-1-2 ICTエコシステムの関係性の変化
(出典)総務省「グローバルICT産業の構造変化及び将来展望等に関する調査研究」(平成27年)

このように近年のICT産業の構造変化は、その時代のビジネスエコシステムの変化に帰着し、ICT企業のグローバル展開にあたっては、新しいエコシステムをグローバル市場においていかに作り出すかということが重要となる。



1 Martin Fransman, “The New ICT Ecosystem -Implications for Policy and Regulation”,2010年4月

2 フランズマンのモデルでは、資金調達の観点等から、レイヤー1〜3と金融市場との関係性が特徴づけられている。ここでは、レイヤー1〜3と最終消費者の4つの区分の関係性に注目し、金融市場の位置づけについては省略する。

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