第1部 5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築
第3節 5Gをめぐる各国の動向

2 各国の状況

(1)米国

ア 周波数割当て

連邦通信委員会(FCC: Federal Communications Commission)は2016年7月、24GHz以上のミリ波帯周波数を5G向けに、28GHz帯、37GHz帯、39GHz帯を免許帯域として、64-71GHz帯を免許不要帯域として、それぞれ配分した。加えて、8つのバンド3を5Gなどの次世代無線サービス向けに追加配分することを提案し、2017年11月に24GHz帯(24.25-24.45 GHz、24.75-25.25 GHz)と47GHz帯(47.2-48.2 GHz)を追加配分することを決定した4。また、2018年5月には、26GHz帯(25.25-27.5GHz)と42GHz帯(42-42.5GHz)を5G周波数として追加配分するための検討が開始された5

また、FCCは、3.7-24GHzのミッドバンド周波数について、無線ブロードバンドサービスに利用可能な周波数の確保に向けた検討のため、2017年8月、3.7-4.2GHz、5.925-6.425GHz、6.425-7.125GHzについて具体的な活用方法に関する意見を求める告示を発表した6、7。その後、CATVや地上波放送の番組伝送などに使用されている3.7-4.2GHzについて、FCCは5Gでの利用を可能とするため、周波数の再編や共用に向けた具体的な検討を2018年7月より開始した8、9

3.7GHz以下では、3.55-3.7GHzが市民ブロードバンド無線サービス(CBRS: Citizens Broadband Radio Service)として配分されているが、5Gでの利用も可能となる見通しである。さらに、教育ブロードバンドサービス(EBS: Educational Broadcasting Service)などに割り当てられている2.5GHz帯(2496-2690MHz)も5G利用向けに再編することが検討されている。また、FCCの5Gファースト計画によれば、1GHz以下のローバンド周波数では、600MHz帯、800MHz帯、900MHz帯を、5G周波数として変更する方針が示されている10

米国の周波数免許(周波数を使用する権利)は地域単位で割り当てられるが、落札者は、公衆網のみならず、自営網としても利用することができる。2019年に周波数オークションで実施された28GHz帯及び24GHz帯の免許は、全国で3,232ある郡を単位とする地域免許として割り当てられられ、ローカルエリア運用(工場などの物理的施設に限定された運用)、固定運用(P2PやP2M等)、ポータブルデバイス(人体から20センチメートル以内での運用)、可搬運用(静止した場所での運用)といった用途での利用が可能である11

5Gを含む次世代無線システムは、コネクテッドカー、スマートシティ、遠隔医療等の社会基盤への幅広い実装が想定されており、サイバーセキュリティに対する対策が必要不可欠となっている。そのため、5G周波数の運用開始に先立ち、免許人に対してセキュリティ計画や関連する情報の提出を求めることが提案されていたが、FCCは、2017年11月に採択された決定において、サイバーセキュリティ報告要件に係る規則を無効化し、代わりに、通信セキュリティ信頼性相互運用性委員会(Communications Security, Reliability and Interoperability Council: CSRIC)手続を通じて免許人からセキュリティ対策に講じている措置について情報提供を求めることとしている。

イ 米国政府の5G戦略

2018年10月、トランプ大統領は「アメリカの未来のための持続可能な周波数戦略の開発」に関する大統領覚書に署名した12。この覚書は、米国で5G及び次世代の技術開発を支援するためには、国家としての長期的な周波数戦略が必要不可欠との認識に基づいて作成された。その後、2019年4月、トランプ大統領は米国が5Gの世界的な競争で勝利するための行動計画13を発表し、減税や規制緩和措置による5G投資の一層の促進、5G周波数の更なる確保、農村地域に配慮したデジタル化支援を約束した14

FCCは2019年4月、トランプ政権の5G戦略方針を受け、インフラ政策の刷新、時代遅れの規制の近代化、更なる周波数の市場投入の三本柱から成る「5Gファースト計画」を発表した15。同計画では、連邦政府や地方自治体による5G基地局申請に対する審査手続をスピードアップしたほか、設備投資インセンティブを高めるために料金規制を緩和するなど、5Gインフラ整備の迅速化を支援することとしている。また、5G周波数については、ハイバンドから28GHz、24GHz、37/39/47GHz、26GHz及び42GHz、ミッドバンドから2.5GHz、3.5GHz及び3.7-4.2GHz、ローバンドから600MHz、800MHz及び900MHzを、また、免許不要帯域として6GHz及び95GHz以上の帯域を確保することが同計画に明記されている。

