我が国には、少子高齢化をはじめ、エネルギー、環境、都市の過密と地方の過疎など、解決すべき問題が山積している。とりわけ、我が国は人口の減少や急速な高齢化の進展によって、他国に先んじて社会的課題に直面する「課題先進国」である。我が国が抱える社会的課題を解決し、国民生活や経済活動に必要な機能を維持していくには、ICTの活用が必要不可欠であることは、過去の情報通信白書で何度も取り上げてきたテーマである。
特に地方は、都市部に比べて、人口の減少や高齢化がより深刻な状況にある。その結果、地域経済の担い手が不足しているほか、住民の生活を支えるサービスの維持が困難となるなどの課題に直面している。働き方、教育、医療・介護、インフラ・交通、産業振興、防災・減災など様々な地域課題が存在する中、各地域は自身の特性や事情に合わせて、ICTの導入による課題解決を推進している。一方で各地域における取組の内容は異なっても、持続可能な規模での取組、市民との協働、横展開を見据えた内容など共通するポイントも存在しており、地方創生を推進する上でひとつの示唆となるだろう。
先に述べた新型コロナウイルス感染症の拡大の状況等を踏まえて、2020年に開催予定であった2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会1(以下「東京2020大会」という。)は2021年に延期されることが決定したが、総務省では、東京2020大会のレガシー創出に向けて、世界最高水準のICTインフラの実現及び高度なICT利活用の実現を目指し、これまで社会全体のICT化を推進してきた。また開催地である東京都や企業においてもICTを活用した街づくりや環境整備を推進している。これらの取組は単に我が国のICTをショーケースとして世界に示すだけでなく、我が国の社会全体を変革するチャンスでもある。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症の拡大が、我が国の社会全体の変革を促している。不要不急の外出が自粛され、様々な分野において制約が課せられる中、国民生活や経済活動を維持するためのICTの活用が広がっている。通勤・通学ラッシュを回避し、職場への出勤や登校を減らすためのテレワークの推進やオンラインでの教育コンテンツの提供などがその例である。
新型コロナウイルス感染症収束後も、次なる感染症の流行や大規模災害の発生など、国民生活や経済活動の維持が困難となる事態も想定されることから、ICTを活用した業務継続(BCP)に向けた恒久的な対策は必要不可欠であり、今後、情報通信分野においても、感染症拡大防止のための対応を進める上で浮上した課題への対応が求められる。また、様々な分野におけるデジタル化の進展によって、非対面を前提とする働き方やサービスが定着することも考えられ、このような社会に対する人々の意識変革も求められる。
5Gは、先に述べたように、我が国の産業・社会基盤として様々な産業・分野において実装され、各産業・分野が抱える課題の解決に寄与し、新たな付加価値の創出につながることが期待されている。各産業・分野において、感染症の収束後を見据えたデジタル・トランスフォーメーションを推進していくにあたり、5Gがそれを支えるインフラとしての役割を果たすことも期待されているところである。
1 2020年3月30日に、東京オリンピックは2021年7月23日から8月8日に、東京パラリンピックは同年8月24日から9月5日に開催されることが決定された。