第2部 特集 共生型ネット社会の実現に向けて
第2章 浮かび上がる課題への対応

(3)国際的なデジタル・ディバイドに関する要因分析


 国際的なデジタル・ディバイドの解消をたどる方向性は、例えば国・地域の文化・慣習、あるいはそれぞれが抱えている経済的・社会的課題、そして国家としての政策目標(ブロードバンド計画、国際競争力の強化等)などによって多様であると考えられる。国際的なデジタル・ディバイドの状況を踏まえ、ICTインフラ整備・ICT利活用に着目して、その促進要因について分析する。

ア ICTインフラの整備促進

●南米・アフリカ・インド・東欧・中東地域の情報通信関連のインフラ投資が進展

 図表2-2-3-12は、諸外国の情報通信分野における投資額(主に民間参加を含むインフラ系プロジェクト投資)を表したものであるが、南米・アフリカ・インド・東欧・中東地域の情報通信関連のインフラ投資が進展している。とりわけ、2004年以降においては低所得国の情報通信投資が増加傾向にある(図表2-2-3-13)。こうした積極的な投資が、ICTインフラのカバレッジを拡大し、全体の普及を底上げしていると考えられる。

図表2-2-3-12 諸外国の情報通信分野における投資額(民間参加を含むインフラ系プロジェクト投資)(2009年)
図表2-2-3-12 諸外国の情報通信分野における投資額(民間参加を含むインフラ系プロジェクト投資)(2009年)
南米・アフリカ・インド・東欧・中東地域の情報通信関連のインフラ投資が進展
(出典)世界銀行ウェブサイト“World Development Indicators-Investment in telecoms with private participation (current US$)”
http://data.worldbank.org/indicator/IE.PPI.TELE.CD/countries/1W?display=map
 
図表2-2-3-13 所得グループ別のGDPに占めるテレコム投資比率の経年推移
図表2-2-3-13 所得グループ別のGDPに占めるテレコム投資比率の経年推移
2004年以降、低所得国の情報通信投資が増加傾向
Excel形式のファイルはこちら (出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(世界銀行ウェブサイト“World Development Indicators-Investment in telecoms with private participation(current US$)”により作成)

 特に、図表2-2-3-14は、テレコム投資額のうち、モバイル関連投資額が占める割合の推移について集計したものである。2001年以降、いずれの所得グループにおいても、モバイル関連への投資に拡大傾向がみられるが、特に下位中所得国〜低所得国の伸びが顕著であり、モバイルに集中した投資が進んでいる。

図表2-2-3-14 テレコム投資額に占めるモバイル関連投資比率
図表2-2-3-14 テレコム投資額に占めるモバイル関連投資比率
モバイルに集中した投資が進む
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunication/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”により作成)

Excel形式のファイルはこちら
●複数事業者が市場に参入している国の方が、携帯電話普及率が高い傾向

 民間による積極的な投資とともに、より多くの事業者の参入によって、市場は拡大し、革新的なサービスの提供や料金の低廉化を通じて、利用者はその便益を享受することができると考えられる。携帯電話を例にとると、低所得国や下位中所得国においては、参入事業者が多い国では、国の経済規模の大小に関わらず、普及率の水準が比較的高い傾向がみられる(図表2-2-3-15)。このように、事業者の参入促進は、デジタル・ディバイド解消に向けた方向性の一つであると考えられる。

図表2-2-3-15 低所得国・下位中所得国における参入携帯電話事業者数と携帯普及率
図表2-2-3-15 低所得国・下位中所得国における参入携帯電話事業者数と携帯普及率
複数事業者が市場に参入している国の方が、携帯電話普及率が高い傾向
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)

イ ICTの普及・利活用

(ア)ICTへのアクセスに係る利用者コスト

●依然として、開発途上国ではICTインフラの料金水準が相対的に高い

 ICTへアクセスするための利用者料金は、ICTの普及や利活用に影響を与える大きな要因となりうる。固定ブロードバンドサービスに係る利用者料金を例にみると、普及率が低い国では、普及率が高い国と比べて、一人当たりGNIに占める料金の割合が高い傾向がみられる(図表2-2-3-16)。特に、多くの下位中所得国〜低所得国においては、依然として料金水準が高く、普及や利活用の阻害要因の一つとして考えられる。ICTインフラが普及し、利用者が広くその便益を享受するためには、積極的な投資や競争環境を整備する政策的な取組などを通じて、料金を下げていくことが重要と考えられる。

図表2-2-3-16 料金水準とブロードバンド普及率の関係(2009年時点)
図表2-2-3-16 料金水準とブロードバンド普及率の関係(2009年時点)
下位中所得国〜低所得国では、料金水準が相対的に高い
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunication/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”及び世界銀行ウェブサイト“World Development Indicators-GNI per Capita”により作成)

(イ)リテラシーとICT普及・利活用

●高等教育就学率が低くても、インターネット利用率が高い国もみられる

 ここでは、ICTリテラシーとICTの利用の関係について分析する。ICTリテラシーは、各国の教育水準にある程度依存すると考えられる。そのため、国の教育水準を示す指標として高等教育就学率を用いて、インターネット利用率との関係性を分析した(図表2-2-3-17)。おおむね、高等教育就学率が90%以上の国においてインターネット利用率の高い国が集中している。一方で、高等教育就学率が低くても、インターネット利用率が高い国もみられる。例えば、モロッコは、政府がインターネット利用率を現在の倍程度まで向上させることを優先する政策を打ち出しており、こうした政策的背景もリテラシーの高低という壁を乗り越えるための筋道となりうると考えられる。また、読み書きができない利用者でも操作できる端末の開発や、わかりやすいインターフェイスの実装も、リテラシーに起因するデジタル・ディバイドの解消策として考えられる。

図表2-2-3-17 高等教育就学率とインターネット利用率の関係(2009年時点)
図表2-2-3-17 高等教育就学率とインターネット利用率の関係(2009年時点)
教育水準が低い国においても、政策的に取り組んでいる国など、一部ではインターネット利用率の向上がみられる
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunication/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”及びITU“Measuring the Information Society 2010”により作成)

(ウ)ICT利活用を促進するアプリケーション〜ソーシャルネットワーク〜

●インターネット利用率が低くてもソーシャルネットワークの利活用が進展する国も存在

 ICT利活用のアプリケーションとして、世界的に急速に利用者数が伸びているソーシャルメディアの状況から、デジタル・ディバイドを分析する。図表2-2-3-18は、インターネット利用率と、ソーシャルネットワーク利用度15の関係性を示したものである。高所得国以外でも、インターネット利用率は低いものの、ソーシャルネットワークの利活用が進展している国が存在している。

図表2-2-3-18 インターネット利用率とソーシャルネットワークの利用度
図表2-2-3-18 インターネット利用率とソーシャルネットワークの利用度
先進国以外でも、インターネット利用率は低いものの、ソーシャルネットワークの利活用が進展している国が存在
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunicaton/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”、
世界経済フォーラム(WEF)“The Global Information Technology Report 2010-2011”及び各種資料により作成)

 これはインターネットカフェや携帯電話などの普及が背景にあるものと推察される。例えば、代表的なSNSであるFacebookは、開発途上国への展開を積極的に進めているが、インドでは主要携帯電話事業者と連携し、加入者に対して携帯電話からFacebookのウェブサイトに無料でアクセスできるサービスを提供している。また、ウェブサイトをインド内の複数の言語に対応させるなど、アクセシビリティの観点で多くの利用者が便益を享受できるような取組を行っている。
 特に、ソーシャルネットワークサービスが携帯電話を通じても利用されている実態を踏まえると、開発途上国などで急速に普及している携帯電話を基盤に、こうしたアプリケーションやサービスが実装されることで、先進国と大差なく、ICT利活用が進む可能性も考えられる。

(エ)ICT利活用を促進するアプリケーション 〜電子商取引〜

●欧州地域ではインターネット利用率と電子商取引の利用率には相関がみられる

 欧州地域をみると、インターネット利用率と電子商取引の利用率には相関がみられ、特に北欧諸国を中心に電子商取引の利用率が高い(図表2-2-3-19)。背景としては、電子商取引における決済方法の充実や、プライバシーやセキュリティに対するユーザーの懸念が低い(信頼性が高い)といった要因等が挙げられる。オンラインでの決済のプラットフォーム整備や信頼性向上がICT利活用を促進すると考えられる。

図表2-2-3-19 欧州地域におけるインターネット利用率と利用者に占める電子商取引利用者比率
図表2-2-3-19 欧州地域におけるインターネット利用率と利用者に占める電子商取引利用者比率
インターネット利用率が高い国は、電子商取引の利用率が高い
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(ITU“World Telecommunicaton/ICT Indicators Database 2010(15th Edition)”、
EU Commission“Information Society Database”及び各種資料により作成)

ウ ICT政策の推進

●ICT政策を積極的に進めている国は、各国の状況に対応した目標を設定しICT戦略を打ち出している

 ICT政策を積極的に進めている国は、各国の状況に対応した目標を設定しICT戦略を打ち出している。図表2-2-3-20は、世界経済フォーラムのレポートにおいて評価された、「政策におけるICTの優先度が高い」18国を所得グループ毎で上位5位について示したものである。各所得グループの1位は、シンガポール、マレーシア、チュニジア、ベトナムとなっている。

図表2-2-3-20 「政府のICT優先度」指標の上位国(所得グループ別)
図表2-2-3-20 「政府のICT優先度」指標の上位国(所得グループ別)
ICT政策を積極的に進めている国は、各国の状況に対応した目標を設定しICT戦略を打ち出している
(出典)総務省「国際的なデジタル・ディバイドの解消に関する調査」(平成23年)
(世界経済フォーラム(WEF)“The Global Information Technology Report 2010-2011”及び各種資料により作成)

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 ICT政策における手段や狙いは国によって様々である。例えば、先進国では光ファイバを中心とした超高速なブロードバンド整備計画等を推進しており、開発途上国では無線インフラの積極的活用や実現手段としてのPPP19方式の採用などを掲げている。とりわけ、低所得国では、村や公共設備単位でインターネット環境を整備する施策が多くみられる。
 このように、各国の状況に対応した政策的アプローチが、国際的なデジタル・ディバイドの解消に向けた推進力となっていると考えられる。


15 世界経済フォーラムの実施したアンケート「The Global Information Technology Report 2010-2011」 “Use of virtual social networks”(ビジネスあるいは個人の利用でソーシャルネットワーク[Facebook, Twitter, Linkedin等]をどの程度利用しているかアンケートを通じて評価した指標)
16 Facebookの統計データを公表しているウェブサイトSocial Bakers(http://www.socialbakers.com/facebook-statistics/)の集計結果に基づく
17 The Netherlands leads the way in Europe in terms of online visiting frequency 
18 世界経済フォーラムの実施したアンケート「The Global Information Technology Report 2010-2011」“Government prioritization of ICT”(政策におけるICTの優先度についてアンケートを通じて評価した指標)
19 Public-Private Partnership の略。官民連携ともいわれる
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