第2部 特集 共生型ネット社会の実現に向けて
第3章 「共生型ネット社会」の実現がもたらす可能性

みんなでつくる情報通信白書コンテスト2011 一般の部 優秀賞受賞コラム


わたしとブログ〜家族のつながり〜

執筆 藤井 仁司(ふじい ひとし)さん(溶接工 京都府八幡市)

コメント:離れた場所で暮らしていても家族を思う気持ちをつなげてくれる情報通信。便利になった情報通信機器に感謝する思いを書きました。

 最後に母に言った言葉は「おれの自由にさせろ!」だった。些細な口論から口喧嘩に発展し家を出ることになった。以来、実家にも戻らず母と会わない生活を送っていた。

 母がブログをしていると姉からメールが届いたのは家を出て一年ほど経った頃。

『本当は母さんを心配してるんでしょ?ブログで近況だけでも調べたら?』

 私の心中を読み取った姉のメールに家を出た当初の罪悪感が蘇った。母は高血圧の持病を抱えている。怒らせたり心配をかけて血圧を上げないよう家族は気をつけていた。

 機械音痴な母がブログをしているのか半信半疑だった。しかし、予想に反し母のブログはすぐ見つかり、その出来に驚いた。

 ブログのテーマは「花」。花好きな母らしい花満載のブログだった。ガーデニングで育てた花。花好きの友達からもらった花。散歩途中で見つけた野花。

 デジタルカメラで撮った様々な花を二日に一度の頻度で更新しブログに載せていた。自分の顔が写らないよう写真を撮ってあるが、綺麗な花を見つけたときの母の笑顔が私には見えていた。

 ブログに寄せられるコメント数も多く、花友達と野花を見つけにも行っており、私の心配をよそに母は元気に暮らしていた。

 それから母のブログを覗くのが日課になった。インターネットで母親の様子をうかがう。数年前までは考えられなかった。遠く離れた場所からでも家族の姿を見られて通信機器の発達に本当に感謝した。

 多様な花を育てていた母でもなかなか入手できない花があった。それがレッドファンネルという新種の花。近所の花屋を巡っても売ってないらしく、その花を手に入れるのが目標と何度となくブログに書いていた。

 その文章を見るたび「母もまだまだだな」と笑みが出た。ブログを作れてもインターネットをまだ使いこなせていない。近所の花屋にはなくてもネットで探せば買えるのだ。

 新種なだけあり、探すのに少々時間がかかったが、無事発見し購入した。そしてそれを母に送った。ただ送るだけでは芸がないと思い、プレゼントカードも添えてもらい、『大切に育ててください。ウォンビンより』と母が好きな韓国人俳優の名前を書いた。

 花が届いた当日、母はブログを更新した。念願の花が手に入った喜び一杯の文章が溢れていたが、私が遊び心で添えた名前には一切触れていない。ただ最後に『ドラ息子、早く帰っておいで』という文でブログは締められていた。思えば、母の好きな韓国人俳優を知っているのは家族だけ。下手な小細工をしても送り主が私だと母にはばれていた。

 レッドファンネルの開花は四月から五月。ゴールデンウィークに今度は両手一杯の花を持って実家に帰ろうかと思う。それまでは通信機器によって母の元気な姿を見させてもらおう。
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