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第2部 基本データと政策動向
第8節 ICT国際戦略の推進

第8節 ICT国際戦略の推進

1 国際政策における重点推進課題

(1)ICT海外展開の推進

総務省では、我が国のICT産業の国際競争力強化及びICTを活用した世界の課題解決の推進を目的に、ICT分野の海外展開支援等の活動を行っている。

ア 総務省におけるICT海外展開の戦略的な推進

総務省はこれまで、経済財政運営と改革の基本方針 (骨太の方針)やインフラシステム輸出戦略(経協インフラ戦略会議決定)における「2020年のインフラシステム受注約30兆円」1という目標を達成する政府全体の方針を踏まえ、通信・放送・郵便システム、防災/医療/医療といった分野でのICT利活用モデル、サイバーセキュリティ、電波システム等のICTインフラシステムの海外展開について、案件発掘、案件提案、案件形成といった展開ステージに合わせ、必要に応じて、株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)2や関係機関とも連携し、人材育成・メンテナンス・ファイナンス等を含めたトータルな企業支援を通じて精力的に取り組んでいる。

また、総務省は、ICT、郵便のみならず、消防、統計、行政相談制度、地方自治等といった幅広い分野で海外展開を推進している。2018年(平成30年)2月には、これらの取組を総合的・戦略的に推進し、更なる海外展開の強化を図るため、「総務省海外展開戦略」を策定し、イ以降のとおり、海外展開に取り組んできた。他方で、日本の世界における経済的比重の低下、デジタル技術の開発・普及を巡る競争の激化など、日本を取り巻く国際環境は依然として厳しく、今後は高齢化などの難題を乗り越えて日本の国際的な地位を確保する必要が一層高まるとともに、国連の定めるSDGsの達成に日本としてさらに貢献していく必要がある。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大への対応も急務となっている。

これらの観点を踏まえ、総務大臣主導の下、総務省としての総合力を一層発揮するなど政策資源を総動員し、より実質的に海外展開を進めるため、海外展開推進政策の基本的方針及び具体的な行動についての計画を定めた「総務省海外展開行動計画2020」を2020年(令和2年)4月に策定した。本計画では、従前から取り組んでいた「SDGsの推進」、「グローバル競争力強化」に、「『信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)』の推進」、「『自由で開かれたインド太平洋(FOIP)』構想の実現」、「政策資源の総動員」を加えた「総務省における海外展開5原則」を定めた。これら新たな原則を具体化すべく、DFFTを支える5G活用型の産業基盤の展開等外交政策と整合的な「デジタル国際戦略」の推進、官民協議会や海外展開データベースの整備などによる「官民一体となった海外展開」の円滑化の環境整備、技術力かつアイデアを有するスタートアップ等の展開支援によるイノベーションの創出等に取り組んでいくこととしている。

イ 分野別プロジェクトの展開
(ア)デジタルインフラ

デジタルインフラ分野では、需要が急速に拡大しているインターネットやモバイル通信などネットワークサービスを支える通信網や光海底ケーブル等の整備や運営を支援している。

例えばモバイル通信網に関してはミャンマーにおいて、日本企業が携帯電話通信事業に参入し、2019年9月時点で2,400万の契約者数を抱える同国最大のMNOを運営している。また、光海底ケーブル敷設事業は、世界大手3社のうち1社が日本企業であり、株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)を通じて3件、総事業費合計約792億円の事業支援を実施しているほか、アンゴラ・ブラジル間の光海底ケーブルが株式会社国際協力銀行(JBIC)からの70億円の融資により敷設されたという実績もある。

日本で地上デジタル放送が開始された2003年12月頃から取り組んでいる地上デジタル放送日本方式の展開については、中南米を中心として、日本を含む20か国が同方式を採用するなどの成果となっている(図表6-8-1-1

図表6-8-1-1 世界各国の地上デジタルテレビ放送の動向
(イ)デジタル技術利活用

デジタル技術の利活用分野の取組は、既存のデジタルインフラを利活用してサービスやソリューションを提供し問題解決や生産性向上を目指す取組(医療ICT、防災ICT、農業ICT等)、設備構築とサービス提供が一体となって課題解決を目指す取組(スマートシティ、電波システム)及びネットワークの安全と信頼性の確保を目指すサイバーセキュリティ向上の取組に分けられる。

まず既存インフラの利活用を行う取組としては、ブラジル及びチリの計100以上の医療機関でスマートフォンによる遠隔医療システムを受注するとともに、インドネシアにおいて約20億円規模のODA(無償資金協力)による防災情報共有システムの導入が決定されるなどの最近の実績がある。

