第2部 特集 共生型ネット社会の実現に向けて
第2章 浮かび上がる課題への対応

(2)外部リソースと地域内リソースを効率的に連携


ア 地域通貨の活用により大手流通と地元商店街との共存共栄を実現した「めぐりん」 (香川県高松市)

●地元商店街理事長の熱意とリーダーシップが鍵となり、地域の活性化を実現

 「めぐりん」は、地元商店街の活性化及び集客のために開発されたICカード利用による地域通貨である。また、付与ポイントを電子マネーWAONに変換することも可能なシステムである(図表2-3-8-2)。

図表2-3-8-2 地域通貨の活用により大手流通と地元商店街との共存共栄を実現した「めぐりん」
図表2-3-8-2 地域通貨の活用により大手流通と地元商店街との共存共栄を実現した「めぐりん」
(出典)総務省「ICT利活用システムの普及促進に係る調査研究」(平成23年)

 香川県高松市で飲食店を経営していた事務局長が、集客のためにICカードを利用することを模索する過程で、自社だけではなく他の商店にも導入することを考え、めぐりん事務局を立ち上げた。当初、代理店を活用した普及施策で店舗数は増えるものの、機械操作の問題やフォロー不足などにより普及が進まない状態であった。高松兵庫町商店街振興組合の代表理事が神奈川県横須賀市久里浜商店街の取組を知り、組織小売と商店街の共存にショックを受け、高松市兵庫町商店街での面的導入を行ったことが普及のきっかけとなった。
 今後の商店街の在り方を変えたいという熱い思いと、久里浜で見た大型店との共存の姿に感銘を受けた商店街振興組合の代表理事のリーダーシップと、商店の視点からサービス構築、運営を行っていることで、ベンダー視点ではなく加盟店のニーズを踏まえたサービスの実現が可能となったことが、成功につながった。
 「めぐりん」では、通常のWAONも利用できるため、大手流通小売店の顧客を呼び込むことができるなど、商店街の店舗への誘客効果があった。その結果、加盟店の満足度も高い。また、新しいものに商店街として取り組んだことにより、商店街としての一体感や前向きな意識が醸成され、活性化につながった。さらに、今まで対立構造にあった大手流通小売店とも、商店街のイベントを大手流通小売店内のディスプレイで告知したり、商店街イベントの景品を協賛するなど、ポイント以外での連携も強まってきている。
 「めぐりん」については、平成23年5月に香川県とイオンが包括提携を締結した。提携内容に電子マネーの活用があり、今後、県の公共施設での活用やボランティアポイントの発行などの展開が期待される。

イ 効率的な地域交通運営を実現したオンデマンド交通 (山梨県北杜市・東京大学大学院新領域創生科学研究科)

●ASP・SaaS型配車システムに加え、地域住民を巻き込んだ計画作りにより効率化を実現

 山梨県北杜市は、山梨県の北西部の八ヶ岳山麓の8市町村が合併して誕生した都市である。市域が広く市街地が分散しているため、定期路線バス形態の市民バスを運行していたが、交通弱者の増加や運行コストの効率化が課題となっていた。
 このような地域課題を解決し、定期路線バス形態の市民バスでは収束しきれない交通弱者の増加や運行コストの効率化に対応するため、東京大学が研究していたデマンドバスシステムを、平成21年度に市内2地区において実証運行として導入した。
 地域の課題に対応するために、外部連携先である東京大学の研究システムを導入したほか、配車計画等に当たって、地域住民を巻き込んで計画したことから、効率化を図るとともに、市民にとって使い勝手のよいシステムとすることが可能となった。路線運行型の市民バスに比べ、運行コストが3割程度削減できるとのシミュレーション結果を得ており、北杜市では、今後も機会をとらえて運行を拡充していきたいとの意向を持っている。特に、交通空白地域での運行と、現行の市民バスからの転換などが考えられており、低コストでモビリティが確保できる本システムに対する期待は高い。
 また、東京大学としても、北杜市を含む全国での実証運行を通じて、システム及び配車管理モデルの高度化を図っていく予定であり、これらの取組を更に全国各地で実現していきたいとの意向である。

図表2-3-8-3 効率的な地域交通運営を実現したオンデマンド交通
図表2-3-8-3 効率的な地域交通運営を実現したオンデマンド交通
(出典)総務省「ICT利活用システムの普及促進に係る調査研究」(平成23年)

ウ スマートフォンアプリを活用して地域おこしに成功した「七尾ふらっと案内」 (石川県七尾市)

