第2部 特集 共生型ネット社会の実現に向けて
第2章 浮かび上がる課題への対応

(2)国際的なデジタル・ディバイドの現状


 国際的なデジタル・ディバイドの解消に向け、様々な取組が進められているが、高所得国、低所得国の情報通信サービスの普及格差は依然として存在する。そのような状況において、開発途上国では、先進国とは異なる形でデジタル・ディバイドの解消が図られようとしているなど、その解消に向けたアプローチが多様化しているところである。そこで、国際的なデジタル・ディバイドについて、多角的観点から検証することとする。

ア デジタル・ディバイドの地域別・所得水準別特性

●依然として所得水準に応じた格差が存在

 デジタル・ディバイドの主要な指標として、インターネット利用率(人口ベース)が挙げられる。2009年時点の、国別のインターネット利用率は図表2-2-3-1のとおりである。各国を所得水準別に整理し12、時系列推移をみると、図表2-2-3-2のとおり、中所得国以下の国のインターネット利用者数の増加により、当該構成比が拡大している傾向がみられる。しかし、依然として、人口構成比では15.5%の高所得国が、インターネット利用者数構成比では59.7%を占めている状況である。

図表2-2-3-1 国別インターネット利用率(2009年)
図表2-2-3-1 国別インターネット利用率(2009年)
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunication/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”により作成)

図表2-2-3-2 所得水準別のインターネット利用者数構成比(2000年/2005年/2009年)
図表2-2-3-2 所得水準別のインターネット利用者数構成比(2000年/2005年/2009年)
インターネット利用者は依然として高所得国に集中
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunication/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”により作成)

Excel形式のファイルはこちら
イ 諸外国のICTインフラ環境の変遷

●固定電話、移動電話及びインターネットの普及率いずれも大きな格差が存在

 国際的なデジタル・ディバイドについては、当該国・地域の所得水準や経済規模によって説明されることが多い。例えば、高所得国と低所得国との間で比較すると、固定電話、移動電話及びインターネットの普及率いずれをみても、依然として大きな格差が存在している(図表2-2-3-3)。

図表2-2-3-3 所得水準別の各ICTインフラの人口普及率(2009年時点)
図表2-2-3-3 所得水準別の各ICTインフラの人口普及率(2009年時点)
固定電話、移動電話及びインターネットの普及率 いずれも大きな格差が存在
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunication/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”により作成)

Excel形式のファイルはこちら
ウ ICTインフラの普及推移

●先進国と開発途上国で異なるデジタル・ディバイドの解消への道筋

 過去10年間の普及率推移をみると、全体的に電話網におけるモバイル化、インターネットのブロードバンド化の傾向がみられるが、とりわけ開発途上国においては急激な経済成長に伴い、これらのICTインフラの普及が急速に進んでいることがわかる(図表2-2-3-4及び図表2-2-3-5)。ICT基盤の高度化・多様化を背景に、先進国と開発途上国ではそれぞれ異なるアプローチや筋道でデジタル・ディバイドの解消が進んでいることが想定される。

図表2-2-3-4 固定電話及び携帯電話の人口普及率推移
図表2-2-3-4 固定電話及び携帯電話の人口普及率推移
開発途上国においては携帯電話の人口普及率の伸長が大きい
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunication/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”により作成)

Excel形式のファイルはこちら
図表2-2-3-5 インターネット及びブロードバンドの人口普及率推移
図表2-2-3-5 インターネット及びブロードバンドの人口普及率推移
上位中所得国を中心に普及が伸長しつつある
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunication/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”により作成)

Excel形式のファイルはこちら
●開発途上国では携帯電話を中心に進むICTインフラ整備

 図表2-2-3-6は、固定電話及び携帯電話の普及状況(人口普及率)の関係を時系列でみたものである。初期のICT基盤として発展した固定電話については、先進国を中心に数十年をかけて普及した。2000年以降、40%以上の固定電話普及率に達していたのは主に高所得国であった。他方、2005年前後から直近にかけては、全体的に携帯電話普及率が急激に上昇し、特に固定電話普及率は低水準のままであった開発途上国において急上昇がみられた。

図表2-2-3-6 固定電話と携帯電話の普及率の関係
図表2-2-3-6 固定電話と携帯電話の普及率の関係
開発途上国は、固定電話網の整備・普及は低水準のまま、携帯電話網の整備・普及が急速に進展
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunication/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”により作成)

 図表2-2-3-7は、1985年以降5年刻みで、固定及び携帯電話の普及状況を所得水準別に平均化して再整理したものである。先進国を中心に固定電話網の整備・普及→携帯電話網の整備・普及への変遷がみられ、開発途上国は、固定電話網の整備・普及は低水準のまま、携帯電話網の整備・普及が急速に進展している傾向がみられる。このように、先進国と開発途上国では、電話インフラの普及の推移が異なり、後者の国々では携帯電話が重要なICTインフラとなりつつあるといえる。

図表2-2-3-7 固定電話と携帯電話の普及率の関係(1985年以降の推移)
図表2-2-3-7 固定電話と携帯電話の普及率の関係(1985年以降の推移)
先進国と開発途上国では、電話インフラの普及の推移が異なる
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunication/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”により作成)

エ ICTインフラの普及速度

●固定電話と比較して、携帯電話やインターネットは所得水準間での普及年数の差が縮小

 図表2-2-3-8は、ICTインフラの普及速度を集計したものである。具体的には、人口普及率10%に達するまでの年数を整理した13。これによると、固定電話は、所得グループ間で年数の開きがみられ所得が低い国ほど年数は長いが、携帯電話やインターネットでは開きが縮小しているのがわかる。図表2-2-3-9は、携帯電話についてのみ、普及率が30%から80%に達するまでの普及年数を同様に集計したものである。普及年数は低所得国ほど短い。従来の固定電話網と比べると整備コストが低くかつ構築期間が短いといったメリットを背景に、携帯電話が途上国において急速に普及していると推察される。このように、新しい技術への“Leap Frog(飛躍)” により、途上国のICT基盤の整備が急速に進展し、結果的に国際的デジタル・ディバイドの解消につながっていると考えられる。

図表2-2-3-8 所得グループ別のICTインフラ普及年数(人口普及率10%に達するまでの年数を集計)
図表2-2-3-8 所得グループ別のICTインフラ普及年数(人口普及率10%に達するまでの年数を集計)
携帯電話やインターネットでは高所得国とそれ以外の普及年数の開きが縮小
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunication/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”により作成)

Excel形式のファイルはこちら
図表2-2-3-9 所得グループ別の携帯電話の普及年数(人口普及率が30%から80%に達するまでの年数を集計)
図表2-2-3-9 所得グループ別の携帯電話の普及年数(人口普及率が30%から80%に達するまでの年数を集計)
普及年数は低所得国ほど短い
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunication/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”により作成)

Excel形式のファイルはこちら
オ ブロードバンドの普及状況

●固定電話普及率が高い国ほど、固定ブロードバンド普及率が高い

 固定ブロードバンド網については、図表2-2-3-10のとおり、先進国を中心に、固定電話普及率が高い国ほど、固定ブロードバンド普及率が高い(いずれも人口普及率)。また、近年では、事業者間の競争環境を維持しながら、大規模事業者等が保有する従来の固定網のインフラ(管路、電柱等も含む)を活用する効率的なブロードバンド網整備に向けた政策を進めている国も多い。一方、インフラ整備が不十分な途上国では、政府のICT戦略などに基づき、多額の投資を通じて最新の技術を採用した新たなネットワークを構築する動きがみられる。

図表2-2-3-10 固定電話普及率と固定ブロードバンド普及率の関係(2009年時点)
図表2-2-3-10 固定電話普及率と固定ブロードバンド普及率の関係(2009年時点)
固定電話普及率が高い国ほど固定ブロードバンド普及率が高い
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunication/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”により作成)

 モバイルブロードバンド網については、図表2-2-3-11のとおり、普及が進んでいるのは、現時点では先進国が中心である。開発途上国では、携帯電話自体の普及率は急速に伸びているものの、基本的には音声、SMS(ショートメッセージ)、低速なデータ通信を中心とした利用を提供するネットワークである。しかしながら、WiMAXや第4世代携帯電話など今後のワイヤレスブロードバンド網への移行を踏まえると、現時点で採用技術が遅れていても、技術革新に伴い、技術を1世代、2世代と飛び越えて、積極的に導入を進める事業者が開発途上国において登場することも予想される。

図表2-2-3-11 携帯電話普及率とモバイルブロードバンド普及率の関係(2009年時点)14
図表2-2-3-11 携帯電話普及率とモバイルブロードバンド普及率の関係(2009年時点)
現時点ではモバイルブロードバンド普及は先進国が中心
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunication/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”により作成)


12 所得水準に係る基準及び本調査における該当国数は以下のとおりである(計205か国)。
 −高所得国:国民一人当たりGNI(国民総所得)11,906ドル以上 :43か国
 −上位中所得国:国民一人当たりGNI 3,856〜11,905ドル :53か国
 −下位中所得国:国民一人当たりGNI 976〜3,855ドル :46か国
 −低所得国:国民一人当たり GNI 975以下:63か国 ※基準は世界銀行に基づく(2009年7月公表)
13 なお、集計は1960年以降で、各ICTインフラの人口普及率が0%(導入初期)〜10%に達するまで費やした年数を、データが取得可能な国で平均化した(10%に達していない国は集計に含めていない)
14 出典の定義上、モバイルブロードバンドとは、上り回線又は下り回線のいずれか又は両方で256kbps以上の速度を提供する移動体網(セルラー方式)上のデータ通信回線を指す
テキスト形式のファイルはこちら