総務省トップ > 政策 > 白書 > 27年版 > アフリカの「モバイル革命」
第1部 ICTの進化を振り返る
第3節 地球規模でのICT利活用の波及

(3)アフリカの「モバイル革命」

以上のような携帯電話の急速な普及を契機として、アフリカ諸国等では金融、医療などの様々な分野での産業革新や生活改善が始まっており、「モバイル革命」と呼ばれている。以下で具体的な携帯電話の活用事例を紹介する。

ア モバイル送金

2015年における全世界での送金金額は前年比0.4%増の5,860億ドルになるであろうとの予測を世界銀行が2015年4月に発表した6。そして同時に世界銀行では発展途上国への送金は0.9%増の4,440億ドルになるとの予測を明らかにしている。

地域別にみると、中東・北アフリカへの送金が530億ドル、サブサハラアフリカ地域への送金は330億ドルである(図表2-3-1-6)。サブサハラアフリカ地域への送金のうち3分の2に当たる約210億ドルがナイジェリアへの送金である。この地域への送金は伸びており、ケニア10.7%増、南アフリカ7.1%増、ウガンダ6.8%増となっている。またガンビア、レソト、リベリア、コモロでは2013年のGDPの約20%が送金によるものだった。

図表2-3-1-6全世界での送金金額と新興国及び中東・北アフリカ、サブサハラアフリカへの送金金額の予測値
(出典)世界銀行発表資料を元に作成

送金は地方から都会へ、開発途上国から先進国へ出稼ぎに行った労働者が故郷に送ることが多い。世界銀行によると全世界に2億5,000万の移民労働者が存在している。これだけ世界規模で送金の需要があるにも関わらず、銀行口座を所有していない人が多い。理由としては、貧しさだけでなく、口座開設に伴う費用、手続、銀行までの距離があげられる。国別の銀行口座普及率は右図の通りである(図表2-3-1-7)。欧米や日本では銀行口座の普及率は90%以上を超えているものの、新興国では50%以下の国も多い。特にアフリカでは銀行口座の普及率が20%未満の国が多数ある。

図表2-3-1-7 国別の銀行口座普及率
(出典)Global Findex Database 2014

このギャップを埋めているのが、携帯電話を活用した「モバイル送金」である。ここで言う「モバイル送金」とは、日本をはじめとする先進国において、銀行が口座保有者への付加サービスとして提供する「モバイルバンキング」とは異なり、銀行口座を持たない人でも、携帯電話のショートメッセージ(SMS)で手続や本人確認をすることで、金融取引を行うことができるサービスのことである。モバイル送金サービスの代表例としては、ケニアの通信事業者Safaricomが提供する「M-Pesa」がある(図表2-3-1-8)。

図表2-3-1-8 M-Pesaの仕組み
(出典)総務省「開発途上国等におけるICT利活用の現況等に関する調査研究」(平成27年)

2015年3月にGSMAが発表したところによると、2014年に全世界89か国で255の「モバイル送金サービス」が存在している7。そのうち約半数がサブサハラアフリカ地域に集中している(図表2-3-1-9)。

図表2-3-1-9 世界でのモバイル送金サービスの推移
(出典)GSMA「2014 State of the Industry Report」

また全世界で2014年末時点に登録されているモバイル送金の口座は約3億、そのうち1億300万がアクティブな口座であり、2013年の7,300万から大きく増加した。サブサハラアフリカ地域で登録されているモバイル送金の口座は1億4,600万で、そのうち6,190万がアクティブな口座である。サブサハラアフリカ地域では銀行口座を保有していなくともモバイル送金の口座を所有している人は多い。モバイル送金の口座の人口普及率が10%を超える国が13か国あり、コートジボワール、ソマリア、タンザニア、ウガンダ、ジンバブエでは銀行口座よりもモバイル送金口座の普及率の方が高い8図表2-3-1-10)。

