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第2部 基本データと政策動向
第8節 ICT国際戦略の推進

(1)多国間の枠組における国際政策の推進

ア G7・G20

社会経済活動のグローバル化・デジタル化により国境を越えた情報流通やビジネス・サービスが進展する中、G7、G20の枠組でも活発な議論が行われている。その発端となったのは、我が国が議長国を務めた2016年(平成28年)4月のG7香川・高松情報通信大臣会合である。同会合は、G7の枠組みで21年ぶりに開催された情報通信大臣会合であり、①質の高いICTインフラを通じたデジタル・ディバイドの解消、②サイバーセキュリティやプライバシー保護を踏まえた情報の自由な流通の推進、③IoT、ビッグデータ、AI等の新たなイノベーションの促進、④ICTの利活用を通じた健康医療、高齢化社会、女性活躍、防災等の地球規模課題への対処等に合意し、デジタル経済の発展に向けた政策議論において大きな成果をあげることが出来た。その成果は、2017年(平成29年)のG7情報通信・産業大臣会合(イタリア)及び2018年(平成30年)のG7イノベーション大臣会合(カナダ)、及び2019年(令和元年)のG7デジタル関係閣僚会合(フランス)の議論にも受け継がれ、AIに関するG7としての共通原則の検討が進められるなど、その検討は一層の深化を見せている。

また、G7のみならず、存在感を増している中国、ロシア、インド等を含むG20の枠組みにおいても、デジタル経済に関する議論が継続的に行われるようになっている。具体的には、G7香川・高松情報通信大臣会合以降、2016年(平成28年)9月のG20首脳会合(中国)において、デジタル経済に関する独立の成果文書が初めて採択された後、2017年(平成29年)4月には、G20の枠組みで初となるデジタル経済大臣会合(ドイツ)が開催され、その成果は、2018年(平成30年)のG20デジタル経済大臣会合(アルゼンチン)にも受け継がれた。

また、2019年(令和元年)6月8日及び9日、総務省、外務省、経済産業省が、茨城県つくば市において「G20茨城つくば貿易・デジタル経済大臣会合」を開催した。石田総務大臣,河野外務大臣、世耕経産大臣が共同議長を務め、SDGsの推進、信頼性のあるデータの自由な流通の促進(DFFT。データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)、AIに関する原則の検討、デジタル経済におけるセキュリティに関する新たな共通認識などに関して議論を行った。特に、G7 香川・高松情報通信大臣会合以降、国際的な議論が継続されてきたAIについては、G20ではじめて「人間中心」の考えを踏まえたAI原則に合意し、G20大阪サミットでの首脳レベルでの合意にもつながった。加えて、信頼性のある自由なデータ流通の概念の合意は、G20大阪サミットの機会において、信頼性のある自由なデータ流通を促進し、デジタル経済、特にデータ流通や電子商取引に関する国際的なルール作りを進めていくプロセスである「大阪トラック」の立ち上げにつながった。

我が国においては、これらのG7/G20の成果を踏まえ、質の高いICTインフラの海外展開、AI開発に関する国際的なガイドラインの検討、官民コンソーシアムを通じたIoT推進のための国際連携、サイバー攻撃情報の共有のための国際連携等に取り組んでいる。併せて、G7/G20における成果をOECD、APEC、ASEAN、IGF等の他の国際フォーラムにおいても積極的に発信していくことで、世界的なデジタル経済の発展への一層の貢献を図る。引き続き、G7、G20をはじめ、OECD、APEC、ASEAN、IGF等、他の国際フォーラムにおいても、関係国と協力して、情報の自由な流通の促進やマルチステークホルダーアプローチの支持等に関するメッセージを発信し、各国際フォーラムの成果文章等にも反映させることに努めていく。

イ アジア太平洋経済協力(APEC)

アジア太平洋経済協力(APEC:Asia−Pacific Economic Cooperation)は、アジア・太平洋地域の持続可能な発展を目的とし、域内の主要国・地域が参加する国際会議である。電気通信分野に関する議論は、電気通信・情報作業部会(TEL:Telecommunications and Information Working Group)及び電気通信・情報産業大臣会合(TELMIN:Ministerial Meeting on Telecommunications and Information Industry)を中心に行われている。