●ICT利用を軸に、地元観光協会と企業グループとの連携により地域を活性化

 石川県七尾市は能登半島中央部にあり、特に市内の和倉温泉は世界的にも有名で、従来から観光に注力しているが、更なる活性化と和倉温泉宿泊客の市内への回遊性向上が課題とされていた。平成21年、七尾出身の水墨画家長谷川等伯の没後400年を機会に大規模な観光キャンペーンを行うこととなり、企業グループ(テレビ局、広告代理店、印刷デザイン会社等)の提案で、(財)石川県産業創出支援機構の助成の下、事業を実施することとなった。キャラクター「とうはくん」を制作したほか、とうはくんをモチーフにした携帯ゲームなどを開発した。このキャンペーンの一環として、観光協会の協力により、スマートフォンアプリ「ふらっと案内」にコンテンツを提供することとなった(図表2-3-8-4)。
 また、中心市街地の「一本杉通り商店街」では、街歩きを楽しくするために、町の「語り部処」として商店主や高齢者に話をしてもらって、来街者と交流する新しい体験型観光を始めており、「ふらっと案内」コンテンツにも、語り部処として、店の情報等を掲載した。
 観光協会と企業グループとのネットワークが形成されたことから、観光協会のアイディアを形にする相談が行いやすい体制が形成された。また、観光協会事務局職員が地元住民であるため、地元商店主などとの太いネットワークを生かして、企画への参画や情報収集を丹念に行った。さらに、協会が把握している地元ニーズや地域資源を、企業グループのICT利活用やイベント等の企画力と組み合わせることで魅力的なキャンペーンを行うことができた。
 今後、七尾市単独ではなく、能登観光圏全体として活用したいと考えているという。しかし、広域化するに当たっては各市町村の理解が必須であり、ICTへの理解や、予算の確保、回遊性向上等の効果に対する疑念等の課題もあるとのことである。

図表2-3-8-4 スマートフォンアプリを活用して地域おこしに成功した「七尾ふらっと案内」
図表2-3-8-4 スマートフォンアプリを活用して地域おこしに成功した「七尾ふらっと案内」
(出典)総務省「ICT利活用システムの普及促進に係る調査研究」(平成23年)

エ ソーシャルゲームをてこにして若者層の新規就農拡大を図る「ゆーにん」 (北海道由仁町)

●ソーシャルゲームをてこにして若者層の新規就農拡大や生産地支援に取り組む

 米国で自動車関係のビジネスを行っていたA氏は知人に紹介されてじゃがいもの産地である北海道由仁町を訪問し、そのおいしさに感動をして何とかそれを発展させられないかと考えた。帰国後、由仁町のまちおこしと農業活性化を目的として、株式会社ゆーにんを立ち上げた。まずは若い人に農業に興味をもってもらうきっかけとして、ゲームが最適であると考え、以前ICT企業にいたB氏が技術面のサポートをして、農場経営ゲームの開発に取り組んだ。その結果「北海道ゆーにんふぁーむ みんなで農場プロデュース@由仁町」というゲームをSNSに公開した(図表2-3-8-5)。
 ゲームはプレーヤーが由仁町をモデルとした農地で各種農産物を育ててその成果を楽しむというものであるが、農業の専門家であるC氏の監修を得て実データを基にした天候や価格、農業資材と作物の関係等を再現し、現実世界の追究にこだわっている。一方、由仁町には千葉県に在住していたD氏が移住して、新規就農者として取り組んでおり、その様子を「農業体験塾」としてブログで発信しているが、この取組もゲーム参加者の農業への関心を喚起している。
 その結果、SNS上の公式コミュニティでは、「農業を学べる場所が欲しい」、「自分のアイディアをゲームに採用して欲しい」などの声が上がっている。そこで、実際に、ゲームアプリ利用者を集めてオフ会を開催し、由仁町の土に触れる機会をつくるイベントを計画中である。なお、ゆーにんではゲームはあくまでも広告塔であり、若者に農業に興味をもってもらうための手段として位置付けている。
 ゆーにんの取組は、各種メディアから注目され、地域住民や自治体、農協関係者が関心を持ってくれることとなった。はじめは地元側は懐疑的であったが、今では好意的に受け入れられている。
 なお、ゆーにんでは、農業を活性化させるために、農家で生計が立てられる仕組が必要であると考え、そのための様々な仕組づくりに取り組みはじめている。規格外作物の販売、加工品の販売による安定収入源づくり、農家に対する販売方法や税に関する研修会の開催など、ゲーム以外の取組を始めている。

図表2-3-8-5 ゆーにん(北海道由仁町)
図表2-3-8-5 ゆーにん(北海道由仁町)
ソーシャルゲームをてこにして若者層の新規就農拡大や生産地支援に取り組む
(出典)総務省「ICT利活用社会における安心・安全等に関する調査研究」(平成23年)
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