総務省トップ > 政策 > 白書 > 令和2年版 > 地域における自治体の役割とは
第1部 5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築
第1節 我が国が抱える課題と課題解決手段としてのICT

(3)地域における自治体の役割とは

これまで見てきた通り、地域が抱える課題は様々であるが、自治体職員数が減少し専門的な知識を有する職員が少なくなっていく中においては(図表2-1-2-18)、RPAやAIといったICTの導入による自治体業務の効率化と同時に、産学官の連携も重要となる。

図表2-1-2-18 地方公共団体の総職員数の推移
(出典)総務省(2019)「平成31年地方公共団体定員管理調査結果」23を基に作成
「図表2-1-2-18 地方公共団体の総職員数の推移」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

先に見た千葉市の事例においても、大学との協働を図っているが、ここでは自治体と民間企業の協働による課題解決の例として神戸市と高松市の取組を取り上げる。

ア 神戸市の事例

神戸市では、Urban Innovation KOBE(UIK)というスタートアップ支援の取組を実施している。UIKはスタートアップと神戸市職員が共同で課題の解決や、行政の業務見直し、効率化を図り、成果を市民に還元していく取組である。2019年度からは他市においても「Urban Innovation Japan(UIJ)」として同様の取組を実施する施策に発展し、取組が広がっている。

(ア)背景と目的

2015年7月に、シリコンバレーを神戸市長が訪問し、そこで出会ったのが、スタートアップ育成支援団体であるファイブハンドレッド・スタートアップス(500 Startups)とサンフランシスコ市のスタートアップ・イン・レジデンス(Startup in Residence)の取組である。神戸市で実施しているUIKの取組はそのスタートアップ・イン・レジデンスの取組を参考にしている。

現在、神戸市は2010年をピークに人口が減少傾向にあり(図表2-1-2-19)、特に若い世代が働きたい場所がないことが課題となっている。そのため、神戸に若者が働きたい場所を作り、神戸から世界に羽ばたいてもらうことを目指す取組としてスタートした。

図表2-1-2-19 神戸市の推計人口
(出典)神戸市「神戸市の推計人口(令和2年3月1日現在)」、「人口の推移(明治22年〜平成29年)」24を基に作成
(イ)区役所の業務効率化の課題対策

例えば、神戸市東灘区役所にて実証実験を行っていた、行政窓口案内をスムーズにするためのツール「ACALL FRONT(アコール フロント)」が2018年12月より本格的に導入されている。

これまで、区役所で案内をする職員は分厚いマニュアルを持って入口に立ち、訪問者を適切な窓口に案内していたが、案内係個人のノウハウに頼っている部分が大きく、職員の入れ替わりによってそのノウハウの蓄積や継承が適切に行われないという問題があった。そこで、ノウハウの継承と市民対応の質の向上を目的として、タブレット端末を活用した窓口案内を行うシステムの構築を行った。案内に使用するデータは、通常の窓口案内情報に加え、画像・地図・URLも登録可能とし、市民に視覚的にも伝わりやすいように工夫されている。

このシステムの導入により、案内時間が半分に減少したほか、システム上では分からないことがあったとしても、タブレット端末からインターネットに接続し検索することも可能となっており、市民サービスの質の向上につながっている。

図表2-1-2-20 Urban Innovation JAPAN 概要
(出典)Urban Innovation JAPAN説明資料より
(ウ)今後の展開

本取組は、自治体にとっての利点だけでなく、スタートアップにとってもPoC25ができることや、自治体でプロジェクトを行うことで企業の信頼性向上や広報PR効果が大きいこと、自治体との接点ができることといった利点がある。

また、UIJはUIKを神戸市以外の自治体にも展開する事を目的として活動しているが、このような取組を進めるに当たっては様々なノウハウが必要となる。例えば、スタートアップ企業との連携では、企業の体力や稼働人員の確保において困難が生じる会社もあるため、提携先の企業選定においては対象企業の実績も踏まえて検討する必要がある。また職員による最初の課題設定が誤っている場合もあるため、課題の妥当性の精査が重要となる。さらに、実証実験期間が4か月間に収まるようにし、小さな取組を重ねる調達の仕方をしており、それに合った小さな課題選定を意識する必要がある。そのため、UIJは今後、事業推進に当たってポイントとなるこのようなノウハウも含めた展開も行っていく予定でいる。