これまで、TELにおいては、2015年(平成27年)3月にマレーシア(クアラルンプール)で開催された第10回TELMIN(TELMIN10)において承認された「TEL戦略的行動計画2016-2020」に基づき、ICTを通じたイノベーションの推進、ブロードバンドアクセスの向上、IoTの展開、情報の自由な流通の促進等に関する議論を深めてきたところであるが、次の5年間に向けて戦略的行動計画の見直しを進めている。総務省としても、年2回開催されるTEL会合において、電子政府に関するプロジェクトの推進や我が国におけるICT政策の周知等の活動を通じ、TEL会合の運営に積極的に貢献している。

ウ アジア・太平洋電気通信共同体(APT)

アジア・太平洋電気通信共同体(APT:Asia-Pacific Telecommunity)は、1979年(昭和54年)に設立されたアジア・太平洋地域における情報通信分野の国際機関で、現在、我が国の近藤勝則氏(総務省出身)が事務局次長を務めている。APTは、同地域における電気通信や情報基盤の均衡した発展を目的として、研修やセミナーを通じた人材育成、標準化や無線通信等の地域的政策調整等を行っている。

総務省は、APTへの拠出金を通じて、ブロードバンドや無線通信など我が国が強みを有するICT分野において研修生の受け入れ、ICT技術者/研究者交流などの活動を支援している。2019年度(令和元年度)は、5件の訪日研修(23か国・地域から50名以上が参加)、2件の国際共同研究及び3件のパイロットプロジェクトの実施を支援した。

エ 東南アジア諸国連合(ASEAN)

東南アジア諸国連合(ASEAN: Association of South‐East Asian Nations)は、東南アジア10カ国からなる地域協力機構であり、経済成長、社会・文化的発展の促進、政治・経済的安定の確保、域内諸問題に関する協力を主な目的としている。

我が国は、ASEANの対話国の一つとして、日ASEAN情報通信大臣会合等機会を活かし、日ASEAN協力の強化に向けた提案や意見交換を行っており、双方の合意が得られたワークショップ等の提案については、我が国拠出金により設立された日ASEAN情報通信技術(ICT)基金等を活用し実施されている。2019年(令和元年)7月には、スマートシティをテーマとするワークショップを開催し、ICT分野におけるスマートシティに関する取組について知見・経験を共有するとともに、日本の先行事例を紹介した。

特に、サイバーセキュリティ分野については、人材育成を中心に日ASEAN間の協力を強化している。2017年(平成29年)12月にカンボジアで開催された第12回日ASEAN情報通信大臣会合において、我が国の支援により、ASEANのサイバーセキュリティ分野の人材育成の強化に向けたプロジェクトをタイで実施することに合意し、これを受けて2018年(平成30年)9月に日ASEANサイバーセキュリティ能力構築センター(AJCCBC:ASEAN Japan Cybersecurity Capacity Building Centre)をタイ・バンコクに設立した。現在、同センターにおいてASEAN各国の政府機関及び重要インフラ事業者のサイバーセキュリティ担当者を対象に実践的サイバー防御演習(CYDER)等を継続的に実施している。このほか、ASEAN各国のISP事業者を対象として、事業者間の情報共有の促進及び連携体制の構築・強化を目的とした日ASEAN情報セキュリティワークショップを定期的に開催するなど、各国におけるサイバーセキュリティ能力の向上に取り組んでいる。

オ 国際電気通信連合(ITU)

国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union (本部:スイス(ジュネーブ)。193か国が加盟))は、1865年パリで創設の万国電信連合と1906年ベルリンで創設の国際無線電信連合が、1932年マドリッドにおいて統合の後に発足した組織である。

国際連合(UN)の専門機関の一つで、電気通信の改善と合理的利用のため国際協力を増進し、電気通信業務の能率増進、利用増大と普及のため、技術的手段の発達と能率的運用を促進することを目的としている。

