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第1部 ICTの進化を振り返る
第3節 ICT産業の構造変化

(1)産業構造の変化

ICT産業は、様々な技術革新やパラダイムシフトを背景に構造が変化してきている。通信自由化以降のICT産業の変遷は、技術革新に着目すると、インターネットが普及した1995年以降、そしてモバイルの本格的普及とクラウドの登場に代表される2005年以降と、おおむね10年ごとにわけて特徴づけることができる(図表1-3-1-1)。ここでは、主に、事業者やビジネスモデルの変化の面から、産業構造の変遷についてみてみる。

図表1-3-1-1 ICT産業の構造変化(レイヤーとプレイヤー)
(出典)総務省「グローバルICT産業の構造変化及び将来展望等に関する調査研究」(平成27年)
ア 1985〜1995年:固定電話中心の垂直統合時代

通信自由化後の約10年間においては、電話サービスが中心に提供される中、企業向けのデータ通信サービスも台頭した。これらは、基本的にはNTTや米AT&Tなどの大手通信事業者によって垂直的に統合されたサービスとして提供され、その通信インフラは通信機器事業者が供給する機器等によって支えられた。通信機器の代表的事業者としてスウェーデンEricssonや、フランスAlcatel(現Alcatel Lucent)などが挙げられる。なお、我が国ではこの時期に、自動車電話サービスや携帯電話サービス等の移動体通信サービスが開始されている。

端末レイヤーにおいては、IBM等米国メーカーを中心にメインフレームコンピューター(汎用機)やミニコンピューターなどの企業向け業務用端末を生産供給する事業者がグローバル規模で展開した。コンピューターに関しては、1980年代以降、その主要部分である電子回路が、シリコン等の半導体素材上の集積回路として実現され、また大量生産が可能となったことから、デスクトップ・コンピューター(パソコン)が作られるようになり、小型化(ダウンサイジング)が進展した。このようなトレンドの中で、NEC・富士通・日立製作所をはじめとする我が国通信機器事業者は、通信機器のみならず、通信・情報端末、部品・部材等も手掛ける総合ベンダーとして事業の多角的展開を進めた。

イ 1995年〜2005年:インターネットがもたらした通信と情報の融合時代

1995年以降においては、インターネットの普及により、通信分野と情報処理(IT)分野の融合が進展した。特に、IP技術の普及により、レイヤーの垂直分離が顕在化し、各レイヤーにおいて多くの専業事業者が台頭した。上位レイヤーにおいては、多様なコンテンツ・アプリ事業者、またGoogleやAmazonに代表されるプラットフォーム・ネット系事業者が登場した時期である。これらの事業者の登場によって、従来通信事業者が垂直的に担ってきた機能やサービスが、インターネットを介してユーザーへ提供されるようになった。固定通信(PC)系向けを中心としたこのような垂直分離・水平統合型のサービス提供モデルと、携帯電話サービス上に統合されたインターネットサービス(我が国ではNTTドコモのi-modeが代表例)に代表される垂直統合型モデルが併存するようになった。

B2Bの領域では、ソフトウェアベンダー、システムベンダー、SIer(システムインテグレータ)など、多くの事業者がそれぞれ自らの競争優位を活かしながら参入した。具体的には、IBMやMicrosoftなどのコンピューター関連メーカー、SAP等のソフトウェアベンダーが挙げられる。我が国は、総合ベンダーである富士通や日立の他、NTTデータなどが当該領域へ積極的に進出した。

他方、下位レイヤーにおいては、IP化の進展や、端末のモバイル化が進展し、部品・部材産業を含め、関連産業の業界構造及び主要プレイヤーがグローバルレベルで大きく変化した。たとえば、IP化の進展により、従来の通信機器に加え、ルーター、サーバー、スイッチなどのネットワーク機器の製造事業者も台頭した。代表的事業者として米国Ciscoが挙げられる。また、携帯電話サービスの世界的普及に伴い、NokiaやMotorolaといった欧米の携帯電話端末事業者が席巻した。我が国では独自の通信方式を採用したことなどを背景に、日系の総合ベンダーによる端末供給によって市場が形成されたが、半導体事業の不振などに伴い、プロセッサーなど通信・情報端末のコアとなる部品・部材領域の競争力を失っていった。当該領域では、主にパソコン向けのIntelや携帯電話端末向けのQualcommの支配力が増大した。

ウ 2005年〜現在:モバイルとクラウドによる共創と競争の時代

2005年以降は、2007年の米AppleのiPhoneの発売にみられるように、モバイル、とりわけスマートフォンの本格的普及が進展した。レイヤーの垂直分離と水平統合がより進展し、市場の多様化とグローバル化が急速に進む中、レイヤーによっては成熟化や寡占化が進んだ。上位レイヤーでは、世界規模で拡大するスマートフォンのユーザー向けに様々なサービスや機能を提供するGoogleやAmazon等のプラットフォーム・ネット系事業者の影響力が増大した。また、固定通信・移動体通信回線のブロードバンド化も相まって、ネットワークを流通するトラヒックが爆発的に拡大した。こうしたトレンドも背景に、コンピューターの提供・利用形態において、ネットワークインフラに係るリソースと機能を提供するクラウド技術が重要な役割を果たすようになっている。このようなクラウド型サービスを提供する事業者を中心に、ICTサービスレイヤーにおいては、通信事業者、ソフトウェア・システムベンダーなど様々な事業者が参入している。下位レイヤーにおいては、コモディティ化が続き、低コストで大量生産を実現する中国等新興国の事業者が市場を席巻するなど、従来競争優位であった事業者の業績が低迷する等、業界構造が大きく変化してきている。そのため、各事業者とも、新たなコンピタンスを見出し、市場のポジショニングを確立するための変革を迫られた。たとえば、かつてコンピューター産業で世界を席巻したIBMは、端末事業を手放しICTサービス事業を中核とする事業者へと生まれ変わっている。

また、ICTサービスレイヤーや上位レイヤーなどより付加価値の高いレイヤーへ進出したり、新たな付加価値を創造することを狙った他レイヤーの事業者との連携など、様々なビジネスモデルが混在するようになってきている。より上位のレイヤーへの進出の例としては、米Appleのように端末事業者がプラットフォーム事業を手掛けたり、Ericssonのように通信機器の製造・販売から通信事業者のネットワークの保守・運用などのサービス提供を志向する方向性が挙げられる。逆に、Amazonのように小売に係るプラットフォーム事業を手掛けながら端末事業へ、またHuaweiのように通信機器から端末事業へと本格展開する例もみられる。加えて、業界全体で収益を高めるための構造として、いわゆる「エコシステム」の形成が進んでいる。たとえば、スマートフォン上で提供するアプリケーションを開発する多様な協力企業を集めるために、それを束ねるプラットフォーム事業者はより魅力的なプラットフォームを構築する。これにより、プラットフォーム事業者にとってはユーザー数の増大につながり、かつアプリケーション開発企業にとっては収益の配分が増大する、という好循環なモデルを作り上げていく体系をさす。このように、アプリケーション開発企業のような第三者の企業が供給する補完的な財・サービス(スマートフォン上のアプリ等)を巻き込んで成長していくというエコシステムの形成により、市場が拡大するとともに、上位レイヤーにおける多様なコンテンツ・アプリ開発を促進し、「アプ・エコノミー」1と称されるような、関連産業の拡大にもつながっている。



1 スマートフォンなどモバイル機器のアプリケーションに関連する事業を対象とした経済を指し、米Business Week誌が2009年に使い始めた用語。

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