第3部 情報通信の現況と政策動向
第5章 情報通信政策の動向

(3)国際競争力の強化と国際展開の支援


 ICT産業は主要先進国において戦略的産業の一つと位置付けられており、グローバル市場において激しい市場獲得競争が展開されている。我が国においても、ICT産業は名目国内生産額の約1割を占める最大規模の産業であるとともに、実質GDP成長に対する寄与率が極めて高く、今後の経済成長を支える戦略的産業と位置付けることができる。また、ICT産業のグローバル展開は持続的経済成長を実現するための重要政策課題の一つと位置付けられており、「新たな情報通信技術戦略」(平成22年5月IT戦略本部決定)においても、戦略の3本柱の一つとして「新市場の創出と国際展開」を政府全体として推進することとされている。
 ICTの国際競争力強化については、平成22年12月に取りまとめられた「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース 国際競争力強化検討部会」の最終報告書において、今後のグローバル展開方策にかかる基本的方向性についての提言が取りまとめられた。

ア ICTのグローバル展開の在り方
 「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース 国際競争力強化検討部会」報告書において、「重点推進プロジェクト」、「連携推進体制」及び「技術戦略」の3項目が掲げられ、『重点推進プロジェクト』としてICTを組み込んだ「次世代社会インフラシステム」を構築し国際展開を推進すること、『連携推進体制』として「グローバル展開推進体制の確立」と「ファイナンス面での方策の充実・ODA資金の活用」を推進すること等、今後重点を置いて推進すべき方策の基本的方向性が示された。
 本懇談会では、この基本的方向性を踏まえ、グローバル展開のための案件形成から相手国における市場獲得に至るまでのプロセスについて、今後取り組むべき具体的方策の検討を目的に、平成23年1月から、「ICTグローバル展開の在り方に関する懇談会」を開催し、同年7月に報告書を取りまとめの上、公表した。
 報告書においては、グローバル市場の成長を取り込んだICT産業への転換、「課題先進国」としての国際貢献、グローバルな「協働関係」の構築、以上3点をグローバル展開にあたっての基本理念として掲げ、ジャパンイニシアティブによるプロジェクト案件形成、標準化戦略、ファイナンスの積極的活用、グローバル展開体制の組成の4点について今後取り組むべき具体的方策を取りまとめ、官民一体となった推進を図る観点から、国の果たすべき役割についても提言を行った。

イ デジタルコンテンツ創富力の強化
 新成長戦略「クール・ジャパン戦略の推進」による新たな成長の達成に資するとともに、昨今の技術進展等にも対応したコンテンツの製作・流通を促進するための諸方策について検討することを目的に、平成23年2月から「デジタルコンテンツ創富力の強化に向けた懇談会」を開催し4、東日本大震災の発生に伴う状況変化も含めた現状認識を行うとともに、政策の方向性、重点推進分野、今後の推進方策等について検討してきた。平成23年7月の中間取りまとめにおいては、重点推進分野として「海外への情報発信力強化」、「コンテンツ製作力の強化」、「コンテンツ利活用による活性化」、「コンテンツ流通環境の整備」及び「人材育成の強化」が設定され、各分野における取組方針や具体的取組、総合的なプロジェクトの推進など今後の推進方策が提言された(図表5-1-2-3)。

図表5-1-2-3 「デジタルコンテンツ創富力の強化に向けた懇談会」中間とりまとめ 概要
図表5-1-2-3 「デジタルコンテンツ創富力の強化に向けた懇談会」中間とりまとめ 概要

 また、コンテンツの海外展開については、政府の「知的財産推進計画2011」(平成23年6月知的財産戦略本部決定)においても、クール・ジャパン戦略が柱の一つとされ、海外展開を促進し、国際競争力を高めることが目標に掲げられている。総務省においても、コンテンツ市場の拡大やコンテンツ産業の育成に向けた施策を進めている。具体的には、平成22年度に「地域コンテンツの海外展開に関する実証実験」を実施した。同実験においては、地域の放送局や番組製作会社等が地方公共団体と連携して、各地の物産・観光資源等を紹介する44本の放送番組を製作し、平成22年末から23年2月にかけ、それらを中国、韓国、台湾及びシンガポールを中心とするアジア諸国等の放送局等を介して放送することにより、地域コンテンツの海外展開を促進した。平成23年度は「国際共同製作による地域コンテンツの海外展開に関する調査研究」を実施予定である。同調査研究を通じて、地域の放送局や番組製作会社等が海外の放送局と共同製作をしたコンテンツを世界へ発信する機会を創出することにより、地域のコンテンツ製作力の再生・強化を促進し、観光客誘致等による地域活性化にもつながることを目指している。また、震災支援として、日本の風評被害をなくすようなコンテンツを発信する予定である。

ウ ICT海外展開の推進
 総務省は、平成23年度から、我が国が強みを有するICTシステムの国際展開活動を加速するため、当該ICTシステムの展開を図るための調査の支援、モデルシステムの構築・運営、セミナーの開催等を戦略的に行う「ICT海外展開の推進」を実施している。地上デジタル放送をはじめとする我が国のICT産業の国際標準化の推進を含めた国際競争力強化や成長力強化を支援している。

エ 地上デジタルテレビ放送日本方式(ISDB-T方式)の普及促進
 総務省では、我が国のICT産業の国際競争力強化を目的として、我が国がとりわけ技術力を有するデジタル放送、次世代IPネットワーク及びワイヤレス分野について民間の海外展開に係る活動を戦略的に支援するため、ICT企業が海外展開する際の総合的な支援や、海外での各種普及・啓発活動の実施、有用な各国情報の収集・整理等の活動を行っている。
 特に、地上デジタルテレビ放送分野においては、官民連携で日本方式(ISDB-T方式)の普及に取り組んでおり、2006年にブラジルが、2009年にはペルー、アルゼンチン、チリ及びベネズエラが、2010年にはエクアドル、コスタリカ、パラグアイ、フィリピン、ボリビア及びウルグアイが日本方式の採用を決定している。中南米、アジアにおいて日本方式が普及してきており、今後とも、南部アフリカ諸国等に広く働きかけを実施していく予定である(図表5-1-2-4)。

図表5-1-2-4 世界各国の地上デジタルテレビ放送の動向
図表5-1-2-4 世界各国の地上デジタルテレビ放送の動向

 また、日本方式採用国における円滑な地上デジタルテレビ放送開始を支援するため、関係省庁・機関が連携して、日本からの専門家の派遣及び各国技術者の日本への招へい・研修の実施などの技術移転・人材育成を実施している。ブラジルでは採用決定から1年半後の2007年12月に地上デジタルテレビ放送が開始され、2010年12月現在の放送エリアは主要都市の65%にまで拡大し、携帯端末向けワンセグ放送も開始されている。また、ペルー及びアルゼンチンでは、採用決定後1年未満で地上デジタルテレビ放送が開始されている。他の日本方式採用国においても、放送開始に向けた準備が着々と進められている。さらに、地上デジタルテレビ放送日本方式の普及活動を通じた我が国の国際的プレゼンス向上や、海外展開により培った人的ネットワークを活かした新たな情報通信技術の海外展開にも取り組んでいる。


4 デジタルコンテンツ創富力の強化に向けた懇談会:http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_contents/index.html
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