スマートシティは最近拓けた分野でありこれからの可能性が大きいが、現段階で、ベトナムにおいてスマートシティのKPIに合わせて評価方法の作成に寄与した等の進捗がある。電波システムについては、2018年度からインドで高度道路交通システムの導入の実証を行うなど、着実に取組を進めている。

サイバーセキュリティについては「日ASEANサイバーセキュリティ能力構築センター」における人材育成のほか、サイバーセキュリティをテーマとした米国やASEANとの継続的なワークショップ開催や、2018年に締結した協力覚書に基づくイスラエルとの連携強化等の取組を通して、サイバーセキュリティ向上に向けた環境整備を推進している。

(ウ)デジタルコンテンツ

我が国の放送事業者が日本の魅力を発信する放送コンテンツを海外の放送事業者と共同制作し海外で発信する取組を支援するため、アジアを中心に2014年度から2019年度まで継続的な取組みを行ってきた結果、放送コンテンツの海外輸出額が6年で3倍以上に拡大した(2013年度 137.8億円 → 2018年度 519.4億円)。加えて、訪日観光客の増加や地域産品の販路開拓などの経済波及効果や日本の魅力の浸透など、様々な副次効果が生じていると考えられる。

(エ)国民サービスの品質向上

まずデジタル・ガバメント(電子政府)の関係では、ベトナムにおいて電子政府システムの構築を5億円のODAの供与や人材育成により支援するプロジェクトが進行中のほか、JICTによる電子政府事業の支援(デンマーク)(総事業費約1,360億円)も行われている。統計分野では、ベトナムにおいて2021年の経済センサスに活用するため日本発のオンライン調査システムが導入され、運用準備段階にある。

消防分野においては、2018年10月にベトナムとの消防分野における協力覚書に署名し、消防用機器等の規格・認証制度の研修の実施に向けた調整を行うとともに、日本消防検定協会及び(一財)日本消防設備安全センターの2機関についてアラブ首長国連邦で認証登録を受けるなどして、日本の消防用機器等の品質や規格・認証制度の発信を実施している。

郵便分野では、ロシアにおける取組が特に進展しており、日本企業がロシア郵便の国際交換局向けの郵便区分機等を受注しているほか、シベリア鉄道を利用した日本発欧州宛船便郵便物の輸送、ロシア郵便が運営するEコマースサイトや郵便局での日本商品の販売などの協力が行われている。またベトナムでも日本の郵便ノウハウが導入され、日本企業が郵便区分機等を受注し、日本企業の協力のもと郵便局の金融サービス電子化(電子マネーカードを用いた年金支給等)のサービスが提供されるなどしている。

行政相談分野では、各国の公的オンブズマンとの連携・協力等が行われており、例えば、ベトナムから研修生を直近7年で計約270人受け入れるなどの取組が実施されてきた。

信頼性の高い電子政府・統計システムの構築に関する知見を活かして、政府のデジタル化を支援している。ベトナムでは、中央省・地方省間の情報連携用システム構築を支援した。

ウ 各国ICTプロジェクトの展開
(ア)アジア地域

アジア地域は、堅調で安定した経済成長が続いており、経済成長に伴い中間層も拡大している。更に、域内の貿易自由化や市場統合などを通じ成長加速を目指す「ASEAN経済共同体(AEC)」が2015年(平成27年)末に設立され、我が国企業にとって成長市場としての魅力が更に増している。経済成長と生活の質の向上は、膨大なインフラ需要を生み出しており、ICTインフラもその例外ではない。また、都市交通や環境、防災などの分野において多くの社会的課題が生じており、ICTを活用した解決に期待が寄せられている。

A フィリピン

フィリピンについては、2018年(平成30年)1月に総務大臣がフィリピンを訪問し、大統領をはじめとするフィリピン政府要人に対して「日フィリピンICT総合協力パッケージ」を提案し、ICT利活用(防災、交通、サイバーセキュリティ等)の基盤となるICTインフラ(ブロードバンド網及び地上デジタル放送)の整備について両国で協力して進めていくことを確認した。

2019年(令和元年)6月には第4回総務省−情報通信技術省ICT協力委員会をフィリピンにおいて開催し、ブロードバンド網、地上デジタル放送、サイバーセキュリティ、防災ICTなど多岐にわたる分野の協力活動について進捗状況を報告するとともに、今後の協力の方向性について意見交換を実施した。

B ミャンマー

ミャンマーについては、2016年(平成28年)10月に、同年3月に誕生した新政権のミャンマー運輸・通信大臣が初めて来日し、総務大臣との会談を実施して、情報通信分野における両国間の更なる協力関係の強化を確認した。