ITUは、

① 無線通信部門(ITU−R:ITU Radiocommunication Sector)

② 電気通信標準化部門(ITU−T:ITU Telecommunication Standardization Sector)

③ 電気通信開発部門(ITU−D:ITU Telecommunication Development Sector)

の3部門から成り、周波数の分配、電気通信技術の標準化及び開発途上国における電気通信分野の開発支援等の活動を行っている。我が国は、各部門における研究委員会(SG: Study Group)の議長・副議長及び研究課題の責任者を多数輩出し、勧告を提案するなど、積極的に貢献を行っている。

また2018年(平成30年)にはITUの最高意思決定会議として4年毎に実施される全権委員会議(PP-18)が開催され、我が国が1959年(昭和34年)以降12回連続で理事国に選出された他、橋本明氏(NTTドコモ標準化カウンセラー)が無線通信規則委員会(RRB)委員に選出された。同会議ではITUの戦略・財政計画、ITU憲章及び条約の改正、決議の作成・改正等について審議され、11の新決議等を含む文書が採択された。

(ア)ITU−Rにおける取組

ITU−Rでは、あらゆる無線通信業務による無線周波数の合理的・効率的・経済的かつ公正な利用を確保するため、周波数の使用に関する研究を行い、無線通信に関する標準を策定するなどの活動を行っている。中でも、各研究委員会(SG:Study Group)から提出される勧告案の承認、次期研究期間における課題や体制等の審議等を目的とする無線通信総会(RA:Radiocommunication Assembly)及び国際的な周波数分配等を規定する無線通信規則の改正を目的とする世界無線通信会議(WRC:World Radiocommunication Conferences)は、3〜4年に一度開催されるITU-R最大級の会合である。

2019年(令和元年)10月から11月にかけて、2019年無線通信総会(RA-19)及び2019年世界無線通信会議(WRC-19)が、エジプト(シャルム・エル・シェイク)において開催された。

RA-19では、審議の結果、2件の新規勧告及び3件の改定勧告の承認、2件の新規決議及び23件の改訂決議等の承認、次研究会期における研究課題の承認等が行われた。次研究会期におけるSGの役職については、SG6(放送業務)の議長に西田 幸博氏(NHK)、SG4(衛星業務)の副議長に河野 宇博氏(スカパーJSAT)、SG5(地上業務)の副議長に新 博行氏(NTTドコモ)がそれぞれ任命された。

WRC-19では、第5世代移動通信システム(5G)での利用を念頭においた国際的な移動通信(IMT:International Mobile Telecommunication)用周波数の拡大や、極めて高い周波数帯であり、これまで受信のみを行う受動業務のみに使用されていた275-450GHz帯の新たな通信用途での利用等が合意された。また、2023年(令和5年)に開催が予定されているWRC-23の議題についても審議が行われ、IMT用周波数の更なる拡大等を議題とすることが合意された。

(イ)ITU−Tにおける取組

ITU-Tでは、通信ネットワークの技術、運用方法に関する国際標準や、その策定に必要な技術的な検討が行われている。ITU-Tの最高意思決定会合であり、4年に1度開催される世界電気通信標準化総会(WTSA: World Telecommunication Standardization Assembly)が、2020年(令和2年)11月に開催される予定である(2020年7月現在、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、2021年2月への延期を協議中)。WTSAに向けた検討として、2020年(令和2年)2月に開催されたITU-Tの各研究委員会(SG)の標準化活動等に対し助言を行う役割等を担っている電気通信標準化アドバイザリグループ(TSAG: Telecommunication Standardization Advisory Group)会合では、次会期の活動に昨今の標準化展望の大きな変化を取り入れるため、現在のSG構成を見直すことがITU-T事務局局長から提言され、議論が行われた。SG構成の見直しについては、2020年(令和2年)8月の中間会合と同年9月の会合で継続して議論される予定である。

