第3部 情報通信の現況と政策動向
第5章 情報通信政策の動向

コラム テレワークの可能性


 平成22年版情報通信白書では、テレワークについて、サステナブルな社会の実現という観点から、現状、課題や効用などについて分析を行い、社会全体でのテレワーク推進の必要性を指摘した。今般の東日本大震災においては、地震やその後の計画停電等の影響により、通勤においても多くの制約が発生したが、そのような中、事業継続性の観点、また、電力供給不足に対応した節電対策の観点から、テレワークが改めて見直されたところである。

(1)テレワークの現状

ア テレワークの意義

●多様な意義・効果が指摘されているテレワーク

 テレワークとは「情報通信技術を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」1をいい、時間的な要素も含め従来と比べて自由な働き方を実現する勤務形態である。テレワークの意義については、多様な観点から指摘されているところであるが、大きく分けると、「少子化・高齢化問題等への対応(育児・介護と仕事の両立等)」、「ワークライフバランスの充実」、「生産性の向上」、「環境負荷軽減」、「危機管理」などが指摘されている(図表1)。

図表1 テレワークの意義・効果
図表1 テレワークの意義・効果
(出典)総務省資料

イ テレワークの普及状況

●従業員の多い大企業では、一定の普及が図られつつあるものの、それ以外の企業を中心に、普及面に課題

 テレワークの普及状況を見てみると、企業におけるテレワークの普及率は12.1%となっており、5年間で4.5ポイント上昇しているものの、依然として普及面に課題がある状況がみられる(図表2)。

図表2 テレワークの導入状況の推移
図表2 テレワークの導入状況の推移
平成22年末での導入率は12.1%
(出典)総務省「平成22年通信利用動向調査」

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ウ 企業のテレワーク導入目的

●企業の導入目的は「多様な働き方」「ワークライフバランス」「経営目的」「事業継続」

 実際に、テレワークを導入している企業に対して、その導入目的を聞いてみると、「定型的業務の効率性(生産性)の向上」、「勤務者の移動時間の短縮」、「非常時の事業継続に備えて」、「顧客満足度の向上」等が挙げられている(図表3)。

図表3 企業のテレワーク導入目的
図表3 企業のテレワーク導入目的
「定型的業務の効率性(生産性)の向上」「勤務者の移動時間の短縮」「非常時の事業継続に備えて」が上位
(出典)総務省「平成22年通信利用動向調査」
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html

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エ 企業のテレワーク導入課題

●企業のテレワーク導入課題は「適した仕事がない」「情報漏えい」「業務進行が困難」「導入メリットが不明確」

 同様に、テレワークを導入していない企業に対して、その理由(導入課題)を聞いてみると、「テレワークに適した仕事がない」、「情報漏えいが心配」、「業務の進行が難しい」、「導入メリットがわからない」等が挙げられている(図表4)。

図表4 テレワークを導入しない理由
図表4 テレワークを導入しない理由
「テレワークに適した仕事がない」、「情報漏えいが心配」、「業務の進行が難しい」等が多い
(出典)総務省「平成22年通信利用動向調査」
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html

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(2)今後のテレワークの可能性

●東日本大震災において、事業継続の観点から改めて見直されたテレワーク

 東日本大震災においては、地震及びその後の計画停電、鉄道の運行削減や運休等の影響にかんがみ、一定期間、社員に対し、自宅待機や在宅勤務を指示する企業が多くあった。その中で、業務への支障を最小限としつつ、従業員の安全確保を図る等の観点から、テレワークによる在宅勤務を奨励する企業が多くあった(図表5)。今回、例示した企業の中では、平成23年3月14日頃から実施との企業が目立つ。これは地震による交通機関の運行混乱や計画停電を考慮した企業が多かったためと考えられる。

図表5 東日本大震災によりテレワークを実施した企業の例
図表5 東日本大震災によりテレワークを実施した企業の例
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査」(平成23年)

●節電対策としてのテレワーク

 今夏の節電対策に向けて、多くの企業において、テレワークの導入・実施を検討する動きがみられ、平成23年5月13日には、政府の電力需給緊急対策本部において決定された「夏期の電力需給対策について」において、テレワーク(在宅勤務等)を通じたライフスタイルの変革等を進めることにより節電を図る旨が明記された。
 総務省において、実証事業のデータに基づき試算2した結果、テレワークの導入に伴うオフィス勤務人員の減少・オフィススペースの工夫により照明を1/2消灯、勤務時間の短縮によりオフィスICT機器及び空調の使用時間を13時間/日から8時間/日に短縮、在宅勤務者の空調・照明の使用時間は勤務時間8時間/日のうち4時間/日と想定した場合、オフィス・家庭全体での電力消費量は、一人当たり14%削減可能であることを公表した3
 [1]一定規模以上の人員を対象としたテレワークの実施、[2]ビル・フロア単位の輪番消灯・間引き消灯の実施、[3]エアコン利用時間・スペースの縮小、[4]オフィスのフリーアドレス化、[5]家庭での空調・照明の節電、などのテレワークの導入形態や運用の仕組と併せて実施することが重要である(図表6)。

図表6 テレワーク導入前後の1人当たりの消費電力量(オフィス・家庭合算)
図表6 テレワーク導入前後の1人当たりの消費電力量(オフィス・家庭合算)
削減量は0.53kWh/人・日(削減量14%)
(出典)総務省「テレワーク(在宅勤務)による電力消費量・コスト削減効果の試算について」(平成23年)

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●事業継続計画、節電対策の観点を中心としたテレワークの活用局面へ

 これまで、テレワークの導入目的は、企業価値の向上、従業員の離職防止、ワークライフバランスなどが中心であり、また、導入企業も外資系企業やICT関連企業が中心であったが、今回の震災を受けて、危機管理対策や節電対策の一環として、幅広い業種・規模の企業において、テレワークの導入が検討され始めている。さらに、現在は、クラウドコンピューティング技術などを活用した、多様なテレワークサービスが提供されており、テレワークシステムを「構築する」といった形だけではなく、テレワークシステムを「使用・利用する」といった、セキュアかつ低廉・簡便に、テレワークを実施できる環境が整ってきている。こうした状況をかんがみると、今後、我が国においてテレワークの拡大が更に進むことが期待される。
 また、被災地の外にある企業等の業務を、テレワークを通じて、被災地で実施することにより、被災地での雇用創出に資する取組を推進していくことも重要であると考えられる。


1 社団法人日本テレワーク協会の定義による
2 平成22年度「次世代のテレワーク環境に関する調査研究」のモデル検証のデータ等を活用し、在宅勤務の導入による1人1日当たりのオフィス電力削減効果を試算したもの
3 参考:テレワーク(在宅勤務)による電力消費量・コスト削減効果の試算について:http://www.soumu.go.jp/main_content/000113937.pdf
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