図表2-3-1-10 アフリカでのモバイル送金口座の普及率
(出典)Global Findex Database 2014
イ エボラ出血熱対策としての携帯電話

西アフリカでは2014年にエボラ出血熱の感染が急拡大して深刻な問題となった。そのエボラ出血熱の予防と対策において重要なのが「情報と知識」である。エボラ出血熱に関する噂、誤解、間違った知識、恐怖心のせいで、正しい対応ができず被害が拡大したと言われている。それを踏まえて国連機関であるUNICEF(ユニセフ)では、予防法や対策などの「正しい情報」を知ってもらうために、テレビ、ラジオ、プリントされた印刷物、携帯電話のショートメッセージ(SMS)を通じて、西アフリカの7か国(ギニア、シエラレオネ、リベリア、ギニアビサウ、セネガル、マリ、ガンビア)への情報配信を2014年4月から開始し9、550万人に「正しい情報」を届けた。

西アフリカのような途上国では、テレビやラジオを所有していないが、携帯電話を持っている人や家庭は非常に多い。携帯電話はこのような一斉配信が必要な時の情報提供ツールとして機能している(図表2-3-1-11)。

図表2-3-1-11 エボラ出血熱対策
©UNICEF/NYHQ2014-1030/Jallanzo 提供:(公財)日本ユニセフ協会
ウ 成長産業としての携帯電話

携帯電話は、アフリカ諸国における急成長産業として、雇用の創出や経済発展に大きく貢献している。GSMAによるとサブサハラアフリカ地域において携帯電話産業は2013年時点で750億ドル規模であり、これはGDPの5.4%に相当する10。そして2020年までには1,040億ドル規模にまで成長し、GDPの6.2%分になると予測されている(図表2-3-1-12)。

図表2-3-1-12 サブサハラアフリカ地域での携帯電話産業の規模とGDPに占める割合の推移予測
(出典)GSMA発表資料を元に作成

2013年時点で、サブサハラアフリカ地域で携帯電話産業に直接従事している人は約240万人存在している11。また2020年までには350万人雇用されると予測されている(図表2-3-1-13)。

図表2-3-1-13 サブサハラアフリカ地域での携帯電話産業への従事者の内訳(2013年)
(出典)GSMA発表資料を元に作成


6 World Bank(2015) 13th Apr 2015, “Remittances growth to slow sharply in 2015, as Europe and Russia stay weak; pick up expected next year”
 http://www.worldbank.org/en/news/press-release/2015/04/13/remittances-growth-to-slow-sharply-in-2015-as-europe-and-russia-stay-weak-pick-up-expected-next-year別ウィンドウで開きます

7 GSMA(2015) 3rd Mar 2015,” New 2014 State of the Industry Report on Mobile Financial Services for the Unbanked”
 
 http://www.gsma.com/mobilefordevelopment/wp-content/uploads/2015/03/SOTIR_2014.pdfPDF

8 “2014 State of the Industry Report on Mobile Financial Services for the Unbanked” P27
 http://www.gsma.com/mobilefordevelopment/wp-content/uploads/2015/03/SOTIR_2014.pdfPDF
 The Global Findex Database P12
 http://www-wds.worldbank.org/external/default/WDSContentServer/WDSP/IB/2015/04/15/090224b082dca3aa/1_0/Rendered/PDF/The0Global0Fin0ion0around0the0world.pdf#page=3別ウィンドウで開きます

9 出典:UNICEF(2014) 10Apri 2014, “Life-saving information helps reduce spread of Ebola across West Africa”
 http://www.unicef.org/media/media_73037.html別ウィンドウで開きます
 UNICEF(2014) 11 Jul 2014, “Misconceptions fuel Ebola outbreak in West Africa”
 http://www.unicef.org/media/media_74256.html別ウィンドウで開きます

10 GSMA “The Mobile Economy Sub-Saharan Africa 2014” P43
 

11 GSMA “The Mobile Economy Sub-Saharan Africa 2014” PP41-43
 

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