総務省トップ > 政策 > 白書 > 令和2年版 > 医療等分野
第1部 特集 5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築
第4節 5Gが促す産業のワイヤレス化

(3)医療等分野

ア 医療等分野における課題

我が国の医療・介護需要は増加しており、特に高齢化が進行している地域において今後顕著に進展すると予想されている。一方、全体的な医師の不足及び地域的な偏在が課題となっている。特に、過疎地域や山間地域では、専門的な医療機関への受診が困難であることから、ICTを活用し、へき地診療所等の医師が専門医等から適切な助言・指導等を受けられる環境の整備は重要である。また、要介護認定者数が増加する一方で、介護施設職員の定着率が低くなってきており、労働力の確保や専門職人材の育成も課題となっている。過疎地域や山間地域では高齢者の独居・老老世帯が多い一方、ケアを行う家族も不在な場合も多く、増加する在宅療養者・患者に対する医療・介護現場の負担増大が課題となっている。

加えて、医師等の不足を背景とした、医師の長時間労働や医療機関全体としての効率化も課題となっている。例えば、救急・集中治療領域において、集中治療室における重症入院患者の治療は昼夜を問わない手厚い医療提供体制が必要であり、各診療科の主治医が外来・手術等の本来業務に加え、夜間も集中治療室において重症患者の治療にあたらなくてはならない等、医師の長時間労働の一因となっている。

また、新型コロナウイルス感染症の世界的流行下では、通院による患者や医療従事者の感染リスクをICTを用いることで低減させる施策も求められている。

イ 現状のICT活用に係る取組

医療等分野におけるICTを活用した代表的な取組としては、オンライン診療が挙げられる。オンライン診療に対する需要の高まりを背景に、厚生労働省は2018年3月に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を発出、平成30年度診療報酬改定において「オンライン診療料」等が創設されたところである。オンライン診療においては、可能な限り多くの情報を得るために、リアルタイムの視覚及び聴覚の情報を含むICTの積極的な活用が望まれる領域である。

また、医療機関の働き方改革に向けては、例えば、厚生労働省が進める「Tele-ICU体制整備促進事業」では、夜間休日等において、遠隔から適切な助言を行い、若手医師等、現場の医師をサポートし勤務環境を改善するため、複数のICUを中心的なICUで集約的に患者をモニタリングし、集中治療を専門とする医師による適切な助言等を得るための取組が進められている。集中治療専門の医師が監視を行いつつ、必要時に現場の医師に助言を行うことで、集中治療専門の医師の有効活用が可能となる。

ウ 医療等分野における5Gのユースケース2
(ア)遠隔コンサルテーション

遠隔コンサルテーションは、離れた医師間で患者の診療情報や検査画像等を共有しながら診断・治療方針等に関して相談するものであり、医師の地域偏在といった課題に貢献できると考えられている。5Gによって、4K8Kのような大容量・高精細映像やバイタルデータが逐次送受信可能となれば、遠隔にいる医師は患者の状態をより詳しく確認できるようになり、適切な診療や指導につながると想定される。具体的には、過疎地域の診療所の医師が、高精細カメラで撮影した患者の様態、エコー画像、バイタルデータ等を遠隔地にある病院の専門医に5Gを用いて伝送し、リアルタイムかつ双方向で専門医の助言や指導を受けながら、診断や治療に当たることが想定される。

◎遠隔コンサルテーションに係る取組事例

2019年度に実施した総務省5G総合実証試験では、山間へき地での診療において、医療の地域格差や専門外の診療科の診療をする地域診療所の医師の負担を緩和するために、遠隔地の専門医による指示の下で高精細映像を用いた高水準の医療の提供を目指す実証試験を実施した。この実証試験では、高機能エコー、ベッドサイドモニター、4K接写カメラ、俯瞰カメラを搭載した高機能移動診療車(ハイパードクターカー)を地域診療所付近へ派遣する試みを行い、和歌山県立医科大学の専門医等と連携した高度遠隔移動診療について検証した。その結果、高精細映像を通じて遠隔地の診療所及び移動診療車においても、専門医と連携した診察が行えることを実証した。

図表2-4-3-4 5Gを活用した高度遠隔移動診療(総務省5G総合実証試験)
(出典)総務省作成資料
(イ)医療機関における通信環境の提供

医療機関内の通信環境の改善・整備は、医師の働き方の改善にもつながると考えられる。大病院は、病室数が多く、病棟が離れていることもある。医師と看護師の連絡は、主に院内PHS・携帯電話での音声通話となるが、電話では伝わらない部分もあり、医師が頻回に患者の所へ行くケースもある。5Gにより、医師と看護師間で大容量・高精細映像が送受信できるようになれば、医師はより正確で迅速な判断をすることができる。これにより、現場の看護師への指示で対応が完結できたり、緊急性のあるものであれば、適切な初期アクションを取ったりできるようになる。例えば、巡回している看護師が患者の異変に気づき、5G携帯端末で4K映像を医師と共有し、医師が患者の様態を確認して、すぐに治療が必要と判断したら、看護師に必要な対応を指示した上で、自身は治療室へと向かって治療の準備を進めることができる。

◎通信環境の提供に係る取組事例

防衛医科大学校、KDDI及びSynamonは、5GとVRシステムを活用した災害対応支援の実証実験の一環で、医療教育現場におけるVRシステムを活用した遠隔教育に関する実証実験を行った(2019年8月発表)3。防衛医大が我が国で唯一有している爆傷治療技術研究の設備「ブラストチューブ」を実証実験のフィールドとして使い、5GとVRを組み合わせ、VR空間上での設備見学やディスカッションなどの双方向コミュニケーションに関する実証実験を実施した。具体的には設備の設置場所に高精細の360°カメラを配置し、その映像を、5Gを通じてVR空間に配信、投影し、VR空間を遠隔地にいる複数の参加者が共有できるようにした。これにより、集合が難しい場所でのバーチャル会議や高精細映像による遠隔からの設備視察などの有効性について確認した。

図表2-4-3-5 医療教育現場における遠隔教育(防衛医科大学校・KDDI・Synamon))
(出典)総務省(2020)「第五世代移動通信システムのもたらす経済及び社会の変革に関する調査研究」
エ 期待される効果等

このような医療等分野における5Gの利活用は、5Gのエリア化が進むにつれ、将来的には都市部・ルーラル地域を問わず、全国に波及してくことが想定される。これにより、全国的な高水準の医療体制・サービスの確保、患者及び医療従事者双方の負担の軽減、医療従事者の働き方改善につながることが期待される。



2 総務省において、5G等の医療分野におけるユースケース(案)を作成し、公表している。
https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/iryou_kaigo_kenkou.html別ウィンドウで開きます

3 https://www.weeklybcn.com/journal/news/detail/20190830_169296.html別ウィンドウで開きます

テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る