第2部 特集 共生型ネット社会の実現に向けて
第2章 浮かび上がる課題への対応

(3)ICT利活用上の課題分析


 今回、(1)及び(2)を踏まえ、個人間・集団間デジタル・ディバイドについて、デジタル・ディバイドが見られる「低所得層」、「高齢層」とともに、「ひとり親層」、「単身層」について、生活上の課題・社会関係やICT利活用の状況を意識調査の結果から検証し6、ICTの利活用を進めるにあたっての課題を分析することとする。

ア 生活上の課題・社会関係
 ここではインターネット利活用に係る分析の前提として、セグメント別に生活上の課題や社会関係の構築状況の特徴を分析する。

●生活上で悩みや不安を感じていることには「健康」が最も多い

 生活上で悩みや不安を感じていることをみると、対象全セグメントで「健康」が最も多くなっている(図表2-2-2-5)。特に、高齢層は「健康」が多い。また、低所得層、ひとり親層は「現在の収入・資産」「今後の収入や資産の見通し」が、単身層は「今後の収入や資産の見通し」が多い。

図表2-2-2-5 生活上で悩みや不安を感じていること
図表2-2-2-5 生活上で悩みや不安を感じていること
生活上で悩みや不安を感じていることには「健康」が最も多い
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

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●オンラインコミュニティは社会関係の補完の役割を一定程度果たしている

 次に社会関係の状況とオンラインコミュニティとの関係について俯瞰する。
 まず、個人的に親しい人の数(図表2-2-2-6)及び地域内住民の知り合いの数(図表2-2-2-7)をみると、低所得層はともに少ない。また、ひとり親層は「個人的に親しい人の数」が少なく、単身層は「地域内住民の知り合い」の数が少ない。コミュニティの参加状況(図表2-2-2-8)をみると、低所得層は「参加コミュニティなし」が多く、社会参加度が低い。ひとり親層も全体に比べて、やや参加度は低い傾向にある。単身層は「趣味や遊び仲間のグループ」がやや多いが、「参加コミュニティなし」も多い。高齢層は「趣味や遊び仲間のグループ」がやや多い。高齢層のインターネット未利用者は「参加コミュニティなし」も比較的多い。

図表2-2-2-6 個人的に親しい人の数
図表2-2-2-6 個人的に親しい人の数
低所得層及びひとり親層が少ない傾向
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

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図表2-2-2-7 地域内住民の知り合い
図表2-2-2-7 地域内住民の知り合い
低所得層、ひとり親層及び単身層が少ない傾向
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

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図表2-2-2-8 コミュニティの参加状況
図表2-2-2-8 コミュニティの参加状況
全体に「町内会」が多いが、単身層はあまり多くない
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

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 一方、オンラインコミュニティの参加状況(図表2-2-2-9)をみると、単身層、低所得層は全体に比べて特に多く、ひとり親層も約半数が参加しているが、高齢層の参加率は29.8%と低い。インターネットによる絆の再生状況7をオンラインコミュニティの参加者と不参加者とで比較すると(図表2-2-2-10)、いずれの層でも参加者が不参加者より大幅に多く、参加者の約7割が絆の再生を実現している。このように、オンラインコミュニティの利用が社会関係の補完の役割を一定程度果たしていると考えられる。

図表2-2-2-9 オンラインコミュニティへの参加状況
図表2-2-2-9 オンラインコミュニティへの参加状況
単身層及び低所得層が特に多く、ひとり親層も多い
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

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図表2-2-2-10 インターネットで実現した絆の再生
図表2-2-2-10 インターネットで実現した絆の再生
いずれの属性でもオンラインコミュニティ参加者の方が多い
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

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イ インターネット利活用状況の分析

●インターネット利用者の多くにとって、インターネットは生活の必須アイテムになりつつある

 インターネットの必要性について、属性別の認識の差を見てみると、ひとり親層、単身層は「ほぼ生活になくてはならないものになっている」が60%以上と最も多く、生活の必須アイテムになっている傾向が見られる(図表2-2-2-11)。また、低所得層でも「ほぼ生活になくてはならないものになっている」が半数を超えており、全体と同レベルで多い。一方、高齢層は「ほぼ生活になくてはならないものになっている」が全体に比べると少ないものの、1/3以上となっている。