これまでは、MPT(国営電気通信事業体)とKDDI・住友商事の共同事業に加え、外資系通信事業者2社がモバイル通信事業を行ってきたが、2017年(平成29年)1月に更にもう1社にライセンスが付与され、2018年(平成30年)3月よりサービスを開始した。こうした状況の中、日本政府は急速に拡大する通信需要に応えるため、円借款「通信網改善事業」(供与限度額105億円)により通信インフラの整備を支援している。

C ベトナム

ベトナムについては、2020年(令和2年)1月に高市総務大臣がベトナムを訪問し、情報通信大臣とともに「情報通信分野における協力覚書」等を改定する署名を行い、5G、サイバーセキュリティ及びスマートシティを今後の協力分野として新たに位置づけた。同時に、5Gのセキュリティ対応の重要性や、サイバーセキュリティの人材育成、スマートシティの推進などについて意見交換を行い、今後更に協力を進めていくことで一致した。

D タイ

タイについては、2017年(平成29年)6月に来日したデジタル経済社会大臣(当時)と高市総務大臣が「情報通信デジタル技術分野の協力に関する覚書」に署名するとともに、サイバーセキュリティ、気象分野等における情報通信デジタル技術の促進、郵便分野等の協力を推進していくこと等について合意した。

2019年(令和元年)12月には、寺田総務副大臣がタイを訪問し、デジタル経済社会大臣との間で、サイバーセキュリティ、スマートシティ、郵便などの分野における協力について意見交換を行い、今後の協力関係の強化について合意した。

(イ)中南米地域

中南米地域は、ブラジル、メキシコといった巨大な人口と大きな潜在成長力を誇る国々や、ペルー、コロンビアといった近年安定した成長を見せる国々を擁しており、成長性のある市場である。

現在、中南米諸国においてデジタル網の整備が進むのにあわせ、これを活用した遠隔教育、遠隔医療、農業、防災、防犯、スマートシティなどの各分野でのアプリケーションにかかる政策ノウハウ、維持管理技術、人材育成などを組み合わせた展開と、同地域での共通課題、解決方策にかかる連携を各国と強化している。

2017年(平成29年)にエルサルバドル共和国が日本方式の地デジを採用し、中米諸国でも採用が広まっている一方、南米諸国では、日本方式の地デジを採用してから10年を迎える国も多い中、日本方式の地デジ採用を契機としたICT分野全体の国際展開の強化に取り組んでいる。

A ブラジル

ブラジルは、2006年(平成18年)6月に、海外で初めて日本方式の地上デジタルテレビ放送が採用された国である。2016年(平成28年)10月のテメル大統領訪日時に署名された日本国及びブラジル連邦共和国との間のインフラ分野における投資及び経済協力の促進のための協力覚書において、情報通信技術分野が協力範囲として含まれた。2018年(平成30年)8月には総務省及びブラジル科学技術革新通信省との間で、地デジ及び情報通信技術分野に関する協力覚書を取り交わし、本覚書に基づき、2019年(令和元年)9月に第1回共同作業部会を開催し、地デジ、ICT利活用、サイバーセキュリティ等の分野について意見交換を実施した。今後も共同プロジェクト等を通じて協力関係を強化していくことで一致した。

B ペルー

ペルーでは2009年(平成21年)4月に日本方式の地上デジタルテレビ放送が採用され、JICA専門家派遣等の支援により総務省とペルー運輸通信省との間では放送分野における継続的な協力関係が構築されている。2016年(平成28年)11月に安倍総理大臣がペルーを訪問した際に出された共同声明では、光ファイバなどインフラ整備、物流や医療などの分野でのICT協力の一層の進展への期待が表明された。また、首脳会談直後に両首脳立ち会いの下、総務省と運輸通信省との間で共同プロジェクトを進める覚書を取り交わした。本覚書を具体的に進めるため、2017年(平成29年)2月には外務省と連携し、運輸通信大臣一行を日本へ招へいし、日本のICT関連政策・経験の共有を通じた政府間協力関係強化及び日本国内のICT利活用事例の紹介を行った。また、2018年(平成30年)3月には総務省とペルー運輸通信省と共催で「ICTとブロードバンドに関する国家政策提言に向けた貢献」国際フォーラムを開催し、各分野における共同プロジェクトのロードマップ具体化、今後の取り組みを加速化することを確認した。これまで遠隔教育、遠隔医療、防災、物流等の分野で共同プロジェクトが進められており、今後も同国とICT利活用の分野において、協力関係を深化させていく。

C コロンビア

コロンビアでは、デジタル網整備に関する日本政府とコロンビア政府との協力に関し、首脳レベルでの関心事項となっており、2014年(平成26年)7月の安倍総理大臣のコロンビア訪問時に発出された共同声明にも盛り込まれている。コロンビア政府は、情報技術・通信省を中心にデジタル網の整備・利活用を進める「Vive Digital」政策を推進しており、総務省は日本が有するFTTH技術に関する技術講習会の実施及び、日本の技術FTTH技術の高さを実証するフィールドトライアルを行ってきた。