イ 高松市の事例

一方、高松市では、2017年4月に総務局情報政策課内にICT推進室を設置し、「スマートシティたかまつ」を目標に掲げてICT施策の積極的な展開を図ってきた。同年10月には産学官の連携を通じた官民データの収集・分析による課題の解決のため、スマートシティたかまつ推進協議会を設立し、持続可能なまちの実現を目指している。

(ア)背景と目的

スマートシティというとエネルギーの効率化を連想しがちであるが、高松市では「防災」と「観光」を主眼として、デジタルデータの活用によるスマートシティ化を目指している。「防災」については、2004年9月と10月に高松市を襲った台風による床上浸水などの被害を受け、水位や潮位の見える化への取組を進めている。また「観光」においては、高松市が外国人観光客の伸び率全国1位となったものの、データの不足により観光客のニーズ把握が困難であったことからIoTの導入とそこから得られるデータの活用を進めている。

さらにデジタルデータを活用するためのIoT共通プラットフォームFIWARE(ファイウェア)26を導入し、オープンデータポータルサイトを構築、分野横断的なデータ連携によるスマートシティの実現に取り組んでいる(図表2-1-2-21)。

図表2-1-2-21 スマートシティたかまつシステム全体イメージ
(出典)高松市「スマートシティ実現に向けた高松市の取り組み」
(イ)データ取得に対する市民の理解

こうした取組において、高松市では必ず利用目的に合った形でのデータの取得・活用を行っている。例えば、観光においては市が提供しているレンタサイクルにGPSロガーを取り付け、位置情報を取得しているが、レンタサイクル利用申し込み時に利用者の属性情報と合わせて、データ利用許諾を得ている。また福祉の分野においても香川高等専門学校と地元の企業と連携してバイタル情報の把握に取り組んでいるが、希望者の同意を取ったうえでデータを取得し、個人情報は別で管理するなどデータの取扱いを厳重に行っている。また、防災目的で設置した河川のカメラ映像は、河川近隣住民や漁業関係者に利用目的やプライバシーに関して説明した上で利用の承諾を得ており、その他のデータについてはオープンデータとして開示している。このように市内におけるデータの取得や利用に関して、住民の不安がないように説明を行い、理解を得てきた。

(ウ)今後の地域活性化と人材育成

これまでの取組により、民間企業や大学との連携によりデータ活用の場が出来上がってきたが、次のステージとして、これまで行政主導で行われてきた取組が民間主導による新たなビジネスチャンスの開発につながることを目指している。民間企業による利益の循環サイクルが出来上がることで、地域経済の活性化や人材育成の取組、雇用の場の形成につながっていくと考えられる。

また、地域活性化を推進していくうえで行政機関の中に必要な人材は技術者ではなく、世の中にある技術をどのように活用すれば課題を解決できるかを考えられる視点を持つ人材であるとして、行政機関内部の人材育成も行われている。

(エ)地域連携

先述したようにそれぞれの地域が抱える課題には人口減少や少子高齢化による地域産業の衰退、災害、観光等、共通する部分がある。高松市はIoT共通プラットフォーム(FIWARE)を導入する他の自治体と情報交換の場を持つことで、効率的にデータ活用によるスマートシティ事業に取り組めるのではないかと考えている。またこれからスマートシティに取り組もうとする自治体が既に取り組んでいる自治体とIoT共通プラットフォームを共同利用できるよう、広域的に取り組んでいくべきとも考えており、システムの横展開を検討している。

図表2-1-2-22 スマートシティたかまつの実現
(出典)高松市「スマートシティたかまつ推進プラン 2019〜2021」


23 https://www.soumu.go.jp/main_content/000678577.pdfPDF

24 2015年までは「人口の推移(明治22年〜平成29年)」、2016年以降は「神戸市の推計人口(令和2年3月1日現在)」を参照https://www.city.kobe.lg.jp/a89138/shise/toke/toukei/jinkou/suikeijinkou.html別ウィンドウで開きます

25 概念実証(Proof of Conceptの略)。新たなアイデアやコンセプトの実現可能性やそれによって得られる効果などについて、デモンストレーションや検証をすること。

26 EUにて次世代インターネット官民連携プログラムによって、公共サービスを提供する自治体や企業などの業種を越えたデータ利活用やサービス連携を促すために開発・実証された基盤ソフトウェア。(https://jpn.nec.com/techrep/journal/g18/n01/pdf/180110.pdfPDF

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