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第3部 基本データと政策動向
第8節 ICT国際戦略の推進

第8節 ICT国際戦略の推進

1 国際政策における重点推進課題

(1)ICT海外展開の推進

総務省では、我が国のICT産業の国際競争力強化を目的に、ICT企業の海外展開への支援として、海外での各種普及・啓発活動の実施、諸外国の情報通信事情の収集・発信等の活動を行っている。

ア 地上デジタルテレビ放送日本方式採用を契機としたICT分野の国際展開

地上デジタルテレビ(以下「地デジ」という。)放送分野においては、官民連携で日本方式(ISDB-T)の普及に取り組んでおり、2006年(平成18年) に日本方式を採用したブラジルと協力しながら、日本方式採用を各国に働きかけている。日本方式には、①国民の命を守る緊急警報放送、②携帯端末でのテレビ受信(ワンセグ)、③データ放送による多様なサービスといった、他方式にはない強みがある。これらにより、日本方式は、放送をデジタル化するだけでなく、防災・減災に威力を発揮し、さらには、データ放送と連携した遠隔医療・教育の充実等、国家の基盤である通信・放送、医療、国土管理といった分野や社会的課題の解決に貢献できる。日本方式を採用することで、緊急時には命を守り、平常時においては便利な暮らしをつくる、放送に加えてICTを複合化させることで新しい暮らしを実現できると、各国に提案しているところである。その結果、中南米・アジア・アフリカ地域で合計17か国(平成27年5月現在)が日本方式の採用を決定するに至った。日本方式採用国に対しては、トップセールスと連動させながら、政府間会合による協力、国際セミナーの開催、キーパーソンの招へい実施、技術研修の実施等を通して、地デジネットワークの構築といったインフラ面のみならず、放送コンテンツ等のソフト面も含めた放送関連市場への日本企業の国際展開支援を実施している。さらに、日本方式の採用働きかけを通じて培った協力関係をICT分野全体に広げることで、ICT分野における日本企業の進出支援(遠隔教育、電子政府、防災ICT等)を行っている。日本方式の展開は、我が国のICT分野の国際展開の一環として位置づけて取り組んでおり、これを契機としたICT分野全体の国際展開の強化に取り組んでいく(図表8-8-1-1)。

図表8-8-1-1 世界各国の地上デジタルテレビ放送の動向
イ 防災ICTの国際展開

世界での自然災害の発生件数は最近30年間に大きく増加しており、世界各国において、防災への関心が高まっている。2015年3月には仙台市にて、国内外からのべ約15万人以上が参加し、我が国で開催された最大級の国際会議となる第3回国連防災世界会議が開催された。本会議では「仙台防災枠組2015-2030」が採択された。この枠組には、国際社会が取るべき優先行動が掲げられており、早期警報システム、緊急通信等の確保や通信インフラ等の強靱性確保などICT関連の記述も多く盛り込まれている。同会議では、安倍総理が「仙台防災協力イニシアティブ」を発表し、日本として今後4年間で計40億ドルの協力の実施及び計4万人の人材育成を行うことを表明した。このイニシアティブにおいては、基本方針でICTを含めた日本の知見・技術の活用が盛り込まれている。また、同イニシアティブには具体的施策3分野(ソフト、ハード、グローバルな協力・広域協力)も掲げられており、ソフト支援では災害の観測、予測、予警報のための技術の一つとしてICT、ハード支援では情報インフラ基盤の整備・防災に係る情報通信施設等の整備、グローバルな協力・広域協力ではASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)への支援など、いずれにもICT関連記述が盛り込まれている。

我が国は、災害情報の収集・分析・配信をICTを用いて行うことで効率的・効果的な災害対策を可能とする防災ICTシステムについて、世界で最も進んだ技術・ノウハウを有する国のひとつである。総務省では、このような防災ICTシステムの国際展開を推進しており、各国政府へのトップセールスを契機に、相手国と協力方針・プロジェクトを協議する政策対話、防災ICTソリューションの現地での適用可能性を確認するフィージビリティスタディ・実証実験、各国の防災ICT関係者に研修を行う人材育成セミナー等を実施し、アジア、中南米諸国等で成果を上げている。