近年、注目が集まっている量子通信に関係する標準化活動としては、第13研究委員会(SG13)及び第17研究委員会(SG17)において、量子鍵配送(QKD: Quantum Key Distribution)に関する研究が進められている。2019年(令和元年)には、SG13において国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)、日本電気 株式会社(NEC)、及び株式会社 東芝が、量子通信関連の勧告化(QKDをサポートするネットワークに関する概要)を主導し、ITU-T標準として初めて承認されるなど、我が国のQKDネットワーク技術が国際標準の骨格形成に大きく貢献した。

また、ホットトピック関連ではITUメンバー外でも参加が可能なフォーカスグループ(FG)の活動として、2019年度(令和元年度)においてはFG AI4EE(AI新技術の環境性能効率化)、FG QIT4N(量子情報通信網)やFG AI4AD(自動運転用AI)が新たに設置される等、将来のネットワークやAIに関する新たな検討が開始されている。

さらに、SG17においては、IoT推進コンソーシアム・総務省・経済産業省が2016年(平成28年)7月に策定した「IoTセキュリティガイドライン」に基づくIoTのセキュリティ管理策をまとめた寄書を我が国から入力しており、勧告化に向けた審議が行われている。

(ウ)ITU−Dにおける取組

ITU−Dでは、途上国における情報通信分野の開発支援を行っている。

ITU−Dにおける最高意思決定会議としては、4年に1度世界電気通信開発会議(WTDC:World Telecommunication Development Conference)が開催されている。今研究会期(2018年〜2021年(平成30年〜令和3年))においては、WTDC-17(2017年(平成29年)10月開催、於:アルゼンチン(ブエノスアイレス)))で採択された戦略目標及び行動計画等に基づき、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献しつつ、研究委員会(SG)での研究、ICT開発支援プロジェクトの実施、ICT人材育成、統計調査の実施及びデータの分析・公表等の活動を推進しているところである。次回のWTDC-21は2021年(令和3年)11月8日から19日にかけてエチオピア(アディスアベバ)で開催予定であり、今会期の活動成果を取りまとめるとともに、それらを踏まえて審議が行われ、次会期の活動に関する体制、戦略目標、行動計画等が策定される見込みである。また、活動の成果として今研究会期におけるSGでの研究成果も報告される予定である。今研究会期のSGの活動としては、年2回の会合期間(春のSG会合、秋のラポータ会合)中に集中的にルーラル通信、障害者のアクセス、スマート社会、eヘルス、サイバーセキュリティ、防災ICT等14の研究課題についての議論が行われており、ベストプラクティスの共有やガイドラインの策定等を通じ、途上国における情報通信分野の戦略、政策等の立案支援、ICTアプリケーションやサービスの利活用の促進支援を進めている。我が国としても、SGの研究課題の役職者に7名を就任させて研究活動をリードするとともに、積極的な寄書の提出によるベストプラクティスの共有を通じてSGの活動に大きく貢献している。このほか、我が国主導でのeヘルス、防災ICT等に関するワークショップの開催及び展示ブースの出展等により、我が国ICTの技術やシステムの国際展開支援を行っている。また、ICT開発支援プロジェクトに関しても寄与するべく、総務省は途上国及びITU-D事務局と案件形成に向けた協議を行っている。

カ 国際連合
(ア)国連総会第一委員会

軍縮と国際安全保障を扱っている国連総会第一委員会においては、2004年(平成16年)以降、「国際安全保障の文脈における情報及び電気通信分野の進歩」に関する政府専門家会合(GGE:Group of Governmental Experts)を5会期にわたって開催し、国家のICT利用に関する規範やサイバー空間におけるルールづくり等について議論を行ってきた。第5会期については、その最終会合が2017年(平成29年)6月に開催されたが、サイバー空間への国際法の適用を巡って各国の立場が折り合わず、報告書を採択することなく終了した。第6期は、2019年(令和元年)12月から開催され、2021年(令和3年)の国連総会において議論の成果を報告する予定である。また、国連全加盟国が参加可能な議論の場として、2019年から国連の下に初めて立ち上がったオープン・エンド作業部会(OEWG:Open-Ended Working Group)にも日本は積極的に関与してきており、GGEでの議論との相互補完性にも留意しながら議論に貢献している。

