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第1部 特集 5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築
第3節 新型コロナウイルス感染症が社会にもたらす影響

(2)教育分野における対応

ア 休校による各教育機関の対応

文部科学省によると、2019年3月時点において初等中等教育で遠隔教育を実施している自治体は、一部の学校で実施しているものも合わせて22%であったが、一方で今後も実施する意向がないとする自治体は72.5%(1,316自治体)となっている(図表2-3-2-10)。

図表2-3-2-10 初等中等教育の遠隔教育の実施状況(2019年3月現在、N=1,815自治体)
(出典)文部科学省(2019)「平成30年度学校における ICT を活用した教育の実態・意向等調査」を基に作成

しかし感染拡大防止のための学校の臨時休校措置が長期化し、教育課程の実施に支障が生じる事態に備え、オンライン授業を含めた家庭での学習支援等による児童生徒等の教育機会の確保のための施策が、自治体によっては講じられたところである。

例えば、北海道では、臨時休校によって児童や生徒に学習の遅れが生じる恐れがあるとして、動画投稿サイトのYouTubeを活用した授業動画の配信を推進することを決定した。これまでも授業の動画配信は認められていたが、運用の規定を細かく定め申請する必要があること、許可までの手続に時間がかかることからあまり利用されていなかった。この度の決定により道立の学校を対象に、申請を行った段階でYouTubeの利用を可能にし、それぞれの学校が自由に発信できるようにして児童や生徒の実情にあった家庭学習の支援を促す方針という68

千葉県柏市の教育委員会も臨時休校の自宅学習支援として、4月13日より授業動画の配信を行っている。小学校の算数と、中学校の数学・英語を中心として約20分の内容を市教委の指導主事13人が手分けをして各学年別に動画を撮影し配信している69

文部科学省の調査70によると、回答のあった全国の高等専門学校・大学のうち、5月12日時点で4月以降の授業について全体の86.9%が、授業の開始を延期しており、例年通りの時期で実施している学校も、ほとんどが遠隔授業を実施又は検討しており(10.7%)、その他の方法で感染予防に配慮して例年通り授業を開始したのは1校だけであった。

また、今回の新型コロナウイルス感染症対策だけでなく、今後多様なメディアを高度に利用して教室外の学生に対して行う授業(遠隔授業)の活用意向については、ほぼ全ての大学等で実施又は検討する方針となっており、コロナ収束後の教育のあり方も変化していくものと予想される(図表2-3-2-11)。

図表2-3-2-11 遠隔授業の活用に関する検討状況(5月12日20時00分時点)71
(出典)文部科学省(2020)「新型コロナウイルス感染症対策に関する大学等の対応状況について」を基に作成

こうした遠隔授業などでの教材の利用に関して、文化庁著作権課は教育機関がICTを活用した遠隔指導や自習など様々な活動の実施により、著作権が及ぶ著作物の利用(現行法上の権利制限規定の対象とならない公衆送信など)を行う場合については、事態の緊急性・重要性を鑑みて、著作権等管理事業者において格別の配慮をお願いする旨の文書を、3月4日に発出した72。その後、2018年の著作権法改正で創設された「授業目的公衆送信補償金制度」について、当初の予定を前倒しして2020年4月28日から施行された。従来は、学校の授業の課程における資料のインターネット送信について個別に権利者の許諾を得る必要があったが、これにより、個別の許諾を要することなく様々な著作物をより円滑に利用することが可能となった73

イ 教育環境格差解消のための支援

教育機関における遠隔授業の取組が拡大する一方で、家庭でのICT環境の格差による学習機会格差への影響が懸念されている。

総務省によると、2019年における個人の所属世帯年収別インターネット利用率は、200万円未満では8割であるのに対し、400万円以上では9割以上となっている(図表2-3-2-12)。

図表2-3-2-12 個人の過去1年間のインターネット利用経験(所属世帯年収別・無回答を除く)
(出典) 総務省 (2020) 「令和元年通信利用動向調査」(世帯構成員編)
「図表2-3-2-12 個人の過去1年間のインターネット利用経験(所属世帯年収別・無回答を除く)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

また、個人のインターネット利用の際に使用する機器については、所属世帯年収が200万円未満のパソコン利用は2割程度であるが、200万以上は3割近くとなっている(図表2-3-2-13)。

図表2-3-2-13 インターネットの利用機器(所属世帯年収別・無回答を除く)
(出典)総務省(2020)「令和元年通信利用動向調査」(世帯構成員編)
「図表2-3-2-13 インターネットの利用機器(所属世帯年収別・無回答を除く)」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