ウ 周波数オークションの実施

5G用周波数オークション16のうち、2018年11月以降、ハイバンドのミリ波帯オークションが順次開始された。2018年11月〜2019年1月には、28GHz帯で2,965件の免許が総額7億257万2,410USDで落札され、2019年3月〜5月には、24GHz帯で2,904件の免許が総額20億2,426万8,941USDで落札された。さらに、2019年12月〜2020年3月には37/39/47GHz帯の三つの帯域の一斉オークションが行われ、14,142件の免許が総額75億6,998万3,122USDで落札された。ミリ波帯の免許は全国を約400〜3,000に区分した地域免許として付与され、免許の更新要件として人口又は回線数に基づいたカバレッジ義務が課されている。しかし、用途については、公衆網又は自営網のいずれの利用も認められたことにより、自営用としてローカル5Gを整備することが制度上可能となった。また、小規模事業者に対しては売上高に応じて一定割合が落札額から割り引かれる。

ミッドバンドのオークションに関しては、2020年7月23日17には3.5GHz帯のオークションが開始される予定である。また、2.5GHz帯の一部は教育ブロードバンドサービス (EBS)に配分18されているが、教育目的の使用義務が2019年7月に廃止されたことから、未割当の帯域のオークションが2020年に実施される予定である19

なお、米国ではミリ波帯オークションに先立って、2018年10月にVerizonが固定5Gを、同年12月にAT&Tがルーター5Gを開始したが、これらの5Gサービスで使用されている周波数(28GHz帯及び39GHz帯)は、企業又は事業の買収等によって過去に獲得されたものが活用されている。

エ 各社の事業化動向

米国で全国展開を行っている大手移動体通信事業者は、ベライゾン・ワイヤレス(Verizon Wireless)、AT&T モビリティ(AT&T Mobility)、TモバイルUS(T-Mobile US)及びスプリント(Sprint)の4社である(2020年3月時点)。

既に各社とも5Gサービス導入計画を発表しており、全国各地でモバイル5G展開に向けたトライアルも実施中である。5Gの商用化においては、モバイル用途に先駆けてFWAを展開しようとしている。これは、国土が広く、地方のエリアではまたブロードバンド整備が十分になされていないことを背景としており、通信事業者は光ファイバ敷設よりもモバイル通信網への投資を意欲的に行うことで、5G無線通信を利用して代替を図ることを想定している(図表1-3-2-1)。

図表1-3-2-1 米国における5G事業化動向
(出典)総務省(2020)「第五世代移動通信システムのもたらす経済及び社会の変革に関する調査研究」

このうち、Verizon及びAT&Tは、早々に28/39GHz帯を利用した5G商用サービスを2018年内に展開する計画を発表した。ただし、28/39GHz帯は、5Gサービス開始当初はモバイル用途ではなく、FWAやホットスポット等のサービスに活用される。また、2018年4月にはT-Mobile USとSprintの合併が発表され、2020年4月1日には合併手続きを完了し新生T-Mobileとして米国でシェア3位の通信事業者が誕生した。これに伴い、両社の保有する5G用周波数と既存ネットワークを活用することで、全国的な5Gネットワークを迅速かつ高密度に構築することが期待されている。

米国初となるスマートフォン対応のモバイル5Gサービスは2019年4月3日にVerizonによって開始されたが、モバイルルーターを利用した5Gサービスは2018年12月よりAT&Tによって法人向けに開始されていた。また、FWAによる5Gサービスは、既にVerizonが2018年10月より開始していた(図表1-3-2-2)。同社が5Gを利用したFWAを提供する背景には、CATV事業者が主なシェアを占めてきた固定ブロードバンド市場でのシェア拡大を図る狙いがある。

図表1-3-2-2 Verizonによる5Gを利用したFWAサービス“5G Home”
(出典)Telecompetitor
(出典)Firece Wireless

