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第2部 基本データと政策動向
第7節 ICT研究開発の推進

(3)電磁波センシング基盤技術

NICTでは、ゲリラ豪雨・竜巻に代表される突発的大気現象の早期捕捉・発達メカニズムの解明に貢献することを目的として、風、水蒸気、雲、降水等を高い時間空間分解能で観測する技術の研究開発を実施している。2019年度(令和元年度)は二重偏波化されたフェーズドアレイ気象レーダー(MP-PAWR)に関し、他機関との密接な連携により首都圏豪雨予測システムによる大規模イベントおよび自治体との実証試験を行った。また、上空の風を測定できるウインドプロファイラに関し、次世代の技術であるアダプティブクラッタ抑圧システム(ACS)の実証試験を気象庁の協力を得て実施し、航空機のクラッタ低減に成功した。また、水蒸気量観測実現に向け、高出力パルスレーザの発振波長を広範囲にわたり長期間安定して制御する手法の開発に成功した。

さらにNICTでは、天候や昼夜によらず地表面を詳細に撮像できる航空機搭載合成開口レーダー(SAR)の研究開発を進め、2019年度(令和元年度)は高分解能三次元イメージングによる構造物の形状把握(図表6-7-6-1)など情報抽出技術の更なる高度化を実施した。

図表6-7-6-1 高分解能三次元イメージングによる構造物の形状把握

この他、NICTでは、地球規模の気候変動の診断・予測精度向上に有用な衛星搭載センサの研究開発を実施しており、サブミリ波サウンダーのための2THz帯受信機の開発、衛星搭載雲プロファイリングレーダー(EarthCARE/CPR)の開発及び地上検証用雲レーダーの開発、衛星搭載降水レーダーの降雨判定アルゴリズムの改良等を行った。

政策フォーカス 宇宙天気予報について

1 宇宙天気とは

地球は、大気と磁場の2つの防護壁によって、太陽から常に到来するガスや粒子から守られている。しかし、太陽フレアと呼ばれる太陽面爆発が発生すると、一時的にコロナ質量放出(CME)と呼ばれる、非常に速度が速く密度の高いガス(プラズマ)が噴出される。このCMEが磁場を伴い地球に到達することで、地球の磁気が乱されることがある(磁気圏じょう乱)。これは地球の大気の一部がイオンと電子に分れた(電離した)状態になっている高度60〜1000kmの層である電離圏の乱れ(電離圏じょう乱)を引き起こす原因となることがある。電離圏は、通信衛星や放送衛星、GPS衛星などから地上へ向けての電波が通過する場所にある。電離圏じょう乱により、電離圏を通過する電波の伝わり方(電波伝搬)が変化すると、衛星通信や衛星放送、GPS測位などに悪影響を及ぼす恐れがある。また、短波を用いた通信や放送などの一部では電波が電離圏で反射する特性を利用することで、直接は見えない遠くの地域に通信や放送を届けているが、電離圏じょう乱により、電離層で電波が反射されなくなると、通信や放送が遠方に届かなくなってしまうなどの現象が生じる恐れがある。その他、太陽フレアではCMEと合わせて非常に高いエネルギーを持つ粒子(高エネルギー粒子)も放出され、宇宙飛行士や飛行機の搭乗員の被爆を引き起こす恐れがあることも指摘されている。

図表1 宇宙天気の概要

このように太陽の活動が通信や放送などに影響を及ぼすことがあるため、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)では1952年(昭和27年)からこのような太陽活動等(宇宙天気)の観測を開始し、1988年(昭和63年)からは「宇宙天気予報」として情報提供、配信を行っている。例えば、2017年(平成29年)9月6日に11年ぶりとなる大規模な太陽フレアが発生した際は、総務省及びNICTから関係事業者への注意喚起などを行った。

2 我が国の観測体制

NICTでは、国立研究開発法人情報通信研究機構法第14条に基づき、約70年に亘って、太陽活動及び電離圏の状況を観測している。

太陽活動の観測については、太陽フレアの早期発見のため、鹿児島県指宿市にある太陽電波望遠鏡で太陽から放射される太陽電波の観測を行っている。また、米国のACE、DSCOVR等の太陽風観測衛星が観測した太陽風(CMEなどを含む太陽から常に流れている電気を帯びた気体の総称)のデータを、東京都小金井市にある太陽風観測データ受信システムで受信し、精度の高い太陽風情報を取得している。

