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第1部 特集 5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築
第4節 5Gが促す産業のワイヤレス化

(2)インフラ・建設分野

ア インフラ・建設分野が抱える課題

先述のとおり、我が国のインフラ・建設等分野においては、深刻な老朽化と維持・更新に係るコスト負担が課題である。高度成長期以降に整備されたインフラについて、公共施設(市区町村保有の主な公共施設)の延べ床面積は1970年代に最も増加しており、その時期に建設された公共施設は2040年には築 60〜70年になる。国土交通省が所管するインフラを対象にした将来の維持管理・更新費の推計結果1によると、施設に不具合が生じてから対策を行う「事後保全」の場合、1年当たりの費用は2048年度には2018年度の約2.4倍となる。一方、施設に不具合が生じる前に対策を行う「予防保全」の場合、1年当たりの費用は2048年度には「事後保全」の場合と比べて約5割減少し、30年間の累計でも約3割減少する見込みとなる。したがって、「事後保全」から「予防保全」へ本格転換するとともに、新技術の活用等による点検の高度化・効率化を図り、今後増加が見込まれる維持管理・更新費の縮減を図ることが重要である。

他方、建設や港湾といったインフラ業の現場における人員不足・熟練作業者不足等もまた大きな課題となっており、省力化や効率化が必要となっている。建設業就業者数は、2018年平均で503万人であり、ピーク時(1997年平均)から約27%減少している。また、建設業就業者数の高齢化も進行しており、2018年度時点で、55歳以上が約35%、29歳以下が約11%と高齢化が進行し、次世代への技術承継が必要となっている。特に、小規模な建設業者ほど、後継者問題を課題としている割合が高いと指摘されている。

イ 現状のICT活用に係る取組

国土交通省の「i-Construction」では、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までの全ての建設生産プロセスでICT等を活用し、これまでより少ない人数、少ない工事日数で同じ工事量の実施を実現することで、建設現場の生産性を2025年度までに2割向上することを目指している。

例えば、距離と角度を同時に測るトータルステーション(TS)や衛星測位システム(GNSS)を使った高精度な測位技術をベースに、建設機械に3次元設計データを取り込み、施工機械の作業装置の自動制御等を行うマシンコントロール(MC)やオペレーターに操作ガイドを表示するマシンガイダンス(MG)等の機械施工を効率的に行う技術、そして、品質管理を確実に行う技術等が進展している。これにより、従来施工では、設計図から指標(測量ボール等)や丁張りを設置して、当該指標や丁張りを目安に施工と確認やオペレーターへの指示を繰り返すことが不要になり、実現設計図を現場に再現することで、施工用指標・丁張りや目安も不要又は減少する。

ウ インフラ・建設分野における5Gのユースケース

インフラ・建設分野において現在進められているICTを活用した点検や施工等も踏まえると、今後の5Gを活用したユースケースとしては以下の例が挙げられる。

(ア)インフラ点検

現場に設置された固定カメラや、ドローンや点検車両等に設置された移動カメラからの映像を、5Gの回線を利用して超高速かつ超低遅延で伝送することにより、リアルタイムの監視・管理を行うことが可能となる。特に、LTEやWi-Fiなどの従来の通信技術では困難であった、4K・8K等のより高精細な映像の伝送によって監視業務の精度が高まるとともに、AI技術を活用して情報量の増した映像を解析することによって、電線、道路、建物の外壁、鉄道の線路等における早期の異常検知等を行うことができる。より現場に近い「エッジ」と呼ばれる領域のサーバで演算等の処理を行い、5Gの超低遅延性を発揮することで、よりリアルタイムに検知を行い、フィードバックすることも可能となる。

(イ)建機等の遠隔操作・制御等

建機の遠隔操作・制御等では、映像データや操縦指示の制御信号など、多くの情報を送受信できる無線通信システムの構築が必要となるが、大量の映像等を求める場合には、従来のWi-Fi等では通信の遅延、速度・容量の不足等の課題があった。5Gを用いることで、高解像度の映像を低遅延で通信することが可能となり、多くの建機を同時に遠隔操作・制御できるようになる。システム全体で発生する遅延の抑制等の技術的課題はあるものの、遠隔操作・制御等に係る技術水準は向上しつつある。

◎建機等の遠隔操作・制御等に関する取組事例

5Gの超高速・大容量の特長を活用した試験として、2019年度の総務省5G総合実証試験では、造船業におけるクレーンの玉掛作業での安全確保支援に関する実証を行った。通常、玉掛作業では操縦者からの死角が多いため、音声で指示に従いクレーンを操作しているが、より安全にクレーン操作を実施するため、5Gを用いて死角となっている場所の4K高精細映像を運転台に送信することで死角を解消し、その映像を確認しながら安全に作業できる環境を実現するサービスを提供した際の5G性能を評価し、その効果を明らかにした。

図表2-4-3-3 高精細映像によるクレーン等の安全確保(総務省5G総合実証試験)
(出典)総務省作成資料
エ 期待される効果等

5Gと多様な技術が連携した点検や施工により、現場での作業員の負担を減らし、工期短縮や省人化、手戻りの大幅な減少が可能となり、作業の効率化、品質確保につながる。

インフラ点検では、技術者の判断支援に5GやAI等の多様な技術を活用し効率的かつ品質を確保した予防保全を行うことで、長期的には、社会資本の長寿命化の推進や維持管理・更新費等のトータルコストの縮減・平準化が期待される。

また、災害時等における建機等の遠隔操作・制御や高精細映像の伝送における5Gの活用は、より高度な技術実装を加速し、施工における品質確保とともに、効率化につながり、現場における労働時間低減等の働き方改革にも寄与するといえる。将来的には、自律型建機等が実現すると、災害時等以外でも活用可能となり、人員不足に起因する課題解決は一層進むであろう。加えて、品質を維持したまま機器を長時間稼働させることも可能となるため、工期の大幅な短縮をはじめ新たな施工の仕組みが生まれ、コスト削減のみならず付加価値を生むようなビジネスモデルにつながる可能性がある。

こうした施工技術や仕組みは、建設のみならず、類似の制御機能や機器を扱う業態や現場への応用・横展開も広がると予想される。こうした次世代の施工の仕組みを実装する事業者やプラットフォーム等の登場により、新たな業態・ビジネスの創出も予想される。



1 国土交通省(2018)「国土交通省所管分野における社会資本の将来の維持管理・更新費の推計」
https://www.mlit.go.jp/common/001271515.pdfPDF

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