その後、スマートフォン対応のモバイル5Gサービスは、2019年5月にSprintが、同年6月にAT&TとT-Mobile USが順次開始し、コンシューマー向けの5Gサービスが提供されている(図表1-3-2-3)。

図表1-3-2-3 米国4大通信事業者の5Gサービスの導入状況(2020年2月時点)
(出典)総務省(2020)「第五世代移動通信システムのもたらす経済及び社会の変革に関する調査研究」

産業・法人向けサービスでは、AT&Tが先行して提供したように、大手は、製造業向けソリューション、遠隔医療、AR/VRの産業利用、エンターテインメント・プラットフォーム等の分野に積極的にサービス提供をしている。以下に各社の特徴的な取組を紹介する。

(ア)Verizon:エンターテインメント産業との協力

2019年12月24日、米Walt Disney Studios StudioLABとVerizonとが共同で、米国ロサンゼルスで開催された映画「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」のワールドプレミアにおいて、5Gを駆使したライブエンターテインメント体験を披露した20。具体的には、Verizon 5G Ultra Widebandを使用してキャプチャーした映像の中継配信や、モーションキャプチャー技術を駆使し、イベント後の会場で参加者とバーチャルの映画のキャラクター(シス・ジェット・トルーパー)が交流できる体験コンテンツを発表した。

また2019年12月6日、ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ、ソニーモバイルコミュニケーションズとVerizonは、5Gを用いたスポーツのライブ映像撮影・制作に関する実証実験を発表した21。同月1日にヒューストンのNRG スタジアムで開催されたアメリカンフットボールの試合を撮影した映像をエンコードし、ネットワーク環境に適した形に制御を行うものである。さらに5Gミリ波帯対応デバイスを通じてVerizonの5Gネットワークで伝送し、スタジアム内編集室へのストリーミング配信にも成功した(図表1-3-2-4)。これによって、リモートプロダクション、自由度の高いカメラセッティング、セットアップ時間やコストの削減などが可能になるとされている。

図表1-3-2-4 5Gを用いたスポーツライブ映像制作の共同実証実験(Verizon及びSony)
(出典)ソニー株式会社
(イ)AT&T:産業分野での協力

2019年6月21日、AT&Tビジネスとサムスン・オースティン半導体及び米国サムスン電子は、米国初の製造に焦点を当てた5Gイノベーションゾーンを発表した。これは、製造業における効率、安全性、セキュリティ、運用パフォーマンスを向上させるために設計されたアプリケーションを備えた、研究開発拠点での5Gユースケースである22

(ウ)T-Mobile:退役軍人省との医療分野での協力

退役軍人省(VA)は国内最大の統合医療システムを運営しており、170の医療センターと1,074の外来施設を含む1,255の医療施設でケアを提供し、毎年900万人の登録退役軍人にサービスを提供している。彼らの3分の1は、VAの医療センターから遠く離れた米国の田舎のコミュニティに居住し、遠隔医療サービスの提供が必要である23

T-MobileとVAが共同で開発したVAビデオコネクトを使用することにより、退役軍人は、暗号化されたビデオ会議で医療サービスを提供するVAケアプロバイダーと仮想的に面会することができる。インターネットに接続できるほぼ全てのデバイスで機能し、VAビデオコネクトは、スマートフォン、タブレット、PC、ラップトップなどのWebカメラ、マイク、スピーカーを備えている。5Gが備える高速、低遅延及び全国的な接続性により、患者が退院する際のバイタルサインの追跡及び聴覚障害を持つ人々のためのリアルタイムの音声テキスト変換が可能となることから、業界全体においてタイムリーで安全な結果を得ることが期待される。

(エ)旧Sprint:アリゾナ州やアリゾナ州立大学と協力した取組

アリゾナ州のSprint True Mobile 5GとCuriosityTMIoTは新しい「スマートステート」モデルの作成の形成として、アリゾナ州立大学7万5千人の学生向けにAR学生体験、5つのキャンパスにわたる接続性と安全性に関する強化されたテクノロジープロジェクト及びオンライン授業等を提供している。加えて、IoTの人材を引き付け、育成し、維持するように設計された高度な教育カリキュラムを開発することを計画している24