(イ)国連総会第二委員会・経済社会理事会(ECOSOC)

経済と金融を扱っている国連総会第二委員会においては、開発とICTについての議論が行われている。また、情報通信分野における初めての国連サミットとして開催された世界情報社会サミット(WSIS:World Summit on the Information Society、2003年(平成15年)にジュネーブ、2005年(平成17年)にチュニスで開催。)のフォローアップとして、経済社会理事会(ECOSOC:Economic and Social Council)に設置されている「開発のための科学技術委員会」(CSTD:Commission on Science and Technology for Development)を中心に議論されている。

具体的には、インターネットに関する国際的な公共政策課題について、各政府が同等の立場でそれぞれの役割・責任を果たすために何をするべきかを議論するため、国連総会決議に基づき、CSTDの下に「協力強化に関するワーキンググループ(WGEC: Working Group on Enhanced Cooperation)」が設置されている。我が国もメンバー国として、WGECの第1会期(2013年(平成25年)5月〜2014年(平成26年)4月)及び第2会期(2016年(平成28年)9月〜2018年(平成30年)1月)の議論への貢献を果たしてきたが、先進国と途上国との間で見解の相違が大きい状況であり、その議論はまとまりを得ていない。

(ウ)インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)

インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF: Internet Governance Forum) は、インターネットに関する様々な公共政策課題について対話を行うための国際的なフォーラムであり、2006年(平成18年)以降毎年開催されている。同フォーラムは、2005年(平成17年)のWSISチュニス会合及び2015年(平成27年)12月のWSIS+10ハイレベル会合の成果文書に基づき国連が事務局を設置し、政府、産業界、学術界、市民社会等のマルチステークホルダーによって運営されており、2015年(平成27年)の成果文書に基づき2025年(令和7年)までの開催が決定されている。

2019年(令和元年)11月には、ドイツ(ベルリン)において、「一つの世界・一つのネット・一つのビジョン」をメインテーマに第14回会合が開催された。我が国としても、開催国ドイツとの協力の下で各ステークホルダーのハイレベルによるセッションに登壇し、G20議長国として、信頼性のある自由なデータ流通やAI原則の合意等、2019年(令和元年)のG20の結果を報告するとともに、インターネット・ガバナンスにおけるマルチステークホルダーアプローチの重要性について、改めて発言する等、同会合への積極的な貢献を果たした。

(エ)デジタル協力に関するハイレベル・パネル

デジタル技術による社会変革に対応するため、国連事務総長は2018年(平成30年)7月に「デジタル協力に関するハイレベル・パネル」を発足させた。パネルでの議論は、報告書「デジタル相互依存の時代(The Age of Digital Interdependence)」にまとめられ、2019年(令和元年)6月にパネルから国連事務総長に提出された。報告書では、①包摂的なデジタル経済と社会の構築、②人的・制度的能力の育成、③人権と人間の主体性の擁護、④デジタルの信頼性、安全性、安定性の促進、⑤世界的なデジタル協力、といった大きく分けて5つの勧告が公表され、その中でも、⑤世界的なデジタル協力においては、現在のインターネットガバナンスを強化する必要性がある旨を示唆する内容が含まれている。本報告書の公表後、国連主導により、本報告書のフォローアップに関する議論を行うマルチステークホルダー方のラウンドテーブルが勧告ごとに開催され、日本政府も議論に参加した。

その後、ラウンドテーブルでの議論を踏まえ、2020年(令和2年)6月には、事務総長名での「デジタル協力に関するロードマップ」が公表された。ロードマップでは、各ラウンドテーブルでの議論の経過やデジタル協力に関する今後の方針等が示されおり、ロードマップに書かれた事項の更なる具体化の議論が行われる予定である。

