第2部 特集 共生型ネット社会の実現に向けて
第3章 「共生型ネット社会」の実現がもたらす可能性

2 「共生型ネット社会」への期待


(1)「共生型ネット社会」の展望

●「主体となる人と人とが支え合い、国民の幅広い層の包摂を実現し、ICTが人と人との協働を媒介し、諸問題の解決等により価値創造をする進化したユビキタスネットワーク社会」として「共生型ネット社会」を構想

 上述したソーシャルメディアに関する諸分析や今後のネットワーク環境やICTの利活用の変化の方向性等を踏まえ、ソーシャルメディアの利用が進み、国民生活に浸透した場合にもたらされるICT社会像を整理すると、「主体となる人と人とが支え合い、国民の幅広い層の包摂を実現し、ICTが人と人との協働(コラボレーション)を媒介し、諸問題の解決等により価値創造をする進化したユビキタスネットワーク社会」と特徴付けることができ、このような特徴を有するICT社会を「共生型ネット社会」と呼ぶことができるだろう。

●ソーシャルメディアの持つポテンシャルを最大限に引き出し、負の側面を最小化し「共生型ネット社会」を実現するために、将来にわたり継続的な取組が必要

 「共生型ネット社会」は、上述した肯定的な各要素で特徴づけられるものであるが、ソーシャルメディアの分析等からは、対処すべき課題も見出された。
 例えば、個人情報漏えい、個人情報の不正使用、プライバシーの侵害等個人情報に関連する不安を現在のソーシャルメディア利用者の多くが感じており、また、個人情報を知られたり、悪用されることを懸念し、未利用者がソーシャルメディアの利用をしないことが明らかになった。
 また、ソーシャルメディアの普及によって、N対Nの情報流通が一般化し、個人の情報発信やネットを介しての連携が可能となる反面、情報が溢れ、信頼性の高い情報、適切な情報を選別できない懸念もある。
 さらに、今後、ソーシャルメディアの利用が進み社会に普及するにつれて、我々の生活に影響を与え、対応を迫られる問題が、予期せぬ問題も含め生じることもあるだろう。
 ソーシャルメディアの持つポテンシャルを最大限に引き出し、その利用に伴う負の側面を最小化するためにも、利用に伴う様々な論点について、現在又は将来にわたって議論を重ね、技術的な対応、社会的な合意形成等の取組を継続的に行う必要があろう。
 例えば、既に問題として顕在化している個人情報に対する懸念を払しょくすることは、ソーシャルメディアによる人と人の交流を安心・安全に行うため不可欠であり、その普及や発展にも影響を与える重要な要因であるが、技術面での取組を行うこと2のみならず、サービス提供時の個人情報の取扱いについて社会的合意を形成すること3、各人が、自ら享受したい利益やリスクの程度に応じて自らの個人情報を提供するスキルを取得すること等多角的な取組が必要であると考えられる。
 本年の白書では、ブロードバンドの普及等が本格的に始まった約10年前から現在までの変化を振り返り、ICTの利活用を更に進め、利用者本位の豊かな社会を実現するために残されている課題について分析を行った。過去を振り返ってみても、インターネットやブロードバンドの利用が一般化する過程で、個人情報への懸念、違法・有害情報、迷惑メール等予期せぬ問題も生じ、中には大きな社会的な問題となったものもあるが、事業者、利用者、行政等関係者の間での議論を尽くし、技術的対応、社会的合意形成、法的対応等様々な対応を着実に行ってきた。総じていえば、ICTは我々の生活にプラスの変化をもたらし、我々はICT利用の恩恵を享受しているといえるだろう。


2 現在、個人識別を極めて困難とする匿名化技術の研究等が進められている
3 ウェブサイトの閲覧履歴、購買履歴、位置情報等ライフログを活用したサービスを利用者の不安感、不快感なく提供すべく、様々な議論がなされている
テキスト形式のファイルはこちら