特に、災害多発国であり防災ICTのニーズが高いインドネシア、フィリピンでは以下の取組を進めている。

インドネシアでは、防災情報の収集・分析・配信を一貫して行い、住民へ迅速かつ確実に伝達する我が国の防災ICTシステムについて、2011(平成23年度)、2012年度(平成24年度)に実証実験を行った。2013年(平成25年)4月には、総務省とインドネシア通信情報省の大臣間で、防災ICTの同国における早期導入に向けて相互に協力することで合意している。これらにより、インドネシア通信情報省・国家防災庁等とICT共同作業部会を4回開催するなど、防災ICT導入に向けた協議を進めている。さらに、上記両大臣間の合意に基づき、2013年(平成25年)8月には同国よりODA要請(防災無償)が寄せられており、2014年(平成26年)11月から、JICAが協力準備調査を行っている。

また、フィリピンでは、地上デジタルテレビ放送日本方式の採用を機に、日本方式の特長・機能を活かした緊急警報放送等の防災に資するICTシステムの導入可能性に関する調査を2014年度(平成26年度)に実施した。また、被災地に搬入して通信機能を迅速に応急復旧させる通信設備である移動式ICTユニット(MDRU)の実証実験を国際電気通信連合(ITU)、フィリピン政府と共同でセブ島にて2014年度(平成26年度)から行っている。

ウ 各国ICTプロジェクトの展開

ASEAN地域は6億人を超える人口を有し、我が国企業の進出意欲も旺盛な、成長著しいICT市場を擁している。またASEAN諸国は、2015年(平成27年)までに「政治・安全保障共同体」、「経済共同体」、「社会・文化共同体」から成る「ASEAN共同体」の実現を目指し、ASEAN域内の連結性を強化する各種取組を進めており、ICTに関してもネットワークや制度の整備に取り組んでいる。また、世界第二位の人口を擁するインドは、貧困層の生活水準向上等の社会的課題解決を目指し、モディ政権下で定められた「デジタル・インディア」に基づいて各種ICT施策に取り組んでいる。このような状況を踏まえ、近年総務省では、日本企業の関心も高いASEAN諸国やインドをはじめとするアジアに対する我が国ICTの国際展開に係る取組を特に強化している。

また、中南米地域は、ブラジル、メキシコといった巨大な人口と大きな潜在成長力を誇る国々や、ペルー、コロンビアといった近年安定した成長を見せる国々を擁しており、成長性のある市場であるところ、2014年(平成26年)7月から8月にかけて総理は、経済界関係者とともに中南米5カ国(メキシコ、トリニダード・トバゴ、コロンビア、チリ、ブラジル)を訪問した。コロンビア、チリ、ブラジルとの共同声明では、地デジやICT分野における協力推進の意向が表明されている。2016年(平成28年)は地デジ日本方式が海外で採用されて10周年を迎える。中南米諸国に対して、地デジ日本方式採用を契機としたICT分野全体の国際展開の強化に重点的に取り組んでいる。

各国別の取組として、主なものは以下のとおりである。

(ア)アジア等
A ミャンマー

ミャンマーは、2010年(平成22年)の総選挙を経た民政移管後、政治・経済改革を進めたことで、外資の流入等を背景とした急速な経済成長を遂げている。ICT分野においても、電話(固定・携帯を含む)普及率を2015年(平成27年)〜2016年(平成28年)に75〜80%まで増やすことが目標として掲げられ、通信需要は今後急速に拡大することが見込まれている。

我が国は、同国からの要請を踏まえて、無償資金協力「通信網緊急改善計画」(17億円)による通信網整備を実施し(2012年(平成24年)12月交換公文署名)、これにより、同国で開催された2013年(平成25年)12月の東南アジア競技大会及び2014年のASEANサミットの円滑な実施にも貢献した。

さらに、同無償資金協力で整備した通信インフラを拡張するため、3都市(ヤンゴン、ネーピードー、マンダレー)間を結ぶ基幹通信インフラ、ヤンゴン市内の通信インフラ等の整備を行う円借款「通信網改善事業」(105億円)について、2015年3月に交換公文署名が行われた。

また、ミャンマー国営郵便・電気通信事業体(MPT)の独占体制であった同国電気通信市場に、2014年8月にオーレドゥー(カタール)、同年9月にテレノール(ノルウェー)が参入し、市場競争が導入された。MPTはこれに対抗するため、外資企業をパートナーに受け入れることを決定し、2014年7月、MPTとKDDI・住友商事が共同で通信事業を行うことに合意し、同年9月から共同事業を開始している。

このように、民政移管後、本邦企業がミャンマーへの進出を進めている中で、情報通信インフラ整備はICT企業以外にとってもビジネス環境の整備の面から喫緊の課題であるため、引き続き同国への支援を進めていく。

