第2部 特集 共生型ネット社会の実現に向けて
第3章 「共生型ネット社会」の実現がもたらす可能性

2 ソーシャルメディアへの期待


●人と人とを結びつけ、その絆を再生、形成し、また、個人の身近な不安や問題を解決する等実社会に対してプラスの影響を与えることが期待される

 各個人が、社会的な孤立を避け、自らの社会的関係の中で支え合いのネットワークを持つ上で、ICTはどのような役割を果たすことができるだろうか。
 平成22年版情報通信白書は、第1章第2節において、社会関係資本の観点も踏まえ2、ソーシャルメディアによる不安の解消や絆の再生、地域SNSによる地域の活性化等について分析を行った。また、すべての国民の社会参画を支えるICTという観点から、同章第3節において、テレワークの効用と課題の分析、ICTを活用した障がい者の社会参画、ICTを活用して高齢者の生活を支える取組等について取り上げ、ソーシャルメディアをはじめとするICTのポテンシャルについて分析を行った。また、今回、第2章においてさらに具体的な分析を行った。
 ソーシャルメディアについては、引き続き急速に普及を続けており、平成22年にTwitterの利用者が急速に増加をした3。また、SNS大手のmixi、GREE、モバゲータウンの会員数がいずれも2,000万人を突破した4
 また、かつては検索等により提供されてきた情報をソーシャルメディア経由で自身の知り合いから得るというように、情報流通基盤がマスを対象とした情報源から変化をしており、ソーシャルメディアの比重が高まりつつある5
 ソーシャルメディアは、国家、政府との関係でも注目を浴びた。平成22年12月から23年にかけチュニジアで起きた民主化運動ではFacebook等のソーシャルメディアが大きな役割を果たしたと言われ6、ウィキリークスによる外交公電の公開や、尖閣諸島周辺領海内における我が国巡視船と中国漁船との接触事案のビデオのYouTubeでの公開についても、大きな議論となった。
 我々の生活を振り返ってみても、ICTが単なる情報の伝達・入手のための手段として使われた時代から大きく進化し、ソーシャルメディアをはじめとするICTの力で、情報の発信や共有が容易になったほか、人と人がつながり、絆を再生したり、知識・情報、思考・感情等を共有したり、現実社会の不安を解消したり、問題を解決できるようになっている。SNSを通じて、疎遠になっていた学生時代の旧友に再び「出会う」体験は、今や珍しいものではなくなっており、また、自らの病名や症状等を登録し、自分と同様の病を抱えた利用者と情報交換できるSNS等も存在する。
 このように、ソーシャルメディアは、人と人とを結びつけ、その絆を再生、形成し、また、個人の身近な不安や問題を解決する等実社会に対してプラスの影響を与える力を潜在的に有していると考えられる。上述した孤立化の文脈に即して言えば、個人が自らの社会的関係の中で支え合いのネットワークを持つ上でソーシャルメディアが一定の役割を果たすことも期待される。そこで、ソーシャルメディアが、人と人とのつながりや人々の実社会での生活にどのような影響を与えるのか等を検証し、その可能性と課題について分析する。


2 平成22年版白書では、「米国の政治学者ロバート・パットナムは、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)が充実している地域では、地域経営が効率的に機能しうまくいくという。パットナムによれば、ソーシャル・キャピタルとは人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることのできる「信頼性」「互酬性」「市民参加のネットワーク」といった社会組織の特徴をいい、ソーシャル・キャピタルが人々の安心感を醸成する可能性があるとの研究成果も多数報告されている。」と記載している
3 ソーシャルテック・ラボ 「Social Tech Report」 (2011年2月28日 ())によると、平成22年1月で473万人の利用者が12月には1,290万人となった
4 各社決算資料等による
5 この結果、例えば、SNSのページに表示される知人の購買行動、情報行動等に触発され、又は共感し、同様の行動を取る現象も見られる。また、消費者の知人の購入製品、それへの感想等を表示することで製品購入を促す企業ホームページ、消費者の知人の視聴ニュース記事、それへの感想等を表示することでニュース視聴を促すニュースサイト等が存在する。また、消費者の知人の視聴番組、それへの感想等を表示することで番組視聴を促す放送局の動きもある(http://www.nhk.or.jp/strl/open2011/tenji/03.html
6 平成23年1月にはチュニジアで、2月にはエジプトで、大規模デモを発端とした政権交代が起こった。カタールのドーハに本拠地を置く衛星テレビ局アルジャジーラがウェブサイトを通じてデモの状況を生中継したこと、Twitter、Facebook等のソーシャルメディアがデモ参加の呼びかけのツールとして活用されたこと等が指摘されている
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