3 24GHz、32GHz、40GHz、47GHz、50GHz、70GHz、80GHz及び95GHz以上の8つの周波数帯

4 FCC Takes Next Steps on Facilitating Spectrum Frontiers Spectrum(https://www.fcc.gov/document/fcc-takes-next-steps-facilitating-spectrum-frontiers-spectrum別ウィンドウで開きます

5 https://transition.fcc.gov/Daily_Releases/Daily_Business/2018/db0517/DOC-350768A1.pdfPDF

6 FCC Opens Inquiry Into New Opportunities in Mid-Band Spectrum(https://www.fcc.gov/document/fcc-opens-inquiry-new-opportunities-mid-band-spectrum別ウィンドウで開きます

7 アップル、グーグル、クアルコム、インテルを含む約30社は、6GHz帯(5.925-7.125GHz)を免許不要利用の帯域として拡大するよう、FCCに要求した。

8 https://www.fcc.gov/document/expanding-flexible-use-37-42-ghz-band別ウィンドウで開きます

9 2019年11月18日付のFCC委員長声明によると、既存免許人を4.0-4.2GHzに移行させ、その隣接帯域に20MHz幅のガードバンドを設けた上で、280MHz幅(3.7-3.98GHz)を2020年末までにはオークションにかける方針である。(https://docs.fcc.gov/public/attachments/DOC-360855A8.pdfPDF

10 https://www.fcc.gov/5G別ウィンドウで開きます

11 https://www.ecfr.gov/cgi-bin/text-idx?SID=138e58ad3a53d62cec92419ba6efddd3&mc=true&node=pt47.2.30&rgn=div5#se47.2.30_12別ウィンドウで開きます

12 Presidential Memorandum on Developing a Sustainable Spectrum Strategy for America’s Future, October 25, 2018(https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/presidential-memorandum-developing-sustainable-spectrum-strategy-americas-future/別ウィンドウで開きます

13 President Donald J. Trump Is Taking Action to Ensure that America Wins the Race to 5G, April 12, 2019(https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/president-donald-j-trump-taking-action-ensure-america-wins-race-5g/)別ウィンドウで開きます

14 そのうち、減税とは、法人税率の35%から21%への引下げ等を指している。また、農村地域に配慮したデジタル化支援とは、新たに204億ドルの「ルーラルデジタル機会基金(Rural Digital Opportunity Fund)」を農村ブロードバンドの整備のために創設することを指している。

15 The FCC's 5G FAST Plan(https://www.fcc.gov/5G別ウィンドウで開きます

16 米国では周波数の新規割り当ては原則としてオークション形式で実施される。なお、5Gに使用されている帯域である600MHz帯は2017年3月、28GHz帯は2019年1月、24GHz帯は同年5月、37/39/47GHz帯は2020年3月にオークションで割り当てられた。詳細はhttps://fcc.gov/auctions別ウィンドウで開きますを参照。

17 COVID-19蔓延のため6月25日より延期。(https://docs.fcc.gov/public/attachments/DOC-363292A1.pdfPDF

18 現在、EBS免許2,193件の約95%が周波数リースされ、その大部分をスプリントが借り受けて、モバイル5Gにも使用している。

19 FCC Transforms 2.5 GHz Band for 5G Services, Jul 11, 2019(https://www.fcc.gov/document/fcc-transforms-25-ghz-band-5g-services-0別ウィンドウで開きます

20 https://www.verizonmedia.com/ja/press/verizon-and-walt-disney-studios-studiolab別ウィンドウで開きます

21 https://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201912/19-1206/別ウィンドウで開きます

22 https://about.att.com/innovationblog/2019/06/5g_innovation_zone.html別ウィンドウで開きます

23 https://www.t-mobile.com/business/resources/articles/va-case-study?icid=TFB_TMO_C_20CONTENT_B6A7HKLK26BMSMH7H20204別ウィンドウで開きます

24 https://newsroom.sprint.com/sprint-and-arizona-state-university-to-combine-innovation-with-5g-and-curiosity-iot-in-groundbreaking-collaboration-to-reach-millions-residents-students.htm別ウィンドウで開きます

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