B ベトナム

総務省は、2010年(平成22年)9月にベトナム情報通信省との間で署名され、2013年(平成25年)9月に更新された「情報通信分野における包括的な協力関係の推進に係る覚書」に基づいて協力関係の構築を進めてきている。

協力の具体的な取組としては、2015年(平成27年)1月にハノイで総務省とベトナム情報通信省との共催により日越ICTフォーラムを開催し、日本からは総務副大臣を団長とする日本企業62社、総勢約200名で構成される官民ミッション団が参加した。ベトナム側からは、情報通信省、交通運輸省等の政府機関、ベトナム郵便電気通信グループ、ベトナム郵便、FPT等の企業から600名以上が参加した。本フォーラムでは、日本企業によって防災、農業ICT、交通(ITS)及び次世代放送に関するプレゼンが実施されるとともに、25の展示ブースが設置され、ベトナムにおける日本企業のビジネス展開支援に取り組んだほか、総務省と情報通信省との間で「郵便分野における協力に関する覚書」に署名し、両国郵便間の協力関係構築支援、日本企業によるベトナムにおける郵便・郵便局を活用したビジネス展開の支援等について合意した。併せて、日本企業18社によるベトナム郵便に対するビジネス提案会を実施した。また、情報通信分野における日越二国間協力関係の強化を図るため、総務副大臣と副首相、情報通信大臣等との間で会談を行い、次世代放送、郵便、防災、農業ICT、交通(ITS)、情報セキュリティなどの分野において、両省間でより一層協力関係を強化していく旨合意した。

C タイ

総務省は、2015年(平成27年)2月にバンコクでタイ国家放送通信委員会との共催により次世代放送・超高速ネットワークセミナー(総勢約200名が参加)を開催した。タイ側からは、政府機関、放送事業者をはじめ教育・医療・交通(鉄道/空港)関係など多数の民間機関が参加した。本セミナーでは、さっぽろ雪まつりの4Kライブ伝送や4K・8K技術によるビジネス・生活の変革の方向性に関するパネルディスカッションを実施するとともに、日本企業による4Kディスプレイ・カメラ、ハイブリッドキャスト等の次世代放送に関する展示を合わせて実施した。同じく2015年(平成27年)2月には、日タイ首脳会談後に発出された日タイ共同プレス声明において、情報通信技術分野における協力の重要性を確認し、協力活動を推進することで一致した。こうした動きをさらに連携・加速していくため、2015年(平成27年)4月に総務大臣がタイを訪問し、首相、情報通信技術大臣、国家放送通信委員会委員長らと会談し、両国間の協力関係を一層強化していくことで合意した。また、防災、サイバーセキュリティ、郵便等の分野における協力を推進するため、総務省と情報通信技術省との間の「情報通信技術分野における協力に関する共同声明」に署名したほか、国家放送通信委員会との間では、国際ローミング料金の低廉化に向けた協議の開始や放送コンテンツ・次世代放送分野での協力強化を内容とする「通信・放送分野の協力に関する共同プレス声明」を発出するなど、協力関係の構築を進めてきている。

D インドネシア

ASEAN諸国の中でも最大の人口、経済規模を有するインドネシアに対しては、2010年(平成22年)に、総務大臣とインドネシア通信情報大臣との間で「日・インドネシア間の情報通信分野における包括的な協力に係る覚書」の交換を行うなど協力関係の構築を進めてきている。

2014年度(平成26年度)には、インドネシア通信情報省との間で、防災ICT(取組に関しては、「本節第1項1イ 防災ICTの国際展開」に記述)、デジタル・ディバイド解消、電子政府等の分野で協力を進めている。

デジタル・ディバイドでは、ブロードバンド網が整備されていないルーラルエリアにて、テレビ放送が使用していない空き周波数帯を活用したブロードバンド無線通信システムの実証実験を実施した。インドネシア側から技術面、経済・社会面で高い評価が得られたため、今後は、技術的協力を進めることで、インドネシア政府のデジタル・ディバイド解消基金(ICT基金)を活用した全国展開を目指す。

電子政府構築では、インドネシアは、2015年(平成27年)中に電子認証基盤1の実運用を開始することを目標としているものの、現状は、複数の認証基盤が乱立している。そこで、総務省は2013年度(平成25年度)、2014年度(平成26年度)に実証実験を実施して、我が国の政府認証基盤で活用している技術・ノウハウを提示しており、それに基づき、インドネシア通信情報省は、総務省と連携しつつ、2015年(平成27年)から自らの予算によるプロジェクトを実施する。

