第2部 特集 共生型ネット社会の実現に向けて
第2章 浮かび上がる課題への対応

(4)個人間・集団間デジタル・ディバイドの解決に向けた取組事例


 このような個人間・集団間を中心としたデジタル・ディバイド解消に向けた取組として、どのようなものがあるであろうか。ICTの利活用支援を通じたデジタル・ディバイドの解消については、いわゆる「IT講習会」や「パソコン教室」などを始め、様々な取組が、様々な層を対象に行われてきているところだが、今回は、(3)で課題分析を行った「高齢者(高齢層)」、「ひとり親世帯(ひとり親層)」について、取組事例を紹介する。
 特に、高齢者のICT利活用支援に関しては従来から多くの取組がされているが、ここでは、多くの支援経験を有していると考えられる、継続的に高齢者向けのICT利活用支援等を行っている事例について分析を行った。また、ひとり親世帯のICT利活用支援については、就労と子育ての両立が大きな課題と考えられることから、その解決策としてICT利活用が位置付けられている事例について、分析を行った。

ア 高齢者のICT利活用支援

(ア) メロウ倶楽部

●ネット上の会議システムによるコミュニティづくりでシニアのこころと暮らしを支える

 メロウ倶楽部はパソコン通信時代に発足したシニアネットコミュニティがインターネット対応に衣替えして設立・発展した「シニアによるシニアの」コミュニティである(図表2-2-2-18)。シニアの全国ネットとして、オンラインとオフラインの両方の活動を行っているが、「クルマいすの上でもフルに会員ライフが楽しめる」をモットーとしてオンラインでの活動を主としており、幹事会活動や事務処理もすべてオンライン上で行っている。

図表2-2-2-18 メロウ倶楽部
図表2-2-2-18 メロウ倶楽部
ネット上の会議システムによるコミュニティづくりを通じてシニアのこころと暮らしを支える
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

 「会議室(部屋)」と呼ばれる掲示板システムがコミュニティの基本的な交流基盤となっている。内容としては、「写真」、「俳句」、「植物園」、「電脳音楽」等の趣味の部屋をはじめ、「生・老・病・死・介護」を語り合う部屋やICTに関する情報交換の部屋等がある。中には死に臨む直前までネットによる励ましなどの交流を行った例もあるなど、シニアの本音を語り合う場となっている。会員が最も多い70代は文章表現が得意であることが、このような会議室システムが盛んに使われている一因であると考えているとのことである。なお、オフラインの活動、いわゆるオフ会についても、参加申し込み、変更、キャンセルなどの連絡すべてが掲示板システムを利用して行われる。
 また、国際交流についても韓国のシニアネットである「KJクラブ」と継続的にオンライン、オフラインの両面で交流している。
 さらに、新たなICTについても積極的に取り入れており、最近ではネット環境のない場所での勉強会に際してモバイルWi-Fiルーターを導入してネット環境を実現したり、「どこでも放送局(ライブ配信サイト)」を利用して勉強会やイベント映像のライブ配信を行ったり、遠隔音楽セッションシステムを利用して遠隔地の会員同士の合奏を行うなど、必要に応じて様々なサービスを活用している。
 ICT環境についてはすべて自前で活用又は開発・運用等をしており、会の運営予算も補助金等は一切受けずに会費収入等の自前の資金ですべて賄っている。まさに自立した「シニアによるシニアの」コミュニティとなっている。

イ ICTを利活用した就労と子育ての両立
(ア)NTT Com チェオ株式会社 (東京都港区)

●在宅型コールセンター事業により、ひとり親の就業を支援

 NTT Com チェオ株式会社は、インターネット接続等の各種設定に関する問い合わせに対し、電話及び訪問によるサポートサービスを提供している(図表2-2-2-19)。電話によるサポートは在宅就業形式をとっており、スタッフは、30〜40代の女性を中心に約1,000名が全国で業務を実施している。このような規模で全国に展開している在宅型コールセンター事業としては、日本で唯一の取組事例である。