電離圏の観測は、国内4カ所(北海道、東京都、鹿児島県、沖縄県)にあるイオノゾンデと呼ばれる短波レーダを用いて行われている。短波帯の電波を、周波数を変化させながら上空に発射し、電離圏の電子密度に応じて反射されるエコーを観測することにより、電離圏の状態を観測している。

NICTでは太陽や電離圏観測の結果だけでなく、太陽高エネルギー粒子や人工衛星の障害の原因となり得る放射線帯電子など、様々な宇宙天気に関する情報をまとめている。NICT宇宙天気予報センターでは、宇宙天気の現状把握と予報作成を実施しており、取りまとめられた情報は電子メールやウェブサイトなどを通じてユーザーに配信しており、現在ウェブサイトへのアクセス数は月平均約7万件、電子メール登録数も約7000件と社会への周知に役立てられている。

2019年(令和元年)の電波法改正において、新たに電波伝搬の観測・分析等を電波利用料の使途に追加したことにより、2019年(令和元年)12月から、休日を含めた24時間有人運用の予報体制を構築し、日に2回(朝・夜)の宇宙天気予報の配信を行っている。

またNICTは、長年にわたり、国際協力による東南アジアでの電離圏観測網の構築、運用などにも取り組んでおり、最近では、測位衛星による位置情報の精度低下の原因となるプラズマバブルを観測するためのVHFレーダを、タイのキングモンクット工科大学ラカバン校チュンポンキャンパス内に設置し、2020年(令和2年)1月17日に運用を開始した。

図表2 NICT法と電波法
図表3 NICTのHP

3 欧米の取組

米国では戦略的国家危機評価(Strategic National Risk Assessment)で挙げた国家的危機の中で、宇宙天気を地震や津波とともに自然関係のリスクの一つに位置付け、宇宙天気業務・研究・被害軽減小委員会(SWORM: Subcommittee on Space Weather Operations, Research, and Mitigation)において、国家宇宙天気戦略・アクションプランを策定している。また、海洋大気庁(NOAA: National Oceanic and Atmospheric Administration)が1946 年に宇宙天気予報センターを創設し、1965 年からは毎日宇宙天気予報を発表している。

欧州では、欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)が宇宙状況把握(SSA)のプログラムの中で宇宙天気調整センター(SSCC:Space Weather Coordination Centre)を設置している。宇宙天気調整センターでは太陽や電離圏の状況を観測・公開するとともに、衛星や宇宙飛行士に影響を与える可能性のある宇宙天気情報のアーカイブを公開している。

4 国際的な取組と宇宙天気情報の活用

国際的にも宇宙天気への関心は高く、各国で宇宙天気観測を実施している。1962年に国際電波科学連合の傘下に設置されたコンソーシアムである国際宇宙環境サービス(ISES:International Space Environment Service)には現在21の国と機関が加盟し、宇宙天気観測サービスの国際調整・情報交換を行っている。そこでは、太陽、磁気圏、電離圏の状態の予測、警告について各国の情報が共有されるとともに、予報スキルの向上やデータ標準化などについて検討が行われている。なお、日本と宇宙天気予報配信のデータフォーマットが揃っている6カ国(米国、中国、韓国、インドネシア、ベルギー、オーストラリア)からの情報は、NICTのホームページにおいてもリアルタイムで公開している。

太陽活動が活発になると、短波通信や測位衛星に影響があるとともに、地域によっては飛行機の搭乗員への被爆の恐れもあるとして、国際連合の専門機関である国際民間航空機構(ICAO)において、航空機と地上管制との短波通信障害、衛星通信障害の回避や、電子航法に関連した航空機位置の測定誤差の増大防止、航空機搭乗員の宇宙放射被爆の低減などのために、民間航空機の運航に資する情報として宇宙天気情報を利用することが決定された。2018年(平成30年)にICAOは、航空に影響を及ぼす宇宙天気の情報を提供するための組織である「ICAO宇宙天気情報センター」の指定を行い、その1つである日豪仏加のコンソーシアム(ACFJコンソーシアム)にNICTは参加している。なお、その他にICAO宇宙天気情報センターには、米国とPECASUSコンソーシアム(英国、ドイツ、フィンランドなどが参加)の2つが指定されている。現在は、これら3つのICAO宇宙天気情報センターが2週間おきに交代で、必要に応じてICAO加盟国への情報提供を行う体制がとられている。

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