第3部 情報通信の現況と政策動向
第5章 情報通信政策の動向

(2)国際機関及び多国間関係(アジア・太平洋地域関係を除く)における国際政策の展開


ア 国際電気通信連合(ITU)活動への参加
 電気通信に関する国連の専門機関である国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)は、
 [1] 無線通信部門(ITU-R:ITU Radiocommunication Sector)
 [2] 電気通信標準化部門(ITU-T:ITU Telecommunication Standardization Sector)
 [3] 電気通信開発部門(ITU-D:ITU Telecommunication Development Sector)
の3部門から成り、周波数の分配、電気通信技術の標準化及び開発途上国における電気通信分野の開発支援等の活動を行っている。我が国は、各部門へ研究委員会の議長・副議長及び研究課題の責任者を多数輩出し、勧告を提案するなど、積極的に貢献を行っている。
 2010年(平成22年)10月には、ITUの最高意思決定機関である全権委員会議がメキシコ合衆国のグアダハラにおいて開催されたが、その中で実施されたITU理事国の選挙において、我が国は1959年(昭和34年)以来連続10回目の当選を果たした3。また、併せて行われた、ITU無線通信規則委員会(RRB:Radio Regulation Board)の委員選挙では、アジア・太平洋地域において定員3名のところ7名が立候補したが、我が国の伊藤泰彦氏((株)KDDI研究所会長(当時))がトップ当選を果たした4

(ア)ITU-Rにおける取組
 ITU-Rでは、あらゆる無線通信業務による無線周波数の合理的・効率的・経済的かつ公正な利用を確保するため、周波数の使用に関する研究を行い、無線通信に関する標準を策定するなどの活動を行っている。近年では、2010年(平成22年)10月に開催されたITU-R WP5D(Working Party 5D)会合において、第4世代携帯電話の通信方式として期待されているIMT-Advancedの無線通信方式の候補技術として、3.9世代携帯電話で使用されるLTE(Long Term Evolution)を高度化した「LTE-Advanced」と、WiMAXを高度化した「WirelessMAN-Advanced」の二つの方式が採択された。今後、2012年(平成24年)1月の標準化を目指して、勧告案の詳細内容について検討が進められる。これらの活動について、我が国からも寄与文書を提出するなど、積極的に貢献しているところである。
 その他、地上デジタル放送方式関連、蓄積型サービス等の新しい放送サービス及び超高精細映像(UHDTV)などの最新技術に関する活動や航法衛星システムに用いられる無線航行衛星業務(RNSS)システムの技術特性や他業務との共用検討等についても、積極的に取り組んでいる。

(イ)ITU-Tにおける取組
 ITU-Tでは、通信ネットワークの技術、運用方法に関する国際標準の策定や、これに必要な技術的な検討を行っている。
 新たな取組分野として、クラウドコンピューティング及びスマートグリッドに関する通信技術について、特定のトピックに関してICTの観点から標準化すべき事項について、2010年(平成22年)5月から、ITU-T以外の専門家も参加し短期集中的に研究するフォーカスグループ(FG:Focus Group)で検討されており、2011年(平成23年)12月に取りまとめが行われる予定である。我が国は、当該FG活動において、作業グループの役職者の輩出や寄与文書の提出等、積極的に貢献しているところである。
 その他、ICT利活用に関する気候変動対策、サイバーセキュリティ等のセキュリティ関連技術、次世代ネットワークの相互接続性確保や新世代ネットワークといったネットワーク技術、電子タグやIoT(Internet of things)といったセンサー技術、デジタルサイネージや自動音声翻訳サービス等の新たなマルチメディアサービス/アプリケーションに関する技術等の国際標準化へ向けて積極的に取り組んでいる。
 今後も、引き続きITU-Tで検討が進められる技術の標準化活動への貢献を予定している。

(ウ) ITU-Dにおける取組
 ITU-Dでは、開発途上国における電気通信分野の開発支援を行っている。
 2010年(平成22年)5月24日から2週間にわたり、ITU-Dの総会である世界電気通信開発会議(WTDC-10:World Telecommunication Development Conference-10)が開催され、今後の活動指針となるハイデラバード宣言及び行動計画が採択された。同計画には、インフラ整備、技術開発、人材育成、緊急通信、気候変動への適応等に関するプログラムが盛り込まれ、これらのプログラムに基づき、様々なプロジェクトの実施や各種ワークショップの開催といった活動が積極的に進められている。
 我が国においても、2007年(平成19年)及び2008年(平成20年)に、アジア・太平洋諸国及びアラブ諸国等で標準化活動に従事する政府職員等を対象とした標準化格差是正に関する研修を実施した。また、2010年(平成22年)3月には「ワイヤレスブロードバンドネットワーク会議」を、2011年(平成23年)3月には「医療健康分野におけるICT利活用に関する会議」を、それぞれITUとの共催により東京で開催するなど、積極的にITU-Dの活動への貢献を行っている。