図表2-2-2-19 NTT Com チェオ株式会社(東京都港区)
図表2-2-2-19 NTT Com チェオ株式会社(東京都港区)
自宅で個人の都合に合わせた時間だけ勤務ができるワークスタイルは、ひとり親家庭から評価を得ている
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

 研修は、自宅のパソコンにウェブカメラとヘッドセットを取り付けて実施する。また、実際の業務は専用の業務サイトにログインをすると、自動的に電話を受信する仕組になっており、サポート時間内であれば都合の良い時間帯に、都合の良い時間だけ、業務を実施することができる。
 また、同社は平成21年から、自社事業を生かしたCSR活動の一環として、ひとり親家庭を対象とした就業支援を実施している。児童扶養手当が支給されていることを条件に、在宅電話サポートスタッフとして就業するための資格取得費用の免除、及び研修費の半額免除に取り組んだ。ひとり親は、子どもの世話と仕事の両立に悩みを抱えており、在宅で自分の都合に合わせて柔軟な働き方ができる同社の取組は、ひとり親から高い評価を得ているとのことである。支援を受けたひとり親の資格合格率は、一般の受検者よりも高く、現在は約10名のひとり親が精力的に活躍している。当初は母子家庭のみを対象としていたが、平成22年からは父子家庭まで対象を拡大した。在宅スタッフは、スタッフ同士で自らコミュニティを形成し、日頃から熱心に勉強会を開く様子も見られるとのことである。
 東日本大震災では、震災や停電により一時的に就業が困難になった地域の業務を、他地域のスタッフが補完するという全国展開型在宅コールセンターの強みを発揮した。在宅コールセンター事業は、ひとり親のみならず、地域の雇用対策、シニア世代の就業機会創出という点からも注目されており、同社は在宅コールセンター事業の拡大のために、今後他組織との連携などにも取り組む意向をもっている。

(イ)愛媛県松山市によるひとり親家庭等の在宅就業支援事業

●ひとり親を対象にICTスキル習得を行い、在宅就業を実現

 愛媛県松山市では従来からICTを活用し在宅就業を可能とするテレワークの推進・定着に力を入れてきた。在宅就業は、コスト面、多様な才能の活用、優秀な才能の発掘などの面でメリットがあるととらえている。
 現在、市内在住のひとり親等を対象に、仕事と育児の両立を支援する「松山市ひとり親家庭等の在宅就業支援事業」に取り組んでいる(図表2-2-2-20)。本事業では東京に本社のある人材派遣事業者であるパソナテックに業務委託を行っている。

図表2-2-2-20 愛媛県松山市によるひとり親家庭等の在宅就業支援事業
図表2-2-2-20 愛媛県松山市によるひとり親家庭等の在宅就業支援事業
ひとり親等を対象にICTスキル習得を行い、在宅就業を実現
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

 本事業では、ひとり親に対してまず3か月間の基礎訓練を行い、その後12か月の応用訓練及びOJT研修を実施する。OJTでは在宅就業で発生すると見込まれるコールセンター、データ入力、WEB監視等の業務を行っている。
 在宅就業はICTの活用なしでは実現できない。一方、ICTを利用することで情報漏えい等の問題が発生することが予想される。そのため、最新のICTを活用し情報を持ち出せないように工夫している。具体的には、シンクライアント、指紋認証技術、ウェブカメラでのスクリーンロック機能を導入した。また、入力データの個人情報が判別できないよう、在宅ワーカーへ分割して渡すための特別なソフトウェアや在宅コール業務用に専門事業者の在宅コールセンター用システムも導入した。
 受講後は、引き続き個人事業主又は契約社員として在宅業務に従事することや、委託事業者が運営するBPOセンターにて直接雇用することなどを想定している。
 また、同市では本事業を通じてひとり親を中心に市の複数の関係部局が横断的に支援・情報共有できる庁内体制を構築している。
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