また、近年、光ファイバや無線網の全国整備だけでなく、ICT利活用を通じてコロンビアの社会課題の解決を目指すため、スマートシティ、農業、医療等の分野で共同プロジェクトを実施している。特に農業の分野では、これまでの経験や勘に頼った手法ではなく、ICTを利活用した科学的な生産管理による農業プロジェクトを実施しており、生産性の向上に繋がっている。今後も、同国と各種分野でのICT利活用の取組を深化させていくことを確認している。

D チリ

チリは、2009年(平成21年)9月に日本方式の地上デジタルテレビ放送が採用され、翌2010年(平成22年)には、両国の間で地上デジタルテレビ放送の実施のための協力に関する覚書が取り交わされており、専門家派遣等の支援により、同国と放送分野における継続的な協力関係が構築されている。2015年(平成27年)には、情報通信技術分野における協力についての総務省と同国運輸通信省との共同声明が署名され、放送分野のみならず、光ファイバ(陸上、海底)、通信システム、サイバーセキュリティ等のICT全般の分野で協力を拡大していくことを確認し、2019年(令和元年)には安倍総理大臣とピニェラ大統領は、科学技術分野における協力を進展させることなど具体的な二国間協力の推進で一致している。これまで、海底ケーブル、医療、スマートシティ、防災等の分野で調査・実証事業を進めており、引き続き両国の通信分野における協力関係を強化していく。

(ウ)アフリカ地域

アフリカ地域は、豊富な天然資源・増加する人口を背景に近年めざましい経済成長を遂げており、インフラ市場としても高いポテンシャルを有している。現在、アフリカ各国において、ICTを通じた経済発展や、様々な社会課題を解決していく取組が進められている。

総務省は、アフリカにおけるICTによるSDGsへの貢献を推進し、日本のICT企業の活動を支援するため、情報収集の強化、現地におけるネットワーク形成や案件形成支援を強化していくこととしており、関係機関等と連携・協力しながら、(1)アフリカにおける調査・情報収集機能の強化、(2)質の高いICTインフラの訴求、(3)案件形成、人材育成支援に取り組んでいる。

2019年(令和元年)8月、神奈川県横浜市において、総務省とスマートアフリカ加盟国などが、ICT分野における日アフリカ間の協力強化のための取組を議論するため、TICAD7(第7回アフリカ開発会議)公式サイドイベントとして「日・アフリカICTハイレベルラウンドテーブル」を開催した。同会合では、アフリカの持続的な成長に向けたデジタル化の必要性を共有した上で、アフリカのデジタル化推進に向けた議論を行い、その成果文書として、「日・アフリカICTハイレベルラウンドテーブル共同声明」をとりまとめた。

A アンゴラ

アンゴラでは2019年3月に日本方式の地上デジタルテレビ放送が採用された。2020年2月に、第1回日アンゴラ地デジ/ICT共同作業部会を開催し、政策面及び技術面における知見を共有した。今後は、JICA専門家派遣等の支援により、放送分野における継続的な協力関係を構築していく。

B ボツワナ

ボツワナでは2013年2月に日本方式の地上デジタルテレビ放送が採用された。2013年7月に署名された日本国及びボツワナ共和国との地上デジタルテレビ放送の協力に関する覚書に基づき、これまで日ボツワナ地デジ共同作業部会を2013年7月から2018年11月まで8回開催している。また、JICA専門家派遣などの支援により、放送分野における継続的な協力関係が構築されている。昨年からは、地デジをきっかけとした他のICT分野での協力を推進している。

C ルワンダ

2018年5月にルワンダで開催されたトランスフォーム・アフリカ・サミット2018の際、情報技術通信省(当時)とICT分野の協力に関する覚書に署名し、スマートシティ、通信インフラ等の分野で協力を推進している。2019年1月及び2019年8月には、インガビレICT・イノベーション大臣が訪日した機会を捉え、石田総務大臣(当時)との面談を実施し、ICT分野における両国の更なる協力強化について意見交換を行った。



1 事業投資による収入額等を含む。

2 株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構法(平成27年法律第35号)に基づき、2015年(平成27年)11月25日に設立された官民ファンド。我が国の事業者に蓄積された知識、技術及び経験を活用して海外において通信・放送・郵便事業を行う者等に対し資金供給その他の支援を行うことにより、我が国及び海外における通信・放送・郵便事業に共通する需要の拡大を通じ、当該需要に応ずる我が国の事業者の収益性の向上等を図り、もって我が国経済の持続的な成長に寄与することを目的としている。

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