イ インターネットガバナンスフォーラムへの協力
 インターネットガバナンスフォーラム(IGF:Internet Governance Forum)は、世界情報社会サミット(WSIS:World Summit on the Information Society)チュニス会合の結果に基づき、国際連合が事務局を設置した、インターネットに関する様々な公共政策課題について議論するフォーラムであり、2006年(平成18年)11月の第1回会合(於:アテネ(ギリシャ))以降、これまで5回の会合が行われている。我が国は、政府・ビジネス部門、市民社会などのマルチステークホルダーによる「対話の場」としてのIGFの役割を積極的に支持している。
 IGFは当初2010年(平成22年)までの5年の期限であったところ、2010年12月に国連総会において更に5年間の延長が決定された。2011年(平成23年)9月には、ナイロビ(ケニア)において第6回会合が行われ、引き続きインターネットに関する様々な公共政策課題について検討が行われる予定である。

ウ G8関連
 2011年(平成23年)5月にドーヴィル(フランス)で行われたG8ドーヴィル・サミットでは、議長国フランスの提案により、三つの優先課題の一つとして、インターネットが取り上げられた。具体的には、首脳宣言(G8コミュケ)においてインターネットがグローバル経済成長の牽引力であることが確認されるとともに、[1]クラウドコンピューティング等の新たなサービスによるイノベーション・成長の機会の認識、[2]知的財産侵害への対応、個人情報保護、セキュリティ等における国際協力の推進、[3]児童のための安全なインターネット利用環境整備等について盛り込まれ、採択された。
 また、G8サミットに先立ち、インターネット関連のサイドイベントとして、世界のデジタル経済をリードする企業関係者を中心に約1,000名が参加したe-G8フォーラムがパリで開催された。インターネットと経済成長やインターネットと社会、将来のインターネットなどのトピックについて、G8サミットへの報告を念頭に活発な意見交換が行われ、G8サミットの場において、その成果が出席者の代表から報告された。

エ 世界貿易機関(WTO)におけるドーハ・ラウンド交渉への協力
 2001年(平成13年)11月から開始された世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)ドーハ・ラウンド交渉では、サービス貿易分野において最も重要な分野の一つとされている電気通信分野について、電気通信市場の一層の自由化に向けた積極的な交渉が展開されている。我が国は、WTO加盟国の中で最も電気通信分野の自由化が進展している国の一つであることから、諸外国における外資規制等の措置について、撤廃・緩和の要求を行っている。同ラウンド交渉は、2006年(平成18年)夏や2008年(平成20年)夏に各国の意見対立により中断、再開を繰り返している。2010年(平成22年)のAPEC首脳会議やG20サミット(ソウル)において「ドーハ・ラウンド交渉の2011年妥結に向けての交渉加速」が合意され、2011年(平成23年)に入り集中的な協議がジュネーブで実施されてきたが、鉱工業品分野等をめぐる米国と新興国(中国、インド、ブラジル)の間の協議で溝が十分埋まらず、交渉は再びこう着状態に陥っている。

オ 経済協力開発機構(OECD)への協力
 経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)では、情報・コンピュータ・通信政策委員会(ICCP:Committee for Information, Computer and Communications Policy)における加盟国間の意見交換を通じ、情報通信に関する政策課題及び経済・社会への影響について調査検討を行っている。OECDの特徴は、他の国際機関に比べ、最新の政策課題について、経済的な観点から、より客観的・学術的な議論を行う点にある。ICCPは、通信規制政策、情報セキュリティ、プライバシー等の分野において特に先導的な役割を果たしている。
 2011年(平成23年)3月に開催されたICCPにおいて、クラウドコンピューティング等インターネット経済の未来、ICTのイノベーションとグリーン成長、制定30周年を契機として改めて議論がなされるOECDプライバシーガイドライン等を今後引き続き検討することが確認された。また、2008年(平成20年)にソウルにおいて開催されたOECD閣僚会合のフォローアップの取組として、インターネットエコノミーをテーマとしたOECDハイレベル会合を2011年(平成23年)6月にパリのOECD本部において開催することが確認され、当該会合で政策原則(コミュケ)が採択された。


3 国際電気通信連合(ITU)理事国選挙の結果:http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin06_01000003.html
4 国際電気通信連合(ITU)無線通信規則委員会(RRB)委員選挙:http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin06_01000004.html
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