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第1部 特集 5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築
第4節 5Gが促す産業のワイヤレス化

(8)モビリティ分野

ア モビリティ分野が抱える課題
(ア)安心・安全な交通インフラの提供

我が国の交通事故に関する統計によれば、交通事故死者数は近年継続的に減少しており、自動車の安全機能の向上などを背景に、自動車乗車中の死者数が減少している12 。一方、死亡事故の第一当事者(多くの場合における事故の主因)が65歳以上の割合が、2009年の20.4%から2019年には29.7%に上昇しており13 、ドライバーの高齢化に伴う課題が浮き彫りとなっている。また、交通事故は全体として減少しているものの、その経済損失(金銭的損失・非金銭的損失含む)は3.2兆円以上/年(2014年時点)と非常に規模の大きいものである14

(イ)交通や物流の効率化・合理化

交通渋滞により、一人当たり年間40時間、全国で50億時間の時間損失が発生している。

物流に着目すると、我が国では年々トラック輸送の総量は減少しているが15 、ECを支える宅配便の取扱個数が10年間で3割も増している16 。新たな労働参入が限られる中、輸送を支えるトラック業界では低賃金、高労働負荷の厳しい労働環境となっている中、運転手及び物流配送員の高齢化により、コストのみならず輸送に関わる人員の確保やドライバーの負担軽減(生産性向上)も課題となっている。

(ウ)過疎化・高齢化に伴う社会の交通・移動手段の確保

地域の過疎化が進展する中、利用者減少により全国の地域鉄道事業者の72%17 、地方部の乗合バス事業者の85%18 が赤字になるなど、公共交通をとりまく環境は年々厳しさを増している。高齢化と相まって、買い物のための交通手段が無い全国の「買い物弱者」は700万人に達し、今後も増加見込みと言われている。公共交通ネットワークが必ずしも全域で充実しているとはいえず、交通弱者を生じさせないような仕組み作りが課題となっている。

イ 現状のICT活用に係る取組

交通安全対策に向けては、ビッグデータの活用により、生活道路等における速度超過、急ブレーキ発生、抜け道等の潜在的な危険箇所を特定するなど、効果的かつ効率的な対策の立案等に資する取組が行われている。

交通流動や流通の効率化においては、ドローンによる荷物輸配送や宅配便の再配達削減等により効率的でスマートな地域内物流の実現に向けた取組が進められている。

新たな交通モードへの対応として、カーシェアリングが挙げられる。日本のカーシェアリングは、既に会員130万人を突破している19。また、海外ではスマートフォンのアプリを使った配車サービスが急増している20

さらに、自動運転については、日本では2025年頃には一般道でのレベル3での自動運転が実現すると予想される。その実現に向けて、レーダーなどを用いて先行車両と後続車との車間距離を測定し、速度に応じた安全な車間距離を保持する車間距離制御(ACC: Adaptive Cruise Control)が既に実用化されている。

ウ モビリティ分野における5Gのユースケース
(ア)高度な交通管理

インフラ分野の一分野として、道路や公共施設に設置したカメラの映像やセンサーのデータ等を、5Gで伝送し、AIによる画像解析等で車両の移動や通行人の行動特性等を観測・分析することで、交通インフラの状況の機動的な把握・分析・情報提供に活用することができる。こうしたビッグデータの収集・活用の高度化により、きめ細やかな渋滞予測(所要時間、交通需要)などの交通量管理や交通安全対策にもつながる。特に、インフラや安心・安全分野における5Gの活用の場合と同様に、高精細な映像を用いた広域の監視においては、認識や検知の精度も高まることから、事故予防などの新たな機能の実現も予想される。

また、上記の固定されたカメラやセンサーの他、バス等の移動車両に設置した移動カメラを活用した遠隔モニタリング、画像解析による障害物・異常検出等も、無線のメリットを生かした5Gのユースケースも想定される。

◎高度な交通管理に関する取組事例

2019年度に実施した総務省5G総合実証試験では、信号交差点をカメラ・センサーで監視して異常を検知し、5G通信により車両監視制御センターに伝送するとともに、近隣交差点の走行車両への情報通知、信号機制御を行い、二次災害や渋滞を防止する実証試験を実施した。また、災害時の放置車両制御を想定し、遠隔操縦による放置車両移動や、車両運行支援の試験として、車載の赤外線サーマルカメラ/4Kカメラの映像を活用した濃霧発生時の運転補助の試験を実施した。

図表2-4-3-14 高度な交通管理(総務省5G総合実証試験)
(出典)総務省作成資料
(イ)高度な車両制御

現在、速度に応じた安全な車間距離を保持する車間距離制御(ACC)が実用化されているが、車間距離情報のみの制御では前方を走る車の減速度の発生開始から車間距離が変化するまで、さらに後続車の減速が発生するまでには遅延が生じ、追突を防止するには長い車間距離が必要となる。車車間通信を通じて前方車両の速度や加速度の情報を後続車に伝送し車速を制御しながら、更なる燃費低減、道路の交通容量の増大を図るためには、安全を確保しつつ一層の車間距離の短縮が必要であることから、5Gの超低遅延性を活用したトラック隊列走行等、車両の遠隔操縦や自律型走行への応用が想定される。

◎高度な車両制御に関する取組事例

2019年度の総務省5G総合実証試験では、基地局経由車両通信(V2N)において、5G基地局4局をハンドオーバしての監視映像伝送試験を実施した。また、車車間直接通信(V2V Direct)においては、新東名高速道路で実施しているトラック隊列走行の後続車自動運転制御(CACC)実証試験において、5Gの超低遅延通信による車間距離(10m)制御、操舵に成功した。

図表2-4-3-15 高度な車両制御に関する取組事例(総務省5G総合実証試験)
(出典)総務省作成資料
エ 期待される効果等

5Gを活用した、高度な交通管理や自動運転の実現と普及により、安全性の向上による交通事故の抑制、渋滞の軽減や運送効率の向上など、交通分野における生産性向上が図られると考えられる。また、地域における高齢者の安全・安心な足の確保、観光客の利便性の高い周遊手段の確保等、MaaSをはじめとする新たな交通サービスの創出も想定される。



12 「令和元年における交通死亡事故の特徴等について」令和2年2月13日(警察庁交通局)

13 「令和元年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」(警察庁交通局)

14 「自動車保険データにみる交通事故の経済的損失の状況」平成26年3月(一般社団法人日本損害保険協会)

15 「自動車輸送統計年報」(国土交通省)

16 「トラックドライバーの人材確保・育成に向けて」平成27年5月(国土交通省)

17 「地域鉄道の現状」令和2年4月(国土交通省)

18 「平成29年度乗合バス事業の収支状況について」(国土交通省)

19 「わが国のカーシェアリング車両台数と会員数の推移」2018年5月(交通エコロジー・モビリティ財団)

20 Uberは全世界で利用回数1億回/月、Lyftは米国内だけで700万回/月など。

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