E インド

インドでは、総務省とインド通信IT省との「日印ICT協力枠組み」に基づき、2014年(平成26年)1月に第1回合同作業部会を東京で、同年12月に第2回会合をニューデリーで開催した。第2回会合では日印共同プロジェクト(グリーンICT、サイバーセキュリティ協力、防災ICT、社会的課題解決のためのICT利活用)の選定を行い、そのうちグリーンICTについては、2014年度(平成26年度)総務省予算による調査研究を、社会的課題解決のためのICT利活用については、2013年度(平成25年度)の調査研究を踏まえた実証実験を2014年度(平成26年度)総務省予算により実施した。

(イ) 中南米地域におけるICTの国際展開
A ブラジル

ブラジルでは、2006年(平成18年)6月に、海外では初めての地上デジタルテレビ放送日本方式が採用された。これ以降、主として地デジ移行等の放送分野において、日本との協力が活発に行われてきた。2013年(平成25年)7月、ブラジルを訪問した総務大臣とブラジル通信大臣との間で、二国間協力を放送分野からICT分野全体に拡大強化する旨の合意がなされた。これを受け、総務省とブラジル連邦通信省は、2014年(平成26年)5月、サンパウロにて「日伯ICTダイアログ」を開催した。同ダイアログにおいては、日伯両国の参加企業から、協力可能性のあるテーマ、技術などについての説明がなされた。総務省とブラジル連邦通信省は、様々な社会課題の解決に向けたICT分野の具体的協力プロジェクトや情報通信基盤整備の協力を進めている。

B ペルー

ペルーでは2009年(平成21年)4月に地デジ日本方式が採用された。それ以降、JICA専門家派遣等の支援により総務省とペルー運輸・通信省との間では放送分野における継続的な協力関係が構築されている。現在、日本方式のメリットの一つである緊急警報放送(EWBS)の機能を備えた広域防災システムの整備が進んでおり、実用化が行われると中南米で初めてのケースとなる。今後は地震・津波等の自然災害の多いエクアドルやチリ等近隣諸国にも導入されていくことが期待されている。

C チリ

チリでは、2009年(平成21年)9月に地デジ日本方式が採用されて以降、地デジ分野において専門家派遣やセミナー開催、研修実施等によって我が国との連携がなされてきた。この協力関係を核としつつ、2015年(平成27年)2月、チリ運輸通信省通信次官が来日した際には、両国間の協力関係を地デジからICT分野全体へ広げることを確認し、日チリ双方が関心を有する案件を、具体的に官民共同でプロジェクト化することを目指すことについて一致し、2015年(平成27年)5月には、総務副大臣がチリを訪問し、通信衛星やデジタル網整備を含むICT分野協力強化に関する共同声明に署名が行われた。

D エクアドル

エクアドルでは、2010年(平成22年)3月に地デジ日本方式を採用して以来、地デジ分野で協力関係にある中で、2014年(平成26年)4月、総務副大臣がエクアドルを訪問し、副大統領、危機管理庁長官と会談を実施した。この会談では、防災や教育といった様々な分野に地デジを含むICTを活用することについて、両国が協力していくことで意見が一致した。また、エクアドル通信・情報社会大臣との間で、エクアドルと日本の地デジ分野における更なる協力強化及びICT分野全体での協力関係の強化について合意し、両国間でのICT分野の連携を進めるため「ICT政策対話」を定期的に開催していく等の内容が盛り込まれた共同声明に署名が行われた。また、総務省は、2014年(平成26年)11月、エクアドルへICT官民合同ミッション団を派遣し、エクアドル通信・情報社会省とともに「日エクアドルICT国際フォーラム」を開催した。2015年(平成26年)1月には、エクアドル通信・情報社会省との間で同フォーラムを踏まえた今後のICT分野での協力の方向性について合意に至り、南米での具体的なICT官民共同プロジェクトの実施を内容とする初めての覚書に署名している。

E コロンビア

コロンビアでは、デジタル網整備に関する日本政府とコロンビア政府との協力に関し、首脳レベルでの関心事項となっており、2014年(平成26年)7月の総理大臣のコロンビア訪問時に発出された共同声明にも盛り込まれている。また、2014年(平成26年)11月には、ICT官民ミッション団をコロンビアに派遣し、2015年(平成27年)3月、コロンビア情報技術・通信省次官一行を招聘した際、総務省とコロンビア情報技術・通信省との間で、ICT分野における協力覚書に署名している。



1 利用者本人であることを認証する電子証明書を発行するシステム。

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