第1部 5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築
第3節 5Gをめぐる各国の動向

(3)韓国

ア 周波数割当て

2017年1月に中長期周波数総合計画としてまとめられた「K-ICTスペクトラムプラン」57では、今後10年間で合計40GHz幅の周波数を確保・供給することが盛り込まれた。その後、5G用周波数として、2018年までに28GHz帯で最少1000MHz幅、3.5GHz帯で300MHz幅の合計1300MHz幅以上の新規周波数を確保した。

科学技術情報通信部は2019年1月24日に発表した「第3次電波振興基本計画(2019〜2023年)」において、5G関連については、2.3GHz帯から90MHz幅、3.4GHz帯から20MHz幅、3.7〜4.2GHzから400MHz幅、24GHz以上の帯域から2GHz幅、合計2510MHz幅の周波数追加方針を示した。

その後、2019年1月31日、科学技術情報通信部は第3次電波振興基本計画に基づき、5G周波数追加供給のため専門家によるワーキンググループ(WG)を立ち上げて検討を行い58、同年12月に5G周波数追加供給を含む「5G+スペクトラムプラン」が5G+戦略委員会59で決定された60。同プランでは、5G用途周波数を2026年までに最大2640MHz幅を確保し、5G周波数を現在の2680MHz幅から5320MHz幅に拡大することを骨子としている。6GHz帯以下の中低帯域から合計640MHz幅、24GHz以上のミリ波帯から2000MHz幅を5G用途で追加する方針となっている。

2018年6月には5G周波数オークション(3.5GHz及び28GHz帯)が実施された。通信事業者3社(SKテレコム、KT及びLG U+)が3.5GHz帯及び28GHz帯の双方を落札する結果となり、落札金額は合計で3兆6,183億ウォンとなった。オークションを受けて周波数割当が完了した2018年12月から通信事業者3社61は法人向けにモバイルルーターでの限定的な5G商用サービスを開始している。ただし、現在活用されているのは3.5GHz帯のみであり、28GHz帯の活用は3社とも2020年中を目標としている。

イ 5G産業戦略

1990年代半ばに国策により、世界に先駆けたCDMAの導入及びブロードバンド網の全国整備を行った韓国は、5GをCDMA、ブロードバンドに続く第三の重要なマイルストーンと位置付け、官民を挙げて5Gのサービス課題への対応を迅速に進めている。

5Gの加入者数は当初予測を上回る速度の加入ペースで、2019年4月のモバイル5Gサービス開始からちょうど1年目の2020年4月2日現在で通信事業者3社の合計は人口の1割を超える577万人となった62。韓国政府は、商用化を契機に5G総合戦略を利活用促進型に切り替えを行い、2019年4月に政府横断総合戦略としてまとめられた「5G+戦略」では、公共分野から率先して5G活用サービスを導入する計画が盛り込まれた。この戦略では5G関連の10産業と5G活用サービス5分野の重点的育成を指定した(図表1-3-2-12)。

図表1-3-2-12 5G+戦略で10産業と5つのサービス分野を戦略育成
(出典)韓国科学技術情報通信部

全国ネットワークの構築は2022年までに完了する計画で、同年までに官民で合計30兆ウォン以上を5Gに投資することとなっている。また、2019年末までに人口の93%をカバーすることとされている63。早期5Gインフラ整備促進策として、2019年1月1日から2020年12月31日までの時限措置で基地局設備への投資額の最大3%まで法人税が控除64される優遇措置などを導入している。戦略指定された5つのサービス分野では財政面や実証事業など様々な支援体制が整備され、政策目標が数値化され年限が示されている65

産業・法人での5G活用に関しては、5G導入の初期段階においては、スマート工場やスマートシティ分野での活用が早く進む見通しである。

スマート工場分野では政権公約の第4次産業革命推進政策として、2022年までに中小企業の工場3万か所をAI/ビッグデータ/IoT活用のスマート工場化する戦略が既に進められており、中小ベンチャー企業部が助成金制度を拡充・整備した。この助成金制度を活用する形で科学技術情報通信部が中小ベンチャー企業部と連携して2020年から5G活用スマート工場を本格的に拡大し、2022年までに中小企業の工場1,000か所が5Gソリューションを導入するスマート工場とされる計画である。また、5Gソリューションを導入する中小企業工場は助成金等の各種政府支援をワンストップで受けられることとなっている。

スマートシティ分野では2020年までの初期段階においては、無線監視カメラやドローン活用老朽インフラ点検、精密測位に基づく火災予防サービスで5Gが活用される。このように政府が率先して5G普及促進を図ることで、5G活用世界一の国を目指している。

科学技術情報通信部はまた、政府横断で進める5G産業活性化の強化を図り、「5G投資促進三大パッケージ」を2020年1月にまとめた66。政策パッケージの主な内容は次のとおりで、2020年以降は5G関連産業育成のための政策を本格化する。

