第3部 情報通信の現況と政策動向
第5章 情報通信政策の動向

(2)電波利用の高度化・多様化に向けた取組


ア 移動通信システム・無線アクセスシステムの高度化に向けた取組

(ア)第3世代移動通信システムの高度化に向けた取組
 我が国の携帯電話及びPHSの加入数は1億1,954万加入(平成23年3月末現在)に達している。このうち携帯電話に占める第3世代移動通信システム(IMT-2000)の割合は98.8%であり、第2世代移動通信システムから第3世代への移行が着実に進行している。他方、社会や経済の高度化・多様化を背景に、インターネット接続や動画像伝送等の携帯電話によるデータ通信利用が拡大傾向にあり、より高速・大容量で利便性の高い移動通信システムに期待が寄せられている。さらに、第3世代移動通信システムを高度化した3.9世代移動通信システムについても、平成22年12月より商用サービスが開始されている。
 CDMA高速データ携帯無線移動通信システムは、携帯電話によるインターネット接続サービスの開始に伴い、データ通信量の急速な増大やより高速なデータ通信の実現への期待を背景に導入された。平成21年7月から情報通信審議会情報通信技術分科会の下に設置されている「携帯電話等周波数有効利用方策委員会」において、CDMA高速データ携帯無線通信システムの高度化のための技術的条件について調査検討が行われ、平成21年12月に一部答申されたところである。
 一方、各携帯電話事業者は、平成22年から順次3.9世代移動通信システムとしてLTE(Long Term Evolution)システムの導入を開始しており、LTEシステムの利用エリア整備に向けた取組を具体化させている。その中で、LTEシステムの利用エリアの圏外となる地域の解消を促進する小電力レピータの導入も検討されており、第3世代移動通信システムと同じくLTEシステム用の小電力レピータの制度整備が期待されている。
 これらの状況を踏まえ、CDMA高速データ携帯無線通信システムの高度化及びLTEシステム用小電力レピータの導入に向けた制度整備を行うため、平成22年4月に、無線設備規則及び特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則並びに関係する告示の各一部が改正された。総務省では今後も、必要な取組を進めていくこととしている。

(イ)広帯域移動無線アクセスシステムの高度化
 広帯域移動無線アクセスシステムは、無線による高速インターネットアクセスに対する利用者ニーズの高まりなどを受け、平成19年に制度化された後、現在、2事業者によりサービス(モバイルWiMAX及びXGP)が提供されており、それぞれの方式の標準化を推進する団体において規格の高度化が検討されている。他方、平成22年12月末には、下り100Mbps以上の伝送速度が実現可能な3.9世代移動通信システム(LTE)のサービスが開始されており、移動通信サービスの更なる高速化に対する期待が高まっている。
 このような背景を踏まえ、伝送速度の高速化などの通信環境の改善や効率的なエリア展開等を図ることを目的として、平成22年9月から、情報通信審議会情報通信技術分科会の下に設置されている「広帯域移動無線アクセスシステム委員会」において、「2.5GHz帯を使用する広帯域移動無線アクセスシステムの技術的条件」(平成18年2月27日情報通信審議会諮問第2021号)のうち「FWAシステムを除く広帯域移動無線アクセスシステムの高度化に関する技術的条件」について調査検討が行われ、平成22年12月に当該技術的条件について一部答申を受け、平成23年4月に無線設備規則及び特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則の一部改正を行った。

(ウ)80GHz帯高速無線伝送システム
 現在、光ケーブルは数百Mbps〜10Gbpsのものが利用されている。一方、マイクロ波・ミリ波を利用した無線通信システムは、現在、100Mbps程度の伝送速度を持つものが実用・運用されており、光ケーブルの敷設が困難な地域などに、比較的柔軟かつ容易に、光ケーブルに相当する回線構築を可能とすることが期待されている。また、高精細の映像伝送として、遅延の少ない非圧縮の伝送が可能な1Gbps以上の伝送速度を持つ無線通信システムの実現が求められている。
 このような背景を踏まえ、情報通信審議会情報通信技術分科会の下に設置されている「移動通信システム委員会」において、国内ではいまだ利用の進んでいない80GHz帯の周波数帯を使用した高速無線伝送システムの導入に向け、必要な技術的条件について調査検討されてきたところ、平成23年5月に答申がなされ、現在、所要の制度整備を行っているところである。

(エ)ヘリコプター衛星通信システム(ヘリサット)の導入
 災害時においては、救助活動や復旧対策を迅速かつ円滑に行うため、災害現場の状況を的確に把握することが重要であり、機動性に優れたヘリコプターを用いて上空から情報収集を行うことが有効とされている。しかしながら、地上の無線局を中継してヘリコプターから映像の伝送を行う現行の方式では、運用範囲が地上の無線局の見通し範囲内に限られるという制約がある。そのため、耐災害性に優れ、広域をカバーする通信衛星を利用することで、地上の無線局が設置されてない地域においても高画質映像をリアルタイムで伝送することを可能とするヘリコプター衛星通信システム(ヘリサット)の重要性が高まっている。
 これを受け、平成20年7月より情報通信審議会情報通信技術分科会の下に設置されている衛星通信システム委員会において「Ku帯ヘリコプター衛星通信システムの技術的条件」について調査検討が行われ、平成23年2月に答申を受けた。総務省では、本答申を踏まえ、関係規定の整備を行ったところである(図表5-2-3-2)。

図表5-2-3-2 ヘリコプター衛星通信システム概要
図表5-2-3-2 ヘリコプター衛星通信システム概要

(オ)デジタルコードレス電話の高度化
 コードレス電話は、家庭やオフィス内において使用する電話として、昭和62年(1987年)にアナログコードレス電話(250/380MHz帯)が制度化され、また、平成5年(1993年)には、周波数利用効率等に優れたデジタルコードレス電話(1.9GHz帯)が制度化され、広く利用されている。しかし、近年の高速データ通信等の需要に対応するための機能の高度化は困難な状況にあった。
 このため、平成21年11月から情報通信審議会情報通信技術分科会の下に設置されている「小電力無線システム委員会」において、キャリアセンス等により現行方式のデジタルコードレス電話と共存することによって周波数の有効利用を図りつつ、高速データ通信等の高度化への対応等、新たなアプリケーションを利用可能とする新方式のデジタルコードレス電話の導入に向けての必要な技術的条件について調査検討され、平成22年4月に答申を受けたところである。
 総務省では、本答申を踏まえ、平成22年10月にデジタルコードレス電話の新方式の導入に向けた制度整備(電波法施行規則、無線設備規則及び特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則の一部改正、並びに周波数割当計画の一部変更、関係告示の改正)を行った。

(カ)中出力型920MHz帯電子タグシステム等に関する検討
 950〜958MHzの周波数帯を用いた950MHz帯電子タグシステム等(パッシブタグシステム及びアクティブ系小電力無線システム)については、生産・物流分野における物品管理等で利用されており、今後、電力・ガス分野におけるスマートメーター等での利用拡大が期待されている。
 一方、「ワイヤレスブロードバンド実現のための周波数検討ワーキンググループ」取りまとめ(平成22年11月)においては、900MHz帯における周波数再編の基本方針として、スマートメーター等の導入に向け5MHz幅を拡充するとともに、欧米での割当状況を踏まえ、国際競争力強化の観点から950MHz帯電子タグシステム等(パッシブタグシステム及びアクティブ系小電力無線システム)については、915〜928MHz(以下「920MHz帯」という。)に移行するとされたところである。
 このような状況を踏まえ、平成23年2月から、情報通信審議会情報通信技術分科会の下に設置された「移動通信システム委員会」において、920MHz帯電子タグシステム等の導入が可能となるよう「920MHz帯電子タグシステム等の技術的条件」の調査検討が行われ、平成23年6月に一部答申されたところである。
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