キ 世界貿易機関(WTO)・ラウンド交渉

2001年(平成13年)11月から開始された世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)ドーハ・ラウンド交渉においても、電気通信分野はサービス貿易分野における最も重要な分野の一つとして認識されており、貿易政策検討制度(TPRM)の枠組み等を通じて、各国の電気通信市場の一層の自由化に向けた検討が進められている。我が国は、WTO加盟国の中で最も電気通信分野の自由化が進展している国の一つであり、諸外国における外資規制等の措置の撤廃・緩和に向けて積極的に取り組んでいる。同ラウンド交渉は、各国の意見対立により中断、再開を繰り返している状況である。また、サービス分野(電気通信や電子商取引の分野が含まれる)においては、2013年(平成25年)6月より、21世紀にふさわしい新サービス貿易協定(TiSA:Trade in Services Agreement)の策定に向けた本格的な交渉が行われていたが、各国の意見対立により、交渉が中断されている。一方、電子商取引分野については、交渉のモメンタムが失われないよう、2017年(平成29年)12月に開催されたWTO第11回閣僚会合(於アルゼンチン)において、我が国が先導し電子商取引の共同声明を発出し、将来のWTO交渉に向けて探求的作業を開始することとされた。これを受け、2018年(平成30年)3月より、我が国は共同議長国として有志国会合を開催し、議論を主導している。2019年(平成31年)1月には、ダボスにおいて非公式閣僚会合を開催し、WTOにおける電子商取引分野の交渉開始の意思を確認するとともに、高いレベルの合意と可能な限り多くのWTO加盟国の参加の実現を追求すること等を内容とした有志国(76ヶ国)による共同声明を発出した。また、同年(令和元年)6月には、G20大阪サミットの機会にデジタル経済、特にデータ流通や電子商取引に関する国際的なルール作りを進めていくプロセスである「大阪トラック」が立ち上げられた。本有志国会合は、この「大阪トラック」の取組の一つとして位置付けられている。

ク 経済協力開発機構(OECD)

経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)は、1961年に設立された、政治問題及び軍事問題を除き、経済及び社会のあらゆる分野にわたって広範囲に意見及び情報を交換し、各国の政策の調和を図ることを目的とする国際機関であり、デジタル経済政策委員会(CDEP:Committee on Digital Economy Policy)が情報通信分野の政策課題等の議論の場となっている。OECDの特徴は、他の国際機関に比べ、最新の政策課題について、より多くのデータ分析が行われている(エビデンスベース)点や、関係する多くのステークホルダーが政策的な議論に参加している点(マルチステークホルダーアプローチ)にある。CDEPは、電気通信政策、情報セキュリティ、プライバシー、AI(人工知能)といったデジタル経済分野の先導的な議論を行っている。総務省は、OECD事務局への人材派遣や財政支援を通じた支援に加え、CDEP議長を総務省職員から輩出(2020年(令和2年)1月〜)する等、OECDにおける政策議論に積極的に貢献している。

2016年(平成28年)6月のデジタル経済に関する閣僚級会合(於:メキシコ(カンクン))で取りまとめられた、情報の自由な流通、ブロードバンドの普及推進、デジタル・ディバイドの解消等を内容とする閣僚宣言(カンクン宣言)6。を受けてOECDは、デジタルの便益を社会全体で包摂的に享受するための政策的な枠組の構築に向けた検討を行うため、2017年(平成29年)1月から「デジタル化に関する水平的事業(Going Digitalプロジェクト)」を実施している。このプロジェクトは分野横断的にOECDの多くの委員会が参加し、2019年(平成31年)3月に統合報告書及び関連する統計データが公表された。統合報告書では、①アクセスの促進、②効果的利用の増進、③イノベーションの開放、④全ての人のための質の高い仕事の促進、⑤社会的繁栄の促進、⑥信用(trust)の強化、⑦市場開放性の促進、の7つの項目に沿った政策提言がなされ、包括的な政策アプローチの重要性が強調されている。また、上記の7つの項目について、各国の取組状況を指標化して整理した「Going Digial Toolkit7」も公開されている。