① 5Gネットワーク税額控除拡大:法人税の首都圏地域での控除率1%を2%に拡大。非首都圏地域は控除率を据え置くが控除対象に新たに工事費を含める。

② 現行の周波数割り当て対価と電波利用料を周波数免許料に統合し一元化

③ 新設5G基地局の登録免許税緩和

韓国には日本のような「ローカル5G」の制度は無いため、専用の5Gネットワーク構築を希望する企業や地方自治体は、5G免許を持つ通信事業者と個別に提携する。現在5G導入を進める施設には工場のほか、病院、士官学校、建設現場、港湾等がある。5G導入を進める自治体の事例としては、ソウル市の公共交通安全システムや世宗市のシャトルバス自律運行等がある。

現在、韓国で5G用に活用されている周波数帯は3.5GHz帯のみである。28GHz帯の活用開始は2020年下半期からを想定している。また、通信事業者3社は2020年6月までのSA(スタンドアローン)ネットワーク導入に向けて準備を進めているが、新型コロナウイルス拡散の影響により導入時期は遅れるという見方も出ており、5G+戦略委員会会合がまとめた2020年度計画では、SAと28GHz帯活用は両方とも年内の導入を目途とされている67

ウ 5G事業化動向

韓国では政府主導で2018年冬季平昌五輪にて世界初の5G実証実験サービス実施以降、2018年6月の5G周波数オークション、2019年4月の一般向け5Gサービス商用化を計画に沿って進めてきた(図表1-3-2-13)。

図表1-3-2-13 韓国の5G事業化動向
(出典)総務省(2020)「第五世代移動通信システムのもたらす経済及び社会の変革に関する調査研究」

5G商用化に当たっては、「世界初」のタイトルを狙う通信事業者3社間での消耗戦を避けるため、政府が間に入ってサービス一斉開始の段取りがあらかじめ調整されていた。

現在のBtoCサービスは、VR/AR活用、多視点や高画質を活かしたスポーツやコンサート中継、ゲーム等の娯楽分野が中心であるが、コマース等サービス領域は順次拡大中である(図表1-3-2-14)。通信事業者が多額の補助金を投じて端末の実勢購入価格を引き下げ、VR用ヘッドマウントディスプレイを無料提供するなどマーケティングにかなり力を入れたことがBtoCの好調を後押しした。

図表1-3-2-14 ソウル市内の地下鉄駅とLG U+がコラボした5G AR活用芸術鑑賞 イベント
(出典)(一財)マルチメディア振興センター(FMMC)撮影

法人や公共向けサービスでは、通信事業者が早くから新領域ビジネスの開拓に力を入れてきたこともあって、政策支援を受けたスマート工場やスマートシティ等を中心にユースケースが拡大している。

スマート工場分野では、2018年末にSKテレコムが、中小企業の部品工場において、5GとAIを活用した不良品の自動検出ソリューションを導入68したほか、大企業における事例では、2020年中の本格稼働を目指してKTがソリューションを構築中の現代重工業の蔚山造船所が挙げられる。蔚山造船所では第一段階として、ARグラス、360度監視カメラ、ウェアラブルの360度カメラ搭載ネックバンドが工場に導入される。

スマートシティ分野では、SKテレコムがインチョン自由経済区域やソウル市において5G活用交通安全システムインフラを構築中である。



57 https://www.msit.go.kr/web/msipContents/contentsView.do?cateId=_policycom5&artId=1324832別ウィンドウで開きます

58 5G周波数を追加確保のための作業部会本格稼動:https://www.msit.go.kr/web/msipContents/contentsView.do?cateId=_policycom2&artId=1512802別ウィンドウで開きます

59 国の5G戦略の最高意思決定機関である官民合同の委員会

60 https://www.msit.go.kr/web/msipContents/contentsView.do?cateId=_policycom2&artId=2360371別ウィンドウで開きます

61 3.5GHz及び28GHzの割当てを受けた法人は、年次別網構築義務(カバレッジ義務)及び割当て申請時に提出した「周波数利用計画書」を遵守する義務を負うこととされ、その履行実績を翌年4月までに提出することが義務づけられた。このうち、カバレッジ義務は、帯域ごとに基地局の基準構築数が定められ(3.5GHz帯は15万局、28GHz帯は10万台)、3年目(2021年)までに15%、5年目(2023年)までに30%の構築が義務づけられている。

62 科学技術情報通信部発表:https://www.msit.go.kr/web/msipContents/contentsView.do?cateId=_policycom2&artId=2814930別ウィンドウで開きます

63 政府発表(2020/4/2時点)によれば5G基地局数は11万5千局であるが、カバー状況は未公表。

64 2020年に控除範囲が首都圏2%、非首都圏最大3%へ拡大された。

65 https://www.korea.kr/common/download.do?fileId=187012451&tblKey=GMNPDF

66 https://www.msit.go.kr/web/msipContents/contentsView.do?cateId=_policycom2&artId=2462050別ウィンドウで開きます

67 https://www.msit.go.kr/web/msipContents/contentsView.do?cateId=_policycom2&artId=2814930別ウィンドウで開きます

68 韓国科学技術情報通信部の2020年4月の発表によると、5Gスマート工場化された中小企業工場は3か所存在する(https://www.msit.go.kr/web/msipContents/contentsView.do?cateId=_policycom2&artId=2805768別ウィンドウで開きます

テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る