第2部 特集 共生型ネット社会の実現に向けて
第2章 浮かび上がる課題への対応

(5)障がい者にやさしいICTの実現


 障がい者にとってICTは、自立生活、在宅就業、就労に向けた教育、生活・就労のための情報収集等、障がい者の社会参加・生活を容易にする潜在力をもっていると考えられる。しかしながら、平成22年版情報通信白書において指摘したように、ICTツールは障がい者の情報入手方法としてはいまだ低い状況にあり、ICT製品・サービス等における障がい者の情報バリアフリー対策等は重要な課題となっている。今回、障がい者をめぐるインターネットの利用状況等を概観した上で、障がい者の社会参画支援の取組事例や、最近伸長の著しいスマートフォンを活用した障がい者支援の取組事例を紹介し、その成功要因等を分析する。

ア 障がい者のインターネット利用状況

●障がい者のインターネット普及は低い水準

 内閣府が平成21年度に行った調査によると、障がい者のインターネットの利用は、52.2%となっている(図表2-2-2-21)。平成21年末のインターネットの人口普及率が78.0%8であることから見ても低い水準にとどまっており、障がい者のインターネットの普及については課題があると考えられる。

図表2-2-2-21 インターネットの利用状況
図表2-2-2-21 インターネットの利用状況
「利用している」が52.2%、「利用していない」が46.2%
内閣府「平成21年度 障害者施策総合調査」により作成
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/h21sougo/gaiyo/index.html

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 障がい者にとって、インターネットを利用する際に困ること・不安なことについては、「個人情報の流出がこわい」が40.0%で最も多く、次いで「インターネットによる悪徳商法がこわい」が30.0%、「機器や通信にかかる費用が高い」が28.4%となっている。障がい者のデジタル・ディバイド解消についても、まずは、情報通信に関するリテラシーの向上や情報通信機器・料金の低廉化が重要であるといえる。また、「画面の表示やデザインが見づらい(13.7%)」、「書かれている内容が難しい、わかりづらい(15.7%)」、「キーボードや周辺機器、ソフトウェアが操作しづらい(15.3%)」、「音声が聞きづらい、わからない(10.3%)」、「点字ディスプレイ、ジョイスティック、読み上げソフト、その他の補助機器・ソフトウェアの開発普及や操作性が不十分(9.5%)」といったユニバーサルデザイン等の充実や、「使い方を教えてくれる人が身近にいない(17.8%)」といったサポート体制の充実も障がい者のインターネット普及に向けた課題と考えられる(図表2-2-2-22)。

図表2-2-2-22 インターネットを利用する際に困ること・不安なこと
図表2-2-2-22 インターネットを利用する際に困ること・不安なこと
「個人情報の流出がこわい」「インターネットによる悪徳商法がこわい」「機器や通信にかかる費用が高い」が上位
内閣府「平成21年度 障害者施策総合調査」により作成
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/h21sougo/gaiyo/index.html

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 このように、障がい者はインターネットを利用する際に様々な課題を抱えているが、一方で、インターネットの活用にあたり、受けている支援の状況については、「何も利用していない」が72.2%に達している(図表2-2-2-23)。今後、障がい者がICTをより利活用しやすい環境を整備するとともに、社会に積極的に参画できるようICTの力を最大限活用していくことが求められる。

図表2-2-2-23 インターネットの活用にあたり、受けている支援
図表2-2-2-23 インターネットの活用にあたり、受けている支援
「何もしていない」が72.2%
内閣府「平成21年度 障害者施策総合調査」により作成
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/h21sougo/zentai/index.html

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イ ICTを活用して障がい者の社会参画支援に取り組んでいる事例
 平成22年版情報通信白書においては、ICTを活用した障がい者の社会参加事例や、地元や特定非営利活動法人が連携して障がい者を支援している事例を中心に紹介した。今回は、ICTを活用した障がい者の社会参画支援に長く取り組んでいる事例を紹介し、その成功要因等を分析する。

(ア)特定非営利活動法人札幌チャレンジド (北海道札幌市)

●自立を目指す障がい者のパソコン技術の習得や社会参画を支援

 「札幌チャレンジド」は、平成12年に発足し、障がい者にパソコンやインターネットを教えて社会参加と就労を支援している特定非営利活動法人である(図表2-2-2-24)。

図表2-2-2-24 特定非営利活動法人札幌チャレンジド (北海道札幌市)
図表2-2-2-24 特定非営利活動法人札幌チャレンジド (北海道札幌市)
講習会を通じて障がい者がICTの操作技術を身に付け、その技術を活かして社会参画を実現
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

 事務所内にある3つの講習会場でICT訓練を行っており、うち1か所は視覚障がい者用の専門の施設である。毎日、午前・午後パソコン講習を実施しており、年間で延べ3,000人が受講している。日常生活を送るために必要なアプリケーションの操作方法を中心に、ICTの基礎レベルを講義している。また、最近ではコミュニケーション力をつける講義を行っている。障がい者が学びやすいよう、ゆっくりしたスピードで講義していることが特徴である。ICTの訓練を継続してきたことで障がい者自らが講師となり、育成指導に回り始めている。
 また、同法人では就労支援も行っている。障がい者が行っている仕事は、テープ起こし、通販サイトデータ入力、ホームページ製作、字幕製作、キーワード付与、画像処理、アフィリエイト関連、動画監視、クラウドシステム構築、パソコン講習講師、事務局補助業務と幅広い。同法人ではブロードバンドの普及は障がい者の社会参画、貢献面でプラスになっているという。インターネットが多くの人に普通に利用されるようになったことから、障がい者の社会参画の場としてだけではなく、障がい者が携わることができる仕事が増えていると分析している。
 さらに、同法人では活動にあたり経済的自立を強く意識しており、そのための工夫を行っている。同法人が積極的に営業を行い、活動に賛同した行政や企業が発注者となっている。同法人では、企業がある作業を発注する場合、通常の外注費用の8割で受注するという目安をオープンにしている。発注企業はコスト削減と社会貢献の両方を実現でき、かつ付き合いやすくもなっている。さらに、同法人側でもお金を受け取り、品質・納期が求められることで、障がい者のやる気につなげている。

(イ)特定非営利活動法人アイ・コラボレーション (滋賀県草津市)

●ICTを用いた社会参画を理念に、障がい者自らが設立、活動を展開

 「アイ・コラボレーション」は、障がい者の有志メンバー5名が平成12年に設立した特定非営利活動法人である(図表2-2-2-25)。同法人では障がい者の働く場、能力開発の場、社会参加の場、社会貢献の場の4つの活動目的を定め、ICTを用いて障がい者と健常者が共に協力して働くことを理念としている。数値入力、ホームページ作成、映像作成、印刷が現在の業務内容である。

図表2-2-2-25 特定非営利活動法人アイ・コラボレーション (滋賀県草津市)
図表2-2-2-25 特定非営利活動法人アイ・コラボレーション (滋賀県草津市)
ICTで障がい者同士が各人の強みを活かして協働することで、高い品質の製作物を仕上げている
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

 利用者は約50名である。クリエイティブな仕事ができるということで障がい者の間で評判が広まり、人が増えている。職員が営業となり、各障がい者の特性を踏まえ仕事を取ってきて、各障がい者に分配して仕事をしてもらう形で進めている。
 また、「一人ひとりのできる範囲が限定されても、それぞれの強みを生かして協働すれば高い品質の仕事をすることができる」との考えを有しており、ICTを自分たちの生産性を高めるために役立てている。特に、情報共有はとても重要との考えであり、チャンレンジドのコミュニケーションや、リーダー(職員)同士での仕事のコラボレーション用に使っている。
 さらに、同法人では、行政からの受託事業として、障がい者向けのICT講習「IT訓練」も3か月1クールで実施している。これまでに8名を受け入れており、全員が就職に至っているという。同法人では障がい者にはパソコン操作だけではなく、コミュニケーション能力が付いて仕事ができるようになるとの考えがあり、コミュニケーションについても訓練内容に含めている。

(ウ)キャリアデザイン・インターナショナル株式会社 (大阪府大阪市)

●ICTを活用した業務形態で、子育て期の主婦の在宅ワークのみならず障がい者の社会参画も支援

 キャリアデザイン・インターナショナル株式会社は、主婦テレワーカーのネットワークによってインターネットギフトサイトの運営を行っている企業である(図表2-2-2-26)。もとは、子育て期の主婦の在宅ワークがターゲットであったが、社会参画を希望する障がい者に能力訓練によって自信をつけてもらい、社会参画を促進させるため、精神障害を有する障がい者を支援する大阪市内の特定非営利活動法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク(JSN)に業務発注している。

図表2-2-2-26 キャリアデザイン・インターナショナル株式会社 (大阪府大阪市)
図表2-2-2-26 キャリアデザイン・インターナショナル株式会社 (大阪府大阪市)
顧客と直接対面しなくてもICTを通した応対としたことで障がい者の精神的負担も軽減
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

 同社からJSNへ受注情報をメールで送り、JSN側でデザインを行った版下の画像を送り返している。これらの版下を電話・パソコンの電話会議システム(Skype)とネットでお互いに確認、修正をしつつ決定している。その後、JSN側で作業し、完成後発送をしている。
 障がい者はサンドブラスト9でギフト用のワインボトルのデザイン・加工を行い、商品を製作・納品している。納入後、顧客からの喜びの声が届くことで自信と社会参画意欲の向上に役立っている。
 直接対面ではなく、ICTを活用したコミュニケーションを基本とした業務形態とすることにより、障がい者の精神的負担感を軽減し、また訓練を通じて自信や就労意欲が向上させることで、その後の職業定着率に貢献しているという。

ウ スマートフォンを活用した障がい者支援の取組事例
 近年伸長著しい、スマートフォンに代表される新たなICTの技術トレンドは、端末やアプリケーションの高機能化などを通じて、障がい者にとっても新たな利活用のポテンシャルを有していると考えられる。ここでは、スマートフォンに着目し、それを活用した障がい者支援の取組について紹介する。

(ア)拡張現実技術を活用したスマートフォンによる色覚サポート 「色のめがね」

●拡張現実(AR)技術を使用してスマートフォンで色の認識を支援する色覚サポートツール

 色覚異常のある人が色を見分けることができる「色のめがね」、及び、正常色覚の人が色覚異常のある人がどのようにみるかをシミュレートするアプリ「色のシミュレータ」は、北海道札幌市在住のICTベンチャー元社長のX氏が作成したスマートフォン用のアプリである(図表2-2-2-27)。これらのアプリはアプリ配信サイトを通じて全世界へ無料で公開されており、2本を合わせて12,100本10がダウンロードされている。

図表2-2-2-27 拡張現実技術を活用したスマートフォンによる色覚サポート 「色のめがね」
図表2-2-2-27 拡張現実技術を活用したスマートフォンによる色覚サポート 「色のめがね」
スマートフォンのアプリ「色のめがね」により、色覚異常のある人が色を見分けることが可能に
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

 「色のめがね」は色覚異常者が日常生活の中で見えない又は見えにくいものがあったときに、かざせばそれが見えるよう気軽に使えることを目標に開発されている。携帯性、リアルタイム性、インタラクティブ性、(持っていて)普通に見えることの4つの開発コンセプトを有している。また、同氏は大学教授や大学時代の恩師、昔の仕事仲間などを通じて、専門家や支援団体の紹介を受け、ICTや色彩科学等に関する情報収集や助言を得て、学術的にも正しい開発となるよう活かしている。
 本アプリは画像をリアルタイムで表示するために1点1点超高速で置き換える画像処理能力が求められるが、小型でパソコン並の能力を有するスマートフォンが普及し始めたことも追い風となっている。
 配信サイト、ホームページやソーシャルメディア経由で利用者からの声が寄せられている。星3つ以上の評価が9割と満足度も高い。中には「色をありがとう」という感謝のメッセージも寄せられている。今後、利用者からのフィードバック等を通じて、更なる開発を進める予定である。

(イ)自閉症の息子のために開発したコミュニケーション支援ツール 「Voice4u」

●自閉症の息子のために開発したコミュニケーション支援ツールがスマートフォンに載って世界に拡がる

 夫の米国駐在に従ってシリコンバレーに住むようになった日本人主婦X氏は、自閉症の息子のコミュニケーション支援ツールが5kgにも及ぶファイル式のもので、重くて高価な割に使いにくかったため、なんとか改善したいと考えていた。X家には地域のICT技術者も出入りしていて、いろいろ話をしている中で、当時脚光を浴び始めていたスマートフォンでそのツールを実現してはどうかということになった。当初は自分の息子やその仲間くらいで使えればよいと思ったが、周囲のスピーチセラピスト、聴覚専門家、医師、ICT技術者などの専門家に協力してもらう中で、世の中に普及すべきものだという考えに変わっていき、会社を設立して本格的に開発することになった。
 開発に当たっては、自閉症の人のニーズに即して、できるだけ複雑なものにならないようにした。また、表示する人の絵は髪の毛や服をつけない(つけるとそちらに注意がそれてしまう)、低めの少し暗めの声にする(通常ある音声システムのような明るい女性の声は自閉症の子どもは苦手なことが多い)等、細かなところまでこだわり、自閉症の子どもたちに使ってもらい試作を重ねて開発していった。
 開発プロセスにおいては、仲間の主婦などから「これはいやだ」など、主婦感覚の言葉で述べられることも多かったが、それを、ボランティアでこのプロジェクトに関わる中で「天職」と感じて参加した、開発責任者のY氏をはじめとしたICT技術陣がねばり強く受け止めて、製品化にこぎつけた(図表2-2-2-28)。

図表2-2-2-28 自閉症の息子のために開発したコミュニケーション支援ツール 「Voice4u」
図表2-2-2-28 自閉症の息子のために開発したコミュニケーション支援ツール 「Voice4u」
自閉症の息子のために開発したコミュニケーション支援ツールがスマートフォンに載って世界に拡がる
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

 このように、徹底したユーザー指向の製品として開発し、価格も類似製品に比べると安価な「主婦の小遣いの範囲」にとどめたこともあり、スマートフォンのアプリ配信サイトからは世界33か国でダウンロードされている。
 今後は英語、日本語以外の言語にも対応するなど、さらなるバージョンアップを図りたいと考えている。


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