第1部 特集 5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築
第4節 5Gが促す産業のワイヤレス化

(1)農業

ア 農業が抱える課題

少子高齢化・人口減少が本格化する中で、我が国の農業においては、農業就業者数や農地面積が減少し続けるなど、生産現場は厳しい状況に直面しており、今後、経営資源や農業技術が継承されず、生産基盤が一層脆弱化することが危惧される。また、中山間地域を中心に農村人口が減少し、農業生産のみならず地域コミュニティの維持が困難になることも懸念される。

こうした中で、農業・農村の持続性を高めていくためには、経営規模の大小や中山間地域といった条件にかかわらず、生産基盤を強化していく必要がある。

イ 現状のICT活用に係る取組

近年は、現場の課題を先端技術で解決する農業分野における Society5.0の実現に向け、ロボット、AI、IoT(Internet of Things)等の先端技術を活用して超省力・高品質生産を可能にする「スマート農業」の社会実装に向けた取組を進めている。

スマート農業技術の導入により、ロボットトラクタ、スマホで操作する水田の水管理システムなどの活用により、作業を自動化し人手を省くことを可能にする(作業の自動化)、位置情報と連動した経営管理アプリの活用により、作業の記録をデジタル化・自動化し、熟練者でなくても生産活動の主体になることを可能にする(情報共有の簡易化)、ドローン・衛星によるセンシングデータや気象データのAI解析により、農作物の生育や病虫害を予測し、高度な農業経営を可能にする(データの活用)などの効果が期待されている。

また、2019年度からは、スマート農業技術を生産現場に導入し、農業経営への効果を検証するスマート農業実証プロジェクトを開始している。

ウ 農業における5Gのユースケース

スマート農業における現在のICT活用状況を踏まえた、5Gを活用したユースケースとしては、以下の例が挙げられる。

(ア)リアルタイムでの遠隔モニタリング

農場等に固定した高精細カメラや、ロボットやドローン等に設置した移動カメラからの映像を、5Gの回線を利用して超高速かつ超低遅延で伝送することで、リアルタイムでのモニタリングを行うことができる。例えば、農地や作物生育の状況、家畜の状況等を確認することができ、このモニタリング結果を基に目視によらず適切な栽培・飼養管理を行うことができる。

特に、5Gを通じて高精細な映像がリアルタイムで活用できる点は、高精細映像がビッグデータの一部となり、かつ、AI解析にかけられるメリットがある可能性がある。例えば、気温や湿度等のセンサーから収集した多様な観測データをクラウド基盤上で分析し、日照量や水分量などを自動管理・制御するといった取組等において、新たに映像情報が加わることで、リモートセンシング技術の活用やAI解析による精度向上が期待されている。また、AIが分析した生育ステージに応じて施肥を行うなど、データの活用により作業の最適なタイミングを判断することで収穫量の増加や品質向上が見込めるほか、鳥獣被害や不審者侵入等の異常(リスク)検知等にも応用可能となる。

◎リアルタイムでの遠隔モニタリングに関する取組事例

2019年度の総務省5G総合実証試験では、畜産業における労働負担の軽減と経営の効率化を目的として、牛舎において、牛群から耳標(耳に付けた識別番号)を画像認識することで、牛の位置を特定するとともに、搾乳量の減った牛の映像をリアルタイム伝送することで遠隔モニタリングする実証試験を実施した(図表2-4-3-1)。画像認識では、最大90%の精度で耳標の読み取りを実現し、牛を探す時間を削減できるといった効果がみられた。

図表2-4-3-1 牛の遠隔モニタリング(総務省5G総合実証試験)
(出典)総務省作成資料
(イ)遠隔指導・支援

現場の高精細カメラやスマートグラス等のデバイスを活用し、5Gを介して映像伝送することで、遠隔地の専門家(専門医、ベテラン技術者や指導員等)との視覚情報の共有が可能となり、専門家は遠隔地から新規就農者への技術指導等を行うことができる。また、データ基盤と連携させ、得られたビッグデータをAIで解析することにより、熟練者の「匠の技」を見える化し、スマートグラス等への5Gを介したリアルタイムなフィードバックも可能となる。

(ウ)農機等の遠隔監視

現在、市販化されているロボットトラクタでは、接近検知による自動停止装置の装備等によってリスクを低減しつつ、使用者は、自動走行する農機をほ場やほ場周辺から常時監視し、危険の判断、非常時の操作を実施している。一方で、現在、更なる自動化、省力化に向けて、目視できない条件下で、無人のロボット農機がほ場間を移動しながら、連続的かつ安全に作業できる技術を開発しているところである。こうした無人走行システムの社会実装に当たっては、車両や周辺状況を農業者が遠隔地から監視する必要があるが、こうした通信に当たり、超低遅延等の特長を有する5Gの利活用が期待されているところである。

◎農機等の遠隔監視に関する取組事例

NTTグループ、北海道大学及び岩見沢市は、5Gなどの技術を取り入れたスマート農業を実用化するため連携協定を結び、岩見沢市内の農地で無人トラクターを使った農作業に取り組んだり、センサーやカメラで作物の生育状況を把握したりする実証実験を手掛けている。5Gのほかに岩見沢市が現在整備中のBWA等の最新技術を組み合わせることで、遠隔監視による無人状態での完全自動走行に求められる超高速・超低遅延で信頼性の高いネットワークの実現を目指している。

図表2-4-3-2 無人トラクター
(出典)総務省(2020)「第五世代移動通信システムのもたらす経済及び社会の変革に関する調査研究」
エ 期待される効果等

ロボット、AI、IoT等の先端技術を活用したスマート農業において、リアルタイムでの遠隔モニタリング、遠隔指導・支援、農機等の遠隔監視等へ5Gを活用することで、作業の自動化、データの活用などを通じた生産性向上効果がさらに高まることが期待される。また、5Gの活用は、スマート農業による生産性の向上のみならず、過疎地域における生活環境の改善による定住促進などコミュニティの維持、活性化につながることも期待される。

今後、農業・農村における5Gの活用に当たっては、その利用環境の整備状況や導入コストも念頭に置きながら、現場のユースケースを具体化していくことが重要である。

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