図表2-2-2-11 ネットの必要度
図表2-2-2-11 ネットの必要度
低所得層、ひとり親層、単身層は「ほぼ生活になくてはならないものになっている」が50%以上
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

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●低所得層やひとり親層を中心に利用料金や利用端末を抑制する傾向がみられる

 パソコンの月額ネット料金をみると、低所得層、ひとり親層、単身層は4,000円以下の比較的低額のユーザーが全体に比べて多い(図表2-2-2-12)。このうち、ひとり親層については6,000円以上の比較的高額のユーザーも全体に比べると多く、二極化している。また、高齢層は5,000円〜7,000円の比較的高額のユーザーが多い。一方、ネットの接続機器種類数でみると、低所得層、ひとり親層、高齢層は、ネット接続種類が1種類と答える割合が高くなっている(図表2-2-2-13)。以上のことから、低所得層、ひとり親層は、経済的な理由から、使用機器や利用料金を絞り込んでいるユーザーが多い可能性が考えられる。

図表2-2-2-12 パソコンの月額ネット料金
図表2-2-2-12 パソコンの月額ネット料金
低所得層、ひとり親層、単身層には月額4,000円以下の比較的低額のユーザーが比較的多い
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

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図表2-2-2-13 インターネット接続機器種類数
図表2-2-2-13 インターネット接続機器種類数
低所得層、ひとり親層、高齢層は、ネット接続種類が1種類と答える割合が比較的高い
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

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ウ  インターネット活用技術の習得手段

●インターネット活用技術の習得方法は属性別に異なる。高齢層は、「習得機会がない」も比較的多い

 インターネット活用技術の習得手段については、低所得層、ひとり親層は「ウェブサイト等」が最も多く、単身層は「友人・知人」という人的チャネルが最も多い(図表2-2-2-14)。一方、高齢層は「家族」や「友人・知人」から習得している人が多いが、「習得機会がない」人も比較的多い。特に、高齢層のネット未利用者は「習得に無関心」な人が多いが、「習得機会がない」人も多い。

図表2-2-2-14 インターネット活用技術の習得手段
図表2-2-2-14 インターネット活用技術の習得手段
高齢層は「家族」や「友人・知人」、単身層は「友人・知人」、低所得層、ひとり親層は「ウェブサイト等」が多い
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

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エ インターネットで解決した生活上の課題

●インターネットで解決した生活上の課題は「健康」が最も多い

 インターネットで解決した生活上の課題については、対象全セグメントで「健康」が最も多く挙げられている(図表2-2-2-15)。「健康」は生活上の悩みとして最も多く挙げられた項目であり、その解決にネットが活用されていることがうかがわれる。特に、高齢層は「健康」を解決した人が48.4%と多くなっている。

図表2-2-2-15 ネットで解決した生活上の課題
図表2-2-2-15 ネットで解決した生活上の課題
インターネットで解決した生活上の課題は「健康」が最も多い
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

オ インターネット利活用の課題

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●経済的な課題が多いほか、高齢層では技術等への対応を課題として挙げる意見も多い

 一方、インターネット利活用上の課題については、対象全セグメントで「ネット接続料金が高い」が最も多く、また、低所得層、ひとり親層、単身層では「ネット接続端末が高い」が2番目に多く挙げられており、経済的な課題が上位に来ている(図表2-2-2-16)。

図表2-2-2-16 インターネット利活用の課題
図表2-2-2-16 インターネット利活用の課題
対象全セグメントで「ネット接続料金が高い」が最も多い
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

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 一方、高齢層では「新しい技術・製品・サービスについていくのが難しい」が多く、「端末の使い方がわからない」、「世の中のサービスがインターネット中心になってきているが、ついていけない」といった、技術等への対応面を課題として挙げる回答が比較的多い。特に、高齢層のネット未利用者は「端末の使い方がわからない」や「世の中のサービスがインターネット中心になってきているが、ついていけない」が多い。

カ インターネット利活用における課題を解決するために求められていること

●「インターネット接続料金の一層の値下げ」が最も多いが、高齢層は「使い勝手がよい端末の開発」も比較的多い

 インターネット利活用の課題の解決サービスのニーズを見てみたものが図表2-2-2-17である。インターネット利活用の課題を反映して、対象全セグメントで「ネット接続料金の一層の値下げ」が最も多く挙げられている。また、低所得層、ひとり親層、単身層では「ネット接続料金の負担支援制度」が2番目に多く挙げられており、経済的な支援施策が上位に来ている。

図表2-2-2-17 インターネット利活用における課題を解決するために求められていること
図表2-2-2-17 インターネット利活用における課題を解決するために求められていること
「インターネット接続料金の一層の値下げ」が最も多いが、高齢層は「使い勝手がよい端末の開発」も比較的多い
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

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 一方、高齢層では「使い勝手がよい端末の開発」も比較的多い。なお、「使い勝手がよい端末の開発」はひとり親層でも比較的多い。高齢層のネット未利用者は「使い勝手がよい端末の開発」が多く、「地域内のヘルプデスク機能」も比較的多い。

キ 個人間・集団間デジタル・ディバイドを解消するために

●デジタル・ディバイドを解消しICT利活用を進めるため、多様なニーズに対するきめ細やかな対応が必要

 今回の分析を総合すると、属性間で共通する課題と異なる課題が明らかになった。具体的には、低所得層、ひとり親層、単身層については、「ネット料金が高い」などの経済的な課題が多く、その解決策も経済的なものが多い。
 一方、高齢層については、他の層とは異なり、「使い勝手がよい端末の開発」などリテラシー面での課題も大きな位置を占めている。また、高齢層のネット未利用者は習得に無関心な人が多い傾向にあるが、そもそも、習得機会がないとした人も多かった。
 我が国において、既に国民の7割以上がインターネットを利用している状況にあり、インターネットにアクセスできないことによる新たな格差の発生が懸念されている。今回の調査でも、高齢層のネット未利用者がネット利活用の課題として、「世の中のサービスがインターネット中心になってきているが、ついていけない」を挙げる割合が高かった。
 今後、人にやさしいICTの実現等を通じて、ICTが人に寄り添い、その利活用が容易となるような取組も重要と考えられる。
 また、低所得層、ひとり親層、単身層は経済的な生活課題を挙げる率が高く、インターネット利用は一定程度されているものの、経済的なことが課題となっている。この層は社会関係が比較的希薄でいわばソーシャル・ディバイドとも呼べる「孤立化」の状況が見受けられるが、オンラインコミュニティの利用が社会関係を一定程度創出するなどの解決になっていると考えられる。
 これまで、デジタル・ディバイドはインフラ面を中心に語られることが多かったが、利活用面から見てみると、今回の調査でも多様なニーズがあることが明らかになった。今後、利用者本位でこれら異なるニーズにきめ細やかに対応していくことが、デジタル・ディバイドを解消していく上で重要であると考えられる。


6 日本国内のインターネット利用者を対象としたウェブ調査及び一般国民を対象とした郵送調査を行い、分析対象層別割り付けを行って、低所得層299人、ひとり親層100人、単身層299人、高齢層200人の回答を得た。調査の概要については、付注3を参照
7 インターネットを利用して「離れて暮らす家族・友人・知人とコミュニケーションを深めることができた」「疎遠になっていた家族・友人・知人とコミュニケーションを深めることができた」「疎遠になっていた家族・友人・知人の近況を知ることができた」「インターネット以外の現実での知人などとのコミュニケーションのきっかけとなった」「自分の情報や作品を知らせたり、コメントをもらうことができた」「おなじ趣味、嗜好を持つ人を探すことができた」「自分の周囲にいない人を探すことができた」のいずれかが実現したこと
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