また、OECDは、2016年(平成28年)からAIに関する取組を進めている。これは、同年4月のG7香川・高松情報通信大臣会合において、AIの研究開発等に関するガイドラインの策定等に向けた国際的な議論の必要性が提起されたことを受けたものであり、総務省と国際カンファレンスを共催(2017年(平成29年)10月)したほか、AIの普及動向や政策課題に関する分析レポートやAIに関する理事会勧告の作成に向けた検討を進めてきた。

OECDでは、2019年(令和元年)5月の閣僚理事会において、AIに携わる者が共有すべき原則や加えて政府が取り組むべき事項等示し、AIに関する初の政府間の合意文書となる「AIに関する理事会勧告」を採択・公表した。なお、この理事会勧告の内容は、2019年(令和元年)6月に開催されたG20茨城つくば貿易・デジタル経済大臣会合及びG20大阪サミットにおいて「G20AI原則」として採択された。2020年(令和2年)2月には、本勧告の履行のための実務者向けのガイダンスを公表するとともに、AIに関連する情報共有や政策的な議論を行うためのプラットフォーム「AI政策に関するオブザーバトリー(OECD.AI)8」を立ち上げた。今後、本プラットフォームを活用し、AIに関する研究開発や普及の動向等に関するデータの収集・分析や加盟国関係者間での情報共有を進めることとしている。

ケ その他

インターネットの利用に必要不可欠なIPアドレスやドメイン名といったインターネット資源については、重複割当ての防止等全世界的な管理・調整を適切に行うことが重要である。現在、インターネット資源の国際的な管理・調整は、1998年(平成10年)に非営利法人として発足したICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)が行っており、ICANNは、年に3回の会合を開催し、IPアドレスの割当てやドメイン名の調整のほか、ルートサーバー・システムの運用・展開の調整や、これらの技術的業務に関連するポリシー策定の調整を行っている。総務省は、ICANNの政府諮問委員会(各国政府の代表者等から構成)の正式なメンバーとして、その活動に積極的に貢献している。2016年(平成28年)11月より、我が国の前村昌紀氏(一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC))がICANN理事を務めており、2019年(平成31年)3月に再選された(同年11月から3年間の任期更新)。

ICANNは発足時から米国政府との契約に基づいてインターネット資源の管理を行ってきたが、2014年(平成26年)3月に、米国政府が、ドメイン名システムに関して同国が担ってきた役割(IANA(Internet Assigned Numbers Authority))を民間部門に移管する意向を表明した。その後、ICANNにおいて、米国政府との契約を解消し、ICANNが完全に独立するために必要な新たな体制やICANNの説明責任を確保するための仕組みについて検討が行われてきた。2016年(平成28年)3月にモロッコ(マラケシュ)で開催された会合において、その検討結果が取りまとめられ、米国政府に提出された。同年10月、米国政府はIANAをICANNに移管した。なお、ICANNの説明責任を確保するための仕組みについては、引き続きマルチステークホルダーによる議論が行われている。

ICANNにおける近年の主な議論として、2018年(平成30年)5月に施行された欧州GDPR(一般データ保護規則)に適合させるためにWHOISの仕様を見直す議論がある。WHOISとは、各インターネットレジストリが公開を義務づけられているデータベースであり、ドメイン名の運用者や技術担当者の連絡先が含まれている。これは、インターネットの技術的な問題が生じた場合に、各技術担当者間で直接調整可能することを目的としたものである。GDPRの施行に伴い、暫定的に、WHOIS上の情報を一部非公開とするよう運用されているところ、各国の法執行機関等が正当な目的に基づき非公開情報へのアクセスを確保できるよう、仕様の見直しに関する議論が本格化している。

また、2019年(平成31年)3月には、ICANN第64回会合が19年ぶりに日本(神戸)で開催され、インターネットガバナンスにおける日本のプレゼンスの向上に貢献した。



6 http://www.oecd.org/internet/Digital-Economy-Ministerial-Declaration-2016.pdfPDF

7 https://goingdigital.oecd.org/en/別ウィンドウで開きます

8 https://www.oecd.ai/別ウィンドウで開きます

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