第2部 特集 共生型ネット社会の実現に向けて
第1章 ICTにより国民生活はどう変わったか

みんなでつくる情報通信白書コンテスト2011 一般の部 優秀賞受賞コラム


わたしと白黒メール〜一生来て欲しくないメール〜

執筆 家城 武尚(いえき たけひさ)さん(看護師 愛知県名古屋市)
家城 武尚(いえき たけひさ)さん

コメント:彼女に、一生来て欲しくないメールを送らせないために、自分への戒めとして書きました。

 キラキラしたデコレーションメール。
 時には文字が全く無い絵文字だけのメール。
 だけどしっかりと様々な気持ちが伝わるメール。
 それは、僕の婚約者からのメール。

 お互い看護師の僕達は、夜勤があるためにすれ違い生活を送っている。今日は僕が夜勤で彼女は日勤。明日は彼女が夜勤で僕は夜勤明けといった感じの無限ループが続く。そのためもあって、僕達の間では、メールのやり取りは欠かせないモノとなっている。
 彼女のメールは、飛び出す絵本のようなデコレーションメール。時には眉を細めてしまう程、喜怒哀楽が1つのメールの中に込められている。結局今は、悲しいのか、嬉しいのか解らないほどに。そんな彼女からのメールが届くと、開く事さえ煩わしく感じるようになった。反して僕のメールは、大抵1行、長くても2行といった文字だけのメール。絵文字や顔文字を使用する事が嫌いな訳ではなく、自分の伝えたい事を、端的に表現する事が一番良いと考えていた。
 久しぶりに一緒の休みの日、ランチでもしようと12時にいつもの駅で待ち合わせをしていた。時は3月。まだ冬の名残が肌を緊張させるような雨の日、僕は寝坊した。起床した時にはすでに、待ち合わせ時間より1時間過ぎていた。絶望的なまでの遅刻。すぐさま携帯を手に取った。
 新着メール3件。全て彼女からのものだった。
 最初の1件目は、「今日は楽しみで早起きしちゃった。ランチ何食べよう?久しぶりにオムライス屋さんでもいいね。」というキラキラしたいつものメール。
 2件目は、待ち合わせ時間より15分経った時刻に送られたメール。「どうしたのー?電車遅れてる??お腹すいちゃったよー。」というキラキラはしているが、いつもより、装飾が少ないメール。
 3件目は、「もう1時間になります。連絡がないのは何でですか。あと5分したら帰ります。」
 彼女から初めてもらった、白黒メール。それは、恐怖という感情まで一直線に辿り着かせ、ドクドクという心拍数が上昇した事を感じた。残念ながら、このままの状態で電話をかける勇気を僕は持ち合わせていない。
 「すいません!!!寝坊です。すぐに向かいます。」と打ったところで、彼女のご機嫌を取るために、デコレーションメールを作成しようと思いついた。これほど早くにデコレーションメールを作成したのは、これからも、これまでもないくらいの自己ベストだった。
 彼女からの返信は、「デコメ作成するぐらいの余裕があるなら早く返事を下さい。そして早く準備をして下さい。」またもや白黒のメールだった。僕は、「すみません。」とだけ返事をして、待ち合わせ場所まで向かった。こっぴどく怒られたものの、デコレーションメールの作り方を教わることで、最後は仲直りをした。
 そんな僕達も、今年の4月に入籍する事となる。今後は、彼女からの白黒メールが来ない事を祈りつつ、僕は彼女のいつものデコレーションメールを待っている。
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