文部科学省では、これらの状況を受けてWi-Fi環境が整っていない家庭に対する、LTE通信環境(モバイルルータ)の整備を支援するとした74。また、オンライン講義を行う大学や高等専門学校の支援として、計約10万人分のモバイル通信機器を、学校を通じて学生に無償で貸し出し、自宅などでの学習を後押しする。支援対象となるのは主にオンラインでの講義を実施したことがない大学及び高等専門学校で、文部科学省が機器購入費を補助する。大学などは5月の連休明けを目途に、十分な通信環境が自宅などにない学生に対しWi-Fi通信できるモバイルルータを無償で貸し出す方針となっている。

文部科学省の調査によると、全国の大学・高等専門学校約830校のうち、遠隔での講義を行った経験がある大学は200校程度である一方で、約220校は未経験で設備も不足しているという。同省は一般的な大学の学生の約2割は自宅にWi-Fiなどの高速ネット環境がないと推計し、支援が必要な学生は1校あたり平均400人に上るとみている。今回の支援ではこうした推計などに基づき、計約10万人にルータを貸与する75

さらに4月3日の未来投資会議では、家庭学習の環境整備のためノート型パソコン(PC)など情報端末を2023年度までに生徒1人に1台配備する計画の前倒しを表明し、インターネットを使った遠隔教育の導入を加速させる方針を示している。

他方で、こうした状況を受けて、NTTドコモなど携帯3社は25歳以下の学生らの通信料の負担軽減策として、オンライン授業の聴講などによる通信量の増加で生じかねない通信プランの追加料金を一部無償化した。こうした支援を通じて、自宅にWi-Fi環境のない学生でもデータの追加購入による費用負担を気にすることなく遠隔授業やオンライン学習を利用できるとしている。

ウ 各メディアによる特別番組の編成

放送業界でも、休校中の子ども向けに独自の取組が行われている。

NHKと民放ラジオ101局は、共同ラジオキャンペーン特別企画として、「#いま聴いてほしいラジオ」をスタートし、新型コロナウイルスの影響により在宅で過ごす中学生・高校生に向けて、昼間の時間帯のラジオ聴取を勧めている。

また、民間放送事業者においては、子ども向け番組編成や、有料チャンネルの一部無料放送を開始するなどの対応を行っている(図表2-3-2-14)。

図表2-3-2-14 放送事業者の新型コロナウイルスによる臨時休校に対する教育支援
(出典)一般社団法人日本民間放送連盟HP

NHKでは、新型コロナウイルス感染症拡大防止に伴う全国の小中高等学校などの一斉休校を受けて、放送やインターネットで、小学生から高校生までの在宅の児童・生徒に、学びに役立つコンテンツ等を提供した。特にEテレでは、学校放送番組や高校講座のほか、サブチャンネルも活用し、子ども向け番組を放送するとともに、学校向けの様々なコンテンツを提供しているポータルサイト「NHK for School」においても、子どもの在宅利用を打ち出した特集コーナーを開設するなどの取組を行った。



68 NHK NEWS WEB(2020.04.17)「臨時休校 ユーチューブ活用した授業動画の配信を推進へ 北海道」(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200417/k10012391921000.html別ウィンドウで開きます

69 柏市HP「臨時休業中における学習動画の配信について(http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/270100/p054527.html別ウィンドウで開きます

70 文部科学省(2020)「新型コロナウイルス感染症対策に関する大学等の対応状況について」

71「遠隔授業を実施する」の回答には、例年通りの日程で授業を開始しつつ遠隔授業を行うものや、授業開始日程を遅らせた上で遠隔授業を行うものを含む。

72 文化庁 「新型コロナウイルス感染症対策に伴う学校教育におけるICTを活用した著作物の円滑な利用について」(https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/92080101.html別ウィンドウで開きます

73 文化庁 「授業目的公衆送信保証金制度の早期施行について」(https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/92169601.html別ウィンドウで開きます

74  文部科学省 「緊急経済対策パッケージ」(https://www.mext.go.jp/content/20200407-mxt_kouhou02-000004520-3.pdfPDF

75 日本経済新聞(2020.04.05)「大学の遠隔講義支援 文科省、10万人に通信装置貸与」 (https://r.nikkei.com/article/DGXMZO57686090V00C20A4CZ8000?s=4別ウィンドウで開きます

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