第1部 東日本大震災における情報通信の状況
第4節 情報通信が果たした役割と課題

2 情報通信を活用した新たな取組の例


(1)コンテンツの流通手段の多様化

 今回の震災においては、各情報通信インフラの被害がそれぞれ甚大であったことから、複数のメディアを活用して情報を発信することで、できるだけ多くの被災者等に情報を届けるための取組が行われた。

ア 放送事業者による情報発信手段の多様化
 第2節で述べたとおり、放送事業者は今回の震災に当たり放送による情報伝達に努めたところであるが、放送以外の手段も補完的に活用することで、より多くの人に届けられるような工夫が行われた。

●NHKや民放各社によるインターネットへの同時配信

 NHKや民放各社は震災後、テレビが視聴できない地域があること等を配慮して、震災関連のニュースを、放送と同時に「ユーストリーム」や「ニコニコ生放送」などの民間の動画配信サイトに提供し、インターネット上で配信を行った(図表4-22

図表4-2 NHKの震災関連ニュースのライブストリーミング配信の画面
図表4-2 NHKの震災関連ニュースのライブストリーミング配信の画面
(出典)ニコニコ動画、NHK

●radikoによる情報提供

 radikoは、「難聴取の解消」と「ラジオの聴取機会拡大」を目的に、地上波ラジオ放送と同じ内容をインターネットでそのまま同時に放送エリアに準じた地域に配信するサイマルサービスである。平成23年3月上旬時点では、関東7局及び関西6局のラジオ放送番組を聴取可能であったが、今回の震災に当たっては、平成23年3月13日から4月11日まで(関東7局以外は3月31日まで)、配信エリアの制限を一時的に解除し、全国で聴取可能とした。また、4月28日以降、radiko.jp復興支援プロジェクトとして、岩手県、宮城県、福島県、茨城県のラジオ7局の放送番組を、全国を対象に配信を開始している。

イ 公共機関のソーシャルメディアによる情報発信

●国、地方公共団体等がソーシャルメディアを公式な情報発信手段の一つとして活用

 インターネット上の様々なソーシャルメディアの普及に伴い、国、地方公共団体等の公共機関において、情報発信等の強化のために、こうしたサービスを利用する事例が増えてきていたが、特に、東日本大震災の発生以降、震災対応に関する情報の発信のため、多くの公共機関でソーシャルメディアが活用された。
 総務省は、平成23年4月5日、内閣官房情報セキュリティセンター、内閣官房情報通信技術(IT)担当室及び経済産業省とともに、「国、地方公共団体等公共機関における民間ソーシャルメディアを活用した情報発信についての指針」を発表し、国、地方公共団体等公共機関におけるソーシャルメディアの利用に当たっての指針を公表した。

ウ 被災地の地方紙が、地域に密着した情報をソーシャルメディア等で配信
 被災地の地方新聞社は、生活情報、取材記事、現地ルポなど、各地に密着した災害・生活関連情報を、新聞媒体以外のソーシャルメディア等を通じて配信した。

●福島民報によるTwitter

 福島民報は、震災の2日後にTwitterのアカウントを開設し、給水所や避難所、学校の休校情報など、生活情報を配信した。開設からわずか2日で6,600のフォロワー3を集めており、地元住民にとっての貴重な情報源となった。

エ 公的機関、企業等が持つ情報を利用しやすい形で公開
 地震発生後、公的機関や企業等の情報が一緒に表示できるように、API4等の手順が共通化されるなど、情報が共有された。また、このようなデータを利用し、民間事業者がわかりやすく加工したWebサイトやアプリケーションが、パソコンやスマートフォン等向けに相次いで公開され、その多くが無料で提供された。例えば、電力会社の計画停電情報、自動車・通行実績や鉄道遅延情報など、ライフラインに関する情報が閲覧可能となった。

●ネイバージャパン 全国放射能情報

 3月27日、ネイバージャパンは全国放射線量マップを公開した。同サイトでは、文部科学省が公表した「都道府県別環境放射能水準調査結果」を基に、放射線量レベル毎に各都道府県を色分けし、日本地図上にマッピングした(図表4-3)。各都道府県における最新の放射線量と震災前の平常値を地図上で閲覧・参照することができた。

図表4-3 ネイバージャパン 全国あ放射能情報の画面
図表4-3 ネイバージャパン 全国放射能情報の画面
(出典)ネイバージャパン 全国放射能情報 ホームページ

●自動車通行実績情報の発信

 東日本大震災発生後、しばらくの間、現地の道路通行状況の把握が困難であった。このような中、カーナビなどGPS搭載車両から収集した走行軌跡情報(プローブ情報)に基づいて、渋滞情報などの交通情報(プローブ交通情報)を提供している自動車向け情報提供サービス各社は、自らの保有する情報を集計して、前日に走行実績のあった道路の状況を公開した。これらの通行実績情報は会員の自動車が実際に走行した位置や速度等を基に生成しているため、災害など突発的な事象発生時の道路状況変化を即時に把握し、信頼性の高い交通情報を提供可能である。
 例えば、3月14日、本田技研工業とパイオニアが自社会員の匿名かつ統計的に収集した通行実績情報を基に、Googleは被災地周辺道路の通行実績情報を「Google 自動車・通行実績情報マップ」として公開した(図表4-4)。これに続いて他の自動車メーカーやカーナビ事業者も自社サイトやGoogle等で情報を公開した。これら各社の情報を取りまとめることでより精度の高い情報が提供できるため、ITS Japanが各社のデータを集約してプローブ統合交通情報を作成し、「Google 自動車・通行実績情報マップ」やITS Japanのサイトにて公開された。

図表4-4 Google 自動車・通行実績情報マップ
図表4-4 Google 自動車・通行実績情報マップ
(出典)Google 自動車・通行実績情報マップ ホームページ


2 例えば、NHKでは、総合テレビの放送番組について3月25日まで配信を行った
3 他人のツイートを受信するように登録している人。Twitterのアカウントをフォローしている人のこと
4 Application Program Interface。APIとは、アプリケーションをプログラムするに当たり、簡潔にプログラムできるように設定されたインターフェースのこと
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