第1部 東日本大震災における情報通信の状況
第4節 情報通信が果たした役割と課題

(4)情報の抽出、整理及び配信


 今回の震災においては、多くの情報が配信されたが、それらの情報を抽出、整理及び配信する動きがみられた。

ア インターネット上にあふれた情報を整理する「まとめサイト」等の登場
 (3)で指摘したとおり、ソーシャルメディア等インターネット上では、震災後、多くの種類の情報が流通した。しかしながら、それらの情報は、膨大かつ必ずしも十分に整理されているとはいえない状況にあった。このような中、目的や地域等別に情報をまとめる「まとめサイト」が多く作成されたところである。

●sinsai.info

 sinsai.infoは、一般社団法人オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパンの主管の下、OpenStreetMap Japanの有志やボランティア参加のメンバーにより運営された被災地エリアに関する口コミ関連情報を取りまとめたサイトである。具体的には、ウェブサイト、メール、Twitterから送られてくる被災地の支援案内、道路状況、安否確認などの情報をボランティアによるオペレーターが個別に確認の上、地図上で位置情報付きのレポートの形式で公開された(図表4-7)。

図表4-7 sinsai.infoの画面
図表4-7 sinsai.infoの画面
(出典)sinsai.info ホームページ

 同サイトは、2010年1月のハイチ地震、同年2月のチリ中部沿岸の地震や2011年2月のニュージーランド南島の地震の際にも情報共有ツールとして活用されたオープンソースソフトウエアのクラウドソーシングツールであるUshahidiで構築され、震災当日から運用された。

イ 各メディアが発信した情報が統合し、幅広い情報源から安否情報を取得
 今回の震災では、被害が甚大かつ広範囲であったため、安否確認が困難な状況にあった。そのような中、安否が書かれた張り紙の画像をインターネットで閲覧できるサービスや、GoogleとNHKの安否情報の一括検索など、アナログとデジタル、マスメディアとソーシャルメディアなど、異なるメディアの情報が統合され、幅広く情報を取得する手法が生まれた。

●Googleパーソンファインダー

 Googleパーソンファインダーは、検索大手のGoogleが開設した、被災された家族や友人の安否を確認できるサイトで、震災当日からサービスを開始した(図表4-8)。5月18日時点で、約623,700件の記録が登録された。同サイトは、2010年1月のハイチ地震、同年2月のチリ中部沿岸の地震や2011年2月のニュージーランド南島の地震等過去の外国での大地震でも運用された実績を有する。

図表4-8 Googleパーソンファインダーの画面
図表4-8 Googleパーソンファインダーの画面
(出典)Googleパーソンファインダー ホームページ

 また、同サイトには、避難所名簿共有サービスとして、携帯電話のカメラ等で撮影されメールにて送付された避難所の名簿画像がボランティアによって順次テキストに打ち替えられ、データベース化の上、登録された。また、警察庁、地方公共団体や一部マスコミ等から提供されたデータも併せて登録された。
 さらに、3月18日からはYouTubeにおいて、消息情報チャンネルが公開され、震災で被災された人からの動画メッセージが紹介された。

ウ インターネットを活用して情報弱者を対象に震災情報や支援情報などを発信
 今回の震災では、テレビ電話や動画配信サイト等インターネットを活用して、震災報道が手話通訳された。また、SNS内に情報弱者向けの被災者支援コミュニティが立ち上がった。

●遠隔手話サービス

 特定非営利活動法人シュアールは、3月11日より、被災地で手話通訳が必要な人に対し、Skype、MSN Messenger等のビデオチャット機能を活用して遠隔手話を提供するサービスを開始した。被災地にいる聴覚障がい者や、聴覚障がい者とコミュニケーションが必要な聴者が、スマートフォン、パソコン等を使って待機している手話通訳者にコンタクトをし、それに遠隔で対応する、というサービスであった。
 また、3月23日には、ボランティアサークル「ニコ生企画放送局」が、ろう者・聴覚障がい者に向け、首相官邸会見の一部、東京電力や原子力安全・保安院の会見などをリアルタイムで手話通訳し、動画配信サイトで生中継をした(図表4-9)。

図表4-9 ニコニコ生放送で手話通訳を放送している様子
図表4-9 ニコニコ生放送で手話通訳を放送している様子
(出典)日本橋経済新聞 ホームページ

エ クラウドサービスが期間限定で無償提供された
 今回の震災においては、被害を受けた自治体や企業を支援するため、民間事業者が無償でクラウドサービスを一定期間提供する等の取組が行われた。また、アクセスが集中するサイトについて、アクセス集中を回避するために、民間事業者がミラーサイト8を構築する取組も行われた。

●東日本大震災 ICT支援応援隊

 被災者・被災地へのきめ細やかなICT支援体制を確立するため、様々な団体9が共同設立呼びかけ人となって、平成23年4月7日、「東日本大震災 ICT支援応援隊」が設立された(図表4-10)。同団体では、被災者へパソコン等を無償で提供し、現地の支援機関とも連携し、現地でのネットワーク接続の設定も含めた支援等の活動を実施した。

図表4-10 「東日本大震災 ICT支援応援隊」の画面
図表4-10 「東日本大震災 ICT支援応援隊」の画面
(出典)「東日本大震災ICT支援応援隊」 ホームページ

 また、平成22年12月にクラウドサービスの普及等を目的として設立された民間団体「ジャパン・クラウド・コンソーシアム」は、東日本大震災 ICT支援応援隊と連携して、被災地支援のための各種クラウドサービスの無償提供メニューを用意し、提供を行った。

●(独)防災科学技術研究所 「ALL311:東日本大震災協働情報プラットフォーム」

 独立行政法人防災科学技術研究所は、全国のさまざまな機関や個人の方々との協働により、被災地の災害対応や復旧・復興に役立つ信頼できる情報を集約・作成・発信するためのサイトとして、「ALL311:東日本大震災協働情報プラットフォーム」を立ち上げ、日本IBMなど、様々な団体のクラウドサービス無償提供を受けた。


8 元となるウェブサイトの全部、又は一部分と同一の内容を持つウェブサイトのこと。サーバーにかかる負担を分散する目的で作られる
9 社団法人 日本経済団体連合会、社団法人 コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)、在日米国商工会議所(ACCJ)、一般社団法人 情報サービス産業協会(JISA)、一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)、社団法人 電気通信事業者協会(TCA)、一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)、一般社団法人 日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)
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