第3部 情報通信の現況と政策動向
第4章 情報通信の現況

2 海外の情報通信政策の動向


(1)米国の通信政策の動向

●国家ブロードバンド計画の実現に向けた取組が進む

ア 国家ブロードバンド計画3
 米国では、連邦通信委員会(FCC:Federal Communications Commission)を中心に、2010年3月16日に公表された「国家ブロードバンド計画」(Connecting America: The National Broadband Plan)の実現に向けた動きが盛んである。同計画は、2009年2月に成立した「米国再生・再投資法」(The American Recovery and Reinvestment Act of 2009 (Recovery Act))に従って進められており、[1]世界一のブロードバンド環境の実現、[2]世界一のワイヤレスブロードバンド環境の整備、[3]全国民へのブロードバンド・サービス(ユニバーサル・サービス)の提供、[4]教育・医療等でのブロードバンドの利用、[5]公共安全ネットワークの確保、[6]グリーンICTの利用、といった6つの目標を達成するため、ベンチマークを確立し、先端的なICTを米国の社会経済全体にもたらすことを目指している。
 また、同計画では、ケーブルインターネットや光ファイバ、DSLといった有線ベースでのブロードバンド技術のほかに、今後10年以内にブロードバンドに使用するために新たに500MHz幅(5年以内に300MHz幅)の周波数を割り当てることを勧告している。

イ ユニバーサル・サービス基金の改革検討
 「国家ブロードバンド計画」では、ユニバーサル・サービス基金(Universal Service Fund)の改革も提案されている。国家ブロードバンド計画には、今後10年間かけてユニバーサル・サービス基金によるブロードバンド・サービス支援を実現し、学校・図書館を支援する「E-rateプログラム」のアップグレード、ルーラル地域の医療機関を支援する「ルーラル・ヘルスケア・プログラム」の改革とアップグレード、ブロードバンド未提供地域等を支援する「コネクトアメリカ基金」の創設、すべての州で一定水準以上の3G(又はそれ以上)サービスを利用可能とする「モビリティ基金」の創設が挙げられている。FCCは、2010年4月から、ユニバーサル・サービス基金の制度改正手続を開始している。

ウ ネット中立性原則法制化のための決定採択
 オバマ政権は、インターネット上での自由競争による便益を確保するため、ネット中立性原則を支持する立場を明らかにしている。FCCは、こうした政権からの後押しを受け、2009年10月にはネット中立性を確保する規則制定手続を開始した。しかし、連邦D.C.巡回区控訴裁判所は2010年4月、コムキャストが提起したFCCによる是正命令の再考を求める訴訟において、FCCはインターネットサービスプロバイダ(ISP)のネットワーク管理行為を規制する権限を例証できなかったとして、FCCの命令を無効化する判決を下した。
 その後、FCCは、インターネット規制権限を確保する手法について業界関係者らと模索、最終的に、FCCは2010年12月、ネット中立性原則を法制化するための決定を採択した。同決定では、大手ISPがインターネットのゲート・キーパーとしてユーザが利用できるコンテンツやサービスを支配するようになることを防止することが目的となっている。一方で、電気通信・ケーブルテレビ事業者が有償で回線容量を優先的に割り当てることも認めている。


3 FEDERAL COMMUNICATIONS COMMISSION [2010], "Fiscal Year 2010 Annual Performance Report (October 1, 2009ーSeptember 30, 2010)" [http://www.fcc.gov/Reports/ar